「ちっさ。前に聞いた時も思ったんだけどさ、ただの我儘マザコン坊やだよね」
「ぶふっ····ノーヴァ、そんなはっきり言っては悪いですよ。幾らくだらない理由だからって····」「くだっ····お前らに俺の気持ちなんてわかんねぇよ! もういい。何もかも嫌だ。暫く俺の部屋には来るな!」2人を追い出して、俺はベッドに倒れ込んで泣いてしまった。勝手に溢れて止まらなかったんだ。
心の傷を嘲笑われたの事や男として終わっていた情けなさ、他にもぐるぐる巡る様々な感情で気持ちがぐじゃぐじゃだった。嫁探しは白紙に戻したい。けれど、跡を継ぐ事は諦めない。などと、そんな勝手が許されるはずはない。百も承知だ。
それでも、もう決めた事。後継問題は先送りにして、跡を継ぐ事に専念するしかない。後の事は継いでからどうにかすればいいのだから。 このくだらない実験に、意味があったのかは分からない。俺が傷ついただけな気もする。だが、できる事とできない事が分かっただけでも儲けものだ。今はそう思う事でしか、自分を慰められなかった。 どのくらい経ったのか、いつの間にか涙は止まり呆然と天井を眺めていた。何もかも投げ出して逃げてしまいたい。いっそ、今すぐ吸血鬼になってしまおうか。そう思った瞬間だった。 コツコツと遠慮がちに窓を叩く音。ノウェルだ。ノーヴァとヴァニルよりも小ぶりな羽をバタつかせている。 俺は無気力に窓を開け、思考など手放してノウェルを迎え入れた。「お前、飛べるんだな。いよいよ吸血鬼らしいじゃないか」
「あはは、意地悪を言わないでくれよ。あまり試したことがないから、奴らほど上手くは飛べないんだけど····ってヌェーヴェル、もしかして泣いていたのかい?」心配そうな困り眉になり、俺の目尻を親指で拭う。乾い
俺は、ノウェルをイェールに盗られたくないのだろうか。胸を張って“好き”だとも言ってやれないのに。「君が僕とイェールの関係をハッキリさせたいのなら、僕はいつだってイェールを突き放すよ」 俺の頬に手を添え、迷わずに言い切ったノウェル。俺は、その言葉に安心してしまった。「イェールには申し訳ないけれど、君と愛を交わす為に利用させてもらっているだけなんだから。ヌェーヴェル、安心しておくれ。僕はいつだって君の思い通りに動くよ」「そ··んな事····俺が言える立場ではない。イェールの事はノウェルが決めればいい。でなければ、イェールに不誠実だろう」 ノウェルの目を見て言うことができない。どれほど卑劣な考えがよぎっているのか、自分でわからないはずがないのだから。「はは····君は本当に真面目だね。そして狡い。自分の気持ちは見ないフリしてしまうのだから」「そんなつもりじゃ····いや、そんな事はない。気づいたんだ。俺は自分の事ばかりで、お前達の好意を蔑ろにしていた」 ノウェルから逸らしている視線を、さらに落として続ける。俺はこれを、自身への戒めとして口にするのだ。「クソ親父みたいな人間にならないようにと思っていたのに、結局アイツと同じ事をしていたんだ。俺は、俺が許せない····」 ノウェルはそっと俺の肩を抱き、瞼に優しくキスをした。ふと、目が合う。俺に似た顔で、俺にはできない優しい目で俺を見つめる。「ヌェーヴェル、ベッドに行こうか」「······あぁ」 俺たちはたどたどしく触れ合う。2人きりでするのは初めてだ。だからなのか互いに緊張を隠せず、妙な遠慮を孕んでいる。「お前が挿れるのか?」「君、僕
