LOGIN衛兵達は寝室に着くと、レイスを室内に突き飛ばす。不幸なことに、ゲイリーに殴られた頬が床に叩きつけられ、激痛が走る。
「ぎっ!?」
「はは、潰れたカエルみたいな声ですよ」
「王妃とは思えない声ですね」
衛兵達は扉を閉める。カチリと絶望的な音が、外から聞こえた。
「そんな、待って!」
扉を押すが、びくともしない。やはり、鍵を掛けられてしまった。
「開けて! アンナを医務室に運ばないといけないの! 誰か! ねぇ!」
レイスは何度も何度も扉を叩き、声を張り上げる。だが、扉が開く気配も、人が通る気配もしない。それでも、ひとり娘のアンナのことを思うと、何もせずにはいられない。
窓を開けて声を張り上げたり、扉を叩いたりしたが、開きそうにない。苦手ながらに、破壊魔法の類を使ってみるも、侵入者対策の防御魔法が邪魔をして、ヒビを入れることすら出来ない。
「はぁ、はぁ……。アンナ、アンナぁ……」
自分の無力さを恨み、扉にすがり、崩折れる。自分はなんて無力なのだろう? 王妃とは名ばかりで、誰もレイスの命令を聞かない。それどころか、嫌がらせまでしてくる始末。ずっと嫌がらせをされてきたのも、アンナが酷い目にあっているのも、全部気弱な自分のせいだ。
そんな思考が何度も反芻し、真実として刷り込んでいく。
「王妃様はご乱心ね」
「いやね」扉の向こうから、侍女達の声がした。朦朧としていた意識が、僅かな希望でクリアになっていく。
(これが最初で最後のチャンスかもしれない!)
レイスは取っ手を掴みながら立ち上がり、真っ赤に腫れた拳を、再び扉に叩きつける。
この階は、王族のプライベートルームが並ぶ。だから使用人達も、最低限しか出入りしない。外は暗くなっている。ということは、使用人達が今日、また来る可能性は限りなく低い。
「ねぇ、お願い! ここを開けて! 開けてくれたら、私が持ってる宝石もドレスも、全部あなた達にあげるわ! 私は娘を助けたいだけなの。お願い、開けて!」
「あはは、馬鹿みたい」
「本当、どうかしてるわ」
侍女達はレイスの必死なお願いを嘲笑い、立ち去ってしまった。
「そんな、どうして……」
力が抜け、座り込んでしまう。力尽きたレイスは、そのまま気を失ってしまう。
次にレイスが目を覚ましたのは、夜9時のこと。暗闇でも分かったのは、時間を知らせる鐘の音が聞こえたから。ダメ元で扉を押してみたが、鍵はかけられたまま。
「アンナ……。弱い母親で、ごめんなさい……。私が弱いから……」
贖罪の声はひどくかすれ、まるで老婆のよう。サイドテーブルに水差しはあるが、飲もうとは思えない。
月を見ながら、アンナを想う。天真爛漫で、いつも笑顔を見せてくれたアンナ。彼女がいたから、どんな酷い仕打ちも耐えられた。「なのに、守ってあげられなくて、ごめんなさい……。あの後、医務室に連れて行ってもらえていたらいいのだけど……」
正直、アンナが医務室に連れて行ってもらえたとは思えない。それでも無事を祈りたくなるのは、母親の性だ。
「アンナ……」
愛娘の名前を呼ぶと、扉の方から微かに、かさっと物音がした。
「誰かいるの?」
返事はない。だが、小さな足音が聞こえた。
恐る恐る扉に近づくと、封筒が見えてきた。どうやら扉の隙間から入れられたようだ。
「いったい誰が……?」
封筒の裏表を見るが、何も書かれておらず、封蝋すらされていない。レイスは封筒を持って、窓辺に行く。魔法を使えば室内を照らせるが、貴重な魔力と体力は、アンナのために温存しておきたい。
封筒を開けると、魔法陣が書かれたカードが1枚だけ入っていた。
「これは、魔便り……?」
魔便りというのは、この手紙のように、魔法陣を描いた手紙のことだ。魔力を込めると発動し、映像が流れる。一見便利なものに思えるが、送り主が魔法陣に込めた魔力の量で、再生できる回数が決まる。受け取った側は、送り主が回数を書いてない限り、何回再生できるのか分からないのが最大の欠点だ。「誰からかしら?」
