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4-9 自信と安心と…

Author: 青サバ
last update publish date: 2026-09-26 19:02:00

 部活を終えた駿は家へ帰ると、茶の間へ向かった。

◆◆◆

 カレーの香りが家中に広がっていて、思わず腹が鳴りそうになるほど食欲を誘う匂いだった。

 しかし、その匂いとは正反対の空気を目にする。

「直己、落ち込んでそうだけど大丈夫か?」

 その姿を見て、一瞬胸がざわつく。

 美生と買い物をした時、関係を思ったより縮められなかったのだろう。

 そんな考えが頭をよぎる。

「はぁ……結ちゃんがまだ俺に冷たくてさ、いつになったら忘れてくれるんだよ…」

「あのことね、結も頑固なところがあるからそこまで気にしなくてもいいよ」

 そうは答えたが、美生との買い物じゃなくて、結との蟠りで落ち込んでいたのかよと、ツッコミそうになる。

「そんなことよりも美生との買い物はどうだった?」

 その瞬間、さっきまで曇っていた直己の表情が、少しだけ明るくなった。

「最初
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  • もう一度、やり直せるなら 〜告白成功から始まる、それぞれの選択〜   4-9 自信と安心と…

     部活を終えた駿は家へ帰ると、茶の間へ向かった。 ◆◆◆ カレーの香りが家中に広がっていて、思わず腹が鳴りそうになるほど食欲を誘う匂いだった。 しかし、その匂いとは正反対の空気を目にする。「直己、落ち込んでそうだけど大丈夫か?」 その姿を見て、一瞬胸がざわつく。 美生と買い物をした時、関係を思ったより縮められなかったのだろう。 そんな考えが頭をよぎる。「はぁ……結ちゃんがまだ俺に冷たくてさ、いつになったら忘れてくれるんだよ…」「あのことね、結も頑固なところがあるからそこまで気にしなくてもいいよ」 そうは答えたが、美生との買い物じゃなくて、結との蟠りで落ち込んでいたのかよと、ツッコミそうになる。 「そんなことよりも美生との買い物はどうだった?」 その瞬間、さっきまで曇っていた直己の表情が、少しだけ明るくなった。「最初は会話が続かなかったり、会話の頻度が少なかったけど、一緒に買い物をするにつれて会話が弾むようになって、駿の家に向かう時は一度も途切れることなく会話出来た」 いい報告が聞けて、自然と口元が緩む。「良かったじゃん」 心からそう思えた。 あれほど悩んでいた親友が、一歩踏み出せた。  その事実だけで嬉しかった。「ありがとな駿、この話を持ち出してくれて。こういう機会がなかったら、ずっと島内さんとの距離を縮められないで、もがいていたと思う」「お礼を言いたいのはこっち。今日は買い物行ってくれてありがとう」 二人で笑い合う。 少し前なら、お互いこんな素直な言葉は照れくさくて言えなかったかもしれない。 それでも今は、不思議と口に出来た。「お礼がてらじゃないけど、一つお願いいいか?」 「いいよ」「また島内さんと買い物する機会があっ

