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第172話
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クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第352話
「ほら、これ食べてみて。特別にお願いした料理なの」深雪は色鮮やかで食欲をそそる魚の切り身を取り、延浩の器に入れた。「ありがとう」延浩は微笑み、魚を口に運んでゆっくりと味わった。「うん、美味しい。君のセンスはやっぱり間違いないね」「それは当然よ」深雪は得意げに眉を上げた。「この店は吟味して選んだの。料理に個性があるから、これから常連になってもいいと思う」「いいね」延浩はうなずいた。「でも、このところ忙しすぎるから、体を壊さないようにちゃんと休むんだよ」「大丈夫、ちゃんと自分で調整してるわ」深雪は答えた。「ところで、会社の今後の計画についてはどう思う？」「とてもいいよ。君の戦略は的確で、一歩一歩着実だ。この調子ならそう遠くないうちに、市場で確固たる地位を築けるだろう」「みんなのおかげよ」深雪は控えめに言った。「私ひとりじゃこんなにできないもの」「俺たちはチームなんだから、支え合うのは当然さ」延浩は言った。「ただし、静雄の報復には気をつけて。あいつは仕返しを必ず考える性格だ。君が案件を奪ったことを、絶対に黙っていないだろう」「わかってるわ」深雪の瞳は冷ややかに光った。「報復したいならすればいい。でも、その力が彼にあるかどうか......」「寧々の死に、彼が関わっていると知った時から」深雪の声には憎しみがにじんでいた。「私は必ず彼に代償を払わせるって決めたの」「深雪......」延浩は言葉を失った。彼は深雪の苦しみを思うと胸が痛み、同時に彼女の身を案じずにはいられなかった。「心配しないで」深雪はその不安を察して微笑んだ。「私は一人じゃない。君たちがいる」「そうだな」延浩は力強くうなずいた。「君が何をしようと、俺はいつだって味方だ」「ありがとう」深雪は柔らかく笑った。「さあ、食事を続けましょう」二人は料理を味わいながら、会社の将来について語り合った。食卓には和やかな空気が満ちていた。その頃、静雄はひとりオフィスで残業していた。パソコン画面の数字をにらみつけ、眉間に深いしわを刻んだ。最近、会社の業績は急激に落ち込み、いくつもの重要な案件を深雪に奪われた。株主たちの不満も募り、彼の重圧は増すばかりだった。こめかみを押さえると、疲労が一気にのしかかってくる。机上の写真立てを手に取った。そこには深雪と
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第351話
そのとき、芽衣がドアを押し開け、手に弁当箱を持って入ってきた。「静雄、お昼を食べていないでしょう？お弁当を持ってきたの」彼女は優しく言った。静雄は目を開けて芽衣を見たが、胸の奥に苛立ちが湧き上がった。「食欲はない。持って帰ってくれ」そう言い放った。「静雄、ご飯を抜いちゃだめよ」芽衣は彼のそばに歩み寄り、弁当箱を机の上に置いた。「今は体調が良くないんだから、きちんと食べなきゃ」彼女が蓋を開けると、香りが漂った。「私が心を込めて作ったの。少し食べてみて」そう促した。だが静雄は容器の中の料理を見つめても、食欲はまったく湧かなかった。「いらないと言ったはずだ。持って行け」静雄は再び突き放した。芽衣の表情が固まり、思いもよらぬ態度に顔色が曇った。「静雄、まだ私に怒ってるの？」彼女は涙ぐむように言った。「昨日、深雪のことを口にしたのは悪かった。でも、あなたのためを思ってのことなのよ」「別に怒ってはいない」静雄は答えた。「ただ......気分が悪いだけだ」「静雄、あなたが大きなプレッシャーの中にいるのはわかってる。でも、だからといって自分の体を粗末にしてはだめ」芽衣は必死に訴えた。「俺は......」静雄は口を開きかけたが、言葉が出てこなかった。「静雄、お願い。一口だけでも」芽衣は料理をすくい、彼の口元へ差し出した。「私のため、ね？」芽衣の哀れを誘う表情に心を動かされ、静雄は口を開いて一口食べた。味は平凡で、むしろ飲み込みづらかった。「静雄、美味しい？」芽衣は期待に満ちた瞳で尋ねた。「うん、美味しい」静雄は気のない調子で答えた。芽衣の顔に笑みが広がり、さらに彼に食べさせ続けた。やがて静雄の気持ちが少し落ち着くと、彼は慌てて言った。「まだ仕事があるから、今日はもう帰ってくれないか」芽衣は彼の冷ややかな態度に胸を刺されたように感じた。黙って荷物をまとめ、背を向けて部屋を出ていった。静雄はその背中を見送りながら、胸に苛立ちと無力感を抱えた。自分がなぜこうなってしまったのかはわからない。ただ今は疲れ切って、すべてから逃げ出したい気持ちだった。彼は携帯を手に取り、深雪に電話をかけようとした。しかし長い間ためらった末、結局置いてしまった。二人はすでに完全に終わったのだ。もう彼女を煩わせ
