【え、これってプロポーズ……ですか?】
* * *
それから一ヶ月が経った時のことだった。
「いらっしゃいませ」
「すいません、一人なんですけど……空いてますか?」
「すみません、今ちょうど満席で……。テラス席でしたら空いていますが、どういたしますか?」
「……じゃあ、テラス席でお願いします」
その日は三連休の中日ということもあり、お昼時のカフェは混んでいるのか、店内は満席状態であった。 テラス席なら空いてるとのことだったので、わたしはテラス席に座ることにした。
今日は気分転換にスイーツを食べながら、外で仕事をすることにしたのだった。
「こちらの席にどうぞ」
「ありがとうございます」
イスの下にあるカバン入れにカバンを入れ、ノートパソコンと資料を開く。
「ご注文お決まりになりましたら、こちらのボタンでお呼びください」
「分かりました」
まずはメニューを開いてホットの紅茶を注文した。食べ物は後ででいいと思い、まずは資料に目を通していく。
「はあ、全然ダメだ……」
わたしはごく普通のOLだ。毎日上司から仕事を押し付けられ、毎日ため息ばかりついている。
そんな日々ばかりなのだ。
「お待たせしました。ホット紅茶になります。ミルクと砂糖はお好みでどうぞ」
「ありがとうございます」
まずは昨日終わらなかった分の作業を終わらせてしまおう。
そしてパソコンに入力作業をしていると、後ろの方から聞き覚えのある声が聞こえてきた気がした。
「分かってる。俺だって見合いは避けたいさ」
「大翔……」
……大翔? いや、まさかね……。でも今、お見合いって言ったよね……?
「でも親父さん、お前に結婚しろって迫ってるんだろ?南條ゆずと」
「ああ。……けどいくら言われても、俺はゆずとの結婚は出来ない」
そんな会話が、後ろの方から聞こえてくる。
「南條、ゆず……?」
え、南條ゆず……!? 南條ゆずって、あの南條ゆず……!?
世界的に有名なピアニストの、南條ゆずのことっ……!?
すご……! 南條ゆずとの結婚話、しちゃってるんですけど……?!
「でもゆずちゃんとは、幼なじみなんだろ?」
「幼なじみだからって、それとこれは話が違う」
「南條ゆずと結婚したら、お前の人生は安泰だと思うけど? な、大翔」
まさかね……。たまたま同じ名前ってだけよね?
その会話が聞こえてくる度に、わたしは仕事に集中出来なくなっていた。
「……親父の言いなりで結婚はしない。 俺は本当に結婚したい人と、結婚するって決めてる」
「大翔……。お前そんなんじゃ、いつかスリーデイズから追い出されるかもしれないぞ?」
「……っ!!」
す、スリーデイズ……? 今、スリーデイズって言ったよね?
まさかその大翔って……もしかして……。そう思ったわたしは、思わず声のする方に振り返ってしまった。
「……っ!」
や、やっぱり……! 声の主は、天野川大翔だった……!
まさかまた、こんな所で会うなんて……! ていうか、なんでいるの!?
「とにかく、俺はゆずとは結婚する気はない」
「そうかそうか。 まぁ大翔と結婚できる人がいれば、いいけどな?」
「必ず現れるさ、俺にとって相応しい人がね」
やばい……。ここから動けない。
天野川大翔との会話を聞いてしまったわたしは、そこから動くことも出来ずにいた。
こんな会話を聞いてるなんてバレたら、何か言われるかもしれない。
そう思ったわたしは、そこから出ようと思ったのだけど……。
ガシャン……!!
「やばっ……!」
わたしはパソコンをしまおうとした衝撃で、紅茶の入ったカップを落としてしまった。
「やっちゃった……」
カップを拾おうと座り込んだその時……。
「大丈夫ですか?」
と声をかけてくれた人がいた。 てっきり店員さんかと思い「すみません、落としてしまって……!」と伝えたのだが……。
「……えっ!?」
来てくれたのは店員さんではなく、後ろの席で会話をしていた天野川大翔であった。
「ケガは?」
「あ、いえ……。大丈夫です」
まぁ一ヶ月も前のことだし、わたしのことなんて覚えている訳がないと思ったのだが……。
「あれ?……君、前に会ったことあるよね?」
そしてわたしのその姿を見た天野川大翔から、そう告げられてしまった。
「え……」
ウソでしょ……。まさか、覚えているの?
