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出逢い

作者: 一一
last update publish date: 2025-06-16 21:00:00

聖暦1590年

「情報屋の話だと……ここの筈ね」

 ここはアーゼスト最西端の大陸、ズィーア大陸。

 その中でも最大の国家である、セストリア王国の首都セスト。

 その端に存在する酒場である。

 近くに冒険者ギルドがあるここ近辺は冒険者達の拠点として活用され、この酒場も2階は宿屋になっており冒険者達の憩いの場となっていた。

 日も落ちかけている現在、そんな訳で周りには見るからに屈強な荒くれ者達が増えている状況。

 そんな中で、その可憐な少女はあまりにも場違い感に溢れていた。

 だが、そんな状況など意に介さず平然と酒場に入っていく少女。

 周りの客が少し意識し、しかしすぐに酒や料理、話に戻る。

 それはそうだろう、少女が若い美少女だから目立つだけで、女の冒険者はそれこそこの酒場にだって居る。

 いちいち気にしていたら冒険者なぞやっていけない。

 ただやはり、若・い・美・少・女・というのは気になる存在なのだろう。

 案の定、少女に絡んでくる輩が居た。

「オイオイなんだ嬢ちゃん?ここはレストランじゃねぇぞ?ガキはさっさと家に帰んな!それとも俺達と一緒にいい事してぇのか?」

 下心丸出しの下卑た笑いを浮かべながら、筋骨隆々の男が少女の前に立ちはだかる。

 そんな男の横を素通りし、少女はカウンターの奥に居る店主らしき人物に声を掛けた。

「人を探しているの。ここに最近フードを被った3人組が来ていると聞いたのだけれど、ご存知ないかしら?」

 それに、店主は顔を上げ答えようとするが。

「無視してんじゃねぇぞクソガキがァ!ちいとばかし痛い目にあいてぇ様だな!?」

 などと叫びながら、先程の男が少女に向かって殴り掛かって来た。

 背後からの不意打ち、少女は帯剣しているがそれを抜くより前に殴られ、その後は酷い運命が待っているだろう。

 誰もが少女に哀れんだ目を向けようとした刹那……

 少女の姿が消えた――

 そう思う程の高速移動で男に肉薄、鳩尾に拳を叩き込み男を沈めた。

 あまりに一瞬の出来事。

 誰もが言葉を失い静まり返る中、少女は振り向き再度店主に問い掛ける。

「ごめんなさい、話の続きで。それで?知っているかしら?」

 何事も無かったかの様に話す少女に気圧されながらも、店主は店の一角に目を向ける。

 少女も追ってそちらに向くと、居た。

 食事中だというのにフードを目深に被り、こちらの出来事などまるで眼中に無いかの如く、食事を続ける3人組。

 少女はその3人に向けて歩き出し、言った。

「貴方達を探していたの。貴方達、ザジという名を知っているわよね?」

 その言葉にフードの2人が少し反応する。

 代わりに、聞き耳を立てていた周りの客の反応の方が大きかったが。

「ザジ!?ザジってあの!?」

「少し前に、剣聖として隣の大陸で有名だったあのザジ!?」

「今じゃ確か隠居して、どこにいるか分からないんじゃなかったか?」

「いやいや死んだって噂だぜ?」

 と、口々にざわめき出す。

 その言葉を代弁する様に、唯一無反応だったフードの1人が答えた。

「知っていますよ、かの御仁は有名な方ですからね。しかし、知っているだけで私達には何の関わりも無いのですが?」

 声からして男だろう。少女よりも少し年上だと感じる声色でそう応じる。

「ザジは私の師匠だったの。彼が最期に言っていた言葉よ。『ワシが死んだらフードの3人組を探せ、今はズィーアに居る筈だ』と」

 その言葉にフードの男が反応した。

「彼は……死んだのですか……?」

「ええ、去年老衰でね。最期まで元気なおじいちゃんだったわ。結局彼に勝つ事は出来なかったのが悔しいけれど」

