공유

眠いなら、寝ろ

작가: Amy
last update 게시일: 2026-09-26 22:06:46

午後9時58分。

新幹線のグリーン車は、思っていたより静かだった。

私は窓側の席に座り、コートを膝に置いた。

あと2時間。

家に着くころには、日付が変わっている。

今日はもう何もしたくない。

スマホも見たくない。

誰とも話したくない。

買ったばかりのペットボトルの水を1口飲んで、座席を少し倒した。

そのとき。

「すみません」

低い声がした。

顔を上げる。

隣の席に、男性が立っていた。

40代前半くらい。

濃紺のスーツ。

ネクタイは外して、シャツの1番上のボタンも開けている。

片手には薄い革のバッグ。

髪には少しだけ白いものが混じっていた。

いかにも仕事ができそうな人。

というか、

たぶん実際にできる。

そういう空気だった。

「隣、いいですか」

「もちろん」

私がバッグを寄せると、彼は短く会釈して座った。

それだけ。

会話は終わった。

よかった。

今夜は静かに帰れそう。

彼はノートパソコンも出さなかった。

スマホを1度確認しただけで、すぐポケットにしまう。

そのまま窓の外を見る。

意外だった。

こういう人は、新幹線でもずっとメールを返していそうなのに。

しばらくして、車内販売のワゴンが来た。

私は迷った末、缶のハイボールを買った。

隣の彼も同じものを頼んだ。

思わず見る。

彼もこちらを見る。

「同じですね」

私が言うと、

「真似したわけじゃない」

「そこまで言ってません」

彼の口元が少しだけ上がった。

「じゃあ、乾杯します?」

「何に」

「今日が終わったことに」

彼は一瞬だけ考えて、

缶を少し持ち上げた。

「それならいい」

小さく缶を合わせる。

カチン。

音はそれだけ。

「お疲れさまです」

「お疲れ」

その言い方が妙に自然だった。

ハイボールを半分飲んだあたりで、眠気がきた。

まずい。

寝過ごす距離ではない。

終点まで行くわけでもない。

私はスマホでアラームを設定した。

それを隣の彼が見ていた。

「寝るの?」

「寝ません」

「アラームまでかけて?」

「念のためです」

「もう目が半分閉じてる」

失礼だ。

「閉じてません」

「じゃあ俺のネクタイの色、言える?」

見た。

ネクタイなんてしていない。

「してないじゃないですか」

「起きてるな」

「試したんですか?」

「一応」

腹が立つ。

でも、少し笑ってしまった。

「眠いなら寝ろ」

さらっと言われた。

「子どもじゃないんですけど」

「知ってる」

彼は缶を1口飲む。

「だから言ってる」

その意味を考えた。

よく分からない。

でも聞くのも悔しい。

私は窓の外を見る。

暗い。

たまに街の灯りが流れる。

たぶん5分くらいは頑張った。

そのあと。

記憶がない。

目が覚めたとき、

最初に感じたのは重さだった。

膝の上。

見る。

濃紺のジャケットが掛かっていた。

隣を見る。

彼はシャツ姿になっている。

腕を組んで、目を閉じていた。

「……すみません」

小声で言う。

彼が目を開ける。

起きていたのかもしれない。

「何が」

「これ」

ジャケットを持ち上げる。

「俺の」

「それは分かります」

「寒そうだったから」

確かに車内は少し冷えていた。

「起こしてくれればよかったのに」

「気持ちよさそうに寝てる人間を起こすほど、俺も性格悪くない」

「でも、そっち寒いでしょ」

「別に」

私はジャケットを返そうとした。

彼が片手で押し戻す。

「まだいい」

「でも」

「あと20分だろ」

私の降りる駅。

なんで知ってるんだろう。

顔に出たらしい。

「アラームの表示、見えた」

「ああ」

「心配しなくても、個人情報まで見てない」

「疑ってません」

「ちょっと疑った顔してた」

よく見ている。

私はジャケットをもう1度膝に掛けた。

ほんのり温かい。

少しだけ、彼の匂いがする。

香水というより、

シャツと石けんと、わずかにお酒。

大人の男の匂い。

――何を考えているんだ。

私はハイボールの残りを飲んだ。

ぬるい。

「寝癖」

彼が言った。

「え?」

「右」

自分の髪に触れる。

分からない。

「ここ」

彼が手を伸ばした。

反射的に体が止まる。

指先が、こめかみの少し上に触れた。

