INICIAR SESIÓNそれからレイスは、最低限の公務と、魔法の練習代わりに、発光石に魔力を込めた。発光石自体は比較的安価で、子どものお小遣いでも買えるような値段だ。
レイスが魔力を込めた発光石は、電球を買えない平民達に、黒塗りのカップと共に配られた。発光石の光はそこまで強いものではなく、黒塗りのカップを被せてしまえば、ほとんど気にならない。
暇つぶしを主な目的とした慈善活動は平民達から大変喜ばれ、レイスの支持率はまた上昇していった。
月日が流れ、破水し、陣痛が来た。それはゲイリーとふたりでお茶をしている時に起きた。ゲイリーはバルトに医者を呼ぶように言いつけ、レイスの背中をさすり、手を握ってくれた。
波のような陣痛や、体が引き裂かれそうな出産の痛みを乗り越え、元気な女の子を出産した。
「レイス様、元気な女の子ですよ」
助産師がレイスに産まれたばかりの赤子を抱かせてくれた。
「あぁ、アンナ……!」
娘を抱きしめる幸福感は、前世にある記憶に勝る。この幸福を、すべての人に分け与えたくな
真夜中、レイスはうなされていた。「うぅ、やめて……」「レイス……」 彼女のうめき声で目を覚ましたゲイリーは、レイスの手を握る。ゲイリーが知る限りでは、レイスは王位継承式があった日から、毎晩のようにうなされている。「いったい、何がお前を苦しめているんだ?」「ゲイリー、メリンダ、やめて……!」 自分とメリンダの名がレイスの口から出たことに驚き、起こそうと伸ばした手が止まる。「何故、俺とメリンダの名を?」 ゲイリーは困惑した。自分が彼女の悪夢に出ていることにも、メリンダの名前が出たことにも。メリンダは数年前に投獄され、それっきり顔も見ていない。それにメリンダは、未だに地下牢にいる。「アンナを、返して……。バルト、やめて……」「アンナ? バルトが、一体何を……。レイス、起きろ! 起きてくれ!」 不安になってレイスを揺り起こすと、彼女は飛び起きた。「はぁ、あぁ……」「またうなされていたぞ、レイス」 ゲイリーはサイドテーブルの水差しからグラスに水を注ぐと、レイスに差し出す。「ありがとう、ゲイリー……。毎晩ごめんなさいね……。落ち着くまで、寝室は別にしましょうか」「いや、いい。それより、どんな夢を見たんだ?」 ゲイリーの問いに、レイスは押し黙る。まさか、前世でゲイリーとメリンダに酷いことをされたなど、言えるわけがない。魔法こそある世界だが、前世がどうという話を信じているのは、一部のオカルト好きくらいだ。「俺とメリンダの名前を呼んでいた。それと、バルトも」「え?」「俺達にやめてと言い、アンナを返してと……。何がお前を不安にさせている? バルトに何をされた?」「違うの……」「どう違うというのだ? レイス、頼むから話してくれ。心配なんだ」 ゲイリーの心配そうな顔に胸が苦しくなる。(あぁ、私……。いつの間にかゲイリーを好きになっていたのね……。こんな顔、させたくない) レイスは自分の気持
2ヶ月後。レイスはシャーリィの様子を見に、孤児院に足を運んだ。中庭では、子供達が追いかけっこやおままごと、ボール遊びをしている。シャーリィは子供達に混ざって、ボール遊びをしていた。「お姉ちゃん!」「いいパスだったわ、ケント!」 少年からボールを受け取ったシャーリィは、別の子供にボールを投げてあげる。「あ、王妃様!」「わぁ!」 子供達がレイスに気づくと、一斉に駆け寄る。シャーリィも晴れ晴れとした笑顔で出迎えてくれた。「お久しぶりです、王妃様」 シャーリィはスカートの裾をつまみ、一礼する。以前はレイスに憎しみの目を向け、敬語など使わなかったのに、今はにこやかに話しかけてくれる。その変化が嬉しかった。「元気そうね、シャーリィ」「はい。王妃様のおかげです。数々のご無礼を働いた私に、このような寛大な措置を、ありがとうございます」「いいのよ。あれはハンス様もゲイリーも悪いのだから」「そんな、もったいないお言葉……!」「お姉ちゃん!」 ひとりの少女がシャーリィに抱きつく。その子の名前は、レイスもよく知っていた。彼女を名付けたのはほかでもないレイスだった。以前、公務の最中に捨てられた赤子を見つけ、この孤児院に連れてきたのだ。「あら、アリア。お姉ちゃんに懐いているのね。シャーリィお姉ちゃんのこと、好き?」「うん、大好き! お姉ちゃんが私のママだったらいいのに」「ふふ、仲がいいのね」「うん! この前ね、眠れなくて泣いちゃったの。そしたらね、お姉ちゃんが一緒に寝てくれて、私が寝るまで絵本を読んでくれたんだよ」「そう、よかったわね」 この会話を、シャーリィは恥ずかしそうに聞いていた。「元気そうで安心したわ。これからも、この子達をお願いね」「はい。残り4ヶ月。子供達のために過ごします」 そう言って笑うシャーリィは、どこか寂しそうだった。「お姉ちゃん、ずっといるんじゃないの?」 アリアが寂しそ