最低限の魔力を魔法陣に込めると、魔法陣から淡い光が溢れ、壁に長方形を描く。長方形の中に、映像が現れる。
「あれは、アンナ……!」
映像の中のアンナは階段を駆け上がり、踊り場にいたエドワードに突き落とされる。
「アンナ! やっぱり、エドワードが……。これを証拠に出せば、きっと……!」
疲弊しきったレイスは、最後の希望だと言わんばかりに送り主に感謝するが、魔便りの再生回数は、レイスには分からない。心身共にボロボロのレイスは、そのことに気付けない。
場面は切り替わり、外にある焼却炉の前。バルトがめんどくさそうに、麻袋にアンナを入れる。
「アンナ! なんてことを……」
麻袋がもぞもぞと動く。それにも関わらず、燃え盛る焼却炉に放り込まれた。
「いやあああっ!」
バルトはトドメと言わんばかりに、油が入った小瓶を焼却炉に入れた。炎は轟々と燃え盛り、黒煙が大量に発生する。映像はそこで終わり、魔法陣が消える。
「あ、あぁ……。アンナ……。こんなのって……」
ショックで封筒を落とし、その場に座り込む。魔便りしか入っていないと思ったが、落ちた封筒から1枚の紙切れがはみ出ていた。
紙を拾ってみると、幼い文字で「悲しい?」と書かれていた。何度も勉強を見てあげたから分かる。これはエドワードの文字だ。
「あの子は人間じゃない、悪魔の子よ……」
4歳とは思えない鬼畜の所業に腸が煮えくり返り、気が狂いそうだ。
「許さない……。絶対に、許さない……」
お茶も終えると、ゲイリーの手を惹かれ、中庭に出る。だが、中庭は真っ暗で、どこに何があるのかよく見えない。甘く優しい香りがすることから、花が咲いていることが分かる程度で、それ以外はよく分からない。「ゲイリー、暗くて見えないわ。光魔法で照らしましょうか」「いいや、ここで魔法を使うのは俺だ」 ゲイリーは詠唱を唱え、指を鳴らす。すると、花々がふたりのまわりから順に、一斉に光りだす。淡く輝く花々は、愛しい人を幻想的に照らした。「すごいわ! こんなに美しい花園、見たことがない……」 辺り一面、光の花。現世のものとは思えない美しさに、レイスは心を奪われ、うっとり眺める。「レイス」 ゲイリーはレイスの名を呼ぶ。その声は少し震えていた。「なにかしら?」「俺達は、政略結婚だったな」「え? えぇ、そうね」 今更結婚のことを持ち出されて、困惑する。レイスはじっとゲイリーを見つめ、次の言葉を待った。「あの頃の俺は酷かった。横柄で、男尊女卑で、考えが古くて。君のことも、下に見ていた。決まりだから仕方なく結婚してやる、感謝しろ。なんて、最低なことを考えていたよ」「えぇ、あの頃のあなたは、酷かったわ」「君は恐れることなく、俺に歯向かってきていたな」 思い出し笑いをするゲイリーに、少し恥ずかしくなる。「当時は、仕方なくと思った。けど、今は違う。君と結婚して、本当に良かったと思っているよ。君のおかげで俺は王になれた。何より、愛し合う喜びを教えてくれた」「ゲイリー……」 ゲイリーは懐から小さな箱を出すと、開けて見せる。中には指輪が入っていた。「あの時渡した結婚指輪には、意味なんてほとんどない。改めて、結婚指輪を贈らせてくれ。これは君を想って選んだんだ」「どうしよう、嬉しいわ……」「さぁ、手を出して」「はい」 手を出すと、ゲイリーは元々嵌めてあった指輪を外し、新たな結婚指輪をレイスの指に嵌めた。指輪はぴったり嵌り、レイスの華奢な指で光り