髪をゆっくり押さえる。

「……ひどいですか?」

「結構」

「最悪」

「誰も見てない」

「あなたが見てるでしょ」

「俺は別に気にしない」

指が髪をすくう。

少し絡まっていたらしい。

耳の上を通って、後ろへ流される。

私は動けなかった。

さっきまで眠かったのに、

完全に目が覚めている。

「動くな」

低い声。

「絡んでる」

まただ。

こういう言い方。

命令されるのは好きじゃない。

普段ならたぶん、

自分でやります、

と言う。

なのに今は、

なぜかそのまま座っていた。

彼の指が髪をほどく。

ゆっくり。

急がない。

耳に触れそうで、触れない。

その距離が妙に落ち着かない。

「取れた」

「……ありがとうございます」

彼は手を離した。

私はすぐ窓を見る。

顔が熱い。

お酒のせいにしていいだろうか。

たぶん無理だ。

「赤いな」

「ハイボールです」

「半分しか飲んでない」

「弱いんです」

「そういうことにしとく」

その言い方がずるい。

しばらくして、私はジャケットを返した。

「もう大丈夫です」

彼は受け取る。

そのまま着ようとして、少し止まった。

「これ」

「?」

私のコートの襟を指す。

片側だけ内側に折れていた。

「ああ」

自分で直そうと手を上げる。

彼のほうが早かった。

「動くな」

また。

今度は、首元。

彼が身を寄せる。

近い。

コートの襟を指先でつまんで、ゆっくり外へ返す。

それだけの動作なのに、

顔が近すぎる。

シャツの襟元が見える。

首筋も。

年齢のせいか、

若い男性とは違う落ち着きがあった。

変に力が入っていない。

私が意識しているのも、

たぶん分かっている。

でも急がない。

「これでいい」

指が最後に首元の布を軽く整えた。

その瞬間、

ほんの少しだけ肌に触れた。

私は息を止める。

彼の目が私を見る。

「……何」

「いえ」

「何か言いたそうだけど」

「近いなと思って」

言ってしまった。

彼は少しだけ笑った。

でも、すぐには離れない。

「今さら?」

低い声だった。

一瞬。

何も言えなかった。

そのあと彼は普通に席へ戻った。

何事もなかったみたいに。

ずるい。

絶対に分かってる。

「慣れてますね」

私が言う。

「何が」

「こういうの」

「どういうの」

「女性を困らせるの」

彼が少し考える。

「困ってる?」

「少し」

「じゃあ、やめる」

あっさり。

「……そこは否定しないんですね」

「嫌がってるならやめる。それだけだろ」

その答えに、

少しだけ拍子抜けした。

同時に、

少し安心した。

「嫌ではないです」

言ってから、

しまったと思った。

彼がこちらを見る。

目が合う。

しばらく。

「それ」

彼が言う。

「俺に言って大丈夫?」

低い。

さっきより少しだけ声が近い。

「……大丈夫じゃないかも」

「なら、もう言うな」

「はい」

素直に返事をしてしまった。

彼が笑った。

ほんの少し。

「いい子」

それは反則だと思う。

私はもう1度窓を見る。

絶対に顔を見られたくなかった。

*

到着を知らせるアナウンスが流れた。

私はバッグを持つ。

彼はまだ先まで乗るらしい。

「じゃあ」

立ち上がる。

「ジャケット、ありがとうございました」

「どういたしまして」

「あと……髪も」

「襟も?」

「それも」

彼が少し笑った。

「今日はよく寝ろよ」

「もう寝ました」

「足りない」

「分かるんですか」

「顔に出てる」

本当に失礼な人だ。

でも、

嫌いじゃない。

「そっちも」

私が言う。

「何が?」

「ちゃんと寝てください」

一瞬、

彼が目を細めた。

「俺?」

「はい」

「珍しいな」

「何が」

「今日初めて言われた」

それ以上は聞かなかった。

扉の前へ向かう。

降りる直前、

後ろから声がした。

「おやすみ」

振り返る。

彼はもうジャケットを着ていた。

さっきまで私の膝にあったもの。

「……おやすみなさい」

ホームへ降りる。

新幹線が動き出す。

窓の向こうに彼がいる。

でも、もう見ないことにした。

今日はこれくらいでいい。

家に帰って、

シャワーを浴びて、

ベッドに入った。

目を閉じる。

眠い。

ちゃんと眠い。

なのに、

「眠いなら寝ろ」

