やたらアメージングな逃(飛)行だったけど、ツジカワさんったらよりによって役場に置き去りにしなくてもじゃない? 途中の大通り交差点のところで降ろしてもらえばよかった。こっからどうやって帰れっての? こんな夜中じゃバスもないし、それどころかあたしは全身血まみれなんだっての。ユサ呼び出そうにもあの子車持ってないしな。あれ? あの庁舎の中でガラケーいじってんのはシラベじゃない? そっか職場、夜間窓口だったな。ちょっと脅かしてみよ。
そっと足を忍ばせてシラベのいる窓口まで近づいて、
「レイカ。カリンだよ。ウチら友だちだよね」 「もう、その手は一度やったしょ。それに入口入って来るの見えてたし」 「だめか」 「あたりまえだよ。でも、今度のコスプレはこの間よりリアル。髪まで血糊でべとべとにキメてるし」 「そう? ありがと。でも早く流したいんだ。たしか、役場の風呂使えるって言ってたよね。それとついでで悪いけど、着替え貸してくれないかな?」 「いいよ。ここに座って待ってて、取ってくるから」『特殊縁故結縁届』。この書類にサインすると、役所から血の供給がうけられる仕組み。引き出しの中にあるのは、控えか。
新しめの欄にはココロんちの近くのオジサンの名前はなさそう。言った通り土に戻った? 役所から食餌を供給されるより土に潜る方がましってどんな粗悪品なんだ。 過去の履歴を見るとだいたい2カ月ごとに3人ずつのパターンになってる。会長主導ってこと? まてよ、細かく見るとそうでもないか。2か月の間にもぽつぽつあるな。頻度は圧倒的に会長で、そこにスレーヤーマターが混入してる感じだな。 「着かえ持ってきたよ。あ、名簿見てたんだ。その名簿に載ってるのが養子縁組した人なんだよ。ここで書類作って名簿に控えを記したらウチの仕事は終わり。それとたまった書類を厚生課食餌係ってところに持って行くのも。そこにショーンがいてね。カリン、知ってたよね、ショーン」 ショーン? あー、中学ん時のあいつか。めっちゃ軽い男。 「ねえ、カリンのそのカッコーって、実は仕事なんでしょ?」 「そんなとこ」 「カリンの会社ってブラックだね」 「そうかな?」<今週末は、ミワちゃんの家にお泊り。ニーニーのこと話したら、うちにおいでよって。ホント助かる。ミワちゃんは用事があるから7時に来てって言ってた。ウチはニーニーと鉢合わせしないように、明るいうちに出たから少し早すぎたかも。ミワちゃん、うちのおじーちゃんちょっと変だけどビックリしないでねって。ウチ、変なのはウエルカムだよ(強がり)。 六道辻、あの事件の始まりの場所。あんまり来たくない場所。あの時ヒマワリと一緒に帰ったのはミワちゃんだった。ヒマワリはキャプテン、ミワちゃんが副キャプテンだからってわけでもないんだろーけど、二人は何かと一緒に行動してた。で、あの事件でしょ。それから一カ月ぐらいは、ミワちゃん、心がどっかに行っちゃったみたいにボーとしてて、ウチは何もしてあげられないのがつらかったけど、あの時は誰もどうすることもできなかった。 六道辻は町の方から来た道が五つに分かれる場所なんだけど、ここより先の用事ってあんまりない。町のはしっこだからかな。この辺りは竹藪の中に古いお屋敷が何件かあって、昼間でもすごく静か。この一番細い道を行ったところにヒマワリの家で町長のお屋敷がある。なんとなく覚えがある。ウチも昔、ここらへんに住んでたんだよね。ヒマワリやミワちゃんと遊んでたのも、ここらに住んでる頃だったはず。小学校に上がる前に今いる住宅地に移ったから、どこに家があったかもう記憶のカナタ。パパとおばーちゃんのお葬式のすぐ後にお引越ししたのだけはよっく覚えてるけど。 それで、今から行くミワちゃんちはこの真ん中の道を行ったところ。町で一番大きいかもってぐらいのお屋敷だったはず。見えてきた、竹林の影に黒い瓦屋根が。 門構えすごい。お殿様の家みたい。たのもーってね。石畳が玄関まで続いてて、両側の垣根、いい香りの花が咲いてる。つやっつやの葉っぱ。白い花キレイ。甘いバニラの香りする。どっかで嗅いだことあるなって思ったら、これってミワちゃんの香りだ。「いらっしゃいませ」 ミワちゃん、和服着て老舗旅館の女将さんみたい。三つ指なんかついてウチにはもったいないよ。こういう時は、一礼挨拶してそのまま上がり、上り框で屈んで靴の向きを直す。意外と作法知ってるしょ。辻女に礼法の時間あったから。
