Share

3-2.ヒビキはひたすら調査する

last update Last Updated: 2025-03-24 18:00:08

 会長周辺を探ろうって思って、本社の威光を傘に子会社のYSS(ヤオマン・システム・ソフトウエア)にアポとった。そしたらここから青物市場ぐらいの距離、自分の車で行くってのに会長みずから迎えに来るって。だからこうやってカイシャの玄関でお待ち申し上げてるんだけど。

 来たみたい、スポーツカーグリーンのジャガー。驚いた4時ピッタリだよ。

「お待たせ。乗って」

 この車、後ろに乗るのは初めて。いちいちシガーソケットにスマフォ繋げんのは変わってないね、会長。

「こうやって、ヒビキちゃんのことお迎えに上がるのは3年ぶりかな」

 あたしがヤオマングループに入社してから今の部署に異動になるまでの半年、会長と秘書待遇のあたしと二人しかいない、めっちゃくちゃ暇な部署にいた。それでか、いらないってのに毎日このジャガーで送り迎えされてた。

「すみません、わざわざジャガーでお出迎え頂かなくても、私の軽自動車で伺いましたのに」

「いやいや、本社の方が、うちなんぞのプロダクトにご興味を持ってもらえたんだから、こっちからお出迎えするのはあたりまえの……」

 ちょっとややこしいけど、このカスはヤオマン本社の会長と子会社のYSS社長を兼任してる。ちなみに女傑の社長は本社社長でヤオマングループの総帥。

「……ヒビキ、さん」

 で、ユサ。どうしてお前が助手席座ってんの?

「ユサちゃんね、ヒビキくんと知り合いだって言うからさ、付いてきてもらったのよ」

「女バスで、ね」

 ね、じゃねーよ。どうして床にバスケのボールケース転がしてあるんだって思ったら、お前か。

「睨まないでよー。ヒビキくんは相変わらず怖い怖い」

 なに薬指立ててやがる。こんどは食いちぎってやろうか? このセクハラおやじ。

「カイチョ」

「めんご、めんご。今日はユサちゃんに任せるんだった、ヒビキくんの運転は」

 あんだと? こら。しばくぞ二人まとめて。

 今はYSSの青物市場の旧本社ビル、3ヵ月ぶりだな。駐車場せっま。もともと狭い駐車場だったけど仮設の物置小屋に占領されて、社長のジャガーともう一台のマイバッハは伊礼バイプレのか、の専用駐車

Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Related chapters

  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   3-3.ヒビキはひたすら調査する

     ここ、あたしが最初に配属された部屋だ。今は会議室になってるのか。ちょうど駅がよく見える場所なんだよね。このカイシャ入ったばっかのころ、ホントにこれでよかったのかなって、発着する汽車みながら思ったもんだった。 「ねえ、カリン」  会社では名前で呼ばないしようって約束しなかった? 「あ、ヒビキ、さん」 「さんはいいよ、二人の時は」 「ヒビキ。今日はなんで来たの? 仕事じゃないよね」 「仕事だよ。社長に勉強して来いって」 「そうなんだ」 「なに?」 「カイチョー、ヒビキが来るって聞いて、すっごい警戒しててね。社員に箝口令しいてるの。だから……」 「お待たせしました」 「「「「失礼します」」」」  ぞろぞろと。どうして技術ってのはどこ行っても大勢出てくんだ。お前らのうち何人発言するんだっての。どうせ一人だけなんだろ、しゃベんのは。こんなに名刺いらねーよ。おまえらとは今後も接点ないから。アプリ担当だの、データベース担当だの、ネットワーク担当だの、セキュリティー担当だのって、ユサは広報担当なのね。で、今しゃべってるのが? プロマネか。お前一人でオケ。  なるほどね。のらりくらりと。肝心の会長の悪事が見えてこない。これじゃ、物見遊山専任役員の吉田ディレクタが来ても一緒だな。 1時間半。がっつり『スレイヤー・V』の仕様説明されたけど収穫なしか。社長の言う「やばいこと」と、『スレーヤー・V』は関係ないってこと? そもそも、会長は社業にノータッチだもんな。しかし、結局しゃべったのプロマネとユサだけだったじゃねーか。他の開発の連中、無言でずーっと虚空を見つめてて、マジ晒し首だったぞ。 送ってくれるってから遠慮なくジャガーに乗せてもらったけど、どうしてユサまで一緒なんだ? 「どうだった? ヒビキくん。僕も真面目に勤めてるでしょ。こう見えても、ヤリガイ持ってコトに当たってるからね」  何がヤリガイだっての。お前はYSSの社長SNSに釣りの記事書いてるだけじゃねーか。ちょっと続いたなって思ったら、僕にはもうムリですって終了宣言しやがって。再開すると、ヘラ釣り、ルアー、フライフィッシング、アユ釣りってどんどん

    Last Updated : 2025-03-25
  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   3-4.ヒビキはひたすら調査する