ノウェルの間抜けな微笑みを見て心臓が跳ね、抱き締めたいと思った。これは、俺がこいつに恋をしているからなのか。本当にこの気持ちの正体が、バカ2人とノウェルへの恋心なのだろうか。 到底認めたくないが、症状がノウェルの定義した“恋”には当てはまる。だとしたら、これは由々しき事態だ。性別どころか人数まで、俺はどこまでいい加減で不誠実なのだ。 こいつらに本気で心を奪われる事など、有り得ないと確信していたのに····。 これまでの俺は、女に限らず他人を信用しないで、家督を継ぐ事ばかり考えていた。だから、何かに心を揺さぶられようが、それはひと時の迷い事でしかない。そう思っていたのだ。 だからこそ、今まで真剣に考えてこなかった。恋などというものを、まさか自分ができるとも思っていなかった。憧れだけを残し、政略結婚をするのだろうと踏んでいたのだから。 こんなにも他人を自由に想う事ができたなんて、正直戸惑いを隠せない。しかし、ようやく向き合う決心をしたのだ。これまでの凝り固まった考えなど捨て、柔軟にこいつらと向き合いたい。だが····「俺は、お前の定義でいくとマズいんだ。ノウェルだけじゃなくて、ヴァニルとノーヴァにも恋をしている事になる。こんな不誠実なものが恋なわけないだろう」「確かに不誠実かもしれないね。けど、全部恋でいいんだよ。君は、僕達それぞれを想ってしまった。それだけの事さ。いずれ、僕を選んでくれればそれでいいんだよ」 愛情に見せかけた、傲慢でエゴイスティックな笑顔を俺に向けたノウェル。妖艶とも不気味ともとれるその厭らしい笑みに、俺はまた鼓動を高鳴らせる。「そんなの····選べるかわかんねぇ··から、約束なんてできない」「今はそれでもいい。君の心がほんの僅かでも、僕に向いてくれているのなら」 ノウェルは優しいキスをする。ノーヴァとヴァニルは滅多にしない、唇を重ねるだけのキス。キスって、こんなにも
ノウェルは屹立したそれを入り口に馴染ませると、俺の反応を見ながらゆっくり挿入した。「んぁっ····前立腺、ゆっくり擦るな····」「これ、気持ちイイね。あぁほら、どんどん溢れてくる」「勝手に出るんだから、しょうがないだろ。あぁっ! 待て、奥はダメだ」「すまない、痛かったかい?」「違う····すぐに、その、イッてしまうから····」「そうか、痛くないのなら良かった。けど、奥はもう少し解してから貫いてあげるね」「ふあっ、やめろって! 本当に、止まらなくなるからぁっ」 ノウェルは予告通り、奥をグリグリとちんこの先で解すと、一息に差し貫いた。「んあ゙ぁ゙ぁ゙ぁぁ!! やっ、ああぁっ····ダメだ、やめっ、ひあぁっ··止まんねぇ····」 潮を噴くのが止まらなくなり、ベッドも俺達もぐしょぐしょになってしまった。非常に気持ち悪い。これは何度やらかしても慣れない。 なのに、ノウェルは嬉々として奥を抉り続ける。「はぁ····ンッ、ヌェーヴェル、後ろから突きたい。そのまま体勢を変えられるかい?」 なんて聞きながら、強引に足を持ち上げて俺を半回転させる。俺はへばりながら、腕で支えてなんとか身体を捻じった。「お前のこと··だから、俺の顔を、見ながら··ヤりたがると··思ってた。んあ゙ッ····奥、も、やめろぉ····」「よく分かっているね。君の顔が見られないの
抵抗する余力もなく自ら穴を拡げ、勝手に振れてしまう腰がノウェル誘う。ノウェルを受け入れる体勢が、完璧に整ってしまったじゃないか。「いくよ。根元まで全部、いっきに挿れるからね。最奥で僕を受け止めて。ハァ····ンッ゙··愛してるよ、ヌェーヴェル····ヌェーヴェル····」「ひぎぃ゙っあ゙ぁ゙ぁあ゙あ゙ぁ!!! らめぇっ、腹裂けてるっ!! やらぁっ、腹あちゅい! ノウェルの精子あづいぃぃっ!!!」「んぐっ····そんなに可愛いと、射精が止まらないじゃないか」「バカッ!! どんらけ出すんらっ! あ゙ぁ゙ぁ゙~~っ····噴くの、止まんにぇぇぇ····」「ンッ、あぁっ······このままもう1回、いいかい?」 と言いながら、もう腰を振っているじゃないか。「ひぃっ、いいわけねぇだろ! ぬ、抜けよ····」 聞いたくせに、俺の言葉を無視するノウェル。その後も、欲望のままに俺を犯し尽くした。性欲で言うと、ノーヴァとヴァニルの間くらいだ。 俺は失神を繰り返し、気がつくと窓から朝陽が差し込んでいた。「ノウェ··もう、朝ら····いつまでヤッてんら······」「本当だ、心地いい朝だね。。すまない、君に夢中になりすぎていた。本当に、もうこれで最後にするからね」「嘘らろ····まらヤんのか&