あの低い声だけが、

なぜかもう1度聞こえた気がした。

私は布団を少しだけ引き上げた。

まあいい。

今夜くらい、

素直に言うことを聞いておこう。

****

今日くらいは、誰かに「もう休め」って言われたことにしていいよ。

ちゃんと布団に入ったら、あとは何も考えずに。おやすみ。

이 작품을 무료로 읽으실 수 있습니다
QR 코드를 스캔하여 앱을 다운로드하세요

최신 챕터

  • ねえ、5分だけ付き合ってーーNight Side   離れないなら、このまま

    午後9時25分。木曜の夜。駅裏のビル3階にある、小さなダンスバーへ来た。看板には、〈初心者歓迎 サルサナイト〉友達に送られてきた動画を見て、なぜか気になった。木曜。あと1日。少しくらい変なことをしてもいい。最初の30分は初心者レッスン。「初めてですか?」声をかけてきたのは30代前半くらいの男性。黒いTシャツ。細身だけど肩はしっかりしている。「見れば分かる?」「かなり」「まだ踊ってないのに」「出口確認してる顔」ばれている。「帰らないです」「安心しました」彼はスタッフではなく、毎週来ているらしい。「先生?」「先生じゃないです。でも初心者の相手はできます」「お願いします」最初は足だけ。前。戻る。後ろ。戻る。簡単そうなのに、音楽が入ると急に分からない。「逆です」「分かってる」「分かってて逆?」「体が」彼が笑う。次は手。「軽く」「どれくらい?」「握手より弱く」指が触れる。「これくらい」「逃げそう」「逃げないです」音楽。1、2、3。5、6、7。彼がリードする。思ったより近い。「下見ない」「足見たい」「僕見て」「それが一番難しい」「何で?」「知らない人だから」「じゃあ名前聞きます?」名乗る。彼も。「これで知らない人じゃない」「雑」次は回転。彼の

  • ねえ、5分だけ付き合ってーーNight Side   今日は、何も持たなくていい

    午後9時40分。水曜の夜。駅前のアロママッサージ店に入った。今週はまだ水曜。なのに肩が重い。首も固い。たぶん、座りすぎ。見すぎ。考えすぎ。受付で60分コースを選ぶ。担当は30代くらいの女性。髪を低い位置でまとめ、声が静か。「今日はどこがお疲れですか?」「全部」正直に答える。彼女が少し笑う。「では、特に気になるところは?」「肩と首」個室へ案内される。暗い照明。静かな音楽。少し甘い香り。着替えて、うつ伏せになる。「失礼します」肩にタオル。その上から、ゆっくり圧がかかる。「……硬いですね」「そんなに?」「かなり」最近何でもかなり。「痛かったら言ってください」肩甲骨のあたり。痛い。でも気持ちいい。「そこ」思わず声が出る。「ここですか?」「そこ」圧が少し深くなる。「あー……」変な声。でももうどうでもいい。「かなり溜まってますね」「何が?」「疲れが」「よかった。悪いものかと思った」彼女が笑う。「悪いものも少しあります」「何?」「力」「力?」「ずっと入ってます」言われて気づく。肩。指。顎。全部少し力が入っている。「抜いてください」「抜いてるつもり」「まだ」肩を軽く揺らされる。「もう少し」息を吐

  • ねえ、5分だけ付き合ってーーNight Side   自分でやる?それとも

    午後8時55分。祝日の最後。私は1人焼肉の店に入った。友達と出かける予定は、子どもの発熱で中止。午後は家でだらだらして、気づけば夕方。冷蔵庫には卵とヨーグルトしかない。だったら肉でいい。店は1人用の半個室。隣とは低い仕切り。カルビ。ハラミ。ご飯。わかめスープ。少し頼みすぎた気もする。でも祝日だからいい。1枚目を焼く。じゅう。裏返す。少し焦げる。「あ」隣から声。「それ、もういいと思います」仕切りの向こうに30代半ばくらいの男性。黒いニット。彼も1人。「見てたんですか」「煙がすごかったので」「失敗?」「ぎりぎり」慌てて肉を取る。食べる。「……おいしい」「なら成功」彼が笑う。「そっちも1人?」「はい」「祝日に?」「そっちも」またこの返し。「家で食べるの面倒になって」「同じ」「じゃあ正解ですね」少し安心する。彼は焼くのがうまい。肉を並べすぎない。ちゃんと待つ。「上手ですね」「何が?」「焼くの」「そこ褒められたの初めてです」「私、全部焦がすから」「見れば分かります」失礼。「じゃあ教えて」「今、返していいです」ハラミを裏返す。「あと20秒くらい」「数える?」「感覚」「じゃあ分からない」「待って。言います」本当に20秒後、

  • ねえ、5分だけ付き合ってーーNight Side   今度は、避けない?