 悲しみと、少しの悔しさを滲ませながら少女は答える。

「彼は、他に何か言っていましたか?」

「あなた達に伝言を。『約束を守れずすまない、申し訳ないついでにこの弟子を頼む』だそうよ。約束の内容までは聞いていないから、私にはさっぱりだけれど」

「そうか……逝ったか……悪い事をした……」

 と、悲しみと寂しさと何故か諦・め・が滲む様な声で男は呟いた。

「貴女は随分と気に入られていた様ですね?」

 その男の問に、少し羞恥を感じながら少女が言う。

「2年という短い間だったけれど、良くしてもらったわ。この剣も彼の愛剣を譲ってもらったの。だからかしら?まるで本当のおじいちゃんの様に思っていたわ」

「そうか……確かにその剣は……」

 お互いもう居ない彼に想いを馳せながら、男は語る。

「確かに私達は彼と旧友でした。そして昔の約束を違えたのはこちらです。なので君の事も面倒を見ようと思う。それでよろしいですか?」

 その言葉に残りの2人が反応するが、2人が何か話す前に男が続けた。

「もちろん、1人で生きていけると言うのなら、私達も過度の干渉はしません。しかし彼から頼むと言われているのでね。代わりに何か1つ、要求を飲もうではありませんか」

 男の言葉に、少女は決まっているとばかりに即答で返す。

「なら私を弟子にして。あの人が生前ずっと言っていたわ。絶対に勝てないと思った相手が居るって。それって貴方なんでしょう?じゃなきゃ私を託したりしない。だから私を強くしてほしいの」

 その尋常ではない雰囲気が気になり、男は問うた。

「強くなってどうしたいのですか?」

 それに少女は憎しみの籠った目を向けて。

「復讐するの」

 とだけ答えるのみ。

 その答えに少し笑いつつ、男は言う。

「失礼、馬鹿にしたのではありませんよ。あまりにも強い想いでしたので驚いただけです。てっきり世間知らずのお嬢様かと。貴女名前は?」

「レイミスよ。師匠は長いからレイって呼んでた」

「よろしい。ではレイ、貴女を弟子にします。上に私達の部屋があるので、そこで詳しく話しましょう」

 そうして、男は2人を伴い立ち上がる。

 レイもそれについて行こうとした時、先程レイに殴られ気絶していた男が起き上がろうとしていた。

「クソが!舐めやがって!俺はB級冒険者のゴルム様だぞ!?不意打ちで気絶させたからって調子に乗るんじゃねぇ!」

 そう言いながら、背中の斧を取り出しこちらに向かって来る。

 不意打ちなら自分もしたわよね……

 その程度でB級なんだ……

 そもそもB級ってどれくらい凄いのかしら?

 そんな様々な事を思いながら、向かってくる男を見るレイ。

 逆に言えばそ・ん・な・事・を・考・え・る・余・裕・が・あ・る・く・ら・い・、自・分・達・に・は・実・力・差・が・有・る・のだが。

 しかし、面倒なのでもう一撃食らわせてやろうかと思ったその時、フードの男が言った。

「申し訳ありません、これから彼女は私達と話し合いをしますので……少・し・静・か・に・し・て・い・て・く・だ・さ・い・」

 それだけ。

 少なくともレイには、男が何かしたように見えなかった。

 ただそれだけで、ゴルムという男は白目を向いて倒れ込んでしまっていて。

 その事実に周りの客も、そして間近に居たからこそ何をしたのか分からないという事実に、レイが驚愕する。

(魔法?それにしては魔法発動時の魔法陣や詠唱が何も無かった。なら体術?それこそ有り得ない。この男の近距離に居た私でさえ何も見えなかったのに……)

 そう考えながら男を見ると、男は何事も無かったかのようにレイを向いていた。

「な、何?」

「いえ、そう言えば名乗っていなかったなと」

 これこそが、後にレイの運命を大きく変える……

「今はニイルと名乗っています。今後ともよろしく」

 バケモノとの出逢いであった。

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