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3-90.再会(1/3)

last update Última actualización: 2025-10-10 06:00:00

 辻川町長の私邸があるタワマンに着いた冬凪、鈴風、あたしの美少女調査員は、黒服サングラスに最上階に再び案内された。

鋼鉄のドアの前で応対を待っている間ドア脇を見たら、空の牛乳瓶がまた出ていた。

 ドアが開くと、前回と全く同じ角度でゴスロリ少女がお辞儀をしていた。

促されるままソファーに座って待っている間、そういえば鈴風は子供達に紹介する時あたしのことを笹井コトハって言ってたけれど、冬凪の鈴鹿アヤネって子はどうしたんだろう。

やっぱり屍人になってどこかにいるんだろうか? 

そんなことをボンヤリ考えていた。すると奥の暗闇から辻川町長の声で、

「アヤネはもう」

 それを聞いての鈴風の過剰反応は省略。

「で、長棹はあった?」

 対面のソファーにゆったりと座る辻川町長に聞かれて、目的の長棹が真球に突き刺さっていたことを告げると、

「爆発で時空が歪むなんてのは辻沢じゃ珍しくもないけれども」

考えを巡らすようにひと呼吸置いてから、

「瓦礫が全部ひと塊になったり木の棒が重機で何やってもびくともしないってのは異常だ」

と言った。

 確かに、まゆまゆさんたちが白黒の土蔵に閉じ込められているのも、千福ミワさんが六道辻の爆心地に人柱として囚われているのも、爆発で起こった時空の歪みが原因だった。

爆発に起因してはいないけれど、蓑笠連中がVRブースからあふれ出てきたのも時空の歪みを通ってのようだ。

それを思えば辻沢では当たり前のことだけれど、あの長棹と球体の存在は例外的と言えた。

「因みにあれを波平の毛って最初に言ったのは私なんだ。それが現場に浸透してるとはね」

 辻川町長はパワーバランスの上で窮屈な思いをしていても現場の人たちからは絶大な人気を得ているのだろう。

 ちょうど良い頃合いでゴスロリ少女がお盆にお茶菓子を乗せて持って来てくれた。

前回とっても美味しかったからどこのものかと聞いたら辻川町長が、

「銀座吉岡屋のマカロンと薫草堂のカモミールティーだよ」

 と教えてくれた。やば。メ

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  • ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文)   3-106.地獄の蓋が開くとき(2/4)

     冬凪が夜野まひるにべったり張り付いている鈴風を呼んで来てあたしの側に座った。そして、「クロエちゃんに教わったんだ。昔のJKがやってたフィンガーサイン」 そう言うと冬凪は右手でピースサインを作り、あたしたちの真ん中に差し出した。鈴風も同じように前に出して冬凪の中指に自分の人差し指当てる。「「夏波」さん」も」 あたしは中指を鈴風の人差し指に、人差し指を冬凪の中指に付けた。「5人でやると五芒星になります」 夜野まひるが言った。前の時はユウさん、ミユキ母さん、クロエちゃん、夜野まひるともう一人でこれをやったのだそう。 あたしたちのを見るとそれは三角の辺が凹んだ歪な形だった。「マキビシ?」 忍者の武器みたいだ。「3という数字は、破壊と創造を表すそうです」 鈴風が言った。それに冬凪が、「破壊と創造か。あの世で何をするかもわかってないけど、そういう事なのかもしれないよね」 つまりあたしたちはあの世で大暴れするってことになるわけね。 しばらくして紫子さんが伊左衛門をおんぶして立ち上がって言った。「そろそろかね」 社殿の暗がりにリング端末の明かりが一斉に灯る。時間は0時になろうとしていた。南中まであと30分。「う」 豆蔵くんと定吉くんが作業があるからと先に社殿を出て行った。赤さんたちが鈴風に目線をくれてからそれに続いた。辻川町長一団が出口の襖をぶっ壊しそうになりながら出て行く。校長室でもおんなじ事してたよ。あの黒服サングラスたちは学習能力がないのだろうか?最後に夜野まひるが出て行くのに鈴風も誘われてついて行きそうになったのを冬凪が止める。「鈴風さんは、あたしたちと一緒」 渋々それに従う。 冬凪は鈴風を元の位置に落ち着かせると、真ん中に等高線がびっしり描かれた図面を広げた。それは鬼子神社を上から見た詳細なものだった。

  • ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文)   3-106.地獄の蓋が開くとき(1/4)