     外は雨。夜にめずらしく家にいたらやっぱりおかーさんとぶつかった。泣きわめけばこっちが言うことを聞くと思ってる。中学生の頃から全然変わらない。そういうのが嫌だ。しまいにどうでもよくなってくる。 部屋に戻って電気を消してベットに入ったはいいけど眼が冴えて眠れない。おかーさんは疾うに寝たみたいだけど。 雨の音に耳を澄ませて心を落ち着かせる。テラスの手すりに雨水がしたたる金属的な音。雨どいを伝わって水が流れ落ちる音。風向きが変わって雨が窓をたたく音。風に揺れた木々の葉が立てる音。誰かが外の廊下を歩く音。玄関先であたしを呼ぶかすかな声。  ベッドをぬけて玄関を開けると、目の前に子ネコが立っていた。全身雨でびしょ濡れで彼女独特のお日様の匂いはしなかった。  これまでこんなことなかったから、嬉しいやら驚いたやらでどうしていいかわからなかった。とりあえずミルクをあげようと、いつものように襟を広げて名前を呼んだけれど、子ネコは動かず金色の目であたしを見つめるばかり。放って置くこともできず、家にも入れられないから、あたしは外で子ネコと一緒にいることにした。 切れかけの電灯と雨の音だけの静かな玄関前の廊下。子ネコは何も話さないし、あたしも言う言葉がない。時間はゆっくり過ぎて行くけど、全然変化がないからどれだけ経ったか分からない。 遠くで犬が鳴くのが聞こえた。すると、子ネコはあたしに背中を向け帰って行ってしまった。いつの間にか、雨も上がり東の空がほんのり赤くなっていた。  次の夜、また来てくれるかと思って待ったけれど子ネコは来なかった。もしかしてどこかに行ってしまったかと心配になって見に行ったら、子ネコは何も変わりない様子でいつもの地下室にいた。それから夜、家に居るときは待つとはなしに過ごすようになったけれど、結局それ一度きりだった。

    Last Updated : 2025-03-26
  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   4-1.レイカ、夜間窓口業務になじむ

     いくら寝てないって言ったって寝れんわ、こんな朝から。でも寝とかないと仕事中やっちゃうからね。 爆睡中……。  あっつー。マジ死ぬ。クーラー誰とめた? 自分でタイマーかけたんだった。何時? スマフォ反応悪いな。エイ! っとね。まだ昼の1時かよ。汗でべっとべとしてるからかな。シャワー浴びてこよ。  さっぱりしたー。お風呂上りには冷たい飲み物ね。冷蔵庫にまたまたミワちゃんにもらったドクダミミルクコーヒー入れておいたんだ。いくら雑草ジュースブームだからって毎回雑草でなくっても。うっへ、これすっごい味なんだけど。ははーん。ミワちゃん少しS入ってるからね。きっと面白がってやってる。でも、もったいないから全部飲んじゃう。でも、おえー。  全然お腹すかないな。眠くないし。トーチョーするにはまだ早いし。トーチョーって言い方、お侍さんみたいでカッコいいんだよね。殿! トーチョーでございまする。ってな感じで。早いけど町でもプラプラしながら行こうかな。  やけにまっぶしーね。お日様。ふれあい公園だ。なつかしいね。高校の帰り、よく女バスの子とここで井戸端したな。 あれ? 誰とだっけ。思い出せないな。まいっか。 お、あれはサッカー少女リンちゃん。相変わらずボールはトモダチだね。でも、リンちゃん小学二年生だったから、ウチのこと覚えてないだろうな。あたしトカイセーカツで垢ぬけちゃってるから、なおさら。 「あ、レイちゃんだ。あそぼー」  覚えててくれたー。 「リンちゃん久しぶりー。帰って来たよ。またよろしくねー。リンちゃん、サッカーますます上手になったねー」 「うん」  お、急にしゃがんだ。分かりやすい、かまってチャンポーズ。 「どした? 元気ないじゃん」 「リンカね、クラブやめたんだ」 「えー、マジで? なんで?」 「クラブにね、リンカしか女の子がいなくなっちゃった」 「それはやだね。他にクラブないの?」 「あるけど、そこも女の子いなさそーなんだ」 「そっかー。でも、なんとかなるっしょ」  もちっとオトナな対応できんかね、ウチは。 「あ、クオレちゃん来た。レイちゃん一緒に

    Last Updated : 2025-03-27
  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   4-2.レイカ、夜間窓口業務になじむ

