LOGINアスイェとセラフィナの会話はいつもいつも突然始まる。
彼は本を読み、セラフィナは隣で静かに座っていた。最近セラフィナの身長が伸びて、もう少女の姿になった。セラフィナ自身はあまり気にしていないが、最近は服装も変わり、いつの間にか、アスイェのマントの下に入ることも、抱き上げられることもなくなっていた。時々セラフィナは自分から近づき、アスイェも拒まず応じた。だが、それでもセラフィナは少し苛立っていた。さっきセラフィナが甘えようとしたが、返ってきたのは「お腹がすいているのか」という言葉だった。「違うの……」「なら少し待って」セラフィナは本当に待っていた。ただ足を揺らして、待っていた。その気分はあまりよくなかったが、アスイェがそう言うなら、少女は待つことができた。アスイェの一言でイライラしていた気持ちは少しだけやわらげた。アスイェが本を読み終えたのは、セラフィナが我慢できなくなる前だった。「&helセラフィナは最近、風の音が嫌いだった。風の音が一番はっきり聞こえたのはアスイェがいない午後だった。セラフィナはただ、庭の影に座っているだけだった。一枚の葉が彼女の前に落ち、まるで誰かが手を振っているように揺れた。彼女は無視しようとしたが、見えない手に胸を押さえつけられるような息苦しさを感じた。セラフィナの呼吸がどんどん浅くなった。耳が鳴った。目眩がした。セラフィナは耳を塞ごうとしたが、手が動かないことに気づいた。アスイェの名を呼ぼうとしたが、声が出なかった。耳鳴りの音はどんどん大きくなり、やがてはっきりと聞こえるようになった。ドン、ドン……セラフィナはその音を知っていた。それは心臓の音だった。少女は人の子だったが、その心臓はとっくに止まっていた。彼女の命はアスイェに救われた。セラフィナはあがこうとしたが、それすらできなかった。その瞬間だった。――彼女には人影が見えた。その人は顔が霧の中にあり、よく見えなかったが、それでも目だけは見えた。閉じていた目が開き、その目は赤く、まるで薔薇のようだった。セラフィナを見ていた。言葉はなかったが、その目は彼女を誘っていた。その目はアスイェのものではないと、セラフィナは知っていた。それでも、その目はあまりにも美しく、抗えず――そのまま堕ちる瞬間……彼女は抱きしめられた。「ア、アスイェ?」「うん」セラフィナの目から涙がこぼれた。アスイェの腕には人の温もりはなかったが、セラフィナにとっては悪夢から引き離してくれるものだった。涙が止まらなかった。セラフィナは泣きながら言った。「セラのところに来るって……アスイェは、言ったのに……」アスイェはただ、しっかりと少女を抱きしめ、背中を撫でた。「もうセラを見つけたから、しっかり寝るといい……」彼はセラフィナの泣き腫らした目を見つめ、涙を拭き取った。泣き疲れたセラフィナはそのままアスイェの腕の中に眠りに落ちた。
風が止み、また吹き始めていた。 セラフィナは窓辺にずっと座っていた。 これは夢の中にいる感覚でもなければ、ただぼんやりしている感覚でもなかった。 それは――魂だけが体から抜け出し、ようやく戻ってきたような感覚だった。 彼女は自分の手を見た。指は冷たく、目の前の色も変わって見えた。 風の音がやっと止まり、そのあとに聞こえたのは――誰かの話し声だった。 少女が試しにしばらく息を止めると、すべてが静かになった。 しばらくして、セラフィナは立ち上がり、部屋へ戻ろうと一歩を踏み出した。 しかし、足元はふらつき、目の前が暗くなった。 もう一度目を開けた時にはセラフィナはアスイェの書斎にいた。 少女は書斎のカーペットの上に座っていた。 アスイェは片手でセラフィナの耳を塞ぎ、もう片方の手で彼女の目を軽く覆っていた。 彼の掌は冷たかったが、その手はセラフィナを暗闇から救い上げていた。 「セラ……セラフィナ……」 アスイェが彼女を呼ぶと、少女のぼんやりしていた意識は、ようやく戻ってきた。 「セラは……ずっとアスイェの机の前に立っていた?」 「うん。ゆっくり歩いて、入ってきた」 セラフィナは顔を下げ、自分の足を見た。 「アスイェの呼び声が聞こえなかった」 「……そうか」 「風の音がうるさくて……誰かの声が聞こえたの……」 「もしまた聞こえたら、目を閉じて、耳を塞いでいい。落ち着いたら帰ってこい」 「……セラ、自分で帰ってこられるかな……」 アスイェはすぐに答えていない。 「帰り道がわからなくなったら、こっちから探しに行く」 セラフィナが屋敷の中をぶらぶらするのは初めてではなかった。 彼女はよく、自分が何をしていたのか忘れてしまう。 例えば、水を流したまま―― 顔を洗うのを忘れたり、鳥の鳴き声を聞いているうちに、あっという間に時間が過ぎていた。 「言ったはずだ。これはお前の成長だ」 「いつ良くなるの?」 「そのうち治る」 セラフィナにはまた声が聞こえた―― でも、アスイェの声じゃない。 アスイェは近くにいるのに、声は遠くから聞こえるようだった。 セラフィナの意識はすぐに戻ってきた。 「セラには……まだ何か聞こえた……」 「そうか……気持ち悪いか
午後の光は、薄い布のようにすべてを覆っていた。花の形すら、セラフィナの目にはうまく映らなかった。少女はゆっくりと歩いていた。彼女は、なぜ散歩しているのかもわからなかった。ただ、ゆっくりと歩いていた。夜の蟲にいくらか食われたにもかかわらず、アスイェの薔薇はまだ多く、最近までつぼみだった花も一気に咲いていた。その香りは強く、セラフィナはくらくらと眩暈を覚えた。彼女はいつのまにか庭の中で立ち止まり、耳のそばで風の音が鳴り続けていた。まるで水の下にいるように、視界もぼやけていた。セラフィナは頭を振り、足取りもふらふらとしていた。セラフィナはうつむき、自分のドレスが目に入った。――彼女は自分がいつのまにか座っていると気づいた。日の光が強くなった。少女の気分はどんどん悪くなっていった。目を開けるのが怖く、吐き気はあるのに、胃の中は空だった。やがて立っているすら難しくなった。誰かがセラフィナの背中を軽く支え、日の光を手で遮った。アスイェだ。セラフィナはかろうじて立ち、アスイェの声が後ろから聞こえた。彼女は不安で手を少し伸ばしたが、何も掴めなかった。「耳が鳴ったか?」セラフィナはもう目を開けられず、軽く頷いた。「熱中症か……」セラフィナは頭の中の何かを追い払いたいように混乱し、しばらくアスイェの呼びかけに答えなかった。アスイェはセラフィナを抱き上げ、部屋の中へ運んだ。「……セラは、散歩しているだけ……」セラフィナはアスイェの腕の中で、弱々しくそう言った。「知っている」アスイェの声は低く静かだったが、ぼやけた意識の中でも、その声だけははっきりと届いた。その声を聞くだけで、体が少し軽くなる気がした。「……セラは、ゆっくりと大きくなったらいいのに……」「これが、成長だ」このあと、セラフィナはしばらく眠りに落ちた。目を覚ましたとき、最初に見えたのは見慣れた天井だった。熱は下がったが、まだだるさが残っていた。アスイェはいつも、ちょうどいいタイミングで現
セラフィナは今夜、早くに目を覚ました。夜の蟲よりも先に。体の熱が心臓から湧き上がり、まるで口を開けば、その熱が外へあふれ出そうな感覚だった。――セラフィナは、この感覚を知っていた。飢えたときの感覚と同じだった。だけど、少し違った。風が薔薇の香りを纏っていた。以前は好きだった香りなのに、今夜はなぜか甘すぎる気がした。セラフィナは蟲の音が耳に刺さった。夜の蟲が、いつの間にかアスイェの薔薇を噛んでいた。セラフィナは冷静だった。体の中の熱には、形があった。――炎だった。少女はただその場に立ち、夜の蟲が燃え尽き、折れた薔薇とともに燃え殻になるのを見ていた。部屋に戻ったときも、セラフィナの手はまだ熱かった。彼女は迷ったあと、アスイェの前に立った。アスイェは彼女の様子を見ても、驚きもせず、責めることもなかっ***最近、セラフィナの成長は凄まじかった。セラフィナの力も、以前よりずっと上達していた。今夜、庭の蟲が静かになったあと、アスイェは確信した。アスイェは、もともと夜に蠢く蟲など気にしていなかった。でも今夜は違った。薔薇の甘い香りを帯びた風が突然吹き、そしてふっと止まった。蟲の鳴き声も、風とともに止まった。少女は蟲に気づき、素早く、優雅にそれを消していた。アスイェは、セラフィナが子供だったころを思い出した。――アスイェ以外は何もかも怖がる、弱々しい寂しがり屋だった。アスイェが探すと、いつも軽く跳ねるように走ってきた。しかし、今は違った。今、アスイェに向かって歩いてくる彼女は、足音のない猫のようだった。アスイェの視線はずっとセラフィナに向けられていた。セラフィナはアスイェの前で足を止めた。彼女の状態は一目瞭然だった。息は荒く、目つきはまだ鋭く、手はかすかに震えていた。それでもアスイェは聞いた。「どうした?」「セラ、庭にいた夜の蟲を燃やした。」「なぜ?」「蟲がアスイェの薔薇を噛んでいた
