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知らない君③

last update publish date: 2026-03-09 19:10:11

「は?」

 久我の目がまん丸になり、神崎と相楽も話すのをやめて間遠を見る。

「オレはただ、久我さんが毎日何を食べてるのか知りたくて、昼食をチェックしてたんです。

 その……実はオレ、久我さんに一目惚れしてまして」

 間遠がすべて告白すると、めずらしく久我は頬を紅潮させた。

「な、何だそれは。初めて聞いたぞ」

「初めて言いましたもん。オレ、出会った時からずっと、久我さんが好きなんです!」

 間遠にとって、一生に一度あるかないかの大胆な告白だった。

 一方、久我は上ずった声で言う。

「ま、待て待て。落ち着け、間遠」

「動揺してるのは所長じゃないですか?」

 と、神崎の冷静な声が飛んできて、久我はあわてて咳払いをする。

 しかし、それで気持ちが落ち着くはずもなく。

「間遠、ちょっと二人で話そうか」

「は、はいっ」

 久我の後をついていき、間遠は給湯室へと入っていった。

 扉が閉ざされたところで、相楽は
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  • 久我探偵事務所の灯りの下で   ネットのおもちゃ①

     日曜日の夕方、新宿の繁華街から少し離れた喫茶店で、名城璃久は間遠桜と向かい合っていた。「それで、鯉川さんに何があったんですか?」 たずねる璃久へ間遠は困ったように笑う。「オレも久我さんから聞いた話なんで、くわしいことは分からないんだけどさ」 と、前置きをした。「先週の金曜日だから、一昨日だな。依頼の相談があったんだけど、久我さんは断ったんだ。明確に法に反するから、って」「その依頼っていうのは?」「確か、娘の写真がネットで拡散されてて、それを消してもらいたいって話だった」「写真を消す?」 璃久が首をかしげると、間遠はアイスコーヒーを一口飲んだ。「拡散される原因になった一人を見つけることはできても、警察はすでに拡散された写真を消すことまではできねぇんだ」「そうなんですか?」「その写真が投稿されたサイトの運営者を通さないとならないし、時間がかかる。削除要請が通っても、その写真を保存した別の誰かがいて、また投稿するかもしれない。つまり、いたちごっこなんだよ」「ああ、なるほど……」「他に写真を消すとしたら、それこそハッキングするしかない。でもそれは犯罪だから、久我さんは断ったんだ」「それで?」「けど、鯉川さんが引き受けたらしい。それも、個人的にな」 璃久はびっくりして目を丸くした。「いくら止めても聞かなかったそうだ。なんか鯉川さん、怖い顔してたって久我さんは言ってたな」 間遠の目に心配の色が浮かび、璃久は言った。「実は今日、鯉川さんと食事をする予定だったんです。でも、ドタキャンされちゃって」「マジかよ、あの鯉川さんが?」 間遠が驚き、璃久は返す。「ボクもびっくりしちゃいました。だから、何かあったのかなと思って、間遠さんに連絡したんです」「そういうことだったか。となると、写真の削除をちまちまやってるのかもしれねぇな」「そうなりますよね。何だか心配です」 と、璃久は伏し目がちにテ

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     久我は朝比奈へ「分かりました。少々お待ちください」と言い、応接スペースを出て神崎の方へ来た。「神崎、朝比奈さんが君と話したいと言っている。今、大丈夫か?」「ええ、すぐに行きます」 神崎は席を立ち、やや緊張しつつ応接スペースへ入った。「失礼します」「ああ、よかった。君と話したいと思ったんだけど、今は仕事中だったな」「短い時間でしたらかまいませんよ」 と、神崎がソファへ座ろうとすると、朝比奈は言った。「仕事が終わるのは何時なんだい? もし予定がなければ、どこか喫茶店にでも入って話そう」「分かりました。では、十九時過ぎに下のカフェで待っていてください」「分かった、下のカフェだね」「Cafe in the Pocket.と言います。ランチも美味しいですが、ディナーメニューもおすすめですよ」「それじゃあ、夕食をしながらということにしよう。失礼したね、また後で」 にこりと爽やかに笑い、朝比奈は立ちあがった。 仕事終わりにカフェへ入ると、朝比奈が来て待っていた。すでに食事を始めている様子だ。「お待たせしてすみません」 と、神崎が声をかけると、朝比奈はこちらを見てきょとんとした。 神崎の隣には相楽がいた。自分も同席したいと申し出てきたのだ。「同棲中の彼氏です」「はじめまして、相楽浩介と申します」 はきはきと相楽が名乗り、朝比奈はにこりと笑った。「ああ、そうだったのか。二人きりになるより、ずっといい。来てくれてありがとう、僕は朝比奈優弦だ。よろしく」「こちらこそ、よろしくお願いします」「どうぞ、座って」 うながされて神崎は朝比奈の向かいへ、相楽はその隣に腰をおろした。 今日は名城璃久がまだ働いており、おしぼりを持ってきた。 神崎がこの時間、ここで食べるものはいつも決まっている。「ボロネーゼとアイスコーヒー」「自分は煮込みハンバーグプレート、ライスで。あとホットのカフェラテをお願いします」「かしこまりました」

