「みっちゃん、デートしよう」
「えっデート?」
「うん。私はみっちゃんとデートしたい」
「デートって公園いったりお散歩したり?」
「違う違う。お買い物いったり、映画に行ったり」
「流石にそれって俺たちが付き合っているのがバレたりしない?」
「大丈夫じゃないかな。ちゃんと変装していけば。まぁ私的にはばれても全然大丈夫なんだけどね」
「いやいや、俺がいろんな意味で死んでしまう」
クラスで1番人気の嶋野愛と付き合っているのが俺みたいな陰キャとわかったら、陽キャ男子から放課後呼び出されたりするかもしれないだろ。しかし...
「確かに俺も愛とデートしてみたいかも」
「ほんと?」
「うんうん。最近は一緒に勉強とかしかしてなかったからたまにはお出かけもしたいなと思って」
「やったぁ。みっちゃん好き~~~」
「はいはい」
「チューして」
「はいはい」
「ぎゅーして」
「はいはい」
学校にいる嶋野愛と今目の前にいる嶋野愛は同一人物ではあるけど全くの別人だ。今の愛を学校の飢えている男子生徒たちがみたら確実に襲うかもしれない。
その点俺はまだ偉い方だと思います。 もちろん性的な目でみていないといわれれば嘘になるが、今のところキス以上のことはしていない。 ただ、甘えてくる愛の足とか胸とかをちょっとだけみてしまうことはあるけど。 だって男の子だもん... まぁいろいろな煩悩と戦いながらも愛からのおねだりは基本的にウェルカムなのでついつい甘やかしてしまう。「でもデートにいくならいくつか決めごとをしよう」
「何?」
「俺もいつもよりは違う雰囲気にするけど、もしものことがあるから外ではいつもみたいに甘えたりしないこと。せっかく今の嶋野愛というイメージがあるから、甘えん坊の愛をみたら学校の人たちがすごくびっくりしちゃうだろうから」
「う~~~ん。みっちゃんがそういうならわかった」
これは俺が個人的に甘えん坊の愛を他の人にみせたくない独占心というわけでは決してなくて。
今まで周りの期待に応えてきた愛のイメージを守るためだ。 別に学校の嶋野愛も今俺の前にいるちょっとぽんこつな愛もどちらも愛には変わりないんだけど それでも守って損はないイメージだから。 もう一度言うけど、決して甘えん坊の愛は俺だけのものみたいな独占心はないよ...「よし、決まりだ。なら次の週末にでもいこうか」
「わかった」
「え~何々?お兄ちゃんと愛ちゃんデートいくの?」
「真紀聞いていたのかよ?てか帰ってきてのか」
「さっき帰ってきたところ。部屋に入ろうとしたらお兄ちゃんと愛ちゃんの話声が聞こえたからこそっと聞いていたのだよ」
「こそっと聞くんじゃありません」
「真紀ちゃんおかえり~~」
「愛ちゃんただいま~~~」
「ぎゅ~~」
「ぎゅ~~」
これはいつものことである。こいつは俺の2つ下の妹の松岡真紀。
松岡家は両親とも共働きで帰ってくるのは遅めだから、普段は真紀と一緒にご飯を食べたりしている。 ちなみに家事全般は真紀が担っている。もちろん俺も手伝うよ?? 真紀と愛は最初こそどちらも緊張していたけど、すぐに打ち解けて今ではこんな感じである。 愛も真紀には自分の素を出せるみたいで仲良しな姉妹のような感じだ。 真紀の方は最初愛の美人さに驚きを隠せていなかったのと、俺みたいな陰キャの兄にこんな美人の彼女ができるわけがないと思って、本気で「レンタル彼女」かと思ったらしい。 まぁこれに関しては真紀の方が正しいわけで、確かに俺みたいな陰キャに愛みたいな彼女がいたら、お金を出していると思うかもしれない。 愛の方も一人っ子らしく、真紀のことを本当の妹のように可愛がってくれるから兄として彼氏としても嬉しい。「二人ともいつまでくっついんてるんだ」
「何、お兄ちゃん私に嫉妬しているの?キモいんだけど」
「ふふ、みっちゃんにもぎゅーするね」
「今は大丈夫」
「むむむ、真紀ちゃん、みっちゃんが私を避ける~~」
「お兄ちゃん最低~~~」