月明かりが眩い夜更け。俺に跨るヴァニルの顔がよく見える。無感情に作られた笑顔が、身震いしてしまうほど恐ろしい。「おや? ヌェーヴェル、震えてませんか? 寒いですか?」「違····お前が怖いんだよ」「そうですか。自業自得ですから、仕方ありませんね」「なぁ、何が気に食わなかったんだ? ノウェルと出掛けた事か? それとも、煽った事か?」 震える声で聞く俺を、蔑むような冷たい眼で見下ろす。愛だの恋だのと言っていた甘い雰囲気は何処へやら。 吸血鬼たる冷酷さが剥き出しになっている。その無機質な瞳からは、背筋が凍るような殺意を感じた。「全部です。慰みにノウェルを選んだ事も、あんな厭らしい顔で帰ってきた事も、全部。ですが、貴方は私を妬かせたかったんですよね。えぇ、充分妬いてますとも。その結果がこれです。満足ですか?」 饒舌に嫌味を垂れるヴァニル。嫉妬深さを知っていながら煽った、俺の落ち度である事は間違いない。けれど、それにしたって限度というものがあるだろう。 ヴァニルを部屋に迎え入れた途端ベッドへ放り投げられた。挙句、ヴァニルが腰の上に跨っているから、蹴って抵抗する事もできない。「ヴァニル、あまりヌェーヴェルに酷いことをするなよ。瀕死のヌェーヴェルを見るのは嫌なんだ」「大丈夫ですよ、ノウェル。この人、死にかけて感じてますから。貴方が、虫の息のヌェーヴェルを見るのが辛いのは知ってます。いつも目を伏せてますものね。しかしまぁ····ヌェーヴェルを連れ出した事、怒ってないわけじゃないですからね」 冷ややかな目でノウェルに言い置くと、ヴァニルは俺のケツをろくに解しもしないで捻じこんできた。 自分のブツのデカさを考えろ。そう言ってやりたかったが突然与えられた痛みに耐えきれず、思わずヴァニルに抱きついてしまった。「い゙っ··ンァ····ヴァニル、痛い··&mid
俺以外に笑顔を振り撒くことに少し腹が立つのは、ノウェルの言う通り俺がヴァニルを好いているからなのだろうか。これが、嫉妬というものなのか。「ほら、ヌェーヴェルもノウェルの方を向いてください。貴方の心がノウェルへ向いたとしても、今貴方のナカに居るのが誰なのか、しっかりとここで感じてください」 ヴァニルは俺の下腹部を握って言った。意図して爪を立てられ、皮膚にくい込んだそこからタラッと違う流れる。「イァ゙ァッ····」 痛みと快感が同時に走った。そこを刺激されると、俺の身体はイクように躾られているのだ。「やっ、あぁっ♡ ぅあ゙あ゙ぁぁっ!! 爪っ、痛゙いぃ! やめっ、腹を握るなっ──んはぁっ····ヴァニル、嫌だ、そのまま奥抉るなぁぁ!!!」 ここから、ヴァニルの容赦のない責めが始まった。 ノウェルと向かい合わせにされ、互いの漏らす嬌声を耳元で受けながら、腹の奥をぐぼぐぼ抉られ続ける。ケツも腹も麻痺してきて、段々と感覚がなくなり、叩きつけるような衝撃が脳まで痺れさせる。 それなのに、快感がやまないのは何故なのだ。「ヌェーヴェル、息しててくださいよ。まだまだ、これからなんですから、ねっ」「ンンッ、イ゙ッ、にゃぁぁぁぁっ!! もうらめらって、奥やらぁ!! も、もぉけちゅの感覚ないんらって。けちゅおかひくなってぅからぁ!!」「ヌェーヴェル、落ち着いて。大丈夫だから····ん、ふぅ····はぁ··ン····」 ノウェルが甘いキスをしてくる。どうしてくれよう、声を出さないと苦しいのに、口を塞がれてしまった。「あぁ··、締まりますね。喋れていないのも可愛いらしいです。ヌェーヴェル、ノウェルとのキスは気持ちイイですか?」「んっ、はぁっ&m