やたらアメージングな逃(飛)行だったけど、ツジカワさんったらよりによって役場に置き去りにしなくてもじゃない? 途中の大通り交差点のところで降ろしてもらえばよかった。こっからどうやって帰れっての? こんな夜中じゃバスもないし、それどころかあたしは全身血まみれなんだっての。ユサ呼び出そうにもあの子車持ってないしな。あれ? あの庁舎の中でガラケーいじってんのはシラベじゃない? そっか職場、夜間窓口だったな。ちょっと脅かしてみよ。 そっと足を忍ばせてシラベのいる窓口まで近づいて、 「レイカ。カリンだよ。ウチら友だちだよね」 「もう、その手は一度やったしょ。それに入口入って来るの見えてたし」 「だめか」 「あたりまえだよ。でも、今度のコスプレはこの間よりリアル。髪まで血糊でべとべとにキメてるし」 「そう? ありがと。でも早く流したいんだ。たしか、役場の風呂使えるって言ってたよね。それとついでで悪いけど、着替え貸してくれないかな?」 「いいよ。ここに座って待ってて、取ってくるから」 『特殊縁故結縁届』。この書類にサインすると、役所から血の供給がうけられる仕組み。引き出しの中にあるのは、控えか。 新しめの欄にはココロんちの近くのオジサンの名前はなさそう。言った通り土に戻った? 役所から食餌を供給されるより土に潜る方がましってどんな粗悪品なんだ。 過去の履歴を見るとだいたい2カ月ごとに3人ずつのパターンになってる。会長主導ってこと? まてよ、細かく見るとそうでもないか。2か月の間にもぽつぽつあるな。頻度は圧倒的に会長で、そこにスレーヤーマターが混入してる感じだな。 「着かえ持ってきたよ。あ、名簿見てたんだ。その名簿に載ってるのが養子縁組した人なんだよ。ここで書類作って名簿に控えを記したらウチの仕事は終わり。それとたまった書類を厚生課食餌係ってところに持って行くのも。そこにショーンがいてね。カリン、知ってたよね、ショーン」 ショーン? あー、中学ん時のあいつか。めっちゃ軽い男。 「ねえ、カリンのそのカッコーって、実は仕事なんでしょ?」 「そんなとこ」 「カリンの会社ってブラックだね」 「そうかな?」
ホントにここであってるの? くっそ、アベックのヤツ、どんどん先に行っちゃう。やっと追いついた。(実況中)「いよいよ、ターゲットのいる部屋に進攻です。他の隊員全員が蛭人間にやられた今、私と傭兵ブラザー二人での討伐になります。頼りはブラザーの持つ水平リーベ棒のみ」(少し興奮気味) 誰得の脚色? 実況観てる人向け? そんな暇あったら状況もう一度確認しよ。 奥の寝室の前まで来た。ドア開いてるけど中は真っ暗。アベックがハンドライトで照らす。ベッドに誰か座ってる。髪の毛長い女の人? 人?(実況中)「いました。情報通りです。こちらに気付いているのか、いないのか、ベッドの上でじっとしたまま動きません」(ささやき声)「怪物め! 覚悟。名刀『火血刀』受けてみよ」 立ち上がった。見たことあるシルエット。髪が長くてきゃしゃな感じで。こっち来る。足引き摺ってる。知ってる顔だ。どうしてここに広報の人が?「アベック。待って。この人、ヴァンパイアじゃない」 うわ! アベックめ、いきなり刀振り回しやがった。ルール決めたけど、分かるだろ。だから、危ないっての。こんの。「やめろって。あたしだって」「知ってるよ、ブラザー。悪いが君も死んでもらうから」「は? ワケ分かんないんだけど」「そうだよね。でも、目障りなんだってキミのこと」「誰が!?」「町長が」 くっそ罠か。でも、逃げ出さなきゃ。頭使え! 絶対切り抜けてやる。どうする? よし、こいつの後ろのあれから注意をそらさせる。「実況中にそんなこと言っちゃっていいのかよ」「それは大丈夫。あとで編集するから」「ライブじゃないの?」「バカだな、ライブでなんか流さないよ。ちゃんと運営がチェック入れてくれる」「お前が不利益だからってどうして運営が編集かける?」「僕が運営サイドの人間だから、かな」 廊下の暗闇の奥からウーファーのかかった咆哮が上がった。破壊音とともに悲鳴と叫び声が間断なく続き、そして静かになった。「今のは?」「さっきのメタボオヤジが本性現したんだよ。あれの方が妓