「わかったからそんな目でみるな。愛おいで」
「ぎゅ~~~」
「やっぱキモイなお兄ちゃん」
「いやなんでだよ」
これが今の松岡兄妹と愛の通常運転である。
6話から2章「中村敬都との出会い」です。 楽しんでもらえたら嬉しいです。
愛と春乃さんと敬都との球技大会の練習を終えた帰り、俺と愛は二人で帰っていた。「ねぇみっちゃん」「どうした?」「サッカー辞めて後悔していない?」「いきなりどうしたの?」「さくらに聞かれたときに本当はみっちゃんはもっとサッカーやりたいって思っていたのかなと思って」「なんでそう思ったの?」「みっちゃんの返事はもっとやりたかったけど途中で諦めたみたいな感じだったから」愛の言葉で少し考える...「後悔なくきっぱり終われているのかと聞かれたら違うんだと思う」「なんで辞めてしまったのか理由を聞いていい?」「いいけど大した話じゃないけどいい?」「みっちゃんの話なら私にとってはどれも大事なことだから」愛の目は真剣だった。 俺は歩きながら少し昔の話を始めた俺は小学校2年生から友達に誘われるのがきっかけでサッカー部に入部した。 そのころ部員の数も少なくて俺たちの世代は人数がいたけど上の世代には人がいなかったから5年生の時にはキャプテンに任命してもらった。 小学校の時のキャプテンの仕事はリーダーであるけど、あくまで監督・コーチがまとめてくれるから、特にキャプテンの仕事はなかったと思う。 サッカーは他の同級生には負けないぐらい上手だった。だから中学に入っても1年生から試合に出させてもらえたし、2年生でも一つ上の学年の試合にレギュラーで出させてもらっていた。 先輩が引退してから自分たちの世代になった時に小学生の時と同じようにキャプテンに任命された。 小学校のキャプテンと中学校のキャプテンでは仕事と役割が違っていて、小学校は監督・コーチがまとめてくれるけど、中学校では基本自分たちが主体になっていくから試合こそ監督や顧問がきてくれるけど練習ではキャプテンがその役割をこなさないといけなかった。その時の俺はキャプテンとしてチームを勝たせるのが仕事だと思っていたから 練習から部員に対して厳しく接していた。 多分最初は上手くいっていたんだと思う。 同年代の部員は協力してくれて
土曜日のお昼。 俺と愛と敬都と春乃さんはバスケットゴールがある近所の公園にきていた。 目的は愛の球技大会に向けての練習だ。 球技大会でなんで練習?と思う人もいるかもしれない。 あれは意識高い団結力のあるクラスの人たちがすることだし、かっこいいところを見せたくて練習している男子もいるかもしれない。 俺と敬都みたいな陰キャポジションの人間が球技大会では活躍よりも目立ちたくないが勝ってしまう。 むしろいつの間にかいなくなっていても気づかれないぐらいの存在感でいいと思っている。 しかし、才色兼備の完璧な女の子というイメージを持たれている嶋野愛はどうだろうか。 勝手に刷り込まれているイメージかもしれないが、幻滅されたときのがっかり感は俺たち陰キャの非にならないだろう。 だから春乃さんは中学の時からこうやって愛のために時間をかけて協力してくれている。 本当に春乃さんは良い人すぎる。 ちなみに俺も愛に対して運動神経が悪いという印象は全く持っていなかったのだが、実際にバスケットをしているところを見て思ったのは、力の制御ができていない主人公みたいな印象だ。 顔は確実に主役をはれるのに、バスケをしている姿は力任せなスタイルだ。 見た目は繊細、プレイはパワー系といったところでギャップに驚かされている。「瑞樹いくよ~~」「おう」そして俺は俺で見た目通り運動神経がそうでもない敬都のサッカーの練習相手をしている。 俺は小学生からサッカーをしていた分それなりに人に教えれるぐらいはできると思う。 まぁ本番は適当に流すつもりだけど。「敬都まっすぐ足を振って、ボールの真ん中を蹴るんだ」「わかった!!ってごめん変なところいった」「大丈夫」パスというよりは俺は球拾いに勤しんでいる 素人だとこんなのが当たり前。 逆に横でちゃんとバスケをするのが初めてなはずなのにバスケ部並みに上手な愛の方がすごいんだろう。「ごめん瑞樹へたくそで」「想定内だから大丈夫」「それは喜んでいいのかわから
