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ラリっとボンノー!!〜鬼娘は活力煩悩まみれ、俺は無気力何もない〜
ラリっとボンノー!!〜鬼娘は活力煩悩まみれ、俺は無気力何もない〜
Author: 黒船雷光

壱話:元旦・俺部屋に赤鬼ギャル

Author: 黒船雷光
last update publish date: 2026-07-10 06:07:07

 朝日が差し込み始めた部屋で、俺は目を覚ました。

 いつもの、何もない天井。

 いつもの、何も変わらない部屋。

 ダルい朝だ。二度寝しようかと思った、その時。

 視界の端に、何か、違和感のある動くものが。

 ……あれ? 何か、いる?

 ゆっくりと視線を向けて、俺は固まった。

 ベッドサイドの、何も置いていないはずの床に、誰かが立っている。

 しかも、とんでもないのが。

 燃えるような赤色の肌。

 染めたのか地毛なのか分からない金髪と黒髪のストライプカラーで

 ハーフツインテ?で緩やかなウェーブのかかった髪は肩まで伸びている。

 頭からは、尖った二本の角が伸びている。

 全身には、見たこともない禍々しい文様が、まるでタトゥーかアザのようにびっしりと刻まれている。

 なのに、顔立ちは妙に整っていて、大きな瞳はギラギラと輝いている。

 そして、身に纏っているのは、どう見ても都会で見かける派手なギャルファッションだ。

 ミニスカートに派手なへそや肩が隠れないトップス、ダボ付いたソックスに厚底ブーツ。

 そのアンバランスさが、目の前の存在の異常さを際立たせていた。

「……え?」

 思わず声が漏れた。

 状況が理解が飲み込めない。

 寝ぼけているのか? 悪い夢でも見ているのか?

 赤鬼ギャルは、俺の戸惑いを楽しむようにニヤリと笑った。

「あー、やっと起きた。潟梨翔平かたなし・しょうへいだな!……つーか、アンタまーじで無気力過ぎてキモいんですけど。

 ホントに生きてる意味とかあんの?」

 けたたましい、だけど印象に残る声。開いた口の中には立派な犬歯が並んでいる。

 聞いているだけで全否定でダルくなるような、遠慮の欠片もない物言い。

 なんだこいつ。どうして俺の部屋にいる?

「誰だ…あんた…」

 恐怖で声が震えた。

 現実じゃない。こんなこと、ありえない。

「えー? 私、羅璃ラリ! 

 あんたの煩悩ぼんのうと、抜けた生きる活力が具現化した、超キュートな赤鬼ギャル様だよん!」

「は…?」

 羅璃ラリと名乗るソイツは、胸を張って言った。

 煩悩? 活力? 具現化? 何を言ってるんだろうか…この人…いや人か?

 頭がおかしいのか? それとも俺がおかしくなったのか?

「いや、意味わからないです…てか、何勝手に人の部屋に上がり込んでるんですか…! 

 出てってもらえますか?!」

 布団から半身を起こして、羅璃ラリを指差す。

 早くこの非現実的な状況を終わらせたい。

 羅璃ラリはフン、と鼻を鳴らした。

「は? 何言ってんの? 出てけるわけないじゃん。

 私、あんたの体から出ちゃった煩悩せいで、このままだと消滅しちゃうんだけど?

  あんたに生きる気力取り戻してもらわないと、困んの、私なんだから!」

「消滅? 知りません… けど、消えるならご自由に」

「うっわ、マジ鬼畜〜!お前が鬼か?!

  そーいうとこがマ・ジ・で、無気力っつーかクソダルいっつーか、ヤバイんだって! 

 だから、私が強制的にアンタに喝入れて、生きる楽しさ教えてあげなきゃなんないワケ!」

 一方的にまくし立てる羅璃ラリは、俺の拒否を全く聞く耳持たない。

 そして、次の瞬間。

「ハイ! じゃ、早速だけど今日から一日中付き合ってもらうから!

