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7話

Author: 東雲桃矢
last update publish date: 2026-05-11 11:00:43

 玲海の両親は共働きをしており、キャリアを大事にする人だ。両親が授業参観や運動会、文化祭などの学校行事に来たことはない。どうして子供を産んだのか疑問に思うほど、会う時間すら短い。

 今はふたり共出張で、父はアメリカ、母はドイツにいる。会話をする時間もあまりないから、自分の両親がどんな仕事をしているのか、玲海はよく知らない。そもそも、知りたくもない。

 両親は時々連絡をしてくるが、生活費が足りているかの確認と、叔母さんを困らせないようにという注意だけで、玲海を心配する様子はない。海外を飛び回る高収入の両親を、人々は立派だと言うが、玲海からしたらネグレクトをしている毒親だ。

 今のように両親が出張で家にいない時は、3日に1回くらいの頻度で、母の妹が様子を見に来る。玲海の授業参観などに来るのも叔母のみゆきばかりで、彼女が実質的な母親と言っても過言ではない。

 友人に今の生活について話すと羨ましがられるが、こんな生活は楽しくない。だから配信をして寂しさを紛らわせているのだ。

「時間が時間だし、軽めがいいかな」

 玲海はコンビニに入ると、サラダをかごに入れる。ついでに明日の朝ご飯と昼食のパンやお茶も入れていった。

 玲海もある程度料理はできるが、生ゴミの処理も、作るのも面倒で、いつもコンビニやファミレス、出前などで食事をしている。一応玲海なりに健康に気をつけてサラダは毎回食べるようにしているが、栄養が傾いている気がするのは否めない。

 帰宅途中、再びレイスの記憶が少しずつ浮かぶ。それが玲海をイラつかせた。

 レイスは自分の意見をほとんど言わず、流されてばかり。どんなに馬鹿にされても、嫌がらせをされても、困ったように笑うだけ。挙句の果てに娘を殺されてしまう。

 不甲斐ないにもほどがある。

「あーもう、メソメソして情けない……」

 舌打ちをし、小石を蹴り飛ばす。少し離れたところにある交差点は点滅していた。玲海が着く頃には、信号は赤になっているだろう。それが面白くなくて、別の石を投げた。

「はー、だる……」

「あ、あのっ!」

 信号待ちをしていると、声をかけられた。そちらを見ると、小太りで黒縁メガネの男が、玲海を見下ろしてもじもじしていた。

(うっわ、なにこのキモオタ。キモ! いい歳したおっさんが女子高生に話しかけてくんなよ)

 男は黒のジャージを着ていて、肌がボロボロ。異臭もうっすらする。見た目は典型的な引きこもりニートのそれだ。

「は? 誰?」

「れみぃたんだよね!? ぼ、ぼっぼ、ぼきゅ、点線、なんだけど、わ、わか、分かる、かな」

 男はどもりながら自己紹介をする。やたら荒い息が気持ち悪い。

(点線って、リスナーの?)

 れみぃ☆の最古参リスナーのひとりに、点線というユーザーがいる。点線は毎回配信に来てはコメントをし、収益化してからは重課金をしてくれるリスナーだ。だからといって、会いに来るのはマナー違反だし、不愉快でしかない。

「人違いじゃない? 私、そんな名前じゃないし」

「嘘だ! 嘘はいけないんだぞ! その、きゃ、きゃわ、可愛い声は、れみぃたんだ!」

(うっわ、キモ!)

「落ち着いて。とりあえず歩こ? ね?」

 玲海はSNSで前に見かけたナンパ対策を思い出しながら男に話しかける。雑談に付き合いながら歩き、交番に連れて行くというものだ。もしかしたらこんな時間に出歩いている玲海も注意されるかもしれないが、この男とずっとふたりでいるのも、下手に逃げるのも危険な気がした。

「れ、れみぃたんだよね!? そうだよね!?」

「あーはいはい、それでいいから。ちょっと歩こ?」

「ぼ、ぼぼぼ、ぼきゅを警察署に連れて行く気だなぁ!?」

「は、はぁ!? なんでそんなことになるの!」

「れみぃたん、この前そういうツイートに反応してたじゃないか!」

 ちょうど玲海が思い出していたツイートのことを言っているのだろう。だが、それは少なくとも1週間以上前の話だ。

(そこまで覚えてるとか、コイツやば……)

 助けを求めようと辺りを見回すが、誰もいない。

「ぼ、ぼぼ、ぼきゅがいるのに、目をそらすなぁ! れみぃたんは僕のものになるんだぁ!」

 激昂した男は、ポケットから出したナイフを玲海の胸に突き立てる。

「あ、がっ……!」

 突然のことに理解が追いつかない。数秒後に熱が、更に数秒後に激痛が走り、刺されたと気づく。

「な、んで……」

「れみぃたんはぼきゅのなんだぁ!」

 男はナイフを抜き、何度も玲海に突き立てる。痛みと出血で意識が朦朧としてくる。

(うっそ、私、こんなわけ分かんない男に殺されて終わるの? そんなの、絶対に嫌)

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