「ほら、前にここで会ったことあるだろ? 確か君が躓いて転びそうになったのを、俺が助けたよな?」
ま、マジか……。なんで覚えているの? 一ヶ月も前のことなのに……。
覚えてることに、ビックリなんですけど……。
「……あ、はい。 その節はお世話になりました」
わたしがそう告げると、天野川大翔はカップを拾いながらわたしに「君、おっちょこちょいなんだね」と言ってきた。
「え……そうですか?」
「そうでしょ? 俺の目の前でニ回もやらかしてる訳だしさ」
「……で、デスネ」
と答えると、彼は「なんでカタコト?」と言いながら笑っていた。
「店員さん呼んでくるよ、ちょっと待ってて」
「あ、すみません……」
天野川大翔が店員さんを呼びに行ってる間、わたしはパソコンや資料をカバンにしまいこんだ。
「お客様、おケガはありませんでしたか!?」
その時、店員さんが慌てた様子で布巾を持って走ってきた。
「あ、だ、大丈夫です……。すみません」
「いえ、拭いちゃいますね」
「あ、ありがとうございます」
なにやってんの、わたし……。確かに天野川大翔の言う通り、わたしはおっちょこちょいなのかもしれない……。
会社でもたまに、転んだり言い間違えたりするし。 やっぱりわたし、おっちょこちょいなのか……。
なんか悲しい……。トホホッ。
「新しいの持ってきますね」
「い、いえ!大丈夫です……!もう出ますから!」
わたしは「失礼します!」と伝えてカバンを持つと、急いでお店を出た。
「……はぁっ」
少し歩いて、ため息をついて立ち止まる。
「全然集中出来なかった……」
スイーツも食べ損ねたし……。スイーツを食べていないから、元気が出ない。
「何か甘いもの、食べに行こうかな……」
そう思って歩きだそうとしたその時ーーー。
「なあ、アンタ」
「え?」
誰かがわたしに声をかけてきた。振り返るとそこには……。
「……え、なんであなたが?」
天野川大翔が、なぜかわたしの前に立っていた。
「ちょっと話があるんだ」
「え……わたし、ですか?」
と声を出すと、天野川大翔は「お前以外に誰がいるんだ」と言い返してきた。
「で……ですよね」
何言ってるんだ、わたしは……。
「ここじゃなんだし、ちょっとカフェにでも行かないか?」
「……まぁ、はい」
「じゃあ行こうか」
一体この人は、わたしになんの話があるというのだろうか……?
そう思ったけど、言われるままにわたしは彼の後を着いていった。
「ホットコーヒーと、ホット紅茶を一つずつください」
「かしこまりました」
新たなカフェに入ったわたしたちは、向き合うようにして席に座った。
「……あの、お話ってなんでしょうか」
わたしは恐る恐る口を開いた。
「君さ、Instagramやってるよね?」
「……え?」
な……なんで知ってるの?
「よくスイーツの投稿してるよな? それも週に二回くらい、必ず」
「え、どうして知ってるんですか……?」
とわたしが問いかけると、彼は「俺よく見てるんだ、君の投稿」と言ってきた。
「えっ? 見てくれてるんですか?」
「ああ。君のスイーツの投稿はとても美しいし、本当にスイーツが大好きだということが、投稿からもよく伝わってくる」
そう言われたわたしは「あ、ありがとうございます」と返事をした。
意外だな。天野川大翔がわたしのInstagramの投稿を見てくれているだなんて、思ってもなかった……。
「君はスイーツをたくさん食べ歩いているだろ?」
「はい。まあ」
「実はスリーデイズが今度、初めてのスイーツ部門を立ち上げることになったんだ」
ん……?
「……スイーツ部門?」
確か株式会社スリーデイズって、元々冷凍食品とかを作っている会社だよね?
それがなぜか……今度はスイーツ?
「ああ。 今回のそのスイーツ部門を立ち上げたのは、俺なんだ」
「え、あなたが?」
天野川大翔本人が、スイーツ部門を立ち上げたの? それも意外だな……。
「そうだ。……それで君に、折り行って頼みがあるんだ」
「頼み? わたしに……ですか?」
わたしに頼み?……なんか分からないけど、イヤな予感しかしない。
「ああ。 君にそのスイーツ部門を、手伝ってほしいんだ」
「……はい?」
え、手伝う……? わたしが?天野川大翔を手伝う……?
