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22話

作者: 東雲桃矢
last update 公開日: 2026-05-19 09:00:50

 安定期に入り、つわりも治まったレイスは、学会に顔を出そうと考えた。未発表の数式も、いくつかまとめてある。これらを発表し、忘れられないようにしたかった。

「ねぇ、ゲイリー。私、そろそろ学会に行こうと思うの」

 レイスの言葉に、ゲイリーは顔をしかめる。

「ダメだ。万が一のことがあったら困るだろう」

「けど、しばらく顔を出してなかったし……。未発表の数式だって……」

「レイス。今1番大事なのは、お腹の子と君の体調だ。学会には、出産して落ち着いてから行けばいい」

「忘れられたりしないかしら?」

「何言ってるんだ。あれだけ素晴らしい発表をしてきた君を、誰が忘れると言うんだ。君が発表してきた数式や理論で、この国は一気に効率よくなったし、便利になった。君は偉人となる人物だ」

 ゲイリーが言う理論というのは、科学や化学を指している。この世界には化学も科学もなかったから、そう呼ばれるようになった。

 彼の言う通り、レイスが発表してきた論理や算数・数学のおかげで、国はいい方

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  • メスガキ無双〜気弱王妃の華麗なる反逆〜   22話

     安定期に入り、つわりも治まったレイスは、学会に顔を出そうと考えた。未発表の数式も、いくつかまとめてある。これらを発表し、忘れられないようにしたかった。「ねぇ、ゲイリー。私、そろそろ学会に行こうと思うの」 レイスの言葉に、ゲイリーは顔をしかめる。「ダメだ。万が一のことがあったら困るだろう」「けど、しばらく顔を出してなかったし……。未発表の数式だって……」「レイス。今1番大事なのは、お腹の子と君の体調だ。学会には、出産して落ち着いてから行けばいい」「忘れられたりしないかしら?」「何言ってるんだ。あれだけ素晴らしい発表をしてきた君を、誰が忘れると言うんだ。君が発表してきた数式や理論で、この国は一気に効率よくなったし、便利になった。君は偉人となる人物だ」 ゲイリーが言う理論というのは、科学や化学を指している。この世界には化学も科学もなかったから、そう呼ばれるようになった。 彼の言う通り、レイスが発表してきた論理や算数・数学のおかげで、国はいい方向に変わっていった。以前は発光石と呼ばれる魔石に魔力を注いで光らせ、夜はその光で過ごしていた。発光石には欠点が多々あった。魔力が切れるまで光り続けるため、魔力を注ぎすぎてしまうと、就寝時も光り続ける。それに毎日魔力を注がなくてはならない。 だが、レイスが電球の仕組みについて発表してから研究や開発が進み、今では平民の富裕層までは電球で暮らすようになった。今は更に安い電球を作るために、研究が進められている。 レイスが開発した分度器や定規は大工や仕立て屋から好評で、以前より正確に建物や衣服を作れるようになった。他にも功績があり、数えだしたらキリがない。「頼むから、君はもっと自分を大事にしてくれ」「えぇ、そうするわ」 レイスがうなずくと、ゲイリーは安堵し、彼女を優しく抱きしめる。「分かってくれて嬉しいよ。さぁ、座って。君の仕事は、贈り物を開けることだよ」 ゲイリーはレイスを椅子に座らせる。テーブルとその横には、各国や国内の王族や貴族からの贈り物が積まれている。「あなた

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    「この低俗なアバズレが。よくも俺を騙し、妻を侮辱してくれたな。衛兵、この女を捕まえろ!」「はっ!」 会場の壁際にいた数名の衛兵達は、メリンダを連行していった。「いやああぁっ! 私は何もしてない! 離して! 離しなさいよぉ!」 メリンダは精一杯叫びながら抵抗したが、護身術すら学んでいない娘が、鍛え抜かれた衛兵に勝てるわけもなく、彼女はそのまま連行されていった。 それで丸く収まるかと思ったが、そうは問屋がおろさない。人々は次期国王であるゲイリーに侮蔑の目を向け、声を潜めた。「私、最初から聞いてたけど、ゲイリー王子ったら、結婚してまだ半年だというのに、あのメリンダって女を側室にしようとしてたわ」「なんだって? あの聡明なレイス嬢を妻にしておきながら、側室を取ろうとするとは、なんて奴だ」「レイス様、お可哀想……」 この声はレイスとゲイリーにも聞こえた。彼らはゲイリーが睨みつけると黙ったが、侮蔑の目は相変わらずだ。(あーあ、だから私のほうが実質上だって、あれほど教え込んだのに) この6年ですっかりたくましくなったレイスは、呆れ返りながら傍観者の立ち位置を決め込んだ。 国王、つまり、ゲイリーの父親は、眉間にシワを寄せ、立ち上がる。「皆の者、うちの愚息が騒ぎを起こしてすまない。興ざめしただろう。本日はもう終いだ」 国王の一言で、人々は散り散りになる。ほとんどの衛兵達は、客人達の見送りをする。広い会場にいるのは、ふたりの衛兵、国王、ゲイリー、レイスのみ。「ゲイリー。それと、すまんがレイスよ。少々残ってくれ」 国王はゲイリーには険しい顔つきで、レイスには申し訳無さそうに言うと、ふたりの前へ進み、ゲイリーを平手打ちする。乾いた音とゲイリーのうめき声が、がらんとした会場に響く。「この愚か者が!」「何にお怒りなのですか、父上」「そんなことも分からんのか、貴様は! お前はレイスという妻がありながら、あのような騒ぎを起こしおって!」「お言葉ですが父上。あの女は赤髪だと判明し