何度射精を受けたのかわからないが、俺が返事もままならなくなった頃、ようやくノーヴァが俺のナカから出ていった。「ノウェルも挿れたいですか?」 ヴァニルが、イェールに抱き潰されていたノウェルに聞く。「はぇ····ヌェーヴェルに、挿··れる····挿れ··たい」「はは。そんな状態で挿れられるんですか? 随分ヘロヘロで可愛らしくなってますけど」 嫌味を言うヴァニルへ、イェールが代わりに減らず口を叩く。「可愛く仕上がってるでしょう? オレ、気づいたんですよねぇ。ノウェルさんがそこの男たらしに挿れらんないくらい、抱き潰せばいいんだって。ね、ノウェルさん。もう勃たないですよね?」「んぐぅぅ····イェール、もう、奥抜くの、やだぁ····」「あっはは! イェールは見込みがありますねぇ。貴方は我々寄りだ。愛の奴隷となり存分に楽しみなさい」「アンタに言われなくても、ノウェルさんは俺のモノにしますよ」 ノウェルがイェールのものに····やはり、それは嫌だな。 俺は、遠退いていく意識を手放さないよう踏ん張りながら、心が呟いた言葉をそのまま口から零した。「ノウェルは、お前のモノには····ならない······」 ヴァニルとイェールが、ドスを利かせ『は?』と声を揃えた。「ヌェーヴェル、それは、どういう意味だい? だったら僕は····誰のモノなんだい?」「お前は、俺のモノだろ。違うのか?」 ノーヴァと入れ替わりに、再び俺のナカ
ノーヴァのちんこを喉奥にねじ込まれて目が覚めた。「んぶっ、ぉがッ、ぁ゙え゙っ····」「あ、起きた。おはよ、ヴェル」「お゙ぇっ、がはっ、ごぼぇっ····」「あぁ、ごめんごめん。喋れないよね」 ノーヴァはちんこを引っこ抜き、俺の前髪を掴んで持ち上げた。「おはよう、ヌェーヴェル」「お、おは····ゲホッゴホッゴホッ」「さ、もう1回いくよ。口開けて」 なんだかキレている様子のノーヴァ。挨拶を終えると、再び喉の奥まで一気に突っ込む。 チラッと視界に入ったのだが、俺の横にはノウェルが泡を吹きながら倒れていた。ヴァニルが俺のケツに腰を打ちつけながら、片手間に回復をしている。 どういう状況なんだ。「お前の所為だぞ、たらし野郎」 声の主を探すと、椅子に縛られたイェールが抜け出そうと藻掻いていた。「んんんっ!? ぅぶぇっ」 ノーヴァの腰を押して逃げようとしたが、頭を押さえられ逃げられなかった。 俺が激しく嘔吐くと、ノーヴァは嬉々として腰を強く打ち込む。昂った笑顔が厭らしくも愛らしい。だが、あまり見る余裕はない。「そのまま吐いていいよ。アッハハ、ヴェル、お漏らし止まんないね」「ノーヴァ、こちらも奥をヤりますよ。噛み千切られないよう、気をつけてくださいね」 言い終えるが早いか、ヴァニルが結腸をぶち抜いた。あまりの衝撃に目が眩み、ノーヴァのモノを咥えながら吐いた。と言っても、ごく小量の胃液が出ただけだったのだが。 どれだけ苦しかろうが嘔吐いていようが、ノーヴァは容赦なく俺の喉奥を抉り潰す。全く息ができなくなった俺は死を覚悟した。「ヴァニルさん、いい加減にしないとそろそろ死にますよ。どうせ、また回復すれば良いと思ってるんでしょうけど。まったく····愛する人に、
粗方の処理を終え、俺は今回の件についてタユエルから聴取する。 暴走した吸血鬼には見覚えがあり、以前は人間として生活していたと言う。ところがここ数ヶ月は、どうも様子がおかしかったらしい。虚ろな目をして、拘束具を数点買いに来た事があったそうだ。 それから暫く経った数日前の早朝。少年が1人、今回と同じ様な状態で店の前で倒れていた。それを保護した事から、今回の事件が幕を開けた。 俺が訪ねた時、タユエルは少年の血にアテられていた。しれでも俺を襲わないよう、必死に理性を保っていたらしい。それは、調書には書かないでおこう。