シャーリィ達をエンゲリーに届けて半月。頻度は減ってきているとはいえ、レイスは未だに悪夢に苛まれていた。ゲイリーに話して楽にはなったが、夢のせいか、時々ゲイリーとバルトに恐怖を抱く。メリンダに雰囲気の似た女性を見かけると、不安になってしまう。「こんなに幸せなのに……」 レイスは東屋に座り、ゲイリーと遊ぶアンナを見つめる。少し離れたところで、バルトが微笑ましく見守っていた。「前に、進まないといけないのに……」 何度も自分にそう言い聞かせ、思い込んできた。それでも悪夢が、前世が、レイスをじわじわと蝕んでいく。「そろそろ公務の時間だな。バルト、アンナを頼む」「はい、陛下」 ふたりの会話で我に返り、立ち上がる。この後他国の王族が城に来ることになっているのだ。「いこう、レイス」「はい」 レイスはゲイリーと共に、客間へ向かった。 夕方、公務を終わらせたレイスは、紅茶を飲んでため息を付いた。レイスにとって、外交ほど苦痛なものはない。自分のものと偽った功績を褒め称えられるのだから。「レイス、今いいか?」「あなた、どうなさったの?」「出かけないか? 気分転換も必要だ」 ゲイリーは、レイスが外交に苦手意識を持っていることをよく知っていた。だから気遣ってくれたのだろう。「いいわね、行きましょうか」 ゲイリーのエスコートで外に出ると、既に馬車が用意してあった。馬車に揺られながら、隣に座るゲイリーを見上げる。「どこへ行くの?」「さてな」 言葉こそ短いが、楽しそうな雰囲気が伝わってくる。きっと彼なりに何か考えてくれたのだろう。「アンナが一緒じゃないなんて、変な感じがするわ」 プライベートで出かける時は、いつもアンナを同行させていた。思えば、アンナが産まれてから、ふたりで外出したことはなかったかもしれない。「たまにはふたりというのもいいだろう」「そうね。なんだか懐かしいわ」 目を細めて思い出すのは
シャーリィを孤児院に預けてから半年後。レイスは馬車に揺られ、孤児院を目指した。 シャーリィがゲイリーを襲った罰としてレイスが下した罪は、孤児院で半年間奉仕することと、その後の追放。今日は彼女を国外追放する日だ。 いつもならお菓子や玩具をもって行くが、ことがことなだけに、そんな気は起きなかった。 孤児院に着くと、子供達と楽しそうに追いかけっこをしているシャーリィの姿が目に映る。(これは、私が彼女に下した罰だものね) 心の中で自分にそう言い聞かせ、馬車から降りる。レイスに気づいた子供達が一斉に駆け寄ってきた。「王妃様! 遊ぼ!」「私と遊ぶの!」「みんなで遊ぼーよ」 自分を囲んではしゃぐ子供達に、胸が締め付けられる。「ごめんね、みんな。今日はシャーリィお姉ちゃんを連れて行く日なの」 いくら事前に伝えていたとは言え、子供達が泣き出してしまうのではないかと懸念したが、子供達は顔を見合わせ、大きく頷いた。「お姫様だもんね」「でも、お別れ会はさせて」「お願いお願い!」「えぇ、もちろんいいわ」 レイスが了承すると、子供達は飛び跳ねながらはしゃぎ、シャーリィの腕を引っ張って施設内に向かう。シャーリィの顔は青白かった。 レイスも誘われて一緒に行くと、子供達は歌を歌ったり、劇を披露したりした。最初は暗い顔をしていたシャーリィだったが、頑張る子供達を見て、笑顔になっていく。「おまたせー!」 職員と数名の女の子たちがケーキを持ってきた。チョコレートプレートには、ぐにゃぐにゃした文字で、『シャーリィ大好き』と書かれていた。「こんなに素敵なケーキを用意してくれるなんて……」 シャーリィは泣き崩れ、子供達は慰めるようにシャーリィに抱きつく。(とても心苦しいわ……) 半年という短い期間だったが、シャーリィと子供達の間には強固な絆が感じられる。それを引き離すのは心苦しいものだった。 皆でケーキを食べた後、子供達はそれ
