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毛布、半分どうぞ

작가: Amy
last update 게시일: 2026-09-25 21:14:56

午後10時15分。

私は夜のフェリーに乗っていた。

旅行というほど大げさなものではない。

翌朝には着く短い船旅。

ただ、船で眠ってみたかった。

それだけだ。

船内にはレストランも、大浴場も、小さな売店もある。

でも夕食を済ませた私は、さっさとお風呂に入り、部屋着に着替えてしまった。

あとは寝るだけ。

――のはずだった。

「揺れてる……」

ベッドに横になると、途端に船の揺れが気になった。

大きくはない。

ゆっくり。

右へ。

左へ。

右へ。

左へ。

眠れそうで、眠れない。

私は15分で諦めた。

パーカーを羽織り、船内を歩く。

展望ラウンジには、まだ何人か人がいた。

窓の外は真っ暗。

海なのか空なのかも分からない。

遠くに、小さな灯りがいくつか浮かんでいる。

私は自動販売機でココアを買った。

紙カップを両手で持ち、窓際のソファへ向かう。

そこで気づいた。

先客がいる。

男性が1人。

30代半ばくらい。

グレーのスウェットに黒いパンツ。

足元は、ホテルでもらうような薄いスリッパ。

かなり気が抜けている。

彼は窓の外を見ながら、カップラーメンを食べていた。

夜の海。

静かなラウンジ。

そして、カップラーメン。

雰囲気が全部台無しだった。

思わず見ていたら、彼と目が合った。

「食べます?」

「いりません」

即答した。

「すごく見てたから」

「海を見てたんです」

「僕、海側にいました?」

「かなり邪魔してます」

彼は笑った。

「すみません」

そう言って、カップラーメンを持ったまま少し横へずれる。

律儀だ。

私は2席離れた場所に座った。

ココアを1口。

甘い。

温かい。

ちょっと落ち着く。

「眠れないんですか?」

彼が聞いた。

「どうして分かるんですか」

「この時間に部屋着でココア飲んでる人、だいたいそうかなと」

「そっちは?」

「僕もです」

「船酔い?」

「いえ」

彼はカップラーメンを持ち上げた。

「お腹すいて」

健康だ。

「夜中にそれ食べたら、もっと眠れなくなりません?」

「大丈夫です。僕、食べたらすぐ寝られるタイプなので」

「うらやましい」

「どこでも寝られます」

「それも腹立つ」

「なんで」

また笑った。

くだらない会話なのに、ちょうどよかった。

知らない人だから、何も考えなくていい。

*

しばらくすると、彼が立ち上がった。

「外、行きません?」

「甲板?」

「今、月が出てます」

私は窓を見る。

確かに雲の隙間から月が見えている。

でも。

「寒くないですか?」

「寒いです」

「じゃあ行かない」

「即答だなあ」

彼が笑いながら、ラウンジの端に置いてあった貸し出し用の毛布を1枚取った。

「これありますよ」

「1枚しかないじゃないですか」

「半分どうぞ」

何をさらっと言っているんだ。

「知らない人と毛布を半分?」

「じゃあ僕が4分の1で」

そこじゃない。

でも月は少し見たい。

私は負けた。

「5分だけですよ」

「了解です」

甲板へ出た瞬間。

「寒っ」

思わず声が出た。

海風が強い。

髪が一気に乱れる。

「だから言ったじゃないですか」

「寒いって言ったのそっちです」

「毛布どうぞ」

彼が肩から毛布を広げる。

私は端を持った。

そのまま2人で1枚の毛布に入る。

近い。

思っていたより、かなり。

風を避けるためには仕方ない。

そう思うことにする。

「もっと入らないと意味ないですよ」

彼が言う。

「十分です」

「そっち、ほぼ出てます」

確かに。

毛布は私の肩に少しかかっているだけだった。

「風邪ひきますよ」

彼が毛布を引き寄せる。