「俺たちは、少年らの容態を確認して聴取もせにゃならん。タユエル、今回の件は不問とする。だが、また同じような事があればお前だとて処罰することになる。報告、ちゃんとしろよ」「わーったよ」「大事にしたくないなら直接俺に報告しろ。それくらいの面倒は見れるつもりだ」「へいへい、頼りになる坊ちゃんだねぇ。ったく、立派になりやがって」 タユエルは俺の頭をグリグリと撫で回し、嬉しそうな面で俺たちを見送った。 俺の頭を撫でて褒めるなんて、母さんが居ない今ではタユエルくらいのものだ。まぁ、悪い気はしないが、まだまだガキ扱いされているようで悔しさも否めない。 俺とヴァニルは、病院で少年達に話を聞く。皆、一様に記憶が欠落していた。だが、最初の被害者だけは、吸血鬼と出会った時の事を覚えていた。 少年は森で遊んだ帰り、友人とはぐれてしまった。森を|彷徨《さまよ》っているうち夜になり、何かに誘われるような感覚で廃墟に辿り着いた。 そこは、レンガ造りの小さな家。中から微かに歌声が聴こえた。恐る恐る覗くと、ロッキングチェアに座った美しい男が、綺麗な歌を唄っているのが見えた。 男は少年に気づき、家へ招き入れた。そして、首に噛み付かれた所で記憶は途切れたそうだ。 結局、吸血鬼が何をしたかったのかも、動機も覚醒したきっかけもわからず終いだ。こんなあやふやな結末では、父さんにネチネチ嫌味を言われるのだろう。 しかし、これにて調査は終了とする。傷も癒えない少年達に、これ以上覚え
ウトウトしながら、1人で心細く留守番をしていた深夜3時頃。内側から板を打ち付けていた扉が、物凄い轟音と共に蹴破られた。 俺は驚きすぎて声も出ず、座っていた椅子から転げ落ちた。慌てて体勢を整え、物陰から様子を窺う。 扉を蹴破ったのはタユエルで、どうやら獲物を捕まえて戻ったようだ。タユエルの後ろで、ヴァニルが縛り上げて繋いだ男を引き摺っていた。「そ、そいつが犯人か?」「そうだ····って、なんだヴェル、んなトコに隠れて。はははっ、チビってねぇか?」「チビるわけあるか! それより、やはり吸血鬼だったのか?」「あぁ、純血じゃねぇがな。どれだけ入り混じってんのかもわからねぇ。あとはまぁ、見ての通り覚醒しちまってる」 どうやら会話はできそうにない。涎が垂れ流しで、牙も仕舞えないらしい。極めつけは紅黒に染まった瞳。以前のノウェルが、これの一歩手前の状態だった。だから俺は焦ったのだ。 ここまでキてしまっては、奇跡でも起きない限り正常に戻ることはない。故に、奇跡など起こりえない今、殺処分という形を取らざるを得ない。 墓穴を掘り、そこに縛った状態で寝かせる。そして、銀の杭で一息に心臓を貫き、地面深くまで打ち込んだ。 胸の当たりが燃え、耳を塞ぎたくなるような断末魔が響く。こうして、心臓が灰になるまで待ち、確実に息絶えた事を確認する。 十字架と弾丸をモチーフにしたヴァールスの家紋。それを銀の糸で刺繍した、無駄に煌びやかな布を被せてから埋める。 これが決まりなのだから、俺は手順通りにこなす。人知れず命を終える吸血鬼への弔いだ。手を抜くわけにもいかない。 それにしたって、ヴァニルとタユエルの顔が見られないなど、我ながら感傷に浸るようで吐き気がする。「少年達は、よく殺されなかったな」 俺は思わず、ポツリと呟いた。「えぇ。けれど、それは理性が残っていた訳ではなく、彼の性癖だったんだと思いますよ」「俺もそう思う。あんま気にすんな」「あぁ、気になどしていない。さぁ、そろそろ帰るか」