「お母さん、僕は将来プロサッカー選手になってみんなのヒーローになるんだ」「瑞樹ならなれるよ」あの時は自分の夢に向かって一直線で頑張っていたし、自分はプロサッカー選手になるのが当たり前のように思っていたのかもしれない。 それがいつの間にか自分の中で「俺はプロサッカー選手にはなれない」と踏ん切りをつけていた。 踏ん切りをつけたのがいつだったのかはわからないけど、なんとなく相手チームに自分より上手な人がたくさんいるのを目の当たりにしてから子供ながら自分の実力を察したのかもしれない。 それでも中学3年生まではサッカーを頑張れていたと思う。 3年生になった時にはキャプテンに任命されたものの周りとの温度差で孤立して最後は中途半端に終わってしまった。 あの時お母さんに子供ながらに約束した夢は春が終わると当たり前のように散る桜のようにいつの間にかなくなっていた。 「お兄ちゃん起きて」「うん...」「今度球技大会があるんでしょ」「うん...」「久しぶりのサッカーなんだから、愛ちゃんにかっこいいとこ見せなよ」「うん......」「起きろ馬鹿」「わかったわかった」流石にここまでされて起きないほど馬鹿ではない。 なんで滅多に見ない子供の時の夢をみたのかは言うまでもない。昨日球技大会の出場選手決めがあったからだ... 俺としては適当にドッジボールにでも出場して流そうと思っていたんだけど、敬都と二人人数が足りていないサッカーに入れられたのだ。 まぁサッカーは未経験ではないからドッジボールよりもうまくやれるかもしれないけど。 なんとなく憂鬱感が抜けない。 それよりも今日はある人に呼び出しを受けていた。なんとなく要件はわかっているけど憂鬱だ。 二つの憂鬱が重なってなおさらベッドから出たくない。「仕方ない。いくか。」 「松岡くん来てくれてありがとう」朝一いつもは人が少ない学校の屋上に俺は来ていた。 呼び出し人は愛の友達の春乃桜。
3人組に指定された日当日。 俺と愛は敬都のことが気になって、指定されたゲームセンターにきていた。 そこには見た目の印象がかなり変わった敬都が座っていた。 自分で「ギャップ」というのを提案したけど、多分誰の目から見ても今の敬都を陰キャと呼ぶ人はいないだろう。 そのくらい見た目が変わっている 髪型だけでそんなに印象が変わるのかと思う人もいるだろうが 洋服にも少しだけ手を入れている 俺たちみたいな陰キャは元々洋服にお金をかけるおしゃれさんではないから洋服の数が少ない。 そんな俺たちにとってキーアイテムになるのが「黒のパンツ」と「無地のシャツ」である。 一件地味というやつもいるかもしれないが、俺たちはおしゃれになる必要はなくて「ダサくない」を目指せばいい。 世の中見見渡せば無地コーデなんか腐るほどあるだろう。 それに前見たテレビでいけてない人たちが「黒なパンツ」をはくだけでましになるみたいな企画をみたことがある。 俺も実際にやってみたのだが妹の真紀からもお墨付きをもらった。 今日の敬都のコーデは黒のパンツに白の無地シャツである。 今の敬都はどこにでも恥ずかしくないはず「なぁ愛。今日の敬都はどうだ」「そうだね。最初にみっちゃんの家に来た時に比べたら別人って感じかな。まぁみっちゃんの方がかっこいいけど」 「うん。ありがとう」愛はいつもの調子で俺贔屓である「でも今日の愛も可愛いよ」「えへへ。みっちゃんと一緒にいるときは私も気合を入れるのです」「それは俺も頑張らないと」本当に頑張らないと愛だけが際立ちすぎて「隣の男ダサい」とか思われたら愛の評価が下がるかもしれない「みっちゃんは今のままでいいよ」そんなこんな話したいたら3人組の男たちがゲームセンターに入ってきた 改めて調べたのが3人組の男たちは リーダー?みたいな存在が 木村 他A 吉田 他B 浅野 という名前らしい。学校でも悪ぶって