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     月日は順調に流れ、レイスが18歳になると、彼女はゲイリーと結婚した。 この時既に、レイスは魔剣士として認められ、学会経由で世界に名を轟かせていた。その知名度や支持率は、ゲイリーを遥かに上回っていた。レイス側の出席者も、学者や剣士が多く、ゲイリー側の出席者達は軽くどよめいていた。 ここまで来るとゲイリーのメンツ潰しもいいところではあるが、この男にはこれくらいがちょうどいい。 すっかり紳士になったゲイリーとの生活は、前世の記憶と比べると遥かに快適だった。ゲイリーも使用人達も、レイスに嫌がらせをすることがない。今のレイスにはある意味王族よりも力があった。もしレイスが嫌がらせをされたと零せば、学者や彼女の領地の人間はもちろんのこと、世間が許さないだろう。 幸せの国と言われた国の次期国王が、妻を不幸にしていたとあっては、大問題だ。他国からの信用を失い、貿易が止まる可能性もある。そういったことをほのめかしたおかげか、ゲイリーも使用人達も、レイスを貴重な壊れ物のように丁寧すぎるくらいに扱ってくれた。 だが、人の根本はそう簡単に変わらないらしい。結婚して約半年後、社交パーティーでレイスが学者と話をしていると、メリンダがゲイリーに近づいていた。ゲイリーは彼女を突き放すどころか、馴れ馴れしくメリンダの肩を抱いていた。 それに気づいたレイスは、学者との会話を切り上げ、ふたりに近寄る。「ゲイリー、何をしているのかしら? 私、結婚する際、浮気も側近を作ることも許可しないと言ったはずですが?」「いや、これは……」 おどおどしているゲイリーの隣で、メリンダはクスクス笑う。「やだぁ、嫉妬なんて醜いわ。それに、側室を作るのは、少しでもお世継ぎを残す可能性を増やすためでしょう? それを禁止するって、時期王妃失格じゃない?」 メリンダは言ってやったと言わんばかりのドヤ顔でゲイリーの腕に抱きつき、レイスを見下す。(忘れたようだな、私のレスバ力を) メリンダを言い負かすことなど容易い。だが今回は、それ以上に面白いものを、レイスは握っていた。「それに、ゲイリー王子と私が子を作れば、

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     数日後、レイスは魔法で使用人のひとりに変身したゲイリーと共に、学会へ赴くことになった。百聞は一見に如かず。お互いのことを知るのなら、お互いの生活に触れるのが手っ取り早いということになった。 1回目はゲイリーがレイスを知るために、学会に着いてきたというわけだ。今日のゲイリーは王子という身分を一時的に捨て、レイスが発表してきた数式や科学などに興味を示した遠い親戚のリードという青年ということになっている。「コネサンス様。こちらは遠い親戚のリードです。私が発明した新しい数式などに興味を持ち、遠路はるばるやってきてくれました。彼に良い席を用意してもらえますか?」「もちろんですとも。ささ、リード殿。是非こちらにおかけください」「ありがとうございます」 コネサンスは嫌な顔ひとつせず、リードを最前列に座らせた。講義が始まるまで、まだ時間がある。レイスは控室へ行き、今日発表する数式のおさらいをした。 時間になると、再び講義室へ向かう。コネサンスはリードに話しかけている。ここからではほとんど聞こえないが、熱心なコネサンスのことだ。きっとリードに今まで学んできたことなどを教えているのだろう。「皆様、本日もお忙しい中お集まりいただき、感謝します。私が本日発表するのは、角度についてです」 レイスは紙で作った大きな分度器を黒板に貼る。手元に見本がなくても、正方形の紙さえあれば作れるものなのだ。「分かりやすくするために、皆様の分も作ってきました。今から配りますので、そのまま座ってお待ち下さい」 レイスは彼らのために用意した手のひらサイズの分度器を配っていく。これは1種のパフォーマンスだ。本来なら、魔法で一瞬で配り終える。それをわざわざ手間をかけて配ることで、尊敬の念を集めた。「おぉ、レイス様自らが教材を作り、お配りしてくださるとは……!」「なんと素晴らしい。家宝にさせていただきます」 彼らは神からの施しを受けるかのように、恭しく頭を下げ、両手で紙製分度器を受け取る。リードは怪訝そうな顔をしながらも、彼らを真似て受け取った。「ではまず、角度とは何か、どういったことに使え

