Mag-log in
そもそも元旦からどうしてこんなことになったのか…
無気力なりに前日の大晦日の出来事を思い出してみる。◇
前日の大晦日はコンビニバイトの予定ではなかったが、朝に急遽依頼された。
「悪いね潟梨君……高橋さんが急に予定入って断れないって言うからさ」
電話先のコンビニ店長の佐藤さんが頭を下げているのが頭に浮かぶ。
断るのもダルかったので深夜テッペンちょうどまでシフトに入ったのだった。そして、クッソダルい深夜のコンビニバイトがようやく終わった。
レジの清算を終え、佐藤店長の「お疲れー」という気の抜けた声を聞き流しながら、バックヤードで着替える。
ヨレヨレのスウェットとTシャツに着替えると、防寒のダウンジャケットを着て裏口から退出する。
外に出ると体から力が抜けていくのを感じた。大晦日の晩は、都会は皆故郷に帰っていてヒッソリしている。
夜空を見上げると、いつもより少し多く星が見える気がする。 冷たい夜空の空気を少し多めに吸い込み吐くと、白い息が視界を遮るように立ち昇る。ため息なのか、無気力の最後の残りカスが見えているのか……そんな気持ちも暗闇に消えていく。
別に特別なことでもない。バイト中は最低限の動作しかしないから、終わればいつもこんな感じだ。
日付はもうすぐ変わって、大晦日も終わり。
これから迎える新年も、どうせ何も変わらない日常が続くだけだ。そんなことを考えながら、重たい体をずるずると引きずるようにしてアパートへ向かう。
冷たい夜の空気が肌を刺すけど、それすらもどこか他人事のように感じた。街のあちこちから、ぼんやりと除夜の鐘の音が聞こえてくる。
ゴォォォン、と低く響く音は、耳には届いているけれど、心には全く響かない。 煩悩を払うっていうけど、俺に払うほどの煩悩があるのかすら疑問だった。 どうでもいい。早く家に帰って、何も考えずに眠りたい。アパートまであと少し、というところで、通りかかった寺の前に人が集まっているのが見えた。
除夜の鐘を撞いているのだろう。通り過ぎようとした、その時だった。「あんた、最後に一つ、
寺の表に出ていた住職らしき老人が、俺に声をかけてきた。
別に撞きたくなんてなかったけど、断るのも 重そうな
その瞬間、体の芯から、今までずっと詰まっていたような…
重くて淀んだ何かが、すぅっと音もなく抜け出していく感覚に襲われた。「……っ!?」
一瞬、息が詰まる。なんだ? 今、俺の体から何が……。
「はい、これで百八回目でしたな」 住職の穏やかな声で現実に引き戻される。体の感覚は元通り。気のせいか?
「百八って確か……
住職に軽く頭を下げ、俺は再びアパートへの道を歩き出した。
さっきの体の感覚は、一体何だったんだろうか。 少しだけ気になったけれど、すぐにどうでもよくなった。家に帰り着き、鍵を開ける。
いつもの、変わり映えのしない俺の部屋。 ただいま、という相手もいない。除夜の鐘を撞いたところで無気力な日常に戻るだけ。
そう思っていた。
◇
そうだ、思い出した…除夜の鐘だ。
先ほど、この
「あの…
「ああん?何?……いつまで出発の準備掛かるん?」
カシャ スマホのカメラで撮影してみた。 メモリの中の写真には、ちゃんと写っていた。「あ、何?美しい
「SNSとかに上げるなよな……プライバシーの侵害ダゾw」
ダルい…ナニコレ……
躍起になって調べてもどうにもならないという事もあるだろうが、何より、ダルさが勝ってどうでもよくなった。
面倒くさい。 しかし、
何かしたとは?