「君はたくさんのスイーツを食べているだろ?君のその味覚を、借りたいんだ」
「えーっと……」
その答えに、なんて返せばいいのか分からない。
「もちろん、タダでとは言わない。手伝ってくれたら、それなりに報酬を出そう」
「報酬……?」
報酬って、言われても……。そんなこと、簡単に決められることじゃない。
「君さ、俺の妻にならないか?」
「はい?」
い、今なんて……?
「俺が一億で買ってやるよ、君を」
「………。え、え……?」
い、今、わたしを一億で買ってやるって言ったよね……?
いやいや、聞き間違い……だよね?
「お前が俺の妻になってくれたら、俺は手伝ってくれる報酬として、一億を出すと約束しよう」
「いっ……い、一億っ!?」
報酬が……い、一億!? な、なんてことを言い出すの、この人は……!?
何を言ってるのか、分かっているのだろうか?
「そうだ、一億出す。 だから俺の妻にならないか?」
「……え、え? え……?」
そ、そんなことを言われても……!?
「一億で足りなければ、二億でも三億でも好きな額を出そう」
「い、いえ! 一億なんてそんな、とんでもない……!」
一億で彼の手伝いをすることを決めたら、わたしはお金に目が眩んだがめつい女だと思われてしまう……!!
そんなのは無理!イヤよぉ……!
「君が俺の妻になってくれたら、俺は君と夫婦でいながら共同で美味しいスイーツの開発が出来る。 君は俺の妻として、報酬の一億を手に入れられるし、美味しいスイーツも食べられる。……どうだ、いい考えだろ?」
「……いや、そう言われましても……」
そう言われたわたしは、絶句した。そして何も言えなくなった。
【お互いの利害の一致?】
それから一週間後の午後十三時頃、わたしはスリーデイズの本社の二十階にあるスイーツ開発部に来ていた。
「今日からこちらで、スイーツ開発に携わることになりました、森原由紀乃と言います。 皆さん、どうぞよろしくお願いします」
スリーデイズの本社で、天野川さんが集めたスイーツ開発部の方に挨拶をした後、一斉に「よろしくお願いします」と返事が聞こえた。
「ああ、そうだ。みんなに伝えたいことがあるんだ」
「何でしょうか?」
「由紀乃と俺は、来週入籍することが決まっているんだ。 これからは天野川家の妻として、みんなよろしく頼むよ」
天野川さんは、スイーツ開発部のみんなにそう伝えると、周りがざわつき始めた。
「おめでとうございます。お幸せに!」
「あ、ありがとうございます……」
なぜこんなことになったのか? それは遡ること一週間前のこと。
✱ ✱ ✱
「君が俺の妻になってくれたら、俺は手伝ってくれる報酬として、一億を出すと約束しよう」
「いっ……い、一億っ!?」
「そうだ、一億出す。 だから俺の妻にならないか?」
そんな話を持ち掛けられたわたしは、すぐには返答できなかった。
しかしながら、これが【プロポーズ】と呼ばれるものであるということだけは理解した。
「あの、それって……。プロポーズって、ことですか?」
と聞き返すと、彼はコーヒーを飲みながら「あ、まぁ……そういうことになるか」と答えた。
「ちょ、ちょっと待ってください。わたしたちまだ出会って間もないのに……その、結婚するんですか?」
いや、よく分からない。なぜそれで結婚になるのか……。
そしてわたしは、さっきのカフェでの彼の会話を思い出した。
「俺はお互いの利害が一致すれば、結婚してもいいと思っている」
「えぇ……」
お互いの利害って……。それもよく分からない。
「あ、あの……。南條ゆずさんのことは、いいんですか……?」
わたしはさっきの会話のことが気になってしまい、思わずそう口に出してしまった。
「……ゆず?」
「いや、あの……。さっきのカフェでそう話してたの、聞こえてしまってて……」
言い訳にはなってしまうが、もし彼と結婚するとなると、幼なじみ?である南條ゆずのことが妙に気になる。
「ああ。……ゆずのことは関係ないからな」
か、関係ないって……。そんなことないような気もするけど……。
「でも、天野川さん……南條ゆずと結婚するんですよね……?」
「ゆずとは結婚しない。 それは父親が勝手に言ってるだけだ」
わたしのその問いかけに、彼はそう答えたのだった。
「そ、そうですか……」
「どうだ? 一億で俺と結婚、してみないか?」
そう言われると、恋愛に疎いわたしは結婚なんて絶対向いてないと思う。
