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今までとこれからと

Author: 一一
last update publish date: 2025-06-17 21:00:00

 周りのざわめきを置き去りに、案内されたのは酒場の2階、つまり宿屋として解放されている部屋の一室だった。

 どうやら彼らはこの宿屋を拠点として生活しているらしい。

 全員が室内に入り、備え付けの椅子に座った所でニイルが口を開いた。

「改めまして自己紹介から。私はニイルと言います。あぁ、フードで隠しながらは失礼ですね。こんな見た目だと色々と面倒なもので」

 そう言いながらフードを脱いだ彼に、レイは納得した。

 所々に白髪が混じっているが基本黒髪の頭に黒目。

 この世界では黒は不幸の象徴として迫害の対象となり、黒髪黒目の彼は相応に大変な人生を歩んできたのだろうという事は、容易に想像が出来た。

 まぁ、それを言うなら自分も相当なのだが、とレイは心の中で苦笑する。

「あなたも面倒な見た目をしてたのね?少し安心したわ。なら私もちゃんと自己紹介しないと」

 そう言って、レイは自身に掛けていた偽装魔法を解除しながら述べた。

「レイミス・エレナートよ。こっちが本当の姿なの。お互い見た目が派手だと苦労するわね」

 偽装していた茶色の髪と目が、本来の薄紫色の髪と目に変わる。

 多種多様な人種が存在するこの世界でも、この見た目の人間を目にする事はほぼ無い。

 つまりそれは1つの事実を示していた。

「その見た目と、もしやエレナート家の?あぁ、だから復讐ですか」

 そう、人の髪や目の色は、極少数の後天的な物を除けば基本、遺伝である。

 故に珍しい色をした人は、それだけで何処の人間の誰なのか、知る人が見れば容易に分かってしまう。

 そしてエレナートとは特に有名な名前でもあり、誰もが知る所なのであった。

「知っているのなら話は早いわ。その通りよ。私があのエレナート王国の生き残り、エレナート王国の第1王女よ」

 10年前滅びたエレナート王国。

 小国でありながら、絶大な力を持つ魔法師が多数所属した魔法師団を有しており、世界的にも有名だった国、そして。

「察しの通り、私達をに仕立て上げ、滅ぼした奴への復讐の為に生きてきた」

 その強大な力を持つが故に、世界に仇なす存在として滅ぼされた国である。

 故に、巨悪の国として有名なのであった。

「私達は世界征服なんて考えた事も無かった。ただこの魔法という力は、皆を幸せにする為の物として考え、王族である私達も、国民も、普通に生きてきた。それなのに……」

 それなのに突然、多数の国がエレナート王国滅ぶべしと結託し、攻め込んできた。

 世界でも有数の魔法師団を抱える国である。

 普通なら大規模な戦争になるほどの事態に、しかし現実は、エレナート王国が一方的に虐殺される展開となった。

「私はあの場に居た異常な力を持つ男に復讐したい。だから私は強くならなきゃいけないの」

 多数の国が協力し、かの国を滅ぼした事になっているが実際は違う。

 実際にそれを為したのは1

 つまり1のである。

「アイツさえ居なければ、結末は変わっていたかもしれない。それ以前に、どうして私達が滅ぼされなければならなかったのか、それすらも分かっていない。私はその真実を知って復讐したいのよ。それとも貴方も私を大罪人だと思う?」

 あの戦いで、エレナート王国に関係する人間は全て死んだ、と伝えられている。

 生き残りが居ると知られればたちまちこの国のみならず、周りの国からも自分を殺す為に刺客がやって来るだろう。

 そんな事実に怯えながら16年生き、今、目の前の初対面の人間に打ち明けている。

 恐怖が無い訳では無い。

 しかしこれは彼女なりの誠意の証だった。

 怯えながらも話すレイに、しかしニイルはあっけらかんと言い放つ。

「人間達のいざこざなぞどうでも良いです。それに言ったでしょう?約束すると。なら約束は果たさなければ。今度こそね」

 と、心底どうでもよさそうに言い、言葉を続ける。

「それに私達が何を言った所で今は信用されないでしょうし、訳ありなのはお互い様ですから。紹介しますよ」

 そう言ってニイルは、今まで沈黙していた2人に目配せする。

 2人はそれに頷き、フードを脱ぐ。

 そのどちらも女性であった。

 1人は白髪ロングで金目の、背の大きい女性。

 頭には獣の耳が付いており、背後には白色の尻尾が見えている。

「こちらはランシュ・サファール、見て分かる通り獣人でしてね。全くと言っていいほど喋りませんが、気にしないであげてください」

 そうニイルが紹介し、ランシュが無表情のまま頭を下げる。

 それに釣られてレイも頭を下げていると。

「んで!アタシが妹のフィオリム・サファール!フィオって呼んで!エルフ族だから魔法が得意なの!よろしくね!」

 と、元気な声が飛び込んでくる。

 そちらに目を向けると少し小柄な少女が、活発そうな笑顔でレイを見つめていた。

 彼女の言う通りエルフ族特有の尖った耳が見えるが、髪色が珍しい。

 通常エルフ族は金や緑の髪色が多く、レイが出会った数人のエルフも、皆その色だった。

 しかし、目の前の少女は燃える様に真っ赤な長い髪をしており、目も真紅に輝いている。

 彼女の見た目や、異種族なのに姉妹という事に困惑していると、こちらの困惑を見透かした様にニイルが言う。

「この様に、私達にも特殊な事情がありましてね。なるべく大っぴらにならない様、日々過ごしているのですよ。なので

 、今更特殊な人間が増えた所で関係ありませんのでご安心を」

 その言葉に少し安堵するレイ。

 今まで人生のほとんどを1人で生きてきたレイにとっては、久しぶりに心を許せるかもしれない人間に出会った気分であった。

 そう、10年前に別れた家族以来の――

「さて、自己紹介も済んだところで、これからの話をしましょうか」

 そんな思考を断ち切る様に、ニイルの声がレイの耳に届く。

 そして、思考を切り替えてこれからの事について思案するレイへと問うた。

「私達は暫くこの地で活動する予定だったのですが、貴女はどうされるのですか?」

 その問に、レイはこの地に来た1を話す。

「私も当分ここに居るつもりだったから、その間修行をつけて欲しいわ。情報屋の話だと、私が探してる復讐相手もここに居るみたいなの」

 レイが情報屋に頼んで探していた人物は2人。

 1人は目の前のニイル、2人目は復讐相手の男である。

 ニイルは情報が少なく探すのに骨が折れたが、2人目の所在はすぐに割れていた。

 たまたま目的の2人がこの地に揃っていたので、大急ぎで向かってきたのである。

 なにせ。

「奴は今、この国の宰相らしいわ」

 レイの復讐相手は、この国のナンバー2という大物だったのだから。

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