「ラリってボンノー!!」
なんか不思議な踊りをして嬉しそうに言う。
「早速鳩尾の文様が少し消えたぞ!『
「何?チって?」
「『
「
「そういうの良いんで……」
「ムキー!!お前ホントに……ニヒ……」怒った風なリアクションが続かずニヤける
「ホラ!!ジャンジャン行くぞ!ホラ外出るぞ!さっきから何も準備が進んでないぞ!」
「準備も何もそもそも何もないです」
ファッションも何も興味がない俺は着の身着のままで楽な格好で普段から過ごしている。「うっわ、最悪……時間の無駄ジャン…じゃあ立ちなよ!ほれ」
ベッドから引きずり落とされた時のように強制的に立たされて引っ張られる。 どうやら、この
こんなに簡単に感応するなら、意外と早く昇華出来るのではないかと思いつつ…
それ以上考えるのが面倒になったので、黙って(1/108)
羅璃の言葉が、俺の頭の中に響き渡る。(逃げるな……ちゃんと受け止めろ……) 羅璃は、俺を無気力の底から救い出し、人との繋がり、夢中になれること、そして生きる喜びを教えてくれた。彼女の導きがなければ、今の俺は存在しない。そして、今、その羅璃が、俺に最後の「課題」を与えている。 それは、「愛」を受け入れること。 俺はゆっくりと立ち上がった。さくらさんの視線が、不安げに俺を見上げている。羅璃は、じっと俺を見つめ、その表情からは一切の冗談めいた雰囲気は消えていた。 ----------「……今日の天宮司さんと……私……どっちの方が……魅力的で……翔平の好み……?」 以前羅璃はそう俺に聞いてきた。「……うれしいよ、しょーへー……」 イヤリングをプレゼントしたとき泣いていた羅璃。 ----------「潟梨君がちょっと良いな……って」 大学で羅璃を監視に来た時の天宮司さんの新鮮な反応。高橋先輩のバンドと聞いて見に行ったライブハウスのサクラ……。「そこで……私が考えた策が……潟梨君を恋人として、結婚前提でお付き合いしていると紹介し…」 ---------- そういえば、御父上に会う切っ掛けはいきなり結婚相手としてだったっけ…… 俺は、さくらさんの前に向き直った。 さくらさんの目には、迷いも、計算もない、ただ純粋な感情が宿っていた。彼女は俺の無様な姿も、俺の隣にいる羅璃の存在も、すべて知った上
「きらーん!羅璃の正体は……天邪鬼だよ!」 羅璃の口から出た言葉に、俺は息を呑んだ。 天邪鬼。 ……ん?邪鬼とどう違うんだ?……と思っていたら…… 「邪鬼とか言ってる雑魚じゃねぇぞ、サクラ」 羅璃は、さくらさんを睨みつけるように言った。 さくらさんは、少し緊張した面持ちで、ただ頷いている。 俺は一体どういうこと?という顔をしていたと思う。 ◇「あの年末……しょーへーお前は、あの時点であらゆる煩悩が体から剥がれかけて、引き摺っていた。そんなニンゲン、初めて見た。全部一塊で喰えばラッキーくらいの気持ちで、お前についていったんだ」 羅璃は、淡々と語り続ける。 ……?ん?……ついてった……?憑いてた?色々なんか初情報が多すぎて混乱する。煩悩って引き摺るものなのか?煩悩って喰らうモノなの?「だが、除夜の鐘を撞いたことで全て一気に剥がれた煩悩の塊が、全て羅璃の体に憑依して、羅璃を強烈に縛ったんだよな……」 すでにほとんどが消えている文様の痕を摩る羅璃。「喰らうどころか、羅璃が煩悩の塊に喰われる形になったんだ」 手のひらを掲げて電灯にかざす羅璃。「逃げても呪縛から抜け出せず、このままでは羅璃の力を吸い尽くされて、消滅してしまうところだった……しょーへーの溜め込んだ欲求の煩悩は極めて濃縮された呪いの力みたいなもんだったんだよな~マジやばくね?ってなったんだよね…あの坊主、絶対全部分かっててしょーへーに鐘撞かせたよな~」 そうか……そういえば、あのお寺……羅璃に引っ掻き回されてあの後一度も行ってないけど…あの住職には何か見えていたのだろうか? それにしても……羅璃の説明に、いかに人間性を失くして生きていたのかを思い知らされる……羅璃も大変だったのだな……「こうなると、元の持ち主である翔