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     放課後。 直己は待ち合わせ場所である複合商業施設へと向かっていた。◆◆◆ 約束の時間より少し早く着けば、余裕を持って迎えられると思って、家を出た筈だった。 しかし、待ち合わせ場所へ着いた瞬間、その考えはあっさり覆される。 そこには、すでに島内さんが立っていた。 スマホを眺めながら待っている姿は、どこか穏やかで、その姿を見ただけで鼓動は一気に速くなる。(やっちまった……。) せっかく早く来たつもりだったのに、結局待たせてしまい、申し訳なさが先に立つ。「島内さん、すいません。待たせてしまったみたいで」  中学校の時は普通に話せていたけど、今は異性として意識していることもあり、軽く謝るつもりが堅苦しい言葉で謝ってしまった。「私がちょっと早く着いちゃっただけだからそんな謝らないで。それに中学校の時みたいに普通な感じで大丈夫だよ」「りょ、了解」 さっきよりかは普通に対応出来たけど。島内さんの優しさに胸が締め付けられそうになる。 最初に日用品売り場へと向かう。 歩幅を合わせて歩くだけなのに、妙に緊張してしまう。 沈黙が続く。 何か話そう。 そう思うほど、頭の中は真っ白になる。 すると、島内さんの方から口を開いた。 「駿君から何買えばいいのか聞いていない?」 慌ててスマートフォンを取り出し、駿から送られてきたメッセージを開いた。「買う物は歯磨き粉、男用のシャンプー、ゴミ袋、ノートだって」「分かった。まずはゴミ袋が売ってるところから行くね」 島内さんは迷いなく歩き出し、少し遅れて後を追った。 ゴミ袋を手に取った後、続けてノート、歯磨き粉と、買い物自体は驚くほど順調に進んでいた。 けれど。 俺の心だけは順調とは言えな

  • もう一度、やり直せるなら 〜告白成功から始まる、それぞれの選択〜   4-7 チャンス到来

     次の日の朝。 駿が朝食を食べていると、向かいに座っていた結がふと思い出したように口を開いた。◆◆◆「兄さん」「ん?」「美生姉さんと買い物でノート買ってきてくれない?」 その一言で、箸がぴたりと止まった。「えっ!?今日って美生と買い物に行く日だっけ?」「はぁ?まさか忘れてたの?」「はい……」「はぁぁ……」 結が呆れたように、大きなため息を吐いた。「しかも今日、大会前の模擬戦でなかなか部活抜けられないんだよな……」 今日は代表メンバー同士の実戦形式の練習があり、途中で抜けられる雰囲気ではない。 すると結が静かに言う。「仕方ないから、今日は私が行くね」「部活は大丈夫?」「顧問の先生に部活を休んでもいいか聞くのは面倒臭いけど、大きな大会も近くにないから、大丈夫」 結は大丈夫だと言っていたが、長男として結にあまり負担をかけたくないという気持ちが勝り、何か良い方法がないかと考え始める。 そんな時だった。 スマートフォンが震え、画面を見ると、直己からLINEが来ていることに気づく。『新作RPGがやばい!』 学校で言えばいいだろと思った瞬間、頭の中に一つの案が閃く。(そうだ、直己に頼んでみよう) 美生と買い物に行かせたら、何かしらのきっかけに繋がるかもしれないし、直己は写真部だけど、幽霊部員で部活行ってない。 美生も中学三年の時、俺と直己の三人で受験勉強をよくやっていたから、多分了承してくれると思う。 そう考えた後。 すぐに直己へメッセージを送る。『今日、どうしても部活を抜けられなくて、美生と一緒に買い物に行ってくれるとありがたい』 続いて、美生にも送る。『ごめん、美生』『今

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     次の日の朝。 柔らかな朝日が街を照らす中、駿は果奈と並んで学校へ向かっていた。◆◆◆ 果奈が学校へ戻ってきてからというもの、この時間は二人にとって当たり前になりつつあった。 待ち合わせをしたわけでもない。 どちらから誘ったわけでもない。 気がつけば同じ道を歩き、他愛もない話をしながら学校へ向かう。 そんな何気ない朝が、心地良かった。「ふぁ……」「凄く眠そうにしているけど、やっぱり、昨日何かあった?」 その質問に果奈が身体に電撃が走ったかのようにびくっと反応した。「ううん、なんでもない。強いて言うなら、弟のことを寝かしつけていたくらい」 そして思い出したようにこちらを見る。「それと、昨日はごめんね。急に電話切っちゃって」「そ、そうなんだ……」 果奈が焦りながら答える様子を見ていると、電話を切られた後、俺が何を考えていたのか思い出してしまった。(……駄目だ) 頭の中に昨夜の記憶がよみがえる。 急に電話を切った果奈。 “お風呂に入る”という言葉。 そして。 そのまま果奈がお風呂に入る様子を、勝手に想像してしまった。(俺、何考えてたんだ……) 思い出しただけで耳まで熱くなり、果奈と同じように、少しだけ視線を泳がせた。「どうしたの、なんか凄い反応してたけど?」 果奈が不思議そうに覗き込む。「本当に、本当に!なんでもない」 果奈がお風呂に入ってる姿を想像してたなんて、口が裂けても言える訳がない。「逆にそこまで返されると、怪しいんだけど……」「本当に何もないから」 これ以上この話題を続けたら危ないと思い、果奈の弟の話題へと変える。「それよりも弟の寝かしつけるのって