「王妃、何故私を孤児院へ? 私が子供達に危害を加えるとは考えないの?」「あなたは、子供にそんな酷いことができる人ではありません。目を見れば分かります」「そんなことで分かるとは思えないわ」「あなたは、本当は誰よりも優しい人です。きっと、子供達もあなたを気に入りますわ」「何も知らないくせに」 シャーリィはそっぽを向いてしまった。 馬車が停まったのは孤児院ではなく、お菓子屋の前。「ここは孤児院に見えないけど?」「子供達はお菓子が大好きなの。だから、お土産を持っていこうと思って。シャーリィ、あなたも一緒に選びましょう?」「どうして私が……」 シャーリィが拒むと、一緒にいた衛兵が咳払いをする。シャーリィは渋々馬車から降りると、レイスと一緒にお菓子を選び始める。「このキャンディ、とっても人気なの。ほら、見て。色んな色があって、宝石みたいでしょう?」「ねぇ、シャーリィ。このクッキー、くまの形してて可愛いわ。きっと皆も喜んでくれるはず」「シャーリィはどんなお菓子が好き?」 お菓子屋に入ったレイスは、子供のようにはしゃぎ、お菓子を選んだり、シャーリィに好みを聞いたりする。そんな王妃の姿に、シャーリィは呆気にとられていた。「王妃様はいつもああやって、子供達にお菓子を選んでいるんだ」「そ、そうなの……」 衛兵が耳打ちをすると、シャーリィは苦笑しながらレイスを見る。自分を剣で打ち負かした時とは別人のようで、子供っぽくて王妃らしくないレイスは、シャーリィの毒気を抜いていた。 その後も玩具や絵本を買い集め、馬車の中が窮屈になる。「いつもこんなに買ってるの?」「いいえ、いつもはこれの半分もないわ。けど、今日はあなたが孤児院に行く記念日だもの。子供達にも喜んでもらわないと」 シャーリィはレイスを見つめる。お菓子や玩具を嬉しそうに見る彼女には、傲慢や哀れみなどは一切感じられない。それが不思議でならなかった。 馬車が孤児院に着くと、レイスは先に降りる
紙製の剣と白い服は、その日の夕方に届けられた。紙製の剣は愛用しているレイピアの何十倍も軽く、扱うのが難しい。「相手に当てるだけなのだから、力を抜いて振った方がいいわよね?」 レイスは力を抜きながら剣を振ってみる。剣は風を切りながら振り下ろされ、折れた。「力加減の練習しないといけないわね」 苦笑しながら新たな剣を持つ。紙製剣のストックは、20本ある。それはシャーリィの元にも送られた。明日、必要だったら更に数本追加される予定だ。 そして3日後。闘技場にはレイス、シャーリィ、ゲイリー、ハンス。そして審判のジェネロルがいた。「ルールは紙製の剣を相手の体に当てたら1本。ただし、顔や飛沫はノーカウントとする。魔法の使用は禁止」 ふたりはお互いの魔法封じの石を交換し、互いに魔法が使えないことを確認すると、紙製の剣に塗料を塗っていく。レイスは青を、シャーリィは赤を塗る。 準備を終えたふたりは剣を構え、向かい合う。ゲイリーとハンスは、客席からその様子を見守った。「では、第1試合、はじめ!」 ジェネロルの声で真っ先に動いたのはシャーリィだ。彼女は剣を下から上へ斜めに斬り上げるように動かす。この攻撃は全面広範囲に届くため、下がるしか避ける方法はない。レイスはバックステップで避けると、シャーリィの腕が上まで振り上がった瞬間を狙い、剣を突きつける。 青い塗料が、シャーリィの脇腹に付着した。「くっ……!」「1本! 両者元の位置へ」 ジェネロルに従い、ふたりは再び定位置に立ち、剣を構える。「第2試合、はじめ!」 今度はレイスから仕掛ける。剣を振り上げると、シャーリィは防御の構えに入る。レイスはくるりと回りながら剣をシャーリィの剣に当たらないように動かし、彼女の脇腹に当てる。「……っ!」 シャーリィは言葉を失い、その場に座り込んでしまう。「勝負あり! レイス王妃の勝利!」 ジェネロルが声を張り上げると、客席にいたゲイリーとハンスは安堵の息をつく。「いい勝負でし