改めて見ると、しけたおっさんばっか。エイプ100以外はみんな40? 50? きっとバブルに乗りそこなった口だな。「作戦中はコードネームで呼び合います。僕、エイプ100はアベック、ココロノハハさんはブラザー、ゴールドモンキーさんはチョリソ、イエロータクトさんはデンタル、VT250Fさんはエリート、MTX50Rさんはフラワー、隊長のモンキーZ50Jさんはグレープ、シンガリをお願いします。作戦中はこのコードネーム以外では絶対に呼びかけないでください。奴らは我々のハンドルネームを知っている可能性があります。ハンドルネームで話しかけられたら、そちらに向かってすぐさま攻撃してください。進攻中の隊列はいつでもこの順番です。アベックからブラザー、ブラザーからチョリソのように下へは話しかけてもよいですが、逆は禁止です。下から話しかけられたときは返事をせずにすぐさまそちらに向かって攻撃してください。返事をしないかぎり向うは攻撃をしてきません。これは暗闇を前提とした作戦です」「どうして返事をしないと攻撃をしてこないの?」「礼儀をわきまえているから、らしいです」 ヴァンパイアって礼儀正しかったんだ? 想像と違うな。「武器の配備です。さすまたをチョリソとエリートが持ちます。アベックとグレープとが山椒の木刀、アベックは短刀も兼備します。他は各自の武器で対応してください」 あたしは水平リーベ棒だけで?「ブラザーは初参戦ですから、まず自分の身を守ることに専念してください。防具はチョリソが用意したものを着けてもらってるね」 やっぱ、この格好なんだ。すり鉢のヘルメットはいいとして、このガンダムみたいな段ボール製の胸当ては何か意味あんの?「今回の実況担当はアベックです。規約によりカメラも幹事の僕が身に付けます。では、イベント開始時間まで、各自待機していてください」 あと、20分か。狩りの場所はこの近くなのかな。「アベックさん、場所はどこでなんですか?」「まだわからないよ。それは蛭人間殲滅の時と一緒。時間になったら『R』にプッシュ通知が来て、マップにピンが表示される」「蛭人間とは違って妓鬼は数が少ないって聞いてます。ほかのPTと鉢合わせになった
今晩は講座の日。ココロに付けられた傷がなかなか塞がらなくって首に大き目のバンドエイドして行ったら、いいって言うのにお師匠さんが手当してあげるって。薬を塗ってくれる前に、おまじないよって傷をペロッと舐められた時、背中を冷たいものが奔った。 少しお話して練習はじめ。お師匠さん、同じとこ3回語ってから、はいどうぞって、結構ムリ目なこという。覚えられないんですけど。でも、なんとか一節だけ聞いてもらったら、「声が撥ねましたね。やっぱり」 って褒められた。特に何したわけでないけど。「この調子なら、間に合いそうですね」 間に合うって? 発表会とかするんですか? 無理だと思います。全然覚えられないですし、お借りしたテキストもまだ読めませんもの。「とにかく、あと一つ、二つきっかけがあればいいと思いますので。たくさん冒険なさってください」 ボウケンですか? 家に帰って長坂モンキーズあてにお願い投稿。「グループ参加の件、可能であればお願いしたく、連絡乞う。FROM:ココロノハハ TO:長坂モンキーズ御中」 返事はっや。「表題の件、了解しました。明晩のイベントよりご参加可能。待ち合わせ場所:西廓3丁目交差点、マップリンク、時間:2330 長坂モンキーズ 幹事 エイプ100」「よろしくお願いします。ココロノハハ」 さて、装備どうしよう。「装備、水平リーベ棒しかないんですけど ココロノハハ」「いいです 装備等はこっちで用意します 長坂モンキーズ隊長 モンキーZ50J」「基本セットもないの ココロノハハ」「それでどうやって戦ってきたの? まあ、余ってるのあるから貸してあげます 長坂モンキーズ副隊長 ゴールドモンキー」 なんかサルばっかだな。不安マシマシ。 西廓3丁目。地名からするとここは昔、遊郭があった場所。郷土史やってた教頭先生が、昔の辻沢は全域が|悪場所《あくばしょ》だったって言ってた。ゴッ、ゴッ、ゴゴッ。ウイィー。 「こんばんは。長坂モンキーズ来ました。今夜はよろしく。あ、モンキーZ50Jです」 お前