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     その日の夜。 駿はベッドの上で今日の試合のことを振り返りながら寝転がっていた。 ◆◆◆ 勝てた試合もあれば、悔しさだけが残った試合もあった。 そして何より、隆二と交わした約束。 新人戦では、必ず二人で代表になる。 その決意を胸の中で静かに噛み締めていると、不意にスマートフォンが震えた。 画面を見ると、送り主は果奈だった。『今から電話しても大丈夫?』 果奈からそんなメッセージが送られてくるのが珍しく、嬉しさあまり、反射的に返信する。『大丈夫』 送信した直後。 着信画面へ切り替わり、急いで通話ボタンを押した。「果奈から電話なんて珍しいけど、何かあったの?」「何かあったって訳じゃないんだけど、ただちょっと話がしたくて」 果奈は少し照れくさそうに笑う。「実は今日、美生と一緒に料理の特訓してたの」「そうなんだ、何を作ったの?」「肉巻きときんぴら」 その瞬間だった。 頭の中に、あの日のお弁当が鮮明によみがえる。 見た目は完璧だった。 けれど、一口食べた瞬間に広がった、予想以上の塩辛さ。「へ、へぇ……」 なんて返せばいいのか分からなくなり、ぎこちない返事になる。「絶対今、前回の弁当のことを思い浮かべたでしょ!」「そんなことないって」「本当に?」「本当に本当」「でも大丈夫」 果奈の声色が少しだけ柔らかくなる。「美生に教わったところもあったけど、上手くいったよ」 その一言に、胸が温かくなる。「……そうなんだ」 少し間を置いてから、口に出す。「美生の教えがあったとはいえ、二回目で出来たのは凄

  • もう一度、やり直せるなら 〜告白成功から始まる、それぞれの選択〜   4-4 もう1つの戦い

     駿が激闘を繰り広げていた同じ頃――。 果奈は少しだけ緊張した面持ちで、美生の家へ向かっていた。◆◆◆ 今日は、美生にお弁当作りを教えてもらう約束の日だった。 前に駿へ作ったお弁当。 見た目は悪くなかった。 それでも味付けに失敗し、悔しさでいっぱいになったあの日のことは、今でも鮮明に覚えている。 もう一度挑戦して。今度こそ、駿に「美味しい」と笑ってもらえるお弁当を作りたい。 そんな思いが強かった。  美生の家に着き、インターホンを押すと、すぐに美生が出て来る。「果奈ちゃん、待ってたよ。どうぞ入って」「お邪魔します。夕飯よりの時間になってごめんね。お父さんの迷惑にならなかった?」「ううん、大丈夫。果奈ちゃんは来週、県大会を控えているからしょうがないし、お父さんは今日は仕事で居ないの。色々と準備しているから、早速始めよう」 美生に言われるまま、台所に向かう。 台所にはまな板や包丁、調味料が綺麗に並べられていた。「今日は何を作るの?」 「きんぴらと肉巻きを作ろうと思ってたの」「肉巻きね……」 その言葉を聞いた瞬間。 脳裏に弁当を失敗してしまった時の辛い思い出が浮かぶ。「ちゃんと教えるから大丈夫だよ。因みに前回の弁当の写真ある?」「あるよ」「見てもいい?」「うん」 正直見返したくはなかったけど、スマホを取り出し、美生へ差し出した。「見た感じはまぁまぁ上手くいったんだけど、前にも言ったように味がね……」「なるほど、始めてでここまで出来ていたら上出来だよ。細かなところと味付けが良くなれば大丈夫」「本当に!?」「本当に。駿君が驚くような肉巻きを作ろうね」「うん」