    午後10時05分。月曜の夜。駅から少し離れた場所に、深夜まで開いている古い喫茶店がある。木の扉。真鍮の取っ手。橙色の照明。家に帰れば洗濯物も、明日の準備もある。でも今夜は、まっすぐ帰りたくなかった。私は窓際へ座り、カフェオレを頼んだ。スマホを伏せる。何もしない。それがしたかった。数分後。「……え?」斜め前の席から声。顔を上げると、30代半ばの男性がこちらを見ていた。紺色のニット。眼鏡。見覚えがある。「もしかして、彩?」その瞬間、分かった。「修平?」大学時代、同じ店でアルバイトしていた人。私はホール、彼はキッチン。週3回くらいシフトが重なった。閉店後の賄いも何度も一緒に食べた。「久しぶり」「卒業以来?」「途中で1回駅で会った」「それ何年前?」「8年くらい」「じゃあほぼ卒業以来」彼が笑う。昔より落ち着いているのに、話し方は変わらない。「1人?」「うん」「俺も」私のカフェオレが来る。彼の前にはブラックコーヒー。「まだブラック?」「まだカフェオレ?」「覚えてるんだ」「毎回ミルク多めって言ってたじゃん」「そっちが勝手に増やしてくれたんでしょ」「店長に怒られた」思い出して笑う。あの店はもう閉店した。卒業後、連絡も自然に途切れた。仕事や住む場所の話を少ししたあと、彼がふいに言った。「昔さ」「何?」「俺のこと避けてた時期あったよね」カップを置く。「避けてない」

  • ねえ、5分だけ付き合ってーーNight Side   直していいですか?

    午後9時15分。出張で泊まっているホテルの部屋に戻る前、私は最上階のルーフトップテラスへ上がった。部屋に入れば、シャワーを浴びて寝るだけ。だからあと10分だけ、夜風に当たりたかった。客は2組。私は端の席で炭酸水を頼んだ。昼間は暖かかったのに、夜は少し冷える。肩の開いた黒いワンピースを選んだことを後悔した。「寒くないですか?」隣のテーブルから声。30代後半くらいの男性。白いシャツ。ネクタイは外し、ジャケットを椅子にかけている。「少しだけ」「それ、少しの顔じゃないです」「そんな顔してます?」「かなり」知らない人なのに言い方が自然で、私は笑った。そのとき強い風が吹いた。髪が顔にかかり、肩のストールがずれる。同時に、ワンピースの細い肩紐まで少し落ちた。「あ」直そうとした瞬間、彼の視線が一度だけ私の肩へ落ちる。すぐ戻った。見た。でも、いやらしいというより、気づいたという感じ。「ずれてます」「分かってます」髪とストールとバッグで手がうまく回らない。彼が一瞬迷った。「直していいですか?」胸が少し跳ねる。「……お願いします」彼が立って隣へ来る。夜風と、少しだけ香水。肩の近くに指。細い紐をつまみ、そっと内側へ戻す。「ここ?」「もう少し」「こう?」「うん」指が一瞬、肩に触れた。ほんの少し。それなのに、そこだけ熱い。彼は離れると思った。でも、紐を直したあとも一瞬だけ指が残った。「……もう大丈夫?」「大丈夫です」やっと離れる。私はストールをかけ直した

  • ねえ、5分だけ付き合ってーーNight Side   10年遅れの続き

    午後10時40分。土曜の夜。友達の結婚式が終わった。披露宴。二次会。写真。乾杯。笑いすぎて、頬が少し疲れている。私は会場を出る前に、テラスへ出た。ホテルの高層階。夜景。少し冷たい風。室内はまだ音楽と話し声。外は静か。「やっぱりここにいた」後ろから声がした。振り返る。大学時代の男友達。同じゼミ。同じ飲み会。同じグループ。でも、一度も付き合わなかった人。昔はよく2人で帰った。夜中まで電話した。旅行の写真もたくさんある。そして10年前。大学最後の夏。花火大会の帰り。キスしそうになったことが一度だけある。本当に、あと少しだった。でも私のスマホが鳴って。2人とも笑って誤魔化して。それきり。「何で分かったの?」私が聞く。「昔から人多いと外逃げるじゃん」「覚えてるんだ」「そっちこそ、俺が来ると思ってた顔」「思ってない」「じゃあ残念」昔と同じ軽口。でもスーツ姿の彼は、学生のころと少し違う。肩幅も。声も。笑い方は同じ。「今日、格好よかったね」私が言う。「新郎じゃないけど」「スピーチ」「噛んだ」「1回だけ」「数えてた?」「みんな聞いてたから」彼が笑う。私のドレスを見る。視線が一瞬下がって、すぐ戻る。「そっちも」「何?」「きれいだった」普通に言われると困る

더보기
좋은 소설을 무료로 찾아 읽어보세요
GoodNovel 앱에서 수많은 인기 소설을 무료로 즐기세요! 마음에 드는 작품을 다운로드하고, 언제 어디서나 편하게 읽을 수 있습니다
앱에서 작품을 무료로 읽어보세요
앱에서 읽으려면 QR 코드를 스캔하세요.
DMCA.com Protection Status