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第350話
静雄は目を開け、湯気の立つお粥を見つめたが、食欲はまったく湧かなかった。「腹は減ってない。お前が食べてくれ」そう言った。「静雄、少しだけでも食べて」芽衣はお粥を一口すくい、彼の口元へ運んだ。「胃に優しいから」芽衣の優しい仕草に心が緩み、静雄は口を開けて一口飲み込んだ。味は淡白で、ほんのり甘みがあったが、彼にはどこか物足りなかった。「深雪の作るものには敵わないな......」彼は思わずつぶやいた。芽衣の表情が凍りつき、手にしたスプーンが落ちそうになった。「静雄、今なんて言ったの？」彼女は怒りを抑えた声で尋ねた。「いや、何でもない」静雄は我に返り、慌てて言い直した。「このお粥、美味しいよ」芽衣は何も言わず、ただお粥を食べさせ続けた。だが胸の奥では無数の蟻に噛まれるような不快感が広がっていた。まさか彼が自分の目の前で深雪の料理の方が美味しいと言うなんて！お粥はすぐに空になり、静雄はベッドに横たわって目を閉じ、やがて眠りに落ちたように見えた。芽衣はその寝顔を見つめ、瞳に冷酷な光を宿した。彼女はそっとスマホを取り出し、陽翔にメッセージを送った。「計画はどう進んでる？」ほどなくして返事が届いた。「すべて計画通りだ。松原商事はもう収拾がつかない状態だし、静雄はすぐに何もかも失うことになる」芽衣は画面を見つめ、口元に満足げな笑みを浮かべた。「それならいいわ」と返信した。「こっちも急がないと。深雪と延浩に先を越されるわけにはいかない」「わかってるよ、姉さん」陽翔の返事が返ってきた。「姉さんこそ気をつけて。静雄に怪しまれないように」「心配いらない。今の彼は私を完全に信じてる」芽衣は打ち込んだ。「むしろあなたが注意して。絶対に尻尾をつかまれないように」「了解だ。自分の身は守るから安心して」スマホを置き、芽衣は眠る静雄を見下ろした。その目には複雑な光が揺れていた。翌朝、静雄が目を覚ますと、芽衣の姿はすでになかった。彼はこめかみを押さえ、頭痛に顔をしかめた。身支度を済ませ、会社へ向かう。オフィスに入るや否や、大介が駆け寄ってきた。「社長、大変です！」「どうした？」静雄は眉をひそめた。「プロジェクトを深雪様に取られました」大介は答えた。「これまでの努力がすべて水の泡です」「なに？
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第349話
芽衣は玄関に立ち、酔った静雄の姿を見つめた。目に一瞬、不快がよぎったが、すぐに柔らかな微笑みに変わった。「静雄、私よ」彼女は柔らかい声で言った。「どうしてまたこんなに飲んだの？お医者様に、胃が悪いからお酒は控えるように言われたでしょう？」静雄の目の光は一気にかき消え、彼は芽衣を見て自嘲気味に笑った。「帰ってきたのか」彼はグラスを置き、ふらつきながらソファへ行き、そのままどさりと腰を下ろした。芽衣は彼のそばに腰を下ろし、こめかみを揉もうと手を伸ばした。「静雄、なにか悩みがあるんでしょう？私に話してみない？」だが静雄はその手を払いのけ、不機嫌そうに言った。「大丈夫だ。放っておいてくれ」彼は目を閉じ、ソファに身を預けた。芽衣の手は宙に固まり、微笑みも引きつったまま崩れかけた。彼女は大きく息を吸い、心中の苛立ちを抑え込みながら、再び優しい声を作った。「静雄、最近本当にプレッシャーが大きいのはわかる。会社のことも大変でしょう。でも体も大事にしなきゃ」「わかってる。もう言わなくていい」静雄の声はさらに苛立ちを帯びた。「一人にしてほしい」芽衣は静雄の固く閉じられた瞳を見つめ、心の中で冷笑した。彼が今考えている相手は、間違いなく深雪だ。芽衣は立ち上がり、バルコニーのドア際に歩み寄り、夜空を見やりながら、わざと口にした。「静雄、今日ね、深雪と延浩が一緒にいるのを見たの」静雄ははっと目を見開き、顔を彼女に向けた。「そう？」「買い物に出たとき、二人がスーパーで一緒に買い物しているのを見たの。楽しそうに笑い合って......そのあと深雪の住まいに一緒に戻っていったみたい」芽衣は静雄の表情をじっと観察しながら話した。静雄の顔色はたちまち青ざめ、拳を固く握りしめた。「二人が......」彼は歯ぎしりするように言葉を絞り出した。「静雄、怒らないで」芽衣は慌てて近づき、彼の背を軽く叩きながら宥めた。「深雪とはもう関係ないの。彼女のことで傷つかないで」「俺は傷ついてなんかいない！」静雄は怒鳴った。「俺はただ......ただ......」しかし、どれほど「ただ」と繰り返しても、言葉は続かなかった。まさか「深雪が他の男と一緒にいるのを見ると、不愉快で仕方がない」とは口にできなかった。「静雄、そんなに興奮したら