俺はすぐさまヴァニルを連れタユエルの店へ向かう。 最悪の事態──それはきっと、タユエルが食料としてではなく無作為に人間を殺めた、という事なのだろう。「ヌェーヴェル、大丈夫ですか?」「あぁ。こういう事態に備えて最低限の訓練はされている。お前に説明するまでもないだろうが、ヤツが暴走していればその時は····」「それは私が。貴方が太刀打ちできる相手ではありません。それに、彼を手に掛けるのは辛いでしょう」 俺とタユエルが長い付き合いだと知って、ヴァニルなりに配慮してくれたのだろう。しかしそれを言うならば、ヴァニルのほうが関係としては深い。「お前の方がやりにくいんじゃないのか。師匠みたいなものだったんだろう? ましてや、同胞を手にかけるなんて気持ちの良いものではないだろ」 ヴァニルは俺に口付けて、それ以上言うなと黙らせる。仕事だと割り切っている····そういう事なのだろう。 俺は気の利いた言葉を見つけられず、黙って銃の確認をした。あくまで念の為だ。 タユエルの店の前に立ち、腰に忍ばせた銃へ手を添える。息を殺し、ゆっくりと扉を開く。 隙間から中を覗くが、真っ暗で何も見えない。しかし気配はある。耳を澄ませると荒い息遣いが聞こえた。 思いきって一歩踏み入れた瞬間、耳を劈くような怒声が響く。「来るな!! ヴェルなんだろ? 絶対に入ってくるなよ!」 明らかに様子がおかしい。手遅れだったのだろうか。「····そうだ、俺だ。タユエル、何があった。何故、立ち入るのを拒む」 タユエルからの返答がないので、ゆっくりと扉を開ききる。陽の光が差し込み、その奥にタユエルの姿を目視した。「入るぞ」 俺はまた一歩踏み込む。タユエルの出方を窺いながら、一歩一歩慎重にカウンターへ向かう。 古い木造の匂い。その中に、血の様な鉄っぽいにおいを感じる。 胸騒ぎ
「ヴェル、起きて。ねぇ大丈夫?」 いつの間にか子どもの姿に戻っていたノーヴァに、柔らかく頬を抓られて目が覚めた。「ん····大丈夫··だ。ぁ、は、腹····」 腹の痛みが消えている。けれど、あの熱さだけは残っている感じがしてズクンと疼く。きっとこれは腹じゃなく、脳にこびりついた感覚なのだろう。 そして、熱さの理由はもうひとつ。ヴァニルが申し訳なさそうに俺の腹をさすっているのだ。こいつの手は冷たいのだが、気持ちは伝わってくる。「ヴァニル、大丈夫だ。もう痛くない」「いえ、そういう事では····。優しくするという約束だったのに、すみません」 ヴァニルは眉間に皺を寄せ、なんとも苦しそうな表情《かお》をしている。 まだ身体を起こせないが、俺はそっとヴァニルの頬に手を添えて微笑んだ。「ヌェーヴェルが私に優しい顔を向けてくれるなんて、出会って随分経ちますが初めてですね」「俺だって、こんなに穏やかな気持ちになったのは初めてだ」 ノーヴァが俺の額を撫で、啄むようにキスを落とす。「ノーヴァ、くすぐったい。なんだ?」「気絶する前に言ったこと、憶えてる?」 そう言えば、とんでもない事を口走った記憶がある。「······憶えてない」 俺は、ふいと目を逸らして言った。耳まで熱い。「嘘だ。憶えてるでしょ」「憶えてねぇよ。あの時は頭の中が真っ白だったからな」 必死に誤魔化したが、下手な嘘など通用しなかったようだ。 ノーヴァにじっと見つめられ、俺は観念して白状する。跡を継いで、全て終わらせてからにしようと思っていたのだが、あんな事を口走った後なのだから仕方がない。「俺は、お前たちを大切に想ってる。ずっと身
ほんの数秒で唇を離し、ノーヴァの目を見ながらそっと離れる。ノーヴァの唇へ視線を落とすと、自分でわかるほど瞬時に頬が紅潮した。「次は舌、絡めて」 そう言って、ノーヴァはベッと舌を出して見せた。触れるだけのキスで心臓がイカれてしまいそうなのに、そんな破廉恥な事を自分からできるのだろうか。 このヤワな心臓が根性を見せてくれることを期待して、少し開けて待っているノーヴァの小さな口に、ええいままよと舌先を差し込んだ。 いつもはされるがまま舌を絡めていたが、自分で絡めにいくとなると想像以上に難しい。「ヌェーベル····ソレ、後で私にもシてくださいね」 振り返ることができないので確証はないけれど、きっと嫉妬に歪んだ顔で言っているのだろう。 