     潮時の時刻が迫るにつれてクロエちゃんの様子がおかしくなってきた。社殿の床に突っ伏して口を開け荒い息をしている。皆んな見てるような見てないような微妙な感じで距離を保っている。そんな中、クロエちゃんに寄り添って背中を撫でさすってあげているのはミユキ母さんだった。 クロエちゃんの口から涎が垂れる。「ごめん」 ミユキ母さんがそれを袖で拭いてあげる。「ね」 二人の間には長年そうしてきた二人にしかわからないエニシがあるのだ。 そう言えば、紫子さんや伊左衛門は潮時関係ないんだろうか? 紫子さんは相変わらずじゃれつく伊左衛門のことをあしらうのに忙しそうだ。まあ、伝説の二人だから例外ってことでオk?(死語構文)「夏波は大丈夫なの?」 そうだ。あたしも当事者だった。なに他人事してんだろ。「体調なら特に何もないかな」 石舟のアクティベートは潮時ってクロエちゃんは言ってたけど、鬼子の発現もマストアイテムなんだろうか?そうだとしたらあたしも準備しとかなきゃだ。このままだと素のまんまで石舟乗ることになりそうだ。何かブッ刺すものはっと。そうだ、夜野まひるが用意したアフタヌーンティーセットに銀製のホークあったはず。「あの……」 夜野まひるに話しかけてみる。「どうぞ。これでいいですか?」 銀製のホーク渡された。胸ポケットにそれをしまう。「でも鬼子になるのはマストでないと思いますよ」 やば、心の中読まれてるし。脳死脳死。 ピ―――――――――――――――。「前回のあの時、ユウ様は発現を乗り越えていらっしゃいました」「ほんと?」 とミユキ母さんを探したけど社殿の中にはいなかった。「外に出てったよ」 冬凪が教えてくれた。クロエちゃんが暴走を始めたから追いかけて行ったんだそう。

  • ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文)   3-105.流され子(3/3)

    「お腹空いたでしょ」 紫子さんが伊左衛門に社殿の隅に置いてあった大きめのリュックを持って来させた。そして、「クロエちゃんたちも呼んでおいで」 と言った後、中からランチョンマットを出して床に敷くとその上に山のようにオニギリを盛った。「お腹空いたでしょ。たくさんあるからお食べ」 と勧めてくれる。どれにしようかと手を伸ばすとどれも海苔が巻かれていない塩ニギリだった。冬凪もあたしも海苔が嫌いなのを紫子さんは知ってて用意してくれたのかと思った。ミユキ母さんも海苔が嫌いだ。そう言えばクロエちゃんもだった。ワンチャン(死語構文)……。「伊左衛門も海苔が嫌い?」 ラップを剥がして塩ニギリにかぶりつこうとしている伊左衛門に聞いてみた。「うん。嫌い。海の匂いを思い出すから」 夕霧物語の中に、伊左衛門は海で入水を試みたけど死ねず夕霧太夫に拾われたとある。その時身体中にまとわりついた潮の匂いのせいで海苔がダメになった。つまり鬼子はみんなその記憶を持ってるから海苔が嫌い。そんな属性いらんでしょ。 塩ニギリばっかり、中には青い実をまぶした山椒ニギリもあったけど、さすがに飽きて3つまでが限界だった。冬凪はあたしの隣で、相変わらず両手に塩ニギリ持って食べ続けてるけども。ラップの量から推して10個はいってるな。 そこに夜野まひるが、「遅くなってしまいましたが、食べていただけるとありがたいのですが」 と、先ほど宿泊先のホテルから届いたというアフタヌーンティーセットを広げだした。地味で埃っぽい社殿の床が一度に花が咲いたように明るくなった。美術品のようなサンドイッチの盛り合わせとカモミールティー。おなか鳴っちゃうじゃん。「夏波さん。どうぞお食べください」 あたしのおなか鳴ってないよね。そんなに物欲しそうな顔してたか? するとミユキ母さんが、「まひるさんは人の心が読めるだよ。あんま

  • ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文)   3-105.流され子(2/3)

     ―――その昔、まだ世界樹がこの世を睥睨していた時代、ここには神社を守る神主一家が住んでいた。神主、その妻、年老いた母親と、幼い子供二人の6人家族だった。ある日、流れ者の野之上藤十郎という男が宿を貸してくれとやってきた。神主一家はその男をもてなしよくしてやった。ところが藤十郎という男はもっぱら盗賊として世渡りしていた男で、これまでも幾度となく押入り強盗を働いてきたのだった。ある夜、神主一家が寝静まるのを待って目ぼしいものを盗んで逃げようとした時、小便に起きてきた子供に見つかってしまう。露見するのを恐れた藤十郎はその子を首を絞めて殺したのだったが、それを今度は神主に見つけられて、進退窮した藤十郎は懐の刀で切り殺す。あとは皆殺ししかない。そう思った藤十郎は老母、妻、もう一人の子と次々に斬殺してしまう。世話になった一家を皆殺しにして神社を去ろうとした時、何処からか赤子の泣き声があ聞こえた。藤十郎が泣き声の主をさがすと、殺した神主の妻の股座に臍の緒を付けたままの赤子が泣いていたのだった。それを見た藤十郎は捨ておけなくなった。藤十郎もまた流されかけた子だったのだ。藤十郎は昔産婆に聞いた支度をすることにした。臍の緒を切るため竹を探しに森に入り、産湯の水をくみに川におり、盗んだ衣類の中から新しいものを裂いておくるみを作った。そうして支度を整えた藤十郎が赤子を取り上げようとすると、赤子が息をしていない。ゆすれど尻をたたけど息を吹き返さない。赤子は生きることが出来なかったのだった。赤子がこと切れてしまったと知った藤十郎は号泣した。救えた命を救えなかったことを悔いて泣き叫んだ。一家6人を殺しておきながらだ。藤十郎は死んだ赤子を抱いて走った。泣きながら夜を駆けた。夜空の月が新月から満月になって再び新月になりまた満月になるまで駆けた。駆けて駆けて駆け続けて世界樹の元まで来ると赤子を世界樹に掲げて言った。

  • ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文)   3-105.流され子(1/3)

     鬼子に母親はいない。この社殿の船に戻って来る。 ミユキ母さんの言葉はあたしの記憶とは違うけれど、あたしはそれを知っていた。エニシはずっとそのことを教えてくれていた。魂がそれをわかっていた。薬指の疼きで、今そのことに気付いたのだった。 エニシはさらに鬼子の最初を、鬼子が鬼子になる時のことも知らせてくれていた。 今は失われてしまった母宮木野の墓所で見た辻沢の残留思念を思い出す。 宮木野と志野婦が屍人の母宮木野を離れて墓所の石室から出て行った後、場面は天井の沼に変わった。そこに現れた母宮木野は若かったけれど、顔は酷くやつれて憔悴しきった姿で葦原の水辺に佇んでいたのだった。その胸には牙が生えた赤ちゃんを抱いて困り果てているように見えた。母宮木野は意を決したように沼に浸かると赤ちゃんを水に沈めてしまう。水面に激しく泡が立ち断末魔の大泡が吹き出すと水に真紅が広がっていった。沼が真っ赤に染まって母宮木野が水から出てきたけれどその胸に赤ちゃんの姿はなかった。その沈められた赤ちゃんが後の夕霧だとヘルメット男は教えてくれた。 その時あたしは、赤ちゃんが流された先のことしか頭になく、どうやって生き延びたかまでは考えなかった。 伊左衛門を膝に乗せて額絵馬を見上げる紫子さんのその儚げな横顔に物語の夕霧太夫が重なった。エニシがあたしの魂に語りかけて来る声に耳を澄ます。 あの赤ちゃんが大きくなって夕霧になったわけではなかったんだ。夕霧は赤ちゃんの魂を我が身に引き受けたんだ。 ―――流され子。 名前すらつけてもらえず、誰にも知られることなくこの世を去る子ら。この世に生を受けたのに生きることが出来なかった子たち。行き場のない魂たち。「鬼子の体は魂を乗せる舟みたいなもの」 鬼子神社から四ツ辻に向かう山道でクロエちゃんが言ったのだった。 あたしたち鬼子は流され子の魂を乗せる舟なのか。彷徨う魂のためのゆりかごなんだ。エニ

  • ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文)   3-104.鬼子の母親(3/3)

     ミユキ母さんがあたしをそっと抱き寄せてくれた。「そんなわけないよ。冬凪と夏波の二人の親とも事情があって育てられなかったんだよ」 じゃあ、どこかにいるってこと? それはミユキ母さんがいる前では口にすることはできなかった。紫子さんの膝の上伊左衛門がいたずらっぽい目であたしを見て、「建前ではね」 と言った。「こら! だまんなさい」 と紫子さんに窘められたけれど聞かないで続ける。「鬼子は沈まないんだよ。また浮き上がって生まれ変わる。だから親なんていないんだ」 沈む? 浮き上がる? 親がいない? 鈴風の記憶の中の柊と田鶴さんのことを思い出した。二人は鬼子と鬼子使いとして何百年も転生を繰り返し何度も出会ったと言っていた。ただ、転生するにしても親がなければ生まれて来られないんじゃ?「親がいないってどういうこと?」 ミユキ母さんが冬凪とあたしを交互に見た後、紫子さんに目を移した。紫子さんが小さく頷く。そしてミユキ母さんが再び冬凪とあたしに目を戻して言った。その言葉はミユキ母さんのものとは思えないほど重苦しかった。「あたしたちは」 ミユキ母さんはそこでちょっと言葉を切った。そして何かを決心したように口を開くと、「鬼子はね、この社殿の船に戻ってくるの」 潮時の翌朝、社殿から赤ちゃんの鳴き声が聞こえてくることがある。その声は必ず社殿の船底からだけど、船底に降りる階段は板と釘で封じてあるから誰かが忍び込んで置いていったのではない。そこで生まれたのだ。つまりこの船が鬼子の母体なのだそう。そんな想像の斜め上行くこと言われても、それがミユキ母さんの言葉である以上、冬凪もあたしも信じるしかないのだ。でも、あたしにはひっかかることがあった。それはあたしの一番古い記憶だ。その記憶の中のあたしは赤ちゃんで、船底のようなところで女性の胸に抱かれていたのだった。

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