その勢いで、私の体も少し彼のほうへ寄った。

肩が触れる。

腕も触れる。

厚手の服越しなのに、体温が分かる。

「……近いですね」

「毛布1枚なんで」

そうですね。

その通りです。

理屈は正しい。

海を見る。

真っ暗な水面に、月の光が細く揺れている。

船が進むたび、光も少しずつ形を変える。

「きれい」

思わず言った。

「でしょう?」

なぜか彼が得意そうだ。

「あなたの月じゃないですよ」

「でも僕が誘ったので」

「はいはい」

風が吹く。

髪が顔にかかる。

払おうとしたら、彼の手のほうが先だった。

「あ」

指先が頬の横をかすめる。

乱れた髪を1本、そっと外へよけた。

「ごめん」

「……いえ」

一瞬だけ。

本当にそれだけだった。

彼も何事もなかったように海を見る。

私も海を見る。

でも、さっきより毛布の中が暑い。

「寒くなくなりました?」

「……まあ」

「よかった」

少しだけ腹が立つ。

この人、たぶん分かってる。

5分のはずが、10分くらい経った。

誰もいない甲板。

エンジンの低い音。

風。

月。

1枚の毛布。

彼が紙カップを持っているのに気づいた。

「それ何ですか?」

「コーヒー」

「いつ買ったの?」

「あなたが甲板行くか悩んでる間」

全然気づかなかった。

「冷めません?」

「もう冷めてます」

「じゃあ意味ないじゃないですか」

「でも手が温かい」

そう言って、彼がカップを持つ手を少し上げる。

「触ります?」

「何を」

「カップ」

「ああ」

一瞬、別の意味かと思った自分が嫌になる。

私はカップに触れた。

確かに温かい。

そのとき。

彼の指が、私の指の上に重なった。

カップを落とさないように。

たぶん。

「熱くないですか?」

「大丈夫」

答えたのに、彼は手をどけない。

私も、どけなかった。

2人でひとつの紙カップを持ったまま、海を見る。

何をしてるんだろう。

でも、不思議と嫌じゃない。

むしろ。

この変な時間が、もう少し続けばいいと思った。

「こういうの、いいですね」

私が言う。

「何が?」

「知らない人と夜中に船の上で月見るの」

彼が少し笑った。

「知らない人だからいいんじゃないですか」

「それもあるかも」

「明日の朝には、普通に戻れるし」

その言葉が妙に心地よかった。

普通に戻れる。

だから今だけ、

少し変でもいい。

彼が毛布を少し持ち上げた。

風が入らないように、私の肩まできちんとかけ直す。

その拍子に、彼の顔が近くなる。

かなり近い。

私が少し動けば、もっと近くなる距離。

彼も動かなかった。

数秒。

目が合った。

「……寒いですか?」

彼が聞いた。

「今それ聞く?」

「一応」

「寒くないです」

「よかった」

それだけ。

彼は少し離れた。

私は海へ目を戻した。

たぶん、それでよかった。

これ以上は、

今夜には少しもったいない。

部屋へ戻る前。

ラウンジの前で、毛布を返した。

「じゃあ」

彼が言う。

「今度こそ寝られるといいですね」

「そっちも」

「僕は大丈夫」

「どこでも寝られるんでしたね」

「はい」

「腹立つ」

彼が笑った。

「おやすみなさい」

「おやすみなさい」

名前は聞かなかった。

連絡先も聞かなかった。

部屋へ戻る。

ベッドに入る。

船は相変わらず、ゆっくり揺れていた。

右へ。

左へ。

でも今度は、それが少し心地いい。

毛布の中の温度。

冷めかけたコーヒー。

月の光。

それだけ思い出した。

明日の朝には、

普通に戻る。

だから今夜は、

このままでいい。

目を閉じる。

船の揺れに任せていたら、

今度はちゃんと眠れそうだった。

****

今夜くらい、何も決めずに余韻だけ持って帰ろう。

あとはゆっくり目を閉じて。おやすみ。

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