 とりま街とか連れ回して、アンタのくすんだ目に鮮やかな色を焼き付けてやる!」

 羅璃ラリは俺の腕を掴むと、強引にベッドから引きずり下ろした。

 その力強さに、俺はなす術もなかった。

 物理的に抵抗するのもダルいし、何より目の前の現実についていくのが精一杯だった。

 羅璃ラリは俺を引っ張ると、テキパキと身支度を始めた。

 何処から出したか着崩したスカジャンに首元にはマフラーを巻いているが、へそ出し、肩だしは止めないつもりらしい。

 その間、俺はぼうぜんと立ち尽くしていた。まだ頭の整理がつかない。

「っつーか、何突っ立ってんの?アタシの早着替えばっか見てないで、アンタも準備しなよ!」

 羅璃ラリがジロリと俺を睨む。早着替え? 俺、何か見てたか? ああ、彼女の身体のことか。

 改めて、目の前の羅璃ラリを見る。真っ赤な肌。渦巻く禍々しい文様。

 そして、その肌を隠しきれていない、際どいギャルファッション。

 ミニスカートからは健康的な太ももが覗き、胸元も結構開いている。

 一般的な感覚なら、いやでも目に焼き付くような、刺激的な光景のはずだ。

 俺は、ただ純粋に、その身体に刻まれた文様や、肌の赤さについて考えていた。

 どういう原理でこうなってるんだ?

 すると、羅璃ラリが俺の視線に気づいたらしい。

 ニヤリと、自信満々な笑みを浮かべた。

「ふーん? しょーへーも、やっぱ男じゃん? 私のナイスバディに見惚れちゃったわけ?」

 そう言って、羅璃ラリはわざとらしく腰をくねらせ、胸元を強調するように体を傾けた。

 挑発的な視線を送ってくる。

(うわ、すげぇ腰の動き…何そのポーズ。モデルとかやってんのか?)

 俺は、彼女のプロっぽい(ように見える)ポージングに、感心とも呆れともつかない感情を抱いた。

 煩悩がどうとか言ってたけど、こいつ、すげぇ承認欲求強そうだな。

「……別に。その文様見てただけ」

 俺は正直に答えた。煩悩とかどうでもいいから、早く元の生活に戻りたい。

 そのためには、こいつが消える条件を知る必要がある。

 俺の言葉を聞いた羅璃ラリの顔から、さっきまでの自信満々な笑みが消え失せた。

 代わりに浮かんだのは、驚愕と、そして…憤慨?

「はぁぁぁぁぁ!?!? は? モンヨウ? 

 私のこの完璧なナイスバディを前にして、モンヨウとか見てんの!? 

 マジありえんのだけど!? あんた、本当にチ〇コあんの!?!?」

 羅璃ラリがキレた。顔を真っ赤にして(元々赤いけど)、瞳を吊り上げて俺に詰め寄る。

「色気とか、ナマめかしいとか、ドキドキするとか、そういう健全な(?)欲望は!?!?」

「別に…そういうのないから」

 俺は淡々と答える。別に嘘じゃない。本当に何も感じないんだから仕方ない。

「なっ…! ウッソだろ!? ちょっと! これ見ても何も感じないワケ!?」

 羅璃ラリは信じられない、という顔で自分の胸元をさらに強調したり、スカートの裾をひらめかせたりと、ありとあらゆる「お色気アピール」を繰り出してきた。

 一つ一つの仕草は、確かに世間一般で言うところの「色っぽい」ものなのかもしれない。

 露出度も高いし。

 しかし、俺の心は氷のように冷たいままだった。

 何も響かない。全く、これっぽっちも。

(なんか、大変そうだな…こんな一生懸命アピールして。疲れないのかな)