トリマ、前進。靴のままでお邪魔しまーす。血の跡、階段からか。上がる? 上、真っ暗だな。電気点く。あんまりそこら触らないようにしてっと。会長が妓鬼狩りをしてたとしたら、ここで出るのは人間のツレに決まってる。対人用の武器買っとけばよかった。とりあえず車にあったの掴んで持ってきたけど意味あったかな? 水平リーベ棒。 血の跡は、あの左の部屋まで続いてる。音した? 気のせい? ドア半開きだ。部屋の中、暗くて分からない。誰か寝てる。夏なのに掛け布団? 背後に気配。すごく巨大な何か。そして、猛烈な古本屋さんの匂い。「ようこそ、カレー☆パンマン」(イケボ&重低音。以下同じ) 振り向くとそこにいたのは金色の眼をして真っ赤な口から銀色の牙を剥き出しにした怪物。これがツレなの? どう見てもヴァンパイアなんだけど。 終わった、あたしの人生。って訳にはいかない。あたしがいないとココロが寂しがる。必殺! 裏拳水平リーベ棒。痛たたた。手首つかまれた。ひねっちゃ痛いって。すっごい力。敵わない。乙女ってやっぱり非力。「怖がることはない。お前には危害を加えない」 手、放してくれた。ナンデ?「油断させておいて、血を吸う気?」「私にはお前の血など必要ない」「血に飢えた怪物なのでは?」「ああ、われわれはヴァンパイアだから常に血に飢えている。でもそれはお前たちも同じだよ。見なさい、これを」 そいつが布団を剥ぐと中に横たわっていたのは首のない体だった。合掌した手を胸に載せ、浴衣の帯を前にして結んである。体つきから女性? 枕と敷布団が赤黒く染まってる。でも、何故だかグロく見えない。傷口が見えないから? 人形のようだから? もっと近くで見ようと身を乗り出したら、そいつがそっと布団をかぶせ直した。いつの間にかそいつは黒縁メガネのおじさんになってた。男? 辻沢のヴァンパイアなのに?「あたしの友だちはあなたの仲間に殺されの」「そうか、それはすまなかった。そういうことがあるから、われわれはいつまでも安心して寝られない」「それはこっちの台詞」「そうだな。失言だった」「さっきの男がこれを?」「そうだ。私が昨晩、留守にし
気に入ってたけどモフモフのシートカバーはシラベの血がべっとりついてたからゴミ箱行き。いつかこの車のインテリア総とっかえしよう。昨晩はマジで危なかったな。レイカのおかげで助かったけど、逆にレイカがこれからどんなになるのか、あたしたちで本当に何とかできるのか不安になる。でも、これはあたしがトール道。これを乗り越えなければ目的は果たせない。 昨晩青墓で一人で偵察に出て、誰もいないはずの受付にジャガーが停まってるの見た時はすぐにでも戻ろうかと思った。でも、会長が肩からボールケースを3つも掛けて車から出て来たから茂みに隠れて様子を伺うことにした。 しばらくすると森の暗闇から、緩慢な動作のたくさんの蛭人間が現れて会長の周りを遠巻きにして集まった。その中の何匹かは、あたしのいた茂みの横をすり抜けて行った奴らだった。ずっと後ろにいやな気配を感じていたんだけど気のせいにしてスルーしてた。危なかった。 蛭人間って、辻沢の風景に自然と溶け込んでいて、そこに居るのにいないような、目の端に捉えているのに気づかないような存在なのかもしれない。昨日の夜は狂暴化して襲って来たけど、突然そうなったんじゃなくて、ずっとそうやって暗闇から辻沢の生活を脅かしてたんじゃないかと思う。 一人夜道を歩いているとき付けられてる気がしたとか、暗い田んぼの中で何かが蠢いたとか、森を車で走るとき木々の間に何かが佇んいる気がするとか。あたしたちは何も気づかぬふりをして、何も見てない体で生活してた。それが言い知れない不安の正体だなんて思いもしないで。 それで会長はどうしたかっていうと、そいつらをいやらしい目でねめつけながら、ボールケースの中から何かを取り出して蛭人間に与えだした。蛭人間たちは猛烈な勢いでそれに群がり貪り食った。蛭人間がたてる気味の悪い音のせいで吐き気がしてきて、あたしは急いで車に戻ったけど、あれは確かに人の生首だった。 今朝はココロの家の駐車場から会長の見張り。この地区、今日燃えるゴミの日なのかな。カラスがうるさい。 カカカ。コァコゥァ。アーアーアー。カカ。コゥァ。アーって、何か喋ってるみたいな鳴き声。 ここからまっすぐのところに会長の家が見える。垣根の中は家族が誰も住まなくなったココ
