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忍び寄る悪意②

last update Last Updated: 2025-01-25 17:37:31

「この先に工場があって、その近くのゲストハウスみたいな家を数軒借りてみんなで住んでるのよ」

「20人皆でってなると楽しそうでいいですね」

「そうかしら?アタシ達の世界では割りとシェアすることが当たり前よ」

冒険者ってなると、やっぱり漫画やアニメのように行く先々が変わるし住むところも変わるようで、シェアハウスに住むことが一般的なようだ。

「伏せて!」

突然フェリスさんが叫ぶと同時に僕の足に蹴りを入れてきて強制的に伏せさせられた。

「いたぁ!」

伏せる前に僕の頭があった位置にナイフが飛んでくる。

危ない……フェリスさんの蹴りに感謝だな。

「不味いわね、カナタくん狙われてるわ。拠点はすぐ近くだから増援がくるまで2分。守り切ってみせるわ!」

「氷の絶壁!」

そんな言葉と共に僕らの目の前に巨大な氷の壁がせり立った。

「誰かは知らないけどアタシがいるタイミングで襲いかかってくるなんて命知らずにも程があるわね!」

頼もしい、なんて頼もしい台詞なんだ。

フェリスさんには絶対逆らわないでおこう。

数秒沈黙が訪れたが、少し離れたところから声が聞こえてきた。

「なるほど……氷の女王でしたか。これは相手が悪かったかもしれませんねぇ」

飄々とした態度で高身長な男が歩いてくる。

「あなたは何者?魔族のオーラを纏っているから敵には違いないでしょうけどね」

「御名答!」

長身の男が拍手をしながら近づいてくるが、フェリスさんは両手から冷気を纏ったレイピアを出現させる。

「お初にお目にかかります、ワタクシは高位魔族が1人四天王ゾラ・マクダインと申します。ゾラと呼んでいただいて結構」

「黒翼の|剣《つるぎ》か、厄介な相手ね……カナタくん、絶対にその氷の壁から外には出ないでね」

出ろと言われても出ませんよ、と言わんばかりに僕は首を縦に振る。

「ゾラ、あんたのトップはどこにいるの?」

「リンドール様ですか?あの御方はまだ表舞台には出てきませんよ。少なくとも異世界へのゲートが完成するまでは、ね」

こちらを品定めするような目付きで凝視してくる。

恐ろしすぎて腰が抜けそうだ。

「アンタの相手はアタシよ!」

地面を強く蹴りゾラに向かって駆け出すフェリス。

それを見たゾラも何かしら唱えたと思ったら右手が化け物のような腕に変化した。

「異世界へのゲートが完成するまでは手を出すなと言われていますが、少しくらい味見させて
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    Last Updated : 2025-01-30
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    トマスさんの出した条件は案外緩く僕は快諾した。話すだけだなんてそんな緩い条件を出してくるとは思わなかったのか、ペトロさんも苦笑いしていた。「話をするだけで許可をくれるというのかい?」「それはそうでしょう。別世界の話など望んでも聞けるものではないですから」想像していたより別世界の情報は価値が高いようだ。これなら案外他の使徒の許可を貰うのも楽かもしれないな。ペトロさん達はまた明日迎えに来ると言い残し塔から出て行った。僕はというとトマスさんの部屋で椅子に腰かけ話をすることに。「ふむ、なかなか興味深いものです。動く鉄の馬車に空飛ぶ乗り物ですか。確かにこちらの世界にはない技術です」トマスさんが特に興味を持ったのは自動車や飛行機といった科学の分野だった。こっちの世界は魔法という概念が存在している為科学というものは発展していない。恐らくこっちの世界で飛行機を作ろうと思うと膨大な時間が必要になるだろう。「それに魔法というものが存在しない世界ですか……不便で仕方ないでしょう」「いえ、それが意外とそうでもないんです。さっきも言った通り科学があるので遠く離れた人と顔を見て話す事ができたり新幹線っていう凄く速い地上の乗り物もあるので」「それは是非とも見てみたいものです。カナタと言いましたね、君がこの世界でそれを再現する事はできますか?」原理は理解しているが再現するにはまず部品を作るところから始めなければならない。当然そうなれば精錬技術も遥かに高度な技術が必要となり、まずはそこから始めるとなれば膨大な時間がかかってしまう。やはり知識だけあっても実現には程遠い。「すみません、僕も作り方とか原理は分かるのですがそもそもの前提知識や技

  • もしもあの日に戻れたのなら   神域へ⑩

    トマスさんの巨塔に入ると内装はこれまでと少し変わり、至る所に本棚が置かれてあった。真面目だと聞いてはいるがやはり勤勉タイプのようだ。上階に来ると、いよいよトマスさんの部屋だ。僕は緊張しながら扉の前に立った。「入るよトマス」ペトロさんが両手で扉を開くと、そこは図書館だった。いや、正確には図書館に来たかと錯覚するほどに本棚で囲まれた部屋だ。「うえぇ、いつ来ても相変わらずの本の数だな」「ほんと、これだけの本をよく集めたものよね~」アンデレさんもヤコブさんも大量の本を見て嫌そうに顔を背ける。まあこの二人は本とは無縁そうな雰囲気があるし、当然の反応か。僕としてはどんな本があるのか興味が尽きない。洋風の図書館というのか螺旋階段まであって上階にも本棚が所狭しと並べられていた。しばらく本棚を眺めていると、眼鏡をかけた白い服の男性が螺旋階段から降りてきた。「騒がしいと思ったら……貴方達でしたか」とても理知的な見た目をしているトマスさんは僕らを一瞥しフンと鼻で笑った。それが癇に障ったのかヤコブさんが一歩前に出た。「ああ?来てやったのになんだぁその態度は!」来てやったという表現はちょっとおかしくないかな?どちらかといえば僕らが頼みに来たって感じなんだけど。「来てやった?私は貴方達を呼んだ覚えはありませんがね」まあそうだろうね。だって勝手に来たんだから。しかもアポなんて取ってないし。「まあまあヤコブ、落ち着きたまえよ。トマス、君に用事があってね」「ペトロさん、貴方が用事というとあまりいい思い出がないのですが」過去に何があったんだろう。トマスさんの表情が本当に嫌そうな顔になっているし、凄く気になってきた。「まあまあまあ、それは置いといて。トマス、別世界の人間に興味はないかい?」「置いておくというそのセリフは私の方です。&helli

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