     通学路、全然変わってないね。ついつい角のパン屋さんで女バスセット(アンドーナツと三角牛乳ね)買っちゃったよ。 「うん、これは。昔とまったく変わらぬぃ味ですぬぇ」(前の海サン)  うま。しかし、お散歩番組って、仕込みって分かってもずっと観ちゃう。フシギ。  きゃー、かわいいー。ぶちヌコ様だー。ヌコはいいね。ワンコは大概ほえられてツライけど。チッチッチッ。ほれ、ごろごろごろごろ。珍しいね、ノラヌコ。ウチらがコーコーに入ったころはここらはノラヌコだらけだった。ヌコ様の保護活動、女バスのココロが始めてそれをカリンが手伝ってたんだけど、保健所に持ってかれないよーに、病院つれてったり、飼ってくれる人探したりして、面倒見始めてさ。結局50匹近くのヌコ救ったって。みんなドギモだったよ。いまはどーなってるのかな。引き継ぎとかできなかったみたいだからね。ヌコ様、ばいばーい。ミルクのんでくれた。ほっこり。  見えてきたよ。ボコーの体育館。ちょっとちっさくなった? お、この感覚。大人になっちゃった体験ってやつだ。『スタンド・バイ・ミー』みたいなこと、ホントにあるんだね。冒険して帰ってきたら町が小さく見えたってやつ。ウチの冒険はトカイセーカツのことだけど。  おー、いるいる。女バスだ。体育館の出入り口にたむろってる。駅で会った子たちいるかな。深呼吸してー、戻る。ほら、違う子が顔出した。深呼吸でー、また戻る。やってるね、あの出入り口。夏場の練習の時、体育館の中が酸欠で苦しくなって、めっちゃ熱くて堪んなくて、女バスのみんなちょくちょく出てきては、あーやって涼しい風に当たって一息ついてた。それをコーチョーに、ドジョウが息吸いに上がってくるみたいだって言われて、キャプテンのヒマワリが 「うっせーマダラハゲ! こっちは死ぬ気でやってんだ!」  ってぶち切れたの。そしたらマダラハゲのやつ、川田せんせーにチクりやがって、罰として 「校長先生はマダラハゲではありません」  ってノート10ページ分書かされた上、 全員外周り二十周走らさせられた。 連帯責任でマネージャーのウチまで走らされたかんね。炎天下の中走ったもんだから、あんときは全員死んだ。熱中症にならなかったのが不思議なくらい。セイラは途

    Last Updated : 2025-03-28
  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   4-3.レイカ、夜間窓口業務になじむ

     女バスの部室、ドア開いてる。ブヨージンだわ。中に入ったらニオウね相変わらず。バッシュが98パーセントを占めるのね、このニオイは。  2年の夏、あんまりニオウから、誰のバッシュが一番ニオウかコンテストした。バッシュって洗えないから誰のでもすぐ臭くなるんだよね。プシュプシュかけても気休めっての? みんなして、めっちゃクッセーとか言いながら、人のバッシュの臭いかいで、臭(シュー)ケーとってさ。結果、 シオネのが最有臭除臭ズ賞 とって、そのバッシュさ、金ラベル張られて、外周引き回しの上、ハリツケゴクモンの刑に処された。一か月雨ざらし。で、シオネにはそれに代わる新しいバッシュ、みんなでお金出しあって買ってあげたんだ。 ナイキのレブロンスペシャル。 シオネは最初、 「オレ、イラネーヨ」  って言ってた。こんな不名誉なことはないって。でも、結局受け取ってくれたよね。 「あんがとナ。感謝するゼ」  って。男前かっての。  シオネの名誉のために言っておくけど、シオネのが臭かったのは、誰よりも動いてバッシュがすぐにぼろぼろになるから。うちの点取り屋だったからね。相手のマークが厳しくって怪我もよくしてた、ウチが手当てしてあげたんだよ。すごかったのが相手のディフェンス一人で潜り抜けてリーチバック決めた時。どよめきが起きたあと大歓声で体育館が揺れたもんね。  でも、仲が良いことばっかりじゃなかった。ウチらが三年生になってから、女バスが二つに分かれていがみ合うようになって、練習の後とか、しょっちゅうケンカしてた。コートでは川田せんせーがいるからって、ブシツまで我慢して、ここで爆発させてたんだよね。そのころは、みんな家でもいろいろあって、ミワちゃんは二人暮らしのオジーちゃん体調悪くしてずっと心配してたし、ヒマワリはママが死んですぐだった。ウチは毎日ママとケンカばっかしてた。 家飛び出して夜の街を裸足で徘徊したこともあったよ。 今から思うとバッカみたいだけど。  家のことが学校生活にニジミ出ちゃうことって、ある。だから、他のみんなもそれぞれあってギスギスだったんだろうな。あの事件があって結局それどころじゃなくなっちゃったけど。

    Last Updated : 2025-03-29
  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   4-4.レイカ、夜間窓口業務になじむ

     空気入れ変えよ。バスケのユニホーム干してあるや。こーやって並んでるのを見るのはやっぱツライな。欠番があるのなんて、ウチのコーコーぐらいじゃないかな。バスケのゼッケンなんて野球とかと意味違うのにね。 4番と7番と9番ない。ヒマワリ。 シオネ。 ココロ。三人があのシーズンに付けてたゼッケン。忘れらんないよ。  これ見るとあの事件のこと思い出しちゃうね。ウチらが高校三年の一学期、梅雨が始まったばっかのころ起こった女バス連続失踪事件のこと。 一番最初は、ヒマワリがいなくなった。 地区大会の練習でいつもより帰りが遅くなって、六道辻で一緒に帰った子とバイバイしたあと、いなくなっちゃった。ヒマワリのパパから捜索願いが出て、近くの池とか森の中とかも町の人総出で探したけど、見つかんなかった。 それからすぐに続けてシオネが、 梅雨が明けるころココロが行方不明になった。 あたしは、女バスのマネージャーってこともあったけど、 ヒマワリは、ミワちゃんもだけど、ちっさいころから家を行き来してよく遊んだ幼馴染だった。 ココロは家が近所だったからよく一緒に帰ってた。 シオネにはみんなには内緒の練習手伝ってもらってた。 だから、みんながいなくなって本当につらかった。  事件の後、ヘンタイに攫われたとか、カミカクシだとか、悪霊の仕業とかいろいろ言われたけど、結局誰一人見つからなかったから、いつの間にか事件はうやむやになってって、なんでかヒマワリのパパ達も捜索願い取り下げちゃてて。しまいには三人一緒に都会に家出したんだとか、そんな子は初めからいなかったとかいう大人まで現れたりして。そういうことにもウチらみんながキズついた。  ウチはこの町が超嫌いになってたから、高校卒業するとすぐに都会に出ようって、実はミワちゃん誘ったんだけど、ミワちゃん卒業式の時に言ったんだ、 「ヒマワリを待ってる」  って。ミワちゃんすごい強いと思った。でもウチはダメだった。はやく忘れたかったもん。