男性との経験もあまりないし、その、あっちの方だってあまり上手じゃないし……。
それに今まで一人で過ごしたきたわたしにとって、結婚なんて未知の世界だ。恋愛から遠ざかっているわたしにとって、結婚なんてものはハードルが高すぎる。
「あの……天野川さん」
「なんだ?」
「わたし今まで、まともな恋愛してこなかったので……恋の仕方を忘れています。恋愛には臆病なので、男性との経験もあまりありません。 それに天野川さんには、わたしみたいな平凡なOLとの結婚なんて似合いませんよ。……なのでごめんなさい。わたし、あなたとの結婚は出来ません」
天野川さんにそう伝えると、天野川さんは少し間を空けてからこう話した。
「俺には経験人数なんてものは関係ない。そんなものは必要ないからだ」
「……え?」
「そんなものは過去であって、今見ているのはその先の未来だ。 君が恋愛に臆病になっていることくらい、俺にも分かっている」
そう話す天野川さんの表情は、とても真剣で……。思わずその瞳に見惚れてしまい、目をそらせなくなっていた。
「過去は変えられないが、未来は変えられる。 恋愛するのが怖いと言うのなら、俺で練習すればいい」
そんなことを言ってくれる人に、わたしは初めて出会った気がする。
言ってくれる人がいるんだ……そんなこと。
「俺を練習台にすればいいさ。俺ならいくらでも、練習台に使われたって構わない」
「……どうして、そんなこと……」
どうして彼は、そんなことを言ってくれるのだろう……。
「どうしてだろうな。……だけど、無性に君が欲しくなった」
そんなことを言われたら、何も言い返せなくなってしまう。
「……天野川さん」
この人は……とても優しい人、なのかもしれない。
「由紀乃、俺と結婚したこと、絶対に後悔させないと約束する。君を必ず幸せにする。……そしていつか、君の心も身体も全て奪ってみせるよ」
「あ、天野川……さん?」
「俺と結婚しよう、由紀乃」
こんな顔の整ったイケメンに真剣な眼差しで愛の言葉を囁かれたら、世の中の女子はコロっと落ちてしまうに違いない。
わたしだってその一人なのだーーー。
「……はい。 こんなわたしですけど……どうぞよろしくお願い、します」
「幸せにするよ、由紀乃」
そしてわたしは、天野川さんのスイーツ開発に協力するという形で、天野川さんと結婚することを決めた。 そして協力してくれる報酬として、天野川さんはわたしに一億円を支払うと約束した。
天野川さんの言う通り、わたしたちはお互いの利害が一致したのだ。
わたしは天野川さんに一億はいらないと断ったのだが、約束だからと押し切られてしまった。
スイーツの開発にはわたしの力が必要だと言われたら、断ることも出来ず……。
タダで美味しいスイーツを食べさせてくれると言ってくれた天野川さんの言葉に、わたしはちゃっかりと騙されてしまったのだった。
大翔さんがいなきゃ、わたしはスイーツを作ろうと思えなかったかもしれない。 単純にスイーツを食べることが大好きってだけで、ここまで来ることは思ってなかった。「わたしは、スイーツが大好きだよ。食べることも、作ることも大好き。……だけど、わたしは大翔さんと一緒にいる時間が、一番大好きなんだよ。大翔さんがいないと、わたしは生きていけないもん」「由紀乃……」 だってわたしは、天野川由紀乃。スリーデイズの副社長である天野川大翔の妻だ。 大翔さんのことを誰よりも尊敬しているし、誰よりも愛おしいと思ってる。 大翔さんは誰よりも頼れる存在で、わたしにはもう大翔さんと過ごすこの時間がかけがえのない大切な
【〜最高の幸せは家族三人で〜】 「ただいま」 「大翔さん、おかえり。 今日もお仕事、お疲れ様でした」 「ありがとう、由紀乃」 わたしは大翔さんに「先にご飯食べる?」と聞くと、大翔さんは「ああ、そうするよ」と答える。 「今日の夕食、大翔さんのリクエストのチキン南蛮にしたよ。後豚汁とピリ辛キュウリ」 「お、チキン南蛮は嬉しいな」 「すぐ用意するね」 あれから気が付けば、半年が過ぎた。 半年間色々とあったけれど、無事にオンラインショップでのスイーツ販売にもこぎつけることに成功した。 そしてスリーデイズのオンラインショップでも自慢のアップルパイをハーフとホールでの販売も開始したところ、これがまた大反響なのだ。 