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世界を騙した男③

last update Last Updated: 2025-01-22 13:39:57

五木にスポットライトが当たると皆が静かになった。

静まったことを確認し、マイクを握る。

「皆様本日はお集まりいただきありがとうございます。ご存じでしょうがまずは自己紹介をさせて頂きます。半重力装置でお馴染みの科学者、五木隆です。私の右手にいるのは今回の主役、城ケ崎彼方さんです。ではご本人から一言挨拶を頂きましょう」

そう言って五木さんは僕にマイクを渡してきた。

覚悟を決めるんだ。

世界を救わなければならない、でも決して知られるわけにはいかない。

震える手でマイクを握りしめ、カラカラに乾いた喉から声を出す。

「初めまして、ご紹介に預かりました城ケ崎彼方と申します。本日は異次元へのアクセスを理論上可能とした為皆様に分かりやすくご説明していこうと思います」

その言葉だけで精一杯だ。

手汗も凄いし声も震える。

そのまま五木さんにマイクを返すと小声で、リラックスリラックスと微笑みながら声を掛けてくれた。

「では今回どうやって異次元世界へと行くのか、そもそも本当に異次元へ渡る方法など存在するのか、質問は無限にあるでしょうがしばしの間静粛に聞いていただこうと思います」

ここからは五木さん主体で、話は進んでいく。

僕はプロジェクターに表示された内容の詳細を説明しそれに対して五木さんから質問される。

それが約2時間にも及び、僕もだいぶ慣れてきたのか言葉が詰まらず出てきてスラスラと答えていく。

余裕が出てきたのだろう、会場内に姉の姿を見つけた。

手を振っているが振り返せる訳ないだろうこんな衆人環視の中で……隣にいるのは茜さんか。

あの人もやっぱり来ていたのか。

事前に取り決められていた流れももうじき終盤に差し掛かる。

その時ふと右端に腕を組みこちらを睨んでいる黒髪長髪の男性が目に映った。

あんな人見たことがないが、睨んでいるってことは僕の発表に対して何か思うところでもあるのだろう、そう思い目線を外す。

「ではこれより質疑応答の時間に移りたいと思います。挙手して当てられたら発言お願いいたします」

五木さんがこちらに目線を合わせてきたが、今からが大変だからだろう。

僕も目線で大丈夫と返した。

「そちらの、スーツにショートカットで眼鏡の女性。どうぞ」

まさかいきなり茜さんが指されるとは思わず少し驚いていると僕に目を向け少し微笑んだ。

いや違うなあれはニヤッとした顔だ、あの人は僕の困ることをするのが好きなちょっとお茶目なところがあるからな。

「発言させて頂きます」

澄ました顔で立ち上がった茜さんに周囲の目線が向く。

「理論上異次元へのアクセス方法が可能だと分かりましたが不安要素も大きく危険はないのでしょうか」

まあそれは想定済みの質問だ。

一拍置いて僕は答えた。

「もちろん全ての実験に危険は付き物です。絶対にないとは言い切れませんがそれはこれから立証実験に移り模索していく事になると思います」

あたかもそう答えると予想していたかのような顔で茜さんは座った。

そこからは1時間ほど質疑応答に対応し、滞りなく発表は終わった。

「お疲れ様彼方君。いい感じだったと思うよ、これなら実験におけるスポンサーも付きそうだ。」

控え室に戻ると五木さんは冷えたペットボトルの水を僕に渡しながら、満足気な顔で声を掛けてきた。

「そう言って頂けて助かります。後は実験を残すのみですが最初に聞いてた通り五木さんの研究所で行わせてもらえるのでしょうか?」

最初、五木さんは私のところで実験を行うようにと打診してきたときには正気か疑ったものだが、今では信頼度も高くこれほど頼もしい方はいない。

「もちろん、私の研究内容にも応用が効くしwinwinの関係だよ」

ただ出資額が低いと満足に実験ができないけどねと苦笑いで呟いた。

五木さんからは連絡先を教えてもらい、卒業次第私の研究所に来るように言われた。

実験の前準備は僕が卒業するまでに終わらせておくようで、卒業と同時に本格的に実験に入っていくとの事らしい。

とりあえず発表は成功と言えるな。

本来の目的は明かしていないが立証実験までできる事になったのであれば世界を欺いたと言えるだろう。

近い内に人類は滅ぶ。

こんな話を誰かにしたところで誰も信じない。

だから僕は世界を騙す。

人類が救われた後で明かそう。

じゃないと僕がおかしくなったと思われるから。

会場を出ると姉と茜さんが談笑しながら僕を待っていたようだ。

「お疲れ様彼方君、まさかあそこまで本格的とは思わなかったわね」

「いえ質疑応答で茜さんが最初だったおかげで少しは緊張も解れました」

実際そうだ。

最初に見知った人からの質問があったおかげでその後の質疑応答がスムーズにいった。

「流石私の弟よ!でも私を取材陣の囮にしたのは許してないからね!」

そうだ忘れていた。

姉の紫音は最初に置いていったことをまだ根に持っていたみたいだ。

「お詫びに今日の晩御飯は僕が作るよ」

「やったー!!カナタの料理美味しいんだよねー」

嬉しそうに体全体で喜びを表現している。

美味しいからというより多分楽できるから、というのが本音だろう。

「私も行っていいかしら、久しぶりに会ったんだし彼方君の料理も食べたいし」

いつものニヤッとした顔を僕に向けて、紫音と一緒に先を歩く。

まあ二人分も三人分も作る手間は変わらないからいいけど。

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