背中がボロボロになったニットシャツとお尻のとこ血だらけになったデニムの短パンは、ゴミ箱行き。どっちもお気に入りだったのに。 血はウチのでないよ。ウチは、カーミラさんに背中引っ掻かれたけど、ミミズバレですんだ。 カリンが血は転んだとき付いたんじゃないかって。掌とか膝とかにべっとりついてたから。靴にくっついてて持ってきちゃった葉っぱにも血がたくさんついてたし。 セイラ、嫌な顔しないでシャワー使わせてくれた。パジャマもありがとね。 ウチは疲れちゃって、セイラのベット借りてすぐにでも落ちそうになってたら、 「映ってない。やっぱり」 「映らないの? もしかして」 「ドライブレコーダーにも映ってないし」 「ヘッドライトで明るかったもんね。暗さのせいじゃないね」 「ぶつかったのは事実。車の前面ぼこぼこだった」 「新車なのにね」 「ツライよ。まだローン全然返してない」 「拾ったカメラは、ずっとあの場面映してて役に立たない」 「どうして映らないのかな」 「鏡に映らないから、CMOSやCCDにも反応しないのかも」 「試したことなかったね。シオネたちで」 「セイラ、そんな……」 「エビデンスとるのも大変か」 「システムテストしてるわけじゃ」 「ごめんね。つい……」 「ともかく、今回はレイカに助けられた」 「ホント、セイラたちだけなら二人とも死んでた」 次の朝、「スレッター」のトレンドで「強制退会処分」ってのがトップになってて、ソースに、 「重大な規約違反が発覚したため、以下のユーザーを強制退会処分、PTを強制解散処置にいたしました。以降当該情報にアクセスすることはできなくなります」 ってあった。昨晩、実況してたPTも含まれてた。
「あれ、さっきの実況で映ってた倉庫じゃないかな」 ちょっと広めの空き地。動くものはないっぽい。街灯が寂しげだ。 「さっきの実況、やっぱり同じ画面のまんま。うん、あの倉庫でいいみたい」 停めるの? やめとこーよ。降りるの? 絶対ダメだって。降りた人が最初にやられるって思ってると、車の中にもうナンカが潜り込んでて、最初に車の中の人やられて逃げ道なくなって全滅なシチュだから。そうじゃなかったら、降りた途端倉庫からナンカが信じられない数出て来て、みんながやられる中必死で逃げ回って、一人だけ助かったと思ってほっとしたところを土の中とか、木の上とか思わぬ角度から襲われてどのみち全滅なシチュだから。でも、降りるのね。はい? ウチだけ? 「ウチは動画撮らなきゃ。運転もあるし」 「セイラは、ゴマすらなきゃ」 なに言ってんの、あんたたち。とくにセイラ。 結局ウチか。一応武器って、なにこのホーキ。古い枯葉が積もってるから掃いてけって? ショージキいらない。で、なんでカレー☆パンマンの被り物すんの? どっから出て来た? 「レイカ小顔だし、暗くて見えにくいから」 なるほどって被っては見たけれど暑苦しいし見えにくい。ルームミラーにカレー☆パンマンの顔。悪くないね。 懐中電灯持って外。なんか変な臭いしてる。しめった落ち葉が靴にくっついてくる。ウエアブルカメラを探せっていわれてもね、暗くてよくわからないよ。 「もちょっと、左のほうじゃないかな。あ、カレー☆パンマンとホーキ映った。右右、そっち左。そう、そのまま前」 あてずっぽうにそこらじゅうを足ではらってたら、何か蹴った。ころころって。 「レイカ、どうした?」 「何か蹴っちゃったみたい」 「なんで蹴る? それ拾って」 どれ? 見えないよ。ん? なんかにつまづいた。すり鉢だ。ほっとこ。カメラ、カメラはっと。これ? 黒い目玉おやじみたいなやつ。 「それ! それだよ。レイカ。だから、蹴らなくていいから。手で持ってきて」 はいはい。 なんか音した。後ろで。やばいやつかも。ウチ、チョッカン信じてるから