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第3話

مؤلف: 園子
湊が穂香を連れて帰宅したのは、すでに夜になっていた。食卓で一人、夕飯を食べている翠の姿を見たとき、湊の表情が一瞬だけ固まった。

かつては、どれだけ遅くなっても、翠は必ず彼と一緒に食事をとっていた。何度諭しても、彼女が聞き入れなかった。

しかし今、彼女は自分ひとりで静かに食事をしている。湊の胸に得体の知れない違和感が広がる。彼が言葉をかけようとした瞬間、隣の穂香が彼の腕をそっと掴んだ。

「湊、明日の予定、翠さんに言わなくて大丈夫?」

その言葉に、湊はすぐ反応した。「翠、医者が言ってたんだけど、穂香さんのメンタルが今すごく不安定で、このままだと体外受精にも悪影響が出るかもしれないって。だから気分転換が必要なんだ。穂香さんはダイビングが好きだから、明日一緒に行ってくる」

翠は静かに席を立ち、階段へ向かう。「ご自由に」

彼らの茶番に付き合っている暇など、彼女にはもうなかった。

部屋に入った瞬間、湊が後を追ってきて、強く彼女の手を掴む。「翠、君が体外受精のことで不満があるのは分かる。でも穂香さんには関係ないだろ?なんで彼女に当たるんだよ」

翠は視線を落とした。包帯で覆った指先からは、掴まれた拍子にまた血が滲み出している。

自分はただ、行かないと言っただけ。それだけで彼は、あっという間に彼女を責め立て、穂香を必死でかばう。「湊、彼女は兄嫁よ。あなたの兄の妻なの」

その一言に、湊はまるで尻尾を踏まれた猫のように逆上し、彼女の腕を振り払った。「翠、本当に心が汚い!何度も言ってるだろ!体外受精なんだよ!何もしてないんだ。

両親はただ、兄に子どもを残してあげたいだけだ。誰も供養する者がいないなんて、そんなの可哀想だろ!俺が止めなきゃ、両親は本当に死んじゃうかもしれないんだぞ!なんで少しも俺の気持ちをわかってくれないんだよ」

翠は何も言わず、ただ自分に言い聞かせるように喋る湊を静かに見つめた。

湊は気まずそうに視線をそらし、そのまま逃げるように背を向けた。

翠はそっと包帯を外した。滲み出した血が、手のひらを染めていく。

昔なら、ほんの小さな切り傷にだって、彼はすぐ気づいて手当してくれたのに。今は、こんなに血が出ていても、見向きもしない。

湊の中で、穂香は兄嫁なのか、本人にしか分からないのだろう。

翌朝早く、湊は翠の意思を無視して、強引に彼女を車に乗せた。湊と穂香は前の座席、翠だけが後部座席にひとりきり。

かつて湊は、「運転中の会話は危ない」と言って、車内で話すのを嫌がった。

でも今は彼と穂香は、笑いながら楽しそうに話していた。

海辺で、二人はダイビングスーツに着替えて海に入っていった。

それから三十分ほど経った頃、穂香が水面に現れた。「翠さん、潜らないの?」

翠は首を振る。「いいえ。泳げないので」

「そうか」

そう言うと、穂香は突然、翠の手を掴んだ。「水の中って楽しいよ。こんなところで一人で待ってても退屈でしょ?一緒に行きましょ」

次の瞬間、穂香は翠をぐいっと水の中へ引きずり込んだ。

突然のことで、驚いた翠は反射的に彼女を掴もうとしたが、もう姿は見えない。

冷たい海水が口と鼻を塞ぎ、翠の身体はあっという間に沈んでいく。

「助けて!湊!湊!」

翠はもがきながら必死に叫ぶ。視界に、一つの影が猛スピードで近づいてきた。湊だった。彼の顔には明らかに焦りが浮かび、叫ぶ。

「翠!大丈夫だ、すぐ助けるから」

だが次の瞬間、恐怖に満ちた穂香の声が響いた。

「湊、助けて、足がつって動けないの」

その声を聞いた瞬間、湊の動きがピタリと止まった。彼は振り返り、もう一方を見やった。

海の中、穂香が必死に水面を叩き、足は動かず、身体が深みへと沈んでいっていた。

徐々に視界がかすれていく中、翠は湊が一瞬こちらを見るのを感じた。ほんの一秒で、湊は迷いなく背を向け、穂香の方へと泳いでいった。

その背中を見送りながら、翠の手から力が抜けていく。体がどんどん海の底へと沈んでいく中、彼女は目を閉じ、かすかに唇を歪めた。

まだ、何かを期待していたんだろうか。

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