    Last Updated : 2025-03-30
  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   4-5.レイカ、夜間窓口業務になじむ

    「あなた、何してるんですか? そこで」  ドッキー! やっば。ウチ、どー見ても変質者かドロボーじゃん(冷汗)。 「あっれー? レイカ? レイカでしょ?」  よかったー、川田せんせーだ。 そうですー。レイカですー(安堵)。 「やっぱりそうだ。社会人の格好しててもレイカはすぐ分かるよ。そのスーツ似合ってるよ」  先生こそ。ブルズのタンクトップにホットパンツって、相変わらずデンジャラスですね。 「こっちに戻ったんだって?」 「はい。挨拶も来ないで、すいません」 「いいって。それより、お母様のこと聞いたよ。残念だったね」 「……」(こういう時の返事の仕方、ワカラナイ)  事件のあと、先生とよくここで話し合った。てか、いっぱいウチの話聞いてもらった。 「そっか、ユニホーム見てたのか」 「欠番のままなんですね」 「そうだね。それについては、つい最近も議論されたんだけど」 「ウチはやめた方がいいって思います。後輩には関係ないことだし。残すならもっと違う方法があると思います」 「うん。先生はちょっと違うけれど、大方はそんな意見なんだよ。でも」 「でも?」 「欠番継続を強く望む人がいるんだ」 「誰ですか?」 「ヒマワリのお父様。今の町長さんだよ」  ヒマワリのお父さんって、今、町長やってんのか。ウチの上長の上長の上長の上長くらい上長じゃね。 「被害者の方の意見は、なにより優先されるからね」  先生。被害者はヒマワリたちです。ヒマワリたち望んでますかね。 「大変ですね」 「うん。でも、これは先生たちのトール道だから」  懐かしー。 川田せんせーの口癖。何かってーと、「それはあなたのトール道よ!」。 そーだ、昨日の子のことそれとなく聞いてみよ。 「どうですか? 後輩たちは?」 「あー、レイカたちの頃に比べれば、やっぱね」 「そうですか」 「ヒマワリにはなんでも任せられた。あの子、頭よかったからね。シオネは天才。WNBAでも行けたレベル。ミワとナナミのゴール下は安心して

    Last Updated : 2025-03-31
  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   4-6.レイカ、夜間窓口業務になじむ

     役場に着いたら、ミワちゃんから、 「こんど、みんなで集まろうってなって。レイカも帰って来たしって」  そう言われた。みんなっていうのは、女バスの仲間のことだけど、ドージにあの事件の当事者のことでもあるんだよね。だからアンマ気が進まない。会ったらきっと嫌なこと思い出してみんなどうにかなっちゃう。 役場のお風呂、いいお湯だった。ちょっと髪の毛まだ濡れてるっぽいな。夜、冷房効きすぎて寒いから、風邪ひかないようにしなくちゃ。雑草ジュース置いてある。ミワちゃんまたくれたんだ。サー仕事、仕事。  しまった、家にスマフォ置いて来たった。ったく、どーやって長い夜を過ごせってユーのよ。 今夜は特に暇だなー。ちょっと探検しよっと。このフロアだけならいいよね。気になってんのがあるんだ。あれなんだろーってずっと思ってた。フロアの真ん中に山椒の大木が生えてんの。人工のだけど。その下に女の人が寝てる銅像があるんだよね。 『遊女 みやぎの像』  だって。遊女ってなに? 説明書き「わがちをふふめおにこらや」だけだし。どういう意味だろ。スマフォないからググれないや。この人、宮木野神社に祭られてる人だよね。 辻沢の古い言い伝えで 志野婦神社の志野婦さんと宮木野さんは双子のヴァンパイア っていうのある。この像、寝てるのかな? 死んでるのかな? あれ、この顔どっかで見たことある。っていうか、知り合いに一人はいる顔だ。なんか親しみがわくよ。て言ったからって、くわ!って、目を明けて起きてこないでね。あそぼーなんて言っても遊んであげない。ウチ、仕事中だから。やっば、窓口に誰か来てる。置いてったよ。 気付かれないようにやってきて(歪曲)、 無言で(脚色)、 「特殊縁故結縁届」を窓口に(現実)。 初めてのお客様です。これを、窓口付きのパソコンに打ち込めば。あれ? ボタン押したのにな。ブーンて起動してこない。フツー、マウスいじったら画面が明るくなってさ、登録画面が出て来て、そこに内容を打ち込んで終わりっていうのじゃないのかな。おかしいな。そう言えば、ミワちゃん何か言ってたな。「何かあったら引き出し見ろ」だった。引き出しの