「ん、んぅ····」 俺のたどたどしい舌遣いに焦れたのだろう。ノーヴァは俺の両頬を手で抱え、こうやるのだと言わんばかりに激しいキスをしてきた。 いつも通りの、息ができなくなるやつだ。酸欠で意識が朦朧としてくる。「ふ、ぅ····ノー、ヴァ····待へ、ぅふ、は、ぁっ····ふぇ゙····」「アナタたちのキスを見てるだけで、なんだか苛つきますね····もう動きますよ」 突くのを待ってくれていたヴァニルだが、堪らずに動き始めた。 突かれるリズムに合わせ身体が前後する。けれど、頭が固定されている所為で衝撃を逃がしきれず、腹の奥に快感となって留まって苦しい。 ヴァニルが結腸口を叩く度に噴いてしまうので、ノーヴァとベッドがびしょ濡れだ。いつもなら、ぶっ掛けてしまうと嫌味の一つや二つ言うくせに、今日はお構いなしにキスを続ける。「ノ
ノーヴァは優しいキスを繰り返す。徐々に激しさを増し、早速約束を破って大人の姿になった。 そして、大きくなった手で俺の頬を包み口内を隈無く舐めまわす。「んっ、おま····大人になるなって··んんっ」「ん······ふぅ。こっちだと、ずっと奥まで犯せるもん。それと、血···もうガブ飲みはしない。これからは、ヴェルを危険な目に合わせるのは控えるよ」 優しさを見せているつもりなのだろう。俺に譲歩すると言いたげなノーヴァを愛らしいと思う。「控えるという事は、やるときゃやるんだな」「だってヴェル、好きでしょ? 死ぬほど犯されるの」「······嫌いじゃない」「あははっ。素直じゃないなぁ」 ノーヴァは再び俺の口を塞ぐ。ケツを弄っていたヴァニルは、潤滑油《ローション》が乾かぬうちに滾って反り勃ったモノをねじ込んだ。「んぅ゙っ、ん゙ん゙ん゙っ!!! んはぁっ、デカ····待っ、デカ過ぎんだろ······」「デカいの好きでしょう? ほら、もうイきそうじゃないですか。まだ挿れただけですよ」 確実にいつもより大きい。圧迫感が凄いのだ。なのに、容赦なく奥へ進んでくる。「ひぅっ、あぁっ!! ふっゔぁん····アッ、やだ、奥待って」「大丈夫。まだ奥は抜きませんよ。もう少し、ここを解してからです」 ヴァニルは下腹部を揉みながら、期待を持たせるような事を言う。そして、ぱちゅぱちゅと音を立てて俺を煽る。「ヴァニル····
集まった視線に、俺は直観的な苛立ちを覚えた。「な、なんだよ」「お前がそれ言うの? ヘタしたら、ヴェルが誰よりも我儘だし欲深いよ」「そりゃまぁ、俺だしな。それくらいの気概がないと、ヴァールスの名を継ごうなんて思わないだろ」 俺の言葉に、全員が耳を疑ったらしい。揃いも揃って、イイ面がマヌケに口を開けている。「貴方、もしかしてまだ継ぐ気なんですか? てっきり、私たちを選んだ時点で諦めたものとばかり····」「諦めてたまるか。嫁の件は父さんに上手く言って白紙に戻した。子供の事は追々考えるからいいんだよ」「そういえば、よくあのパパさんを言いくるめられたよね。なんて言ったの?」「····内緒だ」 うまい言い訳が思い浮かばず、バカ正直に『好きな人ができたから見合いは無かったことにしたい』と、子供の駄々みたいな理由を告げただなんて言えるか。しかし、あのクソ親父がよくそれで許してくれたなと俺も思う。 正直、もう出家覚悟で言ったのだ。それだけは、絶対にこいつらにはバレないようにしなければ。「貴方が言いたくないのなら聞きません。私達を優先してくれた事実だけで充分です」「そうだね。まぁ、ボクは暇だし、我儘坊やの復讐手伝ってあげてもいいよ」「私も、協力しますよ」「あぁ、頼りにしてるよ。って··おいこらノーヴァ、誰が我儘坊やだ!」 ノーヴァとヴァニルに手伝ってもらえば、いとも容易く父さんを屈服させられるだろう。勿論、物理的に。ヴァニルの場合、まずは容赦なく精神的に殺《ヤ》りそうだ。 協力してもらえるのは助かるし、頼りにしているのも本心だ。けれど、なんだこの漠然とした不安は。 この2人の際限のなさ故だろうか。あまり関わって欲しくないのが正直なところだ。「あの、ちょっといいですか。ヌェーヴェルさんに聞きたいんですけど」「なんだ、イェール」「その復讐ってのを達成したら、アンタは吸