 むしろ、羅璃ラリの必死な様子を見て、俺はどこか冷静に、分析的な視点で彼女の行動を観察していた。

 俺の全くの無反応に、羅璃ラリはついに頭を抱え込んだ。

「ヤバ…ヤバすぎる…このしょーへーって奴、マジで欠陥品じゃん…私の存在意義に関わるんだけど…」

 ブツブツと何かを呟きながら、羅璃ラリはガックリと肩を落とした。

 さっきまでの威勢はどこへやら、急に弱気になった羅璃ラリを見て、少しだけ、ほんの少しだけだが、気の毒なような、同情するような気持ちになった。

 その時、俺はふと、ずっと気になっていたことを口にした。

「改めて…その、身体の文様」

 俺の言葉に、羅璃ラリは顔を上げた。まだ少し呆然としている。

「これ。なんだかよく分かりませんが、すげぇ禍々しい感じの文様。これって何ですか?」

 羅璃ラリの赤色の肌に刻まれた、黒っぽい、複雑な線や図形。

 それは服で隠しきれていない部分にもびっしりと広がっていた。

 見ていると、妙に落ち着かない気分になる。

 俺の質問に、羅璃ラリは溜息をついた。そして、表情を少し真剣なものに変えた。

「あー…これね」

 羅璃ラリは自分の腕に刻まれた文様を指先でなぞった。

「これはね、アンタが今まで見て見ぬふりして、心の奥底に押し込めてた『煩悩』が、私の体を縛りつけてる『呪印』みたいなもんなんだよ」

「呪印…?」

 煩悩が呪印? 意味が分からない。

「そう。食欲とか、物欲とか、怒りとか、嫉妬とか、めんどうくさい人間関係とか、将来への不安とか…アンタが『ダルい』とか言って向き合ってこなかった全部」

 羅璃ラリは俺の目をじっと見た。

 その瞳の奥には、さっきまでのおどけた様子とは違う、何か強い光があった。

「それが、私という存在を形作り、同時にこうやって私の体を縛りつけてる。

 だから、私がこんな禍々しい見た目なのも、性格がワガママで騒がしいのも、全部アンタの煩悩のせい!」

「俺のせい…?」

 なんだか理不尽な言い分だと思った。

 勝手に現れておいて、俺のせいだと?

「そうだよ! で、この呪印…この文様が消える条件はただ一つ。

 アンタが、その文様になってる煩悩とちゃんと向き合って、受け入れて、そして乗り越えること」

 羅璃ラリは続ける。

「アンタが煩悩を一つ克服するたびに、私の体から文様が一つ消える。そして、文様が全部消えたら…」

 羅璃ラリはそこで言葉を切った。

 一瞬、ほんの一瞬だけ、彼女の表情に期待と、何か複雑な感情が入り混じったような影が浮かんだ気がした。

「文様が全部消えたら、私は完全に自由になる! この煩悩の呪縛から解放されるんだ!」

 羅璃ラリは肩をすくめた。

 どこか吹っ切れたような、でも少し切羽詰まったような響きを含んだ声だった。

「だから、私は必死なの! アンタが煩悩を抱えたまま無気力だと、私もこの禍々しい姿のままだし、下手したら存在すら不安定になる。

 私の綺麗な肌を取り戻すためにも、そして…完全に自由になるためにも、アンタには絶対に煩悩を解放してもらわなきゃ困るわけ!」

 相変わらず意味不明な状況だけど、羅璃ラリの身体の文様が、俺の無気力さと深く関係していることだけは理解できた。

 そして、この赤鬼ギャルは、自分のためにも、俺を巻き込んで騒動を起こし続ける気満々なのだろう。

 全く、ろくでもないことになった。

 ダルい、という気持ちと同時に、ほんの少しだけ、未知への戸惑いが湧き上がってきた。

「…ほら、早く行くぞ! こんな無気力な奴、一刻も早く人間らしい感情取り戻させないと!アタシがおかしくなる!」

 羅璃ラリが再び俺の腕を掴み、玄関へと引きずっていった。

 こうして、俺の無気力な日常は、煩悩まみれの赤鬼ギャルによって、問答無用にかき乱され、そして「煩悩解放」というよく分からないミッションが加わったのだった。

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