    Last Updated : 2025-04-01

Latest chapter

  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   8-9.ヒビキも祭りに酔う

     空気重い。コの字に並べた会議机に、3吉田、北村シニアマネ、伊礼バイプレまで。社長待ちの役員会議室。真ん中のパイプ椅子にあたし。この状態は入社の時の役員面接以来だけど、緊張はあの時ほどでない。 入口の扉が勢いよく開いて、「ヒビキ、やってくれたな。カイシャ潰れるぞ」 社長、ご来臨。怒り度、60パーセントに抑えてる。「すみません」「幸い、死人は出なかったが、けが人が両手出た。金と信用含めて、かなりの損失だ」 言いようがないです。どうして志野婦の神輿が宮城野の神輿にぶつかっていったのか? あれはあきらかな故意。誰かに命令されたような。なんてことはここでは口にしませんから、社長。「一番に現場に行って仕切ったことは褒めてやる。まあ、ヒビキ一人を攻めてもどうなるものじゃなし。言ってみれば、ここに雁首並べた連中みんなが責任を負うべきだ。なあ、北村」「へ、へい」「何が、へいだ。お前んちの屋号は『小房の粂八』か?」 北村シニアマネ、緊張しすぎ。「プレス集めて謝罪会見は吉田クンお願い。カス同席で土下座でもなんでもさせて。その後は懇意の記者連れて病院回って」 『クン』付けは吉田シニアマネ。社長とは高校の同期だから。当然会長とも同期で、かつ設立メンバー。「宮木野信用金庫からいろいろ言って来てます」「吉田さん、あんたのコネクションはこういう時のためだろ。フォローお願い」 『さん』付けは、吉田エグゼクティブ。社外から引っ張ってきたから。「役場はどうしましょう」「今、町長に一番近いのは伊礼だ。お前に任せる」 伊礼バイプレは社内一の切れ者だから、いつも一番やっかいな仕事を任される。「あとは、辻のうるさがただけど」 北村シニアマネと吉田ディレクタ下向いちゃってる。「これは、あたしがやる。北村、お前も同行しろ」「へい」 吉田ディレクタ安堵。ちなみに呼び方は、「吉田! 警察と消防な。上とはもう話しついてるから、お前は署員の皆様と茶飲み話でもして来い。手ぶらで行くなよ」「いくらぐらいの菓子折りがい

  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   8-8.レイカは祭りに酔う

     ミワちゃんにタクシーで家まで送ってもらった。セイラに借りたハンカチ血だらけだ。洗っても落ちなさそうだから、買って返さなきゃだよ。疲れた。お風呂入って寝よ。 傷小さいのに、なかなか血が止まんない。アタマやると血止まんないっていうよね。お風呂入るのやめとけばよかったかな。ん? ニーニーの部屋のほうで音がした。やだな。大急ぎで部屋に帰ろ。ふー、全部鍵かけた。やっべ、ドライヤー持って来るの忘れた。急いでドア開けたからチェーンを外すの忘れてた。で、一回閉めようとしたんだけど、そん時すっごい力でドア引っ張られて、ギリギリチェーンが引っかかって止まって、向うはドアを開こうと揺さぶるものだからウチは弾き飛ばされそうになったけど、必死でしがみついて、めっちゃ怖いの我慢して、無我夢中でドア閉めてもっかい全部鍵掛けたんだけど、どうやってそれができたのか分かんなかった。 ドアの隙間からちらっと見えたのは小さな子供だった。不吉な色の目をこちらに向けて、銀色の牙から涎を滴らせてた。あの子供はニーニーだ。ウチと2段ベッドで寝起きしてた頃のままのニーニーだ。ニーニーもしかしてヴァンパイアだったの? あれじゃ学校にも行けない。だからずっと引き籠ってた? ウチ、これからあんなのと二人で生活すんの? 超怖いって。痛! ズキって。血が止まらない。この傷のせいでニーニー出てきた? 血に誘われて?  夜じゅーずっと、ドアの向こうに何かがいる気配がしてた。ムチューで布団かぶってたら、パパに教わった呪文を思い出した。スギコギの唄。寝れない夜、パパが教えてくれたやつ。どこからあさがあけましょおすぎこぎもって ごりごりごり すぎこぎもって ごりごりごり もうすぐあさがあけますよすぎこぎけずって ぎりぎりぎり すぎこぎけずって ぎりぎりぎり そうらあさがあけました繰り返し、繰り返し、ずっと、ずっと、何回も、何回も、朝が来るまで布団の中で歌い続けた。((ここを開けろ、中に入れろ))って声が頭の中でウルサいから、ワーって聞こ