大人気のためオンラインショップがサーバーダウンしてしまうことがあり、お客様には迷惑をかけてしまったが、無事にサイトも復旧しまた販売が出来るようになった。 思わぬサーバーダウンにわたしたちもてんやわんやでバタバタしてしまったが、サーバーに強いスタッフがいるおかげで割とすぐにサーバーは復旧することが出来たのも良かったと思う。 「お、チキン南蛮美味そうだな」 「ふふふ。正直、自信作」 「そうか。 よし、食べよう」 二人で「いただきます」と手を合わせると、大翔さんは早速出来たてのチキン南蛮に手を伸ばす。 パリパリというチキンの音が、口にした瞬間にいい音を奏でている。 「うん、美味いっ」 「でしょ? 自信作だからね」 「本当に美味いよ。最高だわ」 「ふふふ。良かった」 大翔さんがこうやっていつも美味しそうにご飯を食べてくれるから、わたしも作って良かったと思える。 一人で食べるより、やっぱり二人で食べる方が何倍もご飯は美味しい。 「豚汁も最高に美味い」 「良かった」 わたしが作る豚汁は出汁に特にこだわっている豚汁で、味噌は白味噌を使っているのだけど、出汁が美味しいから豚汁がもっと美味しくなっている。 「いつも美味しく食べてくれるから、わたしも嬉しいよ」 「本当に由紀乃の料理は美味い。疲れた身体を染み渡る」 「良かった」 大翔さんと色々と切磋琢磨しながらこうして美味しいスイーツ作りをしてきたけど、美味しいスイーツでみんなが喜んでくれるのはやっぱり嬉しいし、作ってて良かったと実感する。 「そうそう。ネットでのアップルパイの注
片山さんがそう伝えると、新メンバーの人たちは驚いているようで、「えっ! あ、天野川副社長の奥様……ですか!?」とわたしを見ている。「はい。わたしは副社長の妻です。……片山さん、伝えてなかったんですか?」「言ってたつもりだったんだけどね」「すみません。聞いてなかったのでビックリしました」 そう言われたけど、「わたしのことは普通にリーダーでいいですよ。 副社長の奥様だとか、気を張ることないですからね」と念の為伝えておいた。「お、恐れ多いです……」 と言われたけど、「わたしだって普通の一般人ですよ?元はスイーツ大好きな一般人です。 なので、気負わず話しかけてくれたら嬉しいです」と笑顔を見
わたしたちは頷きながら「はいっ!」と返事をした。「求人募集についての補足になるが、募集開始後の面接は俺と片山、二人で行うことになった。 片山、宜しく頼むよ」「えっ!わたしですか……!?」 片山さんは驚いたような表情をしている。 大翔さんは片山さんに「片山は俺がスイーツ部門を立ち上げた時からの初期メンバーだからな。片山が一番適任だと俺は思ってるんだが……どうだ?」と聞いている。「わたしも、片山さんが適任だと思います」 わたしがそう伝えると、片山さんは「そこまで言われたら、断れないじゃないですか」と言っているものの、「わかりました。面接担当、引き受けます」と受けてくれた。「ありがとう
無理だけは絶対にさせられない。「なんとか人手を増やせない、ですかね」「人手が増やせれば、なんとか回せるんだけどね……」 今の人数でやれることがギリギリになり、仕事を増やしてしまうと負担を掛けてしまう。 そうなると、なかなかお取り寄せにまでは辿り着くのは難しいかもしれない。「片山さん。副社長に、求人募集の依頼をかけてもらいませんか?」「求人募集?」「はい。社員でなくても、例えば短時間でも働けるスタッフとか、土日だけ働きたいみたいな人たちを募集してみませんか?」 派遣みたいなスタイルにしてもいいし、その人が働きやすい環境で働いてもらえるように、募集をかけていくしかもうない。「パ
ワンホールでの販売すれば、家族みんな分け合って食べられるし、自分なりにアイスを乗せたりしてアレンジも効くから、そっちの方がいい気もする。「そうだな、店舗では4/1カットが基本だもんな。……なあ、お取り寄せにするなら、ワンホールとハーフカットが選べるってのはどうだ?」 「ハーフカットとワンホールを選べるようにするってこと?」「そうだ。少人数だとワンホールは多いだろうし、ハーフカットを選べたら少人数でも食べやすいと思わないか?」 ああ、確かに……!「そのアイデア、素敵だね」「カップルや友人で少人数で食べるなら、ハーフカットくらいがちょうどいいだろ? ワンホールじゃ多くて食べきれなくなる