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第006話

作者: CHUE
last update publish date: 2026-06-24 23:02:05

「ソンチョル」

「はい、兄貴!」

 突然名前を呼ばれても、ソンチョルは動じなかった。

 いつものように、大きく威勢のいい声で返事をする。

「片づけはどうなってる」

「そ、それが……」

 だが、その一言でソンチョルは固まった。

 慌てて隣に座る者へ視線を送る。

 何の片づけですか、とは聞けない。

 かといって黙っているわけにもいかず、言葉を濁すしかなかった。

 周囲へ必死に助けを求める視線を送るが、集まった誰一人として「片づけ」が何を指しているのか分からない。

 結局ソンチョルは、おそるおそる聞き返した。

「兄貴……何のことか、もう少し詳しく……」

「ジジイがやってた仕事だ。

 全部片づけろって言っただろ」

 ソンチョルは数秒、ぽかんと口を開けた。

 ドヒョクの言う『ジジイ』とは、祖父のことだった。

 つまり、この組を作った初代組長である。

 父親から組を継ぐことが決まった頃から、ドヒョクは昔ながらの仕事をすべて整理するつもりでいた。

 時代は変わっている。

 いつまでも昔と同じやり方ではいられない。

 そう考えていたからだ。

 一年ほど前、確かに部下たちへ命じた。

 だが、その後一度も進み具合を確認しなかった。

 一度も。

 自分でも命じたことを忘れてしまうほどに。

「あ、ああ……!

 そ、その件ですか!

 もちろん順調に進んでます!

 ははは……!」

 ソンチョルはわざとらしく笑った。

 どうせ今日を過ぎれば、また聞かれることなどない。

 ここで正直に「何もやってません」と言うほど馬鹿ではない。

 ドヒョクはその返事を聞くと、今度は別の名を呼ぶ。

「テギュ」

「は、はい! 兄貴!」

 ソンチョルとテギュは、初代組長の頃から組にいた古株だった。

 今ではドヒョクの右腕と左腕を務めている。

 昔は末っ子同然だった二人も、長い年月を経て今ではドヒョクより年上になった。

 それでも絶対のボスとして仕え、組の中でも確かな立場を築いている。

「新しい事業は」

 さっきの質問があったせいで、まったく予想外というわけではなかった。

 もっとも、テギュもこの一年、新規事業などほとんど気にしていない。

 それでも必死に平静を装って答えた。

「あ、あれですね。

 会社の登記までは済ませました。

 その……近いうちには……」

「どっちも早めに片づけろ」

「はい、兄貴!」

「はい、兄貴!」

 二人の威勢のいい返事を聞きながら、ドヒョクはわずかに眉を寄せた。

 一年間、一度も確認しなかったとはいえ。

 二人が真面目に準備を進めていなかったことくらい、分かっている。

 何より、自分自身もそこまで重要視していなかったから放置していた。

 だが。

 今は事情が違う。

「二日」

「……え?」

「っ……!」

 二人は提示された期限に息を呑んだ。

 命令なら従うしかない。

 それでも、全国に散らばる仕事を二日で整理するなど到底無理だった。

 新規事業も同じだ。

 何もないところから会社を動かすなど、不可能に近い。

「一年前に言ったことだ。

 まだ時間が必要か?」

 ドヒョクはソンチョルとテギュを交互に見た。

 他の組員たちは息を潜めたまま動けない。

 二人は慌てて首を横に振る。

「い、いえ!」

「ど、どうにかします!」

「三日」

 ドヒョクは恩赦でも与えるように、一日だけ延ばした。

 二人は一日増えただけでも助かったと思うしかない。

 頭の中では、すでに段取りが猛スピードで組み立てられていた。

「ありがとうございます、兄貴!」

「必ず間に合わせます!」

 ドヒョクは少し考え、それから軽く手を振った。

 解散の合図だ。

 全員が一斉に立ち上がろうとした、その瞬間。

「それと」

 ドヒョクが再び口を開く。

 全員、慌てて座り直した。

「サランチェの一番広い部屋は、今日から会議室として使う。

 テーブルを運び込め。

 進捗報告は毎日まとめて、会議室に置いておけ」

 何の会議室なのか。

 気になる者は大勢いた。

 だが、そんなことを聞ける者は一人もいない。

「はい、兄貴!」

 返事だけが響く。

 それを聞いて、ドヒョクはようやく全員を下がらせた。

 そしてソンミンからファックスで送られてきた一枚の紙を、静かに持ち上げた。

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