  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   8-7.レイカとヒビキは祭りに酔う

    【レイカ】 そろそろ12時。宮木野神社と志野婦神社の御神輿がこのメヌキドーリの交差点に来合わせる時間。で、ケンカ神輿? しないよ。かわすの、お互いで。宮木野神社の御神輿は、どんだけ優雅に、志野婦神社の御神輿は、どんだけ勇壮にお互いの御神輿を交わしあうかが見せ場。ってパンフに。「おー、来たよ。志野婦のでっかいちん(ピー)だ」(ナナミ、ファール4) どよめき。歓声。また歓声。人垣で何も見えない。ナナミとミワちゃんは背か高いからいいけど、ウチとセイラは人並みだから、さっきからぴょんぴょんしつづけ。疲れるね、セイラ、大丈夫?(無声)。うん、メマイする(無声)。「やだ。アレに辻川雄太郎をよろしくって書いてある」「電飾でギラギラだぞ」「どんだけ名前売りたいんだ?」【ヒビキ】 来た。宮木野の神輿。大外から回って、優雅にかすめてー。で、志野婦の神輿が練りに練って勇壮に。……どうして突っ込んでいくんだよ。喧嘩じゃないんだよ。どこの祭りだと思ってんだ。危ないって! ぶつかったら衝撃に耐えられないんだって、寄せ木だから。あーーーーーーー。やった。爆裂した。派手に。【レイカ】 おー、どよめき。また、どよめき。きっと、ものすごい接近して、あやうくぶつかりそーになってるんだ。ジャンプ! ? 痛っ。なんか飛んで来た。頭に何か当たった。すごい悲鳴が上がってる。阿鼻叫喚? 【ヒビキ】 うわ、下がるな下がるな。後ろに人いるから。あ、すみません。後ろの人の足踏んじゃった。【レイカ】 いたたたた。足踏まれた。さがんなよ、後ろに人がいるっての。なんなの? その被り物。それはヴァンパイアじゃなくてカレー☆パンマンでしょ。【ヒビキ】 って、シラベじゃね。ユサまで。やっべー、逃げろ。じゃない。けが人助けなきゃ。【レイカ】「何があったの? ミワちゃん」「ぶつかった。志野婦のが宮木野のに。志野婦の神輿、

  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   8-6.レイカとヒビキは祭りに酔う

    【レイカ】 駅前広場、すごい人だかり。なんだろ。〈本年度のヴァンパイアお揃いコーデコンテスト優勝者はーーー〉〈デゥルデゥルデゥルデゥルデゥルデゥルデゥルデゥル。ジャーーー〉 司会者、口で言ってる。予算のカンケーってやつ?〈天伴連町、ブラック・キャリエッタ姉妹の御二方でした〉 大歓声。あ、さっきの紫と赤のタイツの二人だ。まー順当だろーね、あの二人なら。〈それでは、記念品の授与と優勝イベントのほうを行いたいと思います〉 おー、金のすり鉢&スリコギ棒だ。高そー。大歓声と大拍手。パチパチパチっと。〈次はイベントのほうに移りたいと思います。あ、商品はこっちに預りますので。優勝者のお二人は、前の処刑台のほうにどうぞ。もちょっと前に。そう、そこです。用意があるので少々お待ちください。いいですか? 準備OK?〉「レイカ行くよ」「見て行かないの?」「ウチはいいわ」「あたしもいい」 なら、ウチもいいけど。すごい歓声。「ゴリゴリ! 殺せ! ゴリゴリ! 殺せ! ゴリゴリ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!」 地面揺れてる? 【ヒビキ】 うわ、地響きしてる。周りの人たち殺気だってるよ。「ねーさん!」「なに?」「興奮するっすね!」 カワイ、お前も何気に辻っ子だな。【レイカ】 セイラは? 後ろ振り返ったら、舞台の上の二人が真っ赤な絵の具を浴びせかけられてた。セイラ、そんなところにしゃがんでると踏みつぶされちゃうよ。どうしたの? セイラ。息、上がっちゃってる。過呼吸? セイラ身体弱いのにあんな刺激の強いの見るから。大丈夫? 立てる? 行こ。キャリエッタ姉妹の念動力が地獄を呼ぶ前に。なんてね。……セイラ、なんで泣いてるの? うわ! 何あれ。ひどスギ。 【ヒビキ】 あと10分で12時か。あのイベント過激すぎだった。ペンキかけるだけでよくない? 斬首いらないよ。司会者が血まみれのマネキンの首を両脇に抱え

  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   8-5.ヒビキも祭りに酔う

     で、いま冷たい手であたしの首ねっこ抑え込んでるのは誰かな?「ヒビキちゃん。人がワルイな。社長の差し金でいろいろ調べてるんだって? 予め言ってくれないと、こっちも準備あるからさ」 この声は町長。どうしてこんなところに?「言ったら極秘調査になりませんから」「おー、極秘調査ね。相変わらずヒビキちゃんは社長の裏仕事手伝ってるのね。でも、あんまりやりすぎると、この可愛い首どうかなっちゃうよ。ダメダメ、後ろ向くのはなし」 そーかよ、まずその手を放せよ。「おっと、どっかのバカみたく指へし折られるのは勘弁」 へし折る? ちょっとひねっただけじゃないの。会長が人のフトモモ触るから。「アタシのこの指はそう簡単には折れないけどね」 気味悪く節くれ立った指があたしの頬をなでた。長っが。触んな、きもい。爪伸びすぎだろ。(「町長? そうだよ。あいつもヴァンパイア。よそ者だけどね」) センプクさんの言ったことは本当だった。「こちとら辻っ子だ。お前らなんぞ怖くない」「あれ? なにいきってるの? 君の友だち殺したのアタシじゃないからね。恨み違いしないでよ」 何だと、ハナ毛。「あんたの指がきもいのはいいとして、腐った菜っ葉の匂いがしてるのはどうしてだ?」「おっと、いけない。ついつい本性出しちゃったよ。人に見られたら大変なことになる」 痛てて。押しやがった、転んじゃっただろ。ん? いない。町長が消えた。どこ行ったんだ? おおー、今頃震えが来た。止まんないよ。怖かった、すごく。 震えは止まったけど腰ぬけた。立ち上がれない。お、ちょうどいい。カワイだ。「おい、そこのセーネン」 そう、お前だよ、カワイ。ちょいちょい、こっちゃ来い。「カレー☆パンマンさんが何のご用でしょうか?」「ばか、あたしだよ。ヒビキ」「えー、ねーさんこんなところで何してるんすか?」「ちょっと転んで立てない。手を貸せ」 カワイに手を引いてもらってようやく立てた。立ち上がる時ふらついてカワイに寄り掛かったら、「ねーさん