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  • 久我探偵事務所の灯りの下で   探偵の備忘録②

     役所へ寄ってから事務所へ戻り、久我は一人で留守番をしていた事務員へ声をかけた。「急で悪いんだが、明日から三日ほど休む」 神崎寿直は手を止めて顔を向ける。「何かあったんですか?」「今朝の手紙のことだ。知人が孤独死したそうでな。明日火葬されるから、立ち会いたいんだ」「それは、なんというか」 神崎が適切な言葉を選べないでいるのにかまわず、久我は続けた。「遺言書によると、相続人は僕になっていた。彼の部屋の片付けもしたいし、墓も見つけないとならない」「それ、三日で全部できますか?」「分からない。可能なら、一ヶ月ほど休みたいところだな」「そうですよね。そちらの件が片付くまで、おれたちで仕事を回します」「ありがとう、神崎。他のみんなにも伝えておいてくれ」「言われなくてもちゃんと知らせますよ」 と、神崎は少し生意気に言ってから、再びキーボードをたたき始めた。 今日中にできることを済ませて帰宅すると、どっと疲れが出てきたようだ。 重たい体でかろうじて食事をし、浴槽を掃除した。 湯がたまるまでの間に、久我はかばんからノートを出して開いてみた。 春野らしい几帳面な文字で、文章がつづられていた。「昭和40年(1965年)10月15日、群馬県安中市の◯✕病院にて生まれる」 どうやら彼の人生の記録らしい。 時々、古い写真が貼り付けられていて、久我はつい夢中になって読みふけってしまった。「小学2年、おさななじみのユキちゃんを泣かせて母にしかられる。今となってはかわいい思い出だ」「小学6年、従兄のたっちゃんが家で下宿を始める。 夏には花火大会へ連れて行ってもらった。あの日の花火はとても綺麗で、今でもたまに思い出す」 久我の涙腺がゆるみ、あわててティッシュペーパーでぬぐった。「中学3年、通学路にある柳の下で、クラスメイトの佳子ちゃんから告白される。 恥ずかしくて思わず断ってしまったけれど、本当は彼女が好きだった。もったいないことしたなあ」 浴室から異

  • 久我探偵事務所の灯りの下で   嘘の人探し④

     わけが分からなかったが体が動いた。察した敬一が手を伸ばす前に、間遠は書類を奪い取るようにして死守する。 「あっ! 返せ、それはっ」 「無理っすー!」  素早く踵を返して久我の後ろへ隠れる。  その間に依頼人が敬一を指さして叫んだ。 「黒幕はこいつです! 私はこいつに脅されてやったんです!!」  すかさず康人が駆け寄り、敬一の肩へ手を置いた。 「くわしく聞かせてもらえますか?」 「あっ、いや、これは……」  他の警察官たちも寄ってきて、敬一は依頼人をにらんだ。 「くそっ、逃げ切れると思ったのに」  近藤敬一は内部告発者を装った黒幕だった。監査部の人間が指示して

  • 久我探偵事務所の灯りの下で   嘘の人探し③

     戻ってきた久我は相楽の姿を見て目を丸くした。 「相楽、来てたのか」 「はい。明日から復帰しますので、よろしくお願いします」  と、相楽は立ちあがって律儀に頭をさげる。 「そうだったな。ちょうどいいから、今後について話そう」  久我は自分のデスクに着き、まず確認をした。 「僕たちが今進めている調査について、もう聞いたか?」 「はい、怪しい依頼人のことですよね」 「ああ、そうだ」  と、久我は三人へ顔を向ける。 「弟から聞いた話では、ネットに書かれていた監査部のKというのは、依頼人が探すように言った近藤敬一だと分かった。  犯人には四年の実刑がくだされ、予定通りであれば、も

  • 久我探偵事務所の灯りの下で   嘘の人探し②

     二日後の午後一時過ぎ、事務所に電話がかかってきた。  事務員の神崎寿直が固定電話の受話器を取り、落ち着いた声で「久我探偵事務所です」と言う。  間遠は事務作業をぼちぼち進めながら、神崎の様子を見ていた。 「所長、近藤博様からお電話です。依頼について、いくつか聞きたいことがあるとか」  久我はすぐに電話を受けた。 「お電話変わりました、所長の久我です。今日はどうされましたか?」  事務所は静かだが電話の内容までは聞き取れない。間遠は気になってしまい、キーボードに置いた手を止めていた。  久我がちらりと間遠に目をやってから言う。 「あっ、ちょうど今、調査員が戻ってまいりました。|

  • 久我探偵事務所の灯りの下で   知らない君①

     電話を終えた久我健人が戻ってきて、相楽浩介に声をかけた。「相楽、これから張り込みに行ってもらえるか?」「どこですか?」「新宿だ。僕の弟、康人のアパートに行ってもらいたい」 思いがけない言葉に相楽は目を丸くした。「何かあったんですか?」「先週から毎日、郵便受けにミニカーが入れられているらしい。康人の使っているのと同じ車種、同じ色のミニカーだ」 相楽はぎょっとしてしまった。悪質な嫌がらせではないか。 久我もそうしたことを理解した上で話を続ける。「つ

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