「あの頃、父上が結婚を意識しろ、女性に言い寄ってみろと言ってたんだ……。その時の俺は、まだ13歳だったのに。それで、声をかけたのが彼女だったんだよ……」 ゲイリーは苦々しい顔で魔鏡を見つめたまま語る。「ある意味あなたも被害者ね……」 レイスは内心ハンスを軽蔑した。ゲイリーがメリンダを側室にしようとした時は、まさか彼が息子をそそのかし、乙女心を弄ぶような人だとは思いもしなかった。ハンスもおそらく、深く考えずに言ったのだろう。それがこんな事件を招くなど、誰が考えただろう。「このまま投獄されるなんて納得できない。レイス様は魔剣士と聞きます。私も、剣術は習ってきました。レイス様と決闘させてください」 シャーリィの願いに、誰もが絶句した。師匠も、夫も、レイス本人も。「私は、レイス様に剣術や、魔剣士の心得などを教えてきた。だから分かる。お前では彼女は倒せない。それに、お前は死罪となる罪人だ。王妃と会うことすら不可能だ」 ジェネロルはシャーリィを睨みつけ、咎めるように言う。「私、行ってくるわ」「行くって、取調室にか? やめろ」「このまま彼女が死罪になったら、彼女は一生浮かばれない」 レイスは制止するゲイリーを振り切り、移動魔法で取調室に入った。突如現れた王妃に、取調室にいた3人は目を丸くして彼女を見つめる。「シャーリィ・ホワイト。あなたの望み通り、決闘をいたしましょう」「王妃! いけません」 慌てて止めに入るジェネロルに、レイスは笑いかける。「師匠、やらせてください」「しかし!」「ルールは変えます。決闘と言っても、命を奪ったり、怪我をするようなことはしません。シャーリィ。あなたの取り調べの様子は、魔鏡で見ていました。陛下にも非があります。ですから、決闘を受けます。ですが、内容は私に決めさせてください」「自分に有利なものにするのでしょう?」「いいえ。一応確認ですが、あなたはどのような勝負をお望みですか?」「剣よ。私だって、剣術は学んできたわ」「へ
女性の取り調べは、レイスの師匠でもあるジェネロルが行うことになった。古びた狭い石造りの取調室で、ふたりはテーブルを挟んで向かう合う。女性は鎖で木製のボロボロの椅子に縛り付けられており、忌々しそうにジェネロルを睨みつけている。ジェネロルの斜め後ろには小さなテーブルがあり、記録係が記録魔法を発動していた。 レイスとゲイリーは、別室で魔鏡を使い、取り調べの様子を見守る。 アンナはハンスと彼女のお気に入りの侍女が面倒を見てくれている。「ゲイリー。本当に彼女を知らないの?」「見覚えはあるが、思い出せないんだ……。いったいどこで見たんだ……?」 ゲイリーは唸りながら、魔鏡越しに女性を見つめていた。「まずは名前から聞かせてもらおう」 ジェネロルが険しい顔で女性に問う。「シャーリィ・ホワイト。父は子爵です」 シャーリィが名乗った後に、レイスはちらりとゲイリーを見る。彼が未だに思い出せないらしく、小声でシャーリィの名前を繰り返しながら、眉間にシワを寄せていた。「何故、王位継承式で新陛下を襲った?」 ジェネロルの質問に、シャーリィの顔は悪鬼のようにおぞましいものになった。「あの男が私を裏切るからよ! あの人は昔、『妻にするなら、君のような子がいい』って言ってくれたのに……!」「あー!」 シャーリィが叫ぶように応えると、ゲイリーが声を上げる。その声量に、レイスは顔をしかめて耳を塞ぐ。「あ、いきなり大声を出してすまない」「思い出したの?」「あぁ、思い出した……」「私は! ゲイリー様と結婚するはずだったのよぉ!」 ゲイリーの言葉を遮るように、シャーリィが叫ぶ。「あなたの話は、取り調べが終わってから聞くわ」「あぁ……」 ふたりは魔鏡をじっと見つめる。「落ち着いてくれ。我々は真実を知りたい。何があったのか、ゆっくり話してくれ」 ジェネロルはテーブルの上にある水差しからグラスに水を注ぐと、拘束されているシャーリィ