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     城に着くと、執事のバトラが出迎えてくれた。(この人は……!) 忘れもしない。忘れられるわけがない。前世でレイスとアンナを引き離し、まだ生きているアンナを、焼却炉に放り込んだ張本人だ。できることなら今すぐ殴ってやりたいが、問題を起こすわけにはいかない。何より、彼はアンナのことなど知る由もないのだ。「レイス・フレアージュ様でいらっしゃいますね? ご多忙の中、足をお運びいただき、ありがとうございます。ゲイリー王子がお待ちです。どうぞこちらへ」 バトラの案内で応接室に行く。中に入るとゲイリーが本を読んでいた。(抑えろ抑えろ抑えろ……) ゲイリーには、バトラ以上の殺意が湧く。長年レイスとアンナを苦しめ、我が子を見殺しにした男。どう考えても、幸せの国の王にふさわしくない。「君がレイスか。噂は聞いているよ。様々な数式を発表したり、自分の領地に住む住人達がより快適に過ごせるよう、努力しているそうだね」 「領主の娘として当然のことをしているだけですわ」 なんとか殺意を抑え、作り笑いをする。実質3度目の人生とは言え、まだ精神が未熟だ。感情を抑え込むのに苦労する。 「謙虚さも兼ね備えているとは素晴らしい。是非、君と結婚したい」 「お言葉ですが、ゲイリー王子。私達はお互いをよく知りません」 「政略結婚というのは、そういうものだろう」 レイスの言葉に、ゲイリーは不思議そうな顔をする。 「えぇ、ですが、すぐには決められませんわ。私にも選ぶ権利がございますから」 「なんだと?」  ゲイリーの目に怒りが滲む。貴族の娘達は王子と結婚したがる。だから、断られるなど微塵も思っていなかったのだろう。何より、王族の申し出を断る自分を許せないのだろう。ゲイリー・バーネットとは、そういう男だ。 「少し成果をあげたからって調子に乗るなよ。この俺が結婚してやると言っているのだから、喜んで受け入れればいいんだ」 「で、出たー。モラハラ男♡ 原始人並のお古思考♡ 幸せの国の次期国王が男尊女卑とかみっともなぁ♡   平民以下♡ 名ばかり王子♡《結婚とは、男女が支え合うものです。幸せの

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     翌日、午前中に学会で化学の基礎を発表し終えると、噴水広場に行った。「わぁ、すごい……!」 目安箱は見違えた。テーブルに屋根と壁をつけたような小屋が建ち、目安箱はそこに設置されていた。目安箱はテーブルに置かれ、隣には箱がおいてある。「これなら、目安箱がうっかり噴水に落ちることなんてないでしょう」「本当にありがとう! ところで、この箱は?」「その箱には紙と鉛筆が入ってるのさ。わざわざ家で書いて入れに来るのもめんどうだからね」 昨日の中年女性が言う。きっとこの箱も、彼女が用意してくれたものなのだろう。「皆、本当にありがとう! 私、この領地をもっと快適に暮らせるように頑張るから」「お礼を言うのはこっちの方さ」「そうそう。公爵家の娘さんが、ここまで考えてくれるなんて、思いもしなかったからな」「頼んだぞ、お嬢ちゃん」 彼らの声に胸がいっぱいになる。自分のために始めたことだが、今は彼らのために頑張ろうと心から思える。 目安箱を設置してから、レイスの生活はまた少し変わった。午前中は魔剣士になるための修行、午後は目安箱の確認や、実現させるべきものを見極めたりする。時折学会に顔を出しては数式や化学、科学の基礎を発表していった。 レイスの名は貴族間、平民、学会に轟き、彼女の名を知らない者はほとんどいなくなった。その噂はもちろん王族にも届いたらしい。レイスが学会から返ってくると、父のアルフレッドが興奮気味に話しかけてきた。「すごいぞ、レイス。王子が是非ともお前に会いたいと言っている。ほら、招待状だ」 招待状を受け取ると、明日の午後2時に城に来るように書いてあった。(こっちの予定も考えないで、横暴なんだから) 明日の午後は目安箱を見に行く予定だった。だが、いくら知名度が高いレイスでも、断れば罰せられる可能性が高い。それに目安箱なら、行く前に回収して馬車の中で確認すればいい。「分かりました。明日、城に行ってきます」「あぁ、行ってきなさい。そうだ、今から明日着ていくドレスやヒールを買ってや

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