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第348話
静雄の顔色はますます険しくなった。わずか数日入院しただけで、会社がここまで大きく変わってしまうとは思ってもみなかった。彼は部屋の中を行ったり来たりしながら、怒りに燃えた。心のどこかで、この件には深雪が絡んでいると感じていた。夜、静雄が家に戻ると、芽衣がソファに座ってテレビを見ていた。「お帰りなさい」芽衣は立ち上がって迎え、心配そうに尋ねた。「今日はどう？ 少しは良くなった？」「まあ」静雄は淡々と答えた。頭の中は会社のことばかりで、芽衣にかまっている余裕はなかった。「今日ね、会社のことを少し耳にしたの......」芽衣は探るように言った。「あまり順調じゃないみたい」「うん」静雄は気のない返事をした。「聞いた話だと、深雪が裏で動いてるらしいわ」芽衣はおそるおそる続けた。「今は延浩と手を組んで、松原商事のシェアを奪おうとしてるみたい」静雄の顔が険しくなった。「あいつ、よくも！」「静雄、そんなに怒らないで。体に障るわ」芽衣は慌ててなだめた。「私が力になるから、一緒に対抗しましょう」静雄は何も答えず、ただソファに腰を下ろし、沈思に沈んだ。一方そのころ、深雪の会社は勢いよく発展していた。彼女は毎日、足が地に着かないほど忙しかったが、その顔には常に自信に満ちた笑みが浮かんでいた。「最近ほんとに頑張りすぎだよ」遥太は彼女を見て、少し心配そうに言った。「休まなきゃだめだ」「大丈夫、若いから持つわ」深雪は笑って答えた。「今は会社の発展にとって大事な時期、気を抜けないの」「そういえば、静雄が退院したって聞いたよ」遥太は何気なさそうに口にした。「ふうん」深雪は淡々と返事をした。特に関心を示すこともなかった。「彼、このところ気分がすごく沈んでて、会社もめちゃくちゃみたいだ」遥太は続けた。「それは彼自身の問題よ」深雪は言った。「私たちは自分の仕事をしっかりやればいい」「その通りだな」遥太はうなずいた。「外のことに振り回されちゃいけない」夜、延浩が深雪の住まいを訪ねてきた。「ご飯を持ってきたよ」延浩は笑顔で言った。「最近頑張ってるから、ちゃんと栄養を取らなきゃ」「ありがとう」深雪は夜食を受け取り、胸に温かさが広がった。「最近どう？」延浩は心配そうに尋ねた。「顔色があまりよくないけど」「平気よ、ちょっと
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第347話
週末、延浩は深雪を連れて墓地へ寧々に会いに行った。「寧々、ママが会いに来たよ」深雪は墓碑の前にしゃがみ込み、そっと写真に触れながら、止めどなく涙を流した。延浩は横に立ち、黙って深雪を見つめ、胸の奥が締めつけられるような痛みに満たされた。彼は静かに深雪の肩を抱き、言葉のない慰めを送った。二人は墓地で長い時間を過ごし、夕陽が沈むころになってようやく名残惜しそうに立ち去った。帰り道、二人が病院の前を通りかかると、廊下を散歩している静雄と芽衣の姿が目に入った。静雄の顔色はまだ少し青白いものの、ずいぶん元気を取り戻していた。芽衣は彼のそばに寄り添い、二人はとても親密そうに見えた。深雪はその光景を目にして、胸の内が複雑にかき乱された。自分でもわからない。悲しいのか、それとも安堵なのか。延浩は深雪の変化に気づき、彼女の手をぎゅっと握りしめた。静雄もまた、深雪と延浩に気づいた。ほんの一瞬、立ち尽くし、心の奥底から説明のつかない切なさが込み上げてきた。なぜなのかわからない。もう深雪を愛していないはずなのに、彼女が他の男と一緒にいるのを見ると、どうしようもなく不快になる。芽衣も静雄の異変に気づき、表情を変えずに彼の手を強く握りしめた。その目には一瞬、冷たい光が走った。一方、大介は会社に戻り、財務資料の整理に取りかかった。すると、最近の会社の損失が大きく、いくつかの帳簿に不審な点があることに気づいた。誰かが裏で不正を働いているのではないかと彼は疑った。延浩は深雪を連れて海辺へ気分転換に出かけた。二人は砂浜を歩き、海風に吹かれながら会話を交わしていた。「最近は元気か？」延浩は気遣わしげに尋ねた。「ええ」深雪は微笑んだ。「そっちは？傷はまだ痛む？」「もう痛くない」延浩は答えた。「君が看病してくれたおかげだ」「君にはたくさん助けてもらったんだから、互いに支え合うのは当然よ」深雪は言った。延浩は深雪を見つめ、心の中が愛おしさで満ちていった。もし、このまま彼女のそばにいられるなら、それだけで十分だと思った。一方、静雄の病状は快方に向かい、退院した。しかし、彼の気持ちはますます沈み込み、まるで世界から見放されたように孤独で無力だった。芽衣は表向きは静雄を気遣いながらも、内心ではより大きな陰謀を巡らせて
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