完成したゲームは、ネットのゲーム配信プラットフォームを使って、無料で遊んでもらおうということになった。 インディーズタイトルとして集金できる方法も検討したが、山本中会長が「利益を追求するのは、プロになってからで良い」と言ったので、誰も反対しなかった。 その会長のセリフは『プロのゲーム開発者を目指す』という、強い決意の表れだと感じた。 配信を開始すると、予想外の反響があった。 シンプルなゲーム性、中毒性のあるテンポと難易度が受けたのだろう。 数名のゲーム系配信者の目に留まり、彼らに紹介されたこともあって、あっという間に数千本のダウンロードに届いた。 ユーザーからの評価もそこそこ良く、想定よりもバズったと言って良いだろう。 俺たちが作ったゲームが、見知らぬ誰かのPCの中で動き、楽しんでもらえている。 その事実に、胸が熱くなった。 その夜、さくらさんも呼んで、サークルメンバーとささやかな祝賀会が開かれた。 メンバーも多くないこのチームは小さな居酒屋に席を取り、これまでの苦労話や、今後の夢を語り合う。「やっぱり会長はゲーム業界目指すんですか?」「いやぁ~どうしようか……と悩んではいるよ。叔父さんがゲーム業界の人って言ったけど、色々大変だっていう話は聞いているからね……でも、今回こうやって身内以外にプレイしてもらって生の感想を貰った達成感得ちゃうとね……」「全然迷ってないじゃん……悩んだふりしてもう決めちゃっているんでしょ?」 普段は大人しめの中村山くんがアルコールの力もあってかツッコミがキツイ。「どうなんだろうな……実際プロの現場ってこんな少人数じゃないだろうし、そんな中でどれだけ自分たちの思い通りのものを作れるのかとか……まあ、今回だって羅璃君が焚きつけなければ僕らは無為に時間を消費するだけだったしな……」「そうだそうだー羅璃様に感謝シロー!!」 羅璃は相槌打ちつつさくらさんと話し込んでいた。 俺はグラフィッカーの寺社杜さんと今どき
後日、さくらさんの母親からさくら経由で、千明が高校に復帰したこと、そして軽音部に入部したこと、さらにはさくらと同じ大学を目指すことを決めたと教えられた。「大学進学とか翔平さんができるなら、私にもできそう」 千明は、そう言ったらしい。 俺は複雑な気分になった。 俺は、羅璃にここ半年で半ば強制的に引っ張り上げられたようなものだが…… しかし、千明にとっては、それが大きな一歩になったのだとしたら、素直に喜ぶべきだろう。 さくらさんは、千明が自分で何かをやろうと決めたことを、心から喜んでいるようだった。 ある日、さくらさんが俺のアパートを訪れ、羅璃に手作りのカップケーキを渡した。「羅璃さん、本当にありがとうございました」 さくらさんが深々と頭を下げる。「千明さんが、自分から前向きになって……上之園さんも父も女子高校生の気持ちを動かすことは難しく、同世代とは言えないまでも、若い人の行動が良い影響を及ぼすことの証明になったと……私も自分を解放するためにバンドを始めましたが、その力や行動で良いことばかりがあるわけではないと改めて反省しました……羅璃さん、気づかせてくれて本当に感謝しています」 羅璃は、満面の笑みでカップケーキを受け取ると、自慢げに食べ始めた。「しょほへー、見てみろぉよ! 羅璃は感謝されてるんだぞぉ!んぐんぐ……」 いや流石に食べ終わってからしゃべれよ…… 羅璃に煽られて、俺は少しだけ複雑な気分になる。 お礼は、羅璃にばかりで俺にはないのか、と。 すると、さくらさんが、小さなラッピングのクッキーを俺に差し出した。「あの、翔平さんにも……あります」 羅璃がもらったカップケーキと比べると、明らかに小さい
後日、なぜか千明が俺の通う大学のオープンキャンパスに参加していた。 もちろん、さくらさんと羅璃も同席だ。 この企画は、羅璃が「この際、推しが普段どんなことしているのか、実体験してもらおう」と言い出したものだ。 最初は、「羅璃が千明と一緒に住んで、翔平がグータラ大学生なだけではないと知ってもらおう」とか、恐ろしいことを言い出したのだが、さすがに「犯罪だからやめてくれ」と懇願する羽目になった。 千明自身は「どうせ家には帰っていない」と開き直っていたが、さくらさんがなんとか説得して、オープンキャンパスに落ち着いた形だ。 まずは講義の見学。 法学部の講義室に足を踏み入れた千明は、学生たちの真剣な眼差しや教授の難しい専門用語に、最初から戸惑っている様子だった。「ねぇ、羅璃さん、これ、何言ってるか全然わかんないし、つまんなーい~……ウチ思うんだけど……『勉強なんか意味ない』『学歴社会は終わった』ってネットでも見るし~友達も皆言ってるんだよね~だるぅ~って」 千明が、俺の隣で小さな声で羅璃に囁く。 羅璃は、フッと笑って肩を竦めた。「しょーへー、千明に大学の意義を教えてやれよ」 俺は、羅璃に促され、千明に話しかけた。「まあ、いきなりは難しいよな。でも、千明ちゃんはさ、『勉強なんか意味ない』とか『学歴社会は終わった』とか、ネットとか友達から聞いたことそのまま言ってるだけだろ? それって……本当のことかな?」「え~どういう意味ですかぁしょーへーさん?」「今俺と会話している千明ちゃんは日本語で話が通じ合っているよね?」「え?当たり前じゃん」「でも……じゃあ、すいませんさくらさん……」 さくらさんに話を振る。 さくらさんは意を得たと頷き突然英語で話しかける「I'd like to ch
女子高校生千明がさくらさんに駆け寄っていくのを見て、羅璃がニヤニヤしながら千明に話しかけた。「で? 千明の推しは誰なんだよ? やっぱりサクラ?」 千明は頬を染めて頷いた。羅璃は、そんな千明を見て、満足げに俺の方を振り返った。「なあ、千明、羅璃の推し活のことを教えてやるよ~ 翔平?!羅璃の推しは誰だと思う?」 俺は一瞬言葉に詰まった。羅璃の推し? もしかして……さくらさんとか? 羅璃は俺の煩悩の具現化のはずだし、推しとかあるのか? 羅璃は、混乱している俺の様子を見て、フッと笑った。「そんなの、しょーへーに決まってんだろ?」 羅璃の言葉に、千明は「え?」と声を上げた。 俺と羅璃を交互に見て、目を丸くする。 羅璃は、そんな千明に向かって、わざとらしい声で言った。「こんな冴えないオッサン、千明は推せないだろ?」「オッサンは無いだろ! せめてお兄さん……!」 俺は、思わずツッコミを入れた。羅璃は、俺の反応を楽しんでいるようだ。「羅璃の推し活舐めんなヨ~ しょーへーはな……欲望含めたすべての煩悩を解脱しちゃって、正月に死ぬところだったんだぞ…… それを推し活……活力ぶっこんで羅璃がここまで復活させたんだぞ。」「え?俺死ぬところだったの?」初耳だ……「生きたいって言うのは煩悩だぞ、しょーへー……逝きたいってのも煩悩だけどな」「さっきライブで逝きかけたけどなー」回想する俺。 ニカリと笑う羅璃。「そんな冗談いえるなら、今は大丈夫ってことだ……どう、千明。これがギャル