説明を終えるなり、ノーヴァとイェールに笑われた。ノウェルはふんぞり返って鼻を高くしている。「ヌェーヴェルには僕が色々教えてあげるよ。心の機微を、こいつらが教示できるとは思えないからね」「ボクだってできるよ! 人間の事はローズに教えてもらったからね」「こら、人様の母君を呼び捨てにするんじゃない。失礼だろうが」 やはり、ノーヴァはノーヴァだ。まだまだ礼節を弁えきれていない。所詮、余所行き用の付け焼き刃と言ったところか。「ちぇー····人間ってなんでそういうトコ煩いの? 面倒だなぁ」「ノーヴァがガサツ過ぎるんですよ。誤解のないように言っておきますが、吸血鬼が皆、ノーヴァのようにガサツな訳ではありませんから」 知っている。ローズやブレイズ、ヴァニルのように礼儀正しい者が多い事は。 それは人間とて同じ事だ。住む環境や性格によるところだろう。「お前を見てたらわかるよ。ノーヴァのもまぁ、度を越さなきゃ可愛いもんだしな」「えへへ。ねぇヴェル、ひとつ聞いておきたいんだけど」「なんだ?」「ヴェルはさ、子供のボクと大人のボク、どっちが好き?」 究極の選択じゃないか。愛らしい子供の姿で背徳感を感じるか、大人の姿でヴァニルとは違った美形に支配されるか····なんて言うと図に乗るのだろう。とてもじゃないが、正直な気持ちは伝えられない。「子供で充分だ。大人になるのは禁止だしな。お前ら3人に血を吸われる俺の身にもなれよ」「それぞれ遠慮してるじゃありませんか。ちゃんと“不死の吸血”の約束は守っていますよ」「当然だ。俺が死んだら元も子もないだろうが。そうだ。イェールはノウェルの血を飲むのか?」「許した憶えはないんだけどね、興奮すると時々吸われるよ。嫌かい?」「嫌だな。けど、ヤッてる最中だけは許してやる」「随分と寛大なんだな。ノウェルさんがアンタに執心してるからって余裕じゃないか」「あぁ
約束の夜。全員が俺の部屋に集まった。「結論から言う。俺は、お前たちの中から1人を選ばん。全員、俺のモノでいろ」 俺が高らかに言い放つと、ヴァニルとノウェルは予想通りと言った顔で項垂れた。ノーヴァは呆気にとられた顔で口をパクパクしている。餌を待つ魚か。 そして、黙って聞いていると約束していたイェールが喚き始めた。「アンタ本当に狂ってんのか!? どれだけ欲張りなんだよ! ふっざけんなよ····ノウェルさんだけは渡さないからな!!」「イェール、黙って聞いてろ。できないなら追い出すぞ」 俺の言葉を受けて、ヴァニルがイェールを睨む。「······クソッ!!」 なんと説明すれば良いものか、俺だってそれなりに悩んだのだ。しかし、ノウェルに言われて“恋”だと知った時点で、俺の中では結論が出ていたのだと思う。 結論が出ているものに、思い悩むのは性に合わない。「お前らが俺を想ってくれている事は、正直嬉しかった。けど、俺はノウェルに言われるまで、恋というものが分からなかったんだ。その····症状に当てはまっていて初めて、お前らに抱いていた感情に“恋”という名がある事に気がついた」「症状って、ヴェル····病気か何かだと思ってたの?」 ノーヴァが憐れむような目で俺を見て言った。 「恋なんて病気みたいなものだろう。鼓動が早まったり身体が熱っぽくなったり、息苦しくなったり情緒が不安定になるんだぞ。まともな状態じゃない」 俺の意見に首を傾げるノーヴァ。俺は、何かおかしな事を言っているのだろうか。「そう····だね? ねぇ、人間って皆こんなにバカなの? ノウェルは人間の中で生きてきたんでしょ? 人間っ