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詐欺か善か②

last update Huling Na-update: 2025-12-04 11:25:30

 商品を検索してもまったく同じ物は見つからなかった。

 検索方法を変えてみても効果はなく、久我はたまらずため息をついた。

 気づくと日は暮れており、終業時刻まで一時間を切った頃だった。

「お疲れさまです!」

 外に出ていた調査員、相楽浩介さがらこうすけが戻ってきた。

 最年少の彼は背が高く体格もいいが、さっぱりとした黒髪のせいか、間遠よりは風景に溶けこみやすい。

「お疲れさま。現場はおさえられたか?」

「ええ、ばっちりです」

 相楽は自分の机にかばんを置くと、デジタルカメラを取り出した。

「見てくださいよ、これまでで一番うまく撮れました」

 久我は立ちあがり、神崎と間遠も席を立って相楽の横から顔を出す。

 相楽に任されていたのは、よくある浮気調査だ。

 浮気相手との密会現場を撮影しに行ったのだが、相手の女性が持っているかばんまではっきりと写っているなど、どれもうまく撮れていた。

「ほら、これなんか最高でしょ? ピントもしっかり合ってるし。みなさん、褒めてくださいよ」

 と、相楽が上機嫌で言い、久我は返した。

「確かにうまく撮れたな。これなら依頼人にも満足してもらえるだろう」

「成長したね、相楽くん」

 神崎もそう言ってにこりと笑い、相楽は頬をほんのりと赤らめた。

「いやあ、それほどでも……」

 と、嬉しさと恥ずかしさの入りまじった顔で頭をかく。

 一方で間遠は言った。

「思い出した」

「どうしたんですか?」

 神崎が聞くと間遠は目をみはった。

「かばんだよ、中山のかばんに変な数珠じゅずみたいなのがついてたんだ!」

 久我と神崎ははっとした。間遠は席へ戻ると、メモ帳にボールペンで絵を描いてみせた。

「こんな風に赤と黄色と青と銀色で、やけに派手だったんです。見たことないなと思って、ちょっと気になったんです」

「貸してください」

 横から神崎が絵を取りあげ、スマートフォンで撮影した。すぐにパソコンへ送り、AIの力を借りて実写化する。

「こんな感じですか?」

「そうそう、似てる!」

「画像検索かけます」

 神崎は素早く画像検索を始め、間遠が横に立って画面を注視する。

「あっ、これだ!」

 間遠が指さした画像をクリックすると、どこかのネットショップへつながった。

 慎重に神崎が表示されたページを見ていく。

「商品名は幸福を運ぶストラップ、店は……永和聖会?」

 久我はすぐに神崎の後ろへ回った。

「それって、昼間に見たのと同じ名前じゃないか?」

「ええ、そうです。でも、中山がたまたま会員だったという可能性も捨てきれません」

「だが、代表者の名前は同じだ」

 すかさず久我が返し、室内は少しの間しんとなる。

「どうしますか、所長」

 神崎から向けられた真剣な目へ、久我も同じだけのまなざしを返した。

「僕が明日、永和聖会へ行ってみよう」

「明日の朝までに調べて、まとめておきます」

「頼んだぞ」

 神崎の肩をたたき、久我は相楽へ視線を戻した。

「置いてけぼりにしてすまなかったな、相楽。そっちの話に戻ろう」

「あ、はい」

 久我は自分のデスクへ向かい、デジタルカメラを手にしたまま相楽が後をついていった。

 永和聖会の本部は新宿区四谷にあった。雑居ビルが並ぶ一角の、あまり人気が無い裏通りに面していた。

 一階が本部になっているらしく、入口近くの塀には「ご自由にどうぞ」と書かれた透明のプラケースがあり、何枚かのリーフレットが入っている。

 二階は事務所のようだが、外から見た感じではあまり広さがあるようには思えなかった。

 久我は少し離れたところに車を停め、しばらく様子を見ていた。

 しかし人の出入りはなく、まるで情報が得られない。

「潜入するか……?」

 中山が他の信者に情報を共有している可能性は否定できないが、間遠が探偵だとバレたかどうかまでは分からない。

 悩んだ末に、久我は車を駅前のパーキングに停めて、徒歩で本部へ向かった。

 一階と二階には電気がついており、中に人がいるのは確実だ。

 何気なく通りがかった風を装って近づき、久我はリーフレットへ手を伸ばす。

 すると入口の扉が開き、四十代と思しき女性に見つかってしまった。

「こんにちは。永和聖会にご興味が?」

 穏やかに話しかけられ、久我は笑みを返した。

「ええ、何度かここの前を通ったことがあるのですが、いったいどういうところなのかと気になっていまして」

「あら、そうでしたか。お時間、ありますかしら? よければご紹介しますわ」

「いいんですか? ありがとうございます」

 久我は招かれるままに建物内へ足を踏み入れた。

 途端に冷気が肌を刺し、今年も残暑が厳しいことを身をもって知る。

 内部は淡いクリーム色の壁紙に、くすんだ桃色の絨毯《じゅうたん》が敷かれていた。

 総じて落ち着いた雰囲気で、連れられて入った部屋では数人の男女が温かく迎えてくれた。

「お話を聞きたいって方がいらしたの。みなさん、どうぞよろしくね」

「はじめまして。こちらへどうぞ」

 久我と同世代らしき女が椅子を指し、若い青年が立ちあがる。

「すぐにお茶を入れますね」

「お菓子もありますよ」

 久我は内心苦い気持ちになりつつ、笑顔で答える。

「突然お邪魔してすみません。失礼します」

 椅子に腰をおろし、かばんを膝の上へ置く。

「お名前をうかがってもよろしいかしら?」

「はい、鈴木弘樹と言います」

 調査でよく使っている偽名を名乗った。もちろん名刺の用意もある。

「鈴木さんね。永和聖会は一言で言うと、あの世で幸せになることを目指す宗教法人なの」

 さっそく説明が始まり、久我は少し真剣な顔をする。

「あの世、ですか?」

「すでにあの世へ行ってしまった人も、あたしたちの行動次第で幸福にすることができるのよ」

「天国とか地獄とかいうけど、どちらも本当は同じ場所なんですよ。見る人次第で天国にも地獄にもなる。

 魂だけになっても心はありますから、心持ち次第で見え方が変わるんです」

「私たちは祈りの力によって、亡くなった人の心を穏やかにさせることができるんです。そうすると天国になる、ということですわ」

「初対面で申し訳ありませんが、鈴木さんは身近な人を亡くした経験がおありですか?」

 質問された久我は気まずそうにした。

「ええ、兄が事故で……」

 信者たちは同情するように息をついたが、久我には兄などいない。都内で一人暮らしをