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神域へ⑤

last update Last Updated: 2025-04-29 18:00:03

巨大な扉が数秒かけて開かれる。

使徒様とはどんな見た目をしているんだろうか。

部屋の中はどんな風になっているんだろうか。

出会った瞬間バトルにならないだろうか。

色んな不安が押し寄せてくる。

緊張しながら一歩部屋の中に入ると、そこは部屋ではなかった。

いや、正確には部屋の中だ。

ただのどかな草原が広がっていて、その真ん中にポツンと椅子とテーブルが置かれてある。

そこで優雅にティーカップで何かを飲んでいる白い服の男性がいた。

「ペトロ様、少々変わった人間を連れて参りました」

神族のリーダーが膝をつき、頭を垂れる。

それと同じくして他の神族も膝をつくのかと思って周りに視線を向けてみるとそこには誰もいなかった。

神族のリーダー以外部屋の中に入っていなかったようだ。

これは僕らも膝をつくのが正解かと思い、しゃがむとアレンさん達も同じように膝をついた。

流石にここは空気を読んでくれたらしい。

ペトロと呼ばれた使徒が立ち上がるとゆっくりとこちらを向くのが気配で分かった。

下を向いていても使徒から放たれ圧は凄まじいものだった。

何もしていないのに流れ落ちる汗が物語っている。

「君の事かな?」

誰に話しかけているのか分からないが、多分僕に話しかけている。

というのも声が僕の頭上から降りかかってきているからだ。

ここは頭を上げていいタイミングなのか?

どういう動きをすればいいのか、何が無礼に当たるのか分からず僕が黙っていると、再び頭上から声がかかる。

「えーっと、君は……カナタというのかな?」

何も言っていないのに名前を当てられた。

使徒ってのは心でも読むのだろうか。

いや、とにかく返事をした方がいいのかもしれない。

「は、はい」

顔を上げて言葉を返すと、頭上で見下ろしている使徒と目が合った。

ニコッと微笑むと、手を差し出してきた。

これは手を取れという合図だろうか。<

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