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last update آخر تحديث: 2025-10-24 06:00:06
 馬のいななきが響く中、車輪が石畳を削る音が耳をつんざいた。

 美桜の体は、地面に弾かれるように倒れ、包みを胸に抱き、腹をかばうような状態のまま転がった。

 乾いた砂利と石が頬を切る。痛みが走る。だがそれよりも、お腹の中の命の方が心配だった。

(この子だけは……!)

 叫びたいのに、声が出ない。

 意識が遠のく中、車輪が止まり、馬の鼻息が近づいてくる音がした。

頬に砂が張り付き、冷たい風が痛む。

 ――音が消えた。

 静寂の中、かすかな血の匂い。心労のせいでうまく立ち上がれそうにない。

(……だめ。ここで捕まったら終わりなの……)

 うまく体を動かせないでいる美桜の耳に、重く響く声が落ちてきた。

「しっかりしてください! 大丈夫ですか?」

 その声は不思議なほどに懐かしい。どこか聞き馴染みのあるイントネーションだった。

 目を開けると、太陽に照らされた男性が美桜を覗き込んでいた。

 黒い外套(がいとう)※コートのこと を羽織り、帽子は恐らく外国製の高級なものをかぶっている。

 薄いブラウンの、やや日本人離れした整った顔立ち。きりっとした形のいい眉、流し目、高い鼻梁、そして瞳の奥には、孤独を抱えた光があった。

「血が……! 止血を……!」

 男が迷いなくジャケットから取り出した白いハンカチを裂き、彼女の手に巻き付ける。 指先は冷たいが、その仕草は驚くほど丁寧だった。

 幸いなことに大事には至らず、美桜は腕を擦りむいた程度で済んだ。

 ふと、彼の胸元に、見覚えのある小さな徽章(きしょう)※身分であったり職業や所属を示すためのしるし(例・校章・社章など)が着けられているのが見えた。隣には浅野家の勲章。2つ並んでいる。

 見覚えがある方は、東条家の紋章。これは、かつて東条家に出入りしていた仲良くしていた男の子に美桜があげたものだった。彼女の瞳が震えた。記憶が一気に脳裏によみがえる。

「……あなたは……まさか……」

 かつての記憶が脳内を駆け巡っていった。

 幸せだったころの東条家。幼い美桜が、孤児たちに絵本を読み聞かせている――

 浅野家が慈善事業の一環で建てた孤児院があった。東条家は浅野家と取引を開始したばかりだった。孤児院の管理を一部託されたこともあり、東条家は孤児院に出入りすることになった。そんな頃、美桜は目の前の青年と
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