とある記事で人の印象は 1 見た目(視覚情報) 55% 2 声の大きさやトーンに関するもの(聴覚情報) 38% 3 話の内容(言語情報) 7% これは「メラビアンの法則」といって1971年に、アルバート・メラビアンという心理学者が提唱したらしい。 要するに見た目の印象でその人の印象はだいたい半分以上が決まるという提唱である。 これは確かにそうだなと思う部分が多い。 例えば太っている人、がりがりな人、カッコい人、カワイイ人の印象は圧倒的に見た目からの印象で決まるのではないだろうか。 これは俺にも思い当たることがあって、先日愛とデートしていた時にお姉さん2人組から逆ナンされたときに、もしいつもの学校スタイルの松岡瑞樹だったら声をかけられたいただろうか。おそらくないだろう。 学校でも普段からぼっちの陰キャに話しかけてくれるイケイケのお姉さんはいない。 あれは身なりをばっちりしたときだからこその結果だと考えていい。 今回中村に「ギャップ」を提案した理由は主にこの印象操作にある。 おそらく3人組の男子生徒が中村に対して目を付けたのは「弱弱しい見た目」だからだ。 もしこれが強者のようなマッチョスタイルのやつには金をたかることはないだろう。 それに見た目が変われば中村も自信がつくかもしれないと思ったから。 俺にできることは多分このぐらいだろう。 「それで松岡くん、僕は何をすればいいの?」「ちょっと待った」「何?」「まず、その松岡くんをやめないか。せっかく腹を割って話せる同志みたいなみたいな存在なんだから」「そこで友達って言えないみっちゃんかわいい」「そこいじらない」「はぁい」愛にはバレバレのようだ。自分から「友達」って言葉を言うのは思っている以上に恥ずかしい。 しかも面と向かって「俺たち友達な」みたいなどっかの主人公キャラしか言えないだろう。「そうだね。僕たち同志みたいな存在だね。なんて呼べばいい?」流石オタク。同志
「ねぇ松岡くん」「何?」「一つだけ聞いていいかな」「仕方ない。一つだけだぞ」「なんで嶋野さんがここにいるのかな?」「やっぱそこ気になる?」「気になりすぎるし、最初入ってきたときにびっくりしすぎて言葉失ったから」「まぁそうなるよな。ここにいる嶋野愛さんは松岡瑞樹の彼女でございます」「ええええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!「そんなリアクションになるわな」「ねぇみっちゃん。この人誰」「愛さんや。それはいくらなんでも中村が可哀そうだろ」「だってみっちゃんとさくら以外のクラスメイトの名前なんて覚えてないもん」「俺としては喜んでいいようわからんが」ちなみにさくらは春乃桜という女子生徒のことだ「喜んでいいし、私のことをほめてほめて」「はいはい。よしよし」「へへへへへへ」会って数分で中村の嶋野愛に対する印象が180度変わりつつあるのがわかる「嶋野さんって本当はこんな感じの女の子だったんだね」「そうそう。俺も最初はびっくりしたんだけどな。なんたってクラスでNO1の才色兼備の完璧な女の子ってイメージもたれているからな」「そうだね。でも学校にいる嶋野さんよりこっちの嶋野さんの方が親近感が湧いていいけどな。ただ、学校では賛否がありそうだけど」「そこなんだよ。だから俺たちは交際していることを隠しているんだ」「私はいってもいいんだけど」「愛のために言っているんだけどな」「みっちゃんが私のことを考えてくれているだけで嬉しいよ」「ならずっと考えておくね」「へへへっ」「中村にはこれからこんな感じになってもらうかなって思ってる」「こんな感じ?」「単純な質問なんだが、今のここにいる愛と学校にいる嶋野愛に感じることはなんだ?」「ギャップ?」「そう!!流石。中村