  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   8-4.ヒビキも祭りに酔う

     ヴァンパイア祭りになってから人の集まり増えたけど、こうやって人ごみの中に佇んでいると、ざわざわとした気持ちになって落ち着かなくなる。多分、この中にヴァンパイアが混じってるって知ってるからなんじゃないかな。さっきすれ違った紫と赤のペアーみたいなそれらしい格好じゃなくて、ごくあたり前の格好して。そいつが4年前にココロをあんな風にしちゃったんだ。 ココロが帰って来たってココロのパパから連絡もらった時は、本当にうれしくてココロんちに飛んで行った。帰ってきたのはずいぶん前だったって電話で言ってたのに、家に着いたら警察に連絡してないって言われて、初めてその時変だなって思った。 なぜかごめんなさい、ごめんなさいって言い続ける痩せ細ったココロのママに案内されて、台所の下の地下室に下りると、そこには猛獣を飼うような檻が設えられていて、中にうつろな目をした辻女の制服姿のココロが立ってた。 その時のココロを見て全て分かった。違うって。これはココロじゃないって。ココロは死んじゃったんだって。一時は、ココロをこんなにした奴が憎くて憎くて、怒りで狂い死にしそうになった。でも時間が過ぎると、やっぱりココロはそこにいて、あたしの名前を呼んでくれるし、黄色く濁った眼球、鋭い牙や爪、血管が赤黒く透けて見える白い肌をしていてもココロはココロだった。 あたしはどうしていいか分からなくなった。そして、毎日学校の帰りに冷たい地下室に籠ってココロと対面しているうちに、こうしてココロと一緒にいられることだけが大切なことに思えてきて、その他のことはウチらには関係ないって気持ちになった。 そうするうちにココロのママが2階のココロの部屋で首を吊って自殺して、ココロのパパがココロの食餌を調達しに出かけたまま帰ってこなくなり、最後はあたしがココロの面倒を見ることになったけど、それもこれも時間が過ぎただけのことで、あたしは何も感じなかった。 だって、死んでしまったココロが目の前にいるこの世界は、あたしにとっては、すべてが停止してしまったのと同じだったから。これからずっと何も変らない、そう思ってたから。

  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   8-3.ヒビキも祭りに酔う

     三社祭。日中は暑かったけど、夕方になっていい感じに涼しくなってきた。シラベたちに一緒にって誘われたけど、仕事って断った。これも一応仕事だし。一人でぶらぶらしてるのは運営委員会が決めた変なルールに反すると思って、せめてってこのお面買ったけど大丈夫かな。ピロシキに目鼻つけたようなやつだった。これ、違くないか? 夜店のどぶづけの中見たら、「辻沢ダイゴ」ばっかり残ってるし、ラベルシール、瓶からはがれて水の中で泳いじゃってる。やっぱプロダクトの急ごしらえは禁物だ。「ママー、このミルクおえー」「だから変なの買わないのっていったでしょ。いらないなら捨てちゃいなさい」「ぼく。泣くな」 お、いなせなおニーさん登場。さらしにハチマキ、似あってるね。「このラムネと交換してあげるよ。いいや、お金はいらないよ、ママさん」「すみません。ダイキ、ありがとう言いなさい」「ありがとー」「いいって、こんなまずいもん押しつけやがるから、みんなが迷惑してらーね」 社長に見せらんない。おニーさん、ノボリに八つ当たりしなくても、あーあ。あとで買戻し要求されるの覚悟しとこ。 |陽物《チンコ》神輿にでっかく「辻川雄一朗をよろしく!」。町長の名前、思った以上に映《バ》えるね。電飾派手にして正解だった。それより、チンコの神輿、今年初めてなのに、皆さんに受け入れてもらえたのはありがたいな。「ねーちゃん。恥ずかしがんなって。毎晩、旦那のにまたがってんだろー」「乗りなれてるじゃねーの、あねさん。さすがベテランだね」「うるさいね。うちのやつは3年前から、使い物になんないよ」「おーい、旦那さんよー。頑張んないと捨てられちゃうよー」「いいよ、いいよ、持って帰っちゃって。それは奥さん専用だ」 それにしても、今年年女じゃなくてよかった。誰が言いだしたのか、年女はあれにまたがるもんだって。絶対社長に、「なに? ヒビキ年女なの、じゃ乗れ!」 って言われて、先頭切って乗る羽目になってた。あんなのに乗せられたら乙女一生の不覚だったよ。