「ズルというのは、自分が得をしようとしてするものだ」「私は、自分を守るためにしたの。できるだけ知名度と支持率を集めて、あなたに酷いことをされても、民衆に守ってもらえるように……。だから、これはズルだと思うの」「いいや、守るためなら、ズルとはいわない。それに、バカ正直に前世の記憶だと言いながら発表してたら、誰も聞き入れなかっただろう。何より、お前の数々の発表で、ルシアーナは大きく発展した。レイス。お前は王妃としても、母親としても、妻としても、立派だ」「ゲイリー……」「それに、魔剣士になったり、乗馬が上達したりしたのは、お前の努力だ。前世では、どれもうまく行かなかったんだろう?」「そう、そうね……」 ゲイリーの言葉に、今まで抱えていた罪悪感が消えていく。自分とアンナを守るためとはいえ、他人の知識を自分が発案したかのように振る舞うのは、心が痛んだ。大きな棘が抜けたような気分だ。「レイス……」 ゲイリーはレイスを抱きしめる。安心したからか、睡魔がやってきて、あくびが出てしまう。「ごめんなさい……」「いや、いい。眠くなったんだろう?」「えぇ、なんだか、安心してしまって……」「それなら、寝よう」「そうね、おやすみなさい」「なぁ、レイス」「何かしら?」 ベッドに入ろうとして呼び止められて振り返ると、ゲイリーが好奇心で輝いた目でレイスを見つけていた。「さっき言ってたニホン? の話、また聞かせてくれないか?」「えぇ、喜んで。次は絵を描きながら説明するわ。絵に自信はないけど」「楽しみにしてる」 ふたりはベッドに入り、抱き合って眠った。 今度はレイスも悪夢を見ずにぐっすり眠れた。 翌日、レイス、ゲイリー、アンナはサンドイッチを持って敷地内の池に来た。最近公務で娘との時間が取れなかったからと、ゲイリーが提案したのだ。「わぁ、おみず、きらきら!」 まだ3歳のアンナは、きらきら輝く水面に興味津々。ゲイリーはそん
「私とアンナは、バルト達に引き離されたの。私は、寝室に閉じ込められて……。扉の隙間から入れられた魔便りを見たら、バルトがアンナを、麻袋に入れて、焼却炉に入れてる映像で……」「レイス……」 ゲイリーはどう声をかけていいか分からず、アンナを強く抱きしめ、背中をさする。自分や使用人の中にある残虐性を覗いてしまった気がしておぞましい。だが、そのおぞましい記憶を、目の前にいるレイスはずっと抱えてきた。そう思うと彼女の健気さがより愛おしくなる。「……たの」「え?」「動いてたの……。麻袋が、焼却炉に入る前に」 それは前世でアンナが焼かれる苦しみの中で死んでいったことを意味する。「すまない、レイス……」「いいえ、今のあなたは、悪くない……」「まったく記憶にないとはいえ、お前を傷つけてきた自分が許せない……。レイス、お前が望むのなら、別居したっていい。バルトが怖いのなら、解雇する」「いいえ、いいのよ。今のあなたも、バルトも、悪い人じゃないから」「無理してないか?」「えぇ、してないわ」「それならいいが……。今度からは、つらいことがあったら全て話してほしい。支えていきたいんだ」「あなた……」 真摯なゲイリーに胸を打たれたレイスは、最後の秘密も彼に打ち明けるべきだと思った。長年隠してきた、もうひとつの記憶を。「実は、もうひとつ、打ち明けたいことがあるの」「なんだ?」「私には、他の記憶もあるの」「他の? 違うパターンのレイスの人生ってことか?」「いいえ、まったく別人の記憶よ。それが私を支えてくれたの」 胸に手を当て、彼女を想う。孤独と戦い続けた好奇心旺盛な少女、火野玲海のことを。「こことはまったく別の世界。ニホンっていう国の女子高生……。15歳から18歳が通う学校の生徒の記憶よ。火野玲海っていう、とても強い女の子。その記憶があったから、私はここまでやってこれた」「ニホン……。ジョシコウセイ……。どれも聞いたことがない単語だ…
真夜中、レイスはうなされていた。「うぅ、やめて……」「レイス……」 彼女のうめき声で目を覚ましたゲイリーは、レイスの手を握る。ゲイリーが知る限りでは、レイスは王位継承式があった日から、毎晩のようにうなされている。「いったい、何がお前を苦しめているんだ?」「ゲイリー、メリンダ、やめて……!」 自分とメリンダの名がレイスの口から出たことに驚き、起こそうと伸ばした手が止まる。「何故、俺とメリンダの名を?」 ゲイリーは困惑した。自分が彼女の悪夢に出ていることにも、メリンダの名前が出たことにも。