  • もう一度、やり直せるなら 〜告白成功から始まる、それぞれの選択〜   1-2 夢みたいな現実

     帰り道。 駿は告白が成功したことを実感できないまま、家に向かって歩いていた。 ◆◆◆ 果奈と途中まで一緒に帰っていたのだが、正直何を話したのか覚えてない。 それどころか、ついさっき告白が成功したという事実を、まだうまく受け止めきれずにいた。 夕暮れの街を歩きながらも、足元がどこか浮ついている。 通り過ぎる自転車の音も、信号機の電子音も、妙に遠かった。  頭の奥では、さっきの声が何度も繰り返されている。  ――「……いいよ」 あの小さな返事。  照れたような表情。  夕陽に染まった頬。 思い返すたび、胸の奥が熱くなるが、同時に、現実感が薄かった。 (……本当に、付き

  • もう一度、やり直せるなら 〜告白成功から始まる、それぞれの選択〜   1章 変わる日常 1-1 全ての始まり

    「早川さん……俺と、付き合ってください」 放課後の教室には、もう二人しか残っていなかった。 今日は全ての部活がなく、窓の外では、下校する生徒たちの声が遠くに混ざり合っている。 けれど、その喧騒はガラス一枚隔てただけで別世界みたいに遠かった。 上野高校二年四組。 夕陽が斜めに差し込み、机の影を長く床へ伸ばしている。 オレンジ色に染まった教室の中で、浅村駿(あさむら・しゅん)の声だけが、不自然なくらいはっきり響いた。 ◆◆◆ 喉が熱い。 心臓がうるさい。 指先にはじっとり汗が滲んでいた。「……」 彼女、早川果奈(はやかわ・かな)は、一瞬だけ目を見開き、何かを隠すみた

  • もう一度、やり直せるなら 〜告白成功から始まる、それぞれの選択〜   1-4 大切な時間と変化

     駿が倉庫裏に着いた時、早川さんの姿はまだなかった。 ◆◆◆ 夕焼けに染まった校舎の影が、静かに地面へ伸びており、風が吹くたび、木々がかすかに揺れていた。 スマホの時間を確認するが、まだ数分しか経っていない。  本来なら、早川さんが所属するバドミントン部はテニス部よりも早く終わって、待っているはずだった。(……練習、長引いてるだけだよな) そう思おうとするのに、別の考えが勝手に浮かんでくる。  疑いたくないのに、疑ってしまう。(何考えてんだよ、俺) 頭では分かっている。けれど、不安は理屈じゃ止まらない。 胸の奥に、小さな黒いものが広がっていく。   その時だった。 「

  • もう一度、やり直せるなら 〜告白成功から始まる、それぞれの選択〜   1-3 膨らむ期待

     翌朝。 駿は目覚ましが鳴る少し前に、自然と目が覚めた。 ◆◆◆ カーテンの隙間から差し込む朝の光が、やけに眩しい。    ぼんやり天井を見上げながら、小さく息を吐く。    胸の奥が落ち着かない。だけど、嫌な感覚ではなかった。 むしろ逆だ。 何かが始まってしまった後特有の、ふわつくような高揚感。  昨日の放課後。  夕陽。  震える声。  思い返した瞬間、身体が熱くなる。 枕に顔を埋めたくなるくらい恥ずかしいのに、何度も思い返してしまう。 (……付き合ってるんだよな、俺たち) まだ実感は薄いけど、昨日の出来事を頭の中で繰り返すたび、少しずつ現実が輪郭を持

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