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2-60.夏波&冬凪絶体絶命(1/3)

last update Last Updated: 2025-09-05 06:00:41

 あたしが六道園に走ったのは、爆発の光が収縮する時に辻川ひかりと千福ミワの二人を呑み込んだように見えたからだった。それが光の球となって町役場の裏手の六道園にゆっくりと落下していく。倒壊する町役場から瓦礫が飛んでくる。ガラスの破片が頬をかすめた。倒壊しつつある町役場の瓦礫が何かの力に導かれて六道園に押し寄せていた。その中心に前回見付けた小さな渦があった。それは水面から少しずつ上方に飛沫を上げながら回転していた。見ているうちに飛沫はうねり、さらに上方に勢いを増しながら成長していった。最後は町役場の半分の高さまで伸び上がると、凄まじい竜巻となった。それはまるで光の球を捕食する水龍のように見えた。

「あれに呑まれたら助けられない」

 咄嗟に思った。けれど飛散する瓦礫に邪魔されて六道園の敷地内に入ることが出来ない。もしそれを避けられても、瓦礫がどんどん竜巻に巻き込まれ、それが龍の鱗のように侵入者のあたしを拒絶するのだった。

「夏波」

 冬凪が追いついて声を掛けた。振り向くと四つん這いだった。もともと体調が悪いのだ。無理を押してここまで這いずってきたらしい。手を取って、

「大丈夫?」

後方に鞠野フスキが見えた。両腕を前方で交差させ飛びしきる瓦礫を避けている。

「先生! 冬凪を」

「全速力でhogehoge」

 死語構文に強制変換。ところが冬凪は、

「あたしだって鬼子のはしくれ。潮時には力が漲る、こともある」

 一抹の不安がよぎる。肩をかして六道園の外周の生け垣へにじり寄る。そこで瓦礫の飛来を避けながら光の球を奪取する方法を考えた。

 普通の竜巻は上昇気流のはずだけどこの竜巻は下向きだった。明らかに光の球を吸い込もうとしている。でも、元々はそれは小さな渦だった。巨大な竜巻に成り上がったとしても元は極小の渦だったのだ。

「ようはあそこに吸い込まれなきゃいいんだ」

 思ったときはもう体が動いていた。あたしは瓦礫が飛散する中に進み出た。

「夏波?」

勢いで付いて来られなかった冬凪が垣根に隠れたまま聞いた。

「栓して来る」

 渦に栓をしてみたらどうだろう、案外いけるんじゃないかと思ったのだった。大声で言っ
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