メリンダは数年前に投獄され、それっきり顔も見ていない。それにメリンダは、未だに地下牢にいる。「アンナを、返して……。バルト、やめて……」「アンナ? バルトが、一体何を……。レイス、起きろ! 起きてくれ!」 不安になってレイスを揺り起こすと、彼女は飛び起きた。「はぁ、あぁ……」「またうなされていたぞ、レイス」 ゲイリーはサイドテーブルの水差しからグラスに水を注ぐと、レイスに差し出す。「ありがとう、ゲイリー……。毎晩ごめんなさいね……。落ち着くまで、寝室は別にしましょうか」「いや、いい。それより、どんな夢を見たんだ?」 ゲイリーの問いに、レイスは押し黙る。まさか、前世でゲイリーとメリンダに酷いことをされたなど、言えるわけがない。魔法こそある世界だが、前世がどうという話を信じているのは、一部のオカルト好きくらいだ。「俺とメリンダの名前を呼んでいた。それと、バルトも」「え?」「俺達にやめてと言い、アンナを返してと……。何がお前を不安にさせている? バルトに何をされた?」「違うの……」「どう違うというのだ? レイス、頼むから話してくれ。心配なんだ」 ゲイリーの心配そうな顔に胸が苦しくなる。(あぁ、私……。いつの間にかゲイリーを好きになっていたのね……。こんな顔、させたくない) レイスは自分の気持
それからレイスは、最低限の公務と、魔法の練習代わりに、発光石に魔力を込めた。発光石自体は比較的安価で、子どものお小遣いでも買えるような値段だ。 レイスが魔力を込めた発光石は、電球を買えない平民達に、黒塗りのカップと共に配られた。発光石の光はそこまで強いものではなく、黒塗りのカップを被せてしまえば、ほとんど気にならない。 暇つぶしを主な目的とした慈善活動は平民達から大変喜ばれ、レイスの支持率はまた上昇していった。 月日が流れ、破水し、陣痛が来た。それはゲイリーとふたりでお茶をしている時に起きた。ゲイリーはバルトに医者を呼ぶように言いつけ、レ
月日は順調に流れ、レイスが18歳になると、彼女はゲイリーと結婚した。 この時既に、レイスは魔剣士として認められ、学会経由で世界に名を轟かせていた。その知名度や支持率は、ゲイリーを遥かに上回っていた。レイス側の出席者も、学者や剣士が多く、ゲイリー側の出席者達は軽くどよめいていた。 ここまで来るとゲイリーのメンツ潰しもいいところではあるが、この男にはこれくらいがちょうどいい。 すっかり紳士になったゲイリーとの生活は、前世の記憶と比べると遥かに快適だった。ゲイリーも使用人達も、レイスに嫌がらせをすることがない。今のレイスにはある意味王族よりも力
午後2時、いつもはレイスが嫌味を言われながら様々なことを学ぶ勉強部屋の空気はピリついていた。4人掛けのテーブルには、レイスとアルフレッドが向かい合って座っている。その間に、家庭教師の男が、2枚の紙を持って立っていた。「では、まずは問題の確認からしてください」 家庭教師は2枚の紙をテーブルの真中に並べる。紙にはそれぞれ算数の問題が書かれている。片方には10問、もう片方には15問。10問は同じ式だ。2桁の問題は3問程度で、残りは1桁の問題となっている。「本当に良いのか?」「えぇ、かまいません」 小馬鹿にするようなアルフレッドの目を真っ直ぐ見て、返事をする。その態度が気に入らないのか、
翌朝、目が覚めるとこころなしか体が軽い。それに、玲海の記憶が馴染んでいる感じがする。 侍女が来る前に着替えを済ませ、食堂に向かう。途中、父のアルフレッドに会う。「レイス、落馬をしたと聞いたが、動いて大丈夫なのか?」 その言葉に、心配は感じられない。アルフレッドはレイスを、フレアージュ家を繁栄させるための道具としか思っていない。レイスも、父が自分に愛情を注いでいないのは昔から分かっていた。昨日までなら、そんな父に萎縮していたが、もう違う。「はい、問題ありません」「そうか、気をつけなさい」 アル