  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   8-2.レイカは祭りに酔う

     あそこの二人は、控え目に牙付けて口に血のりシール貼ってるだけだけど、さっきすれ違った二人組なんか、全身ヴァンパイアコスプレだった。紫と赤の全身タイツ着てマントつけて。気合入ってんなーって、注目の的だった。二人ともスタイルよかったし。  ウチらジモティーは夜店で買ったヴァンパイアのお面、頭に乗っけておしまい。あー、そうね。あそこにもいるけど、沿線のJKは、制服にヴァンパイアメークってのが流行りみたい。お揃いコーデ、メンドーだからだと思うけど。けっこー、かわいい。スカートの丈つめて、ブットい足晒して。 ヒ! ちっさいおばーちゃんたち。チョー怖い。 「なんか、今年の志野婦の神輿、ちん(ピー)の形してるんだって」(ナナミ、ファール) 「やめてよー。ナナミ」 「セイラ、お前。何ぶりってんだ?」 「ないわ、辻沢の祭りは女祭りだよ」 「山椒の木の寄木造りって書いてある」 「レイカ、お前はどこの人だ。さっきからパンフばっか見て」  ケッコー面白いよ。 「山椒の木ってのは最悪だね。宮木野さんとこNGのはずなのに」 「どぃうこと?」 「宮木野さんは山椒の木の元で死んだから、神社に山椒は持ち込めないことになってる」  ふーん。そーいえば、役場の宮木野さんも山椒の木の下に寝転がってた。 「年女があの神輿に跨がるってパンフに書いてある。豊作祈願だって」  ちん(ピー)に女の子が乗るって、恥ずい。(レイカ、ファール1。反省) 「セイラ、今年、年女でなくてよかった」 「そーだねー。セイラは乗せらんないね」 「ミワちゃんは?」 「あたしは、別に気にしない」 「ちん(ピー)にのったミワの姿って、ワラエル」(ナナミ、ファール2) 「ウケル。そん時は、ナナミも同乗してるから。同い年、二人とも笑」 「レイカもそん時は年女だろ。ママハイ仕込みが」 「ほっとけや」  って、ナナミ、ヤマハイ仕込みでなくってママハイって言ってたんだ。ママの言うことハイハイ聞くって意味か。ウチ、そんなでもなかったよ。とくにコーコーの頃は。ナナミにテクニカルファールみとこ(ナナミ、ファール

  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   8-1.レイカは祭りに酔う

     今夜は三社祭です。ミワちゃんとナナミとセイラと来てる。カリンも誘ったけど仕事だって、こんな日に。かなりブラック、カリンの会社。ミワちゃんの黄色地に白い花柄の浴衣キレー。ナナミ、相変わらず肩幅広っろ。その浴衣おとーさんの? 渋すぎでしょ。セイラはいったいいつからそーいう趣味になった? ゴスロリ浴衣って。でもアンガイ似あっててカワイイ。ウチはママの拝借。ちょっとオトナな感じの赤地に黒い縦じまの浴衣。高倉さんにママの浴衣出してって頼んだら着付けまでしてくれた。《《おはしょり》》長すぎて腰紐高くしてるのは内緒。 三社祭は宮木野神社と志野婦神社のお祭り。二社しか参加しないのに三社っていうのは、カゲ社といって数揃えを入れてるから。二より三の方が縁起いいしょ。でも、三つ目は青墓の杜にむかーしあった青墓神社のことって言う人もいる。ホントのところは分かんない。ウチは俗説の、宮木野さんと志野婦さんの双子の姉妹の他にもう一人男の兄弟がいて、三社ってのが好き。 ウチは8年ぶりの三社祭。もとは4年ごとのお祭りで、ちょうど4年前にはあの事件があって中止になってた。でも、ミワちゃんたちは毎年参加だって。ヒマワリのパパが商店街振興を掲げて町長に当選してすぐの仕事が、三社祭を毎年開催に変えたこと。無理っていわれてたことを共催企業を募ることで実現したって。これはお祭りのパンフの受け売り。「ヤオマンの提灯と、三社祭の提灯、半々って感じ」「ほんとだー。んっぐぐ」「レイカ、お前、その腐れ牛乳好きだな。何本目だ?」「3本目。おいしーよ。あれ? なんて名前なんだっけ。ラベルない」「辻沢ダイゴ。あのノボリに書いてある」「ダンス・飲・ザ・辻沢ダイゴ!」「ほれ、レイカ。踊れ!」「あ、かっぽれ、かっぽれ」「なにそれ?」「知らない」 あぶな、人にぶつかりそーになった。あんなでっかいヴァンパイアの被り物二人でしてたら邪魔でしょに。てか、周りヴァンパイアだらけ。 宮木野さんと志野婦さんの双子姉妹がヴァンパイアって言い伝えをもとに、女の人はヴァンパイアの格好をして参加するように呼びかけてるんだって。二人一組でね。お揃いヴァンパイアコーデってやつ。

Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status