最近、セラフィナは夜によく覚ます。びっくりして覚めるわけではないし、悪い夢を見たわけでもない。ただ、ここ最近よくある、行き場のない怒りだった。胸の奥から積み上がる熱が、全身を通り、首を抜け、顔へと上がっていく。それだけではなく、鼻や耳、口の中にも小さな熱を感じる。やがて頭の中にも熱を感じるようになった。セラフィナはずっと我慢していた。床に座れば少し熱は下がるが、いつもそうできるわけではない。しばらく動かず天井を見つめた。やがてセラフィナは、灯を壊したくも、壁を殴りたくもないと気づいた。セラフィナは、すべてを破壊する衝動を抑えたあと、ようやく動き出した。この熱は、セラフィナが一人で耐えられるものではなかった。少女は素足のまま冷えきった床に立ち上がり、服を羽織って、アスイェを探し始めた。探しに行ったと言っても、隣の部屋に行くだけだった。セラフィナはいつものようにノックもしなかったが、扉を開けた瞬間、アスイェはすでに顔を上げていた。――セラフィナを待っていたように。「来たのか……」『どうした?』でも『腹が減ったのか?』でもなく、ただ、冷静な「来たのか……」だった。この一言で、彼女は泣きたくなった。それでも少女は泣きたい衝動をこらえ、アスイェに聞いた。「アスイェの、目を、また見つめてもいい?」アスイェは静かにうなずいた。「……おいで」セラフィナは彼の側に座った。アスイェの側にいればよくなると思っていたが、セラフィナの体の奥では、まだ何かがざわついていた。セラフィナは彼を見ていた。灰青はいせいの目は、いつも霧のように霞んで見えたが、今夜は月の光を受けて輝いていた。「最近、お前はよく抑えてる」「でも、セラは気持ち悪い……」少女は泣きそうな声で呟いた。「怒りたいの……」「なら、怒ったらいい……」「……アスイェは、セラに怒ってほしいの?」アスイェは答えない。彼はセラフィナを、自分と向き合うように座らせた。「ゆっくり息を吸って、吐き出せ……」
機嫌は悪くなる一方だった。さっき、彼女は墨瓶を割った。黒い墨は割れる音とともに瓶からあふれ出し、カーペットを黒く染めた。割れた瓶は軽く跳ね、何枚ものガラス片が黒い墨に混ざり、やがてその破片はセラフィナの足元で止まった。アスイェはちょうど部屋の外に立ち、中のセラフィナを見つめていた。彼が割れた墨瓶に目を向けたのは、ほんの一瞬だった。そのあとは、ずっと機嫌の悪いセラフィナを見ていた。セラフィナは震え、まるで天敵を前にした猫のようだった。「ちがうの……これは……」彼女はしばらく、そのまま立ち尽くした。やがて、思わずアスイェの姿を探したとき、はじめて彼女は動いた。アスイェはすぐ近くにいた。近すぎて、振り向けばそこにアスイェがいる。「ちがうの……これは……!」彼女は頭を抱えたまましゃがみ込み、指で自分の髪を掴み、頭の中の悪いものを引きずり出そうとするようだった。「セラは今、熱い!食べたくない!ただ暴れたい!むかつく!」アスイェはゆっくりと彼女に近ついた。「くるな!!セラは……アスイェを傷つけてしまう!」セラフィナの言葉は止まらなかった。「どっか行って!!なぜまだここにいる!?」アスイェは足を止めた。二人の間には、墨に染まった床と、セラフィナの荒い呼吸だけがあった。セラフィナは初めてアスイェを怒鳴った。 アスイェもまた、このとき初めて足を止めた。「セラ、俺の言葉、覚えてるか——俺を見つめて、少しでも楽になるなら、俺のところに来ればいい」セラフィナは耳をふさいた。それでもアスイェの声が届いた。「――今、試してみるか?」「いや!なんで怒らないの?!」「墨瓶を割ったし!怒鳴ったし!なぜ怒らないの!」セラフィナは震えていた。アスイェはそっと手を伸ばした。少女は怯えているように震えていたが、アスイェは伸ばした手を戻すことはなかった。「俺を見ろ」セラフィナはまた一回大きく震えていた。アスイェはしばらくそのまま、手をセラフィナの肩に置いた。やがて、セラフィナは顔







