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第三十一話:テストという壁、グラウンドの外の闘い

Auteur: ちばぢぃ
last update Date de publication: 2026-02-24 18:30:31

十一月に入り、九州大会準決勝で敗退した福丘高校野球部は、基礎メニュー中心の練習に戻っていた。春の甲子園出場校の発表が1月まで待たなければならない今、選手たちは「来年の夏」を見据えながら、日々の鍛錬を続けていた。グラウンドには、秋の冷たい風が吹き抜け、落ち葉が土の上を舞う。練習の合間に、選手たちの吐く息が白く染まる季節になっていた。

朝練はいつも通り、ランニングから始まった。選手たちは黙々と周回を重ねる。篠原涼は軽めのキャッチボールで肩を慣らし、ストレートはまだ140キロ台後半に抑えていた。肩の疲労は完全に抜けきっていない。監督の山田浩二はブルペンの端で腕組みをし、涼のフォームをじっと見つめていた。

「篠原。今日は120球までだ。無理はするな」

涼は静かに頷き、キャッチボールを続けた。球はまだ走っているが、夏の159キロのキレは少し鈍っていた。それでも、涼の目は鋭く、マウンドへの執着を失っていない。

一方、早乙女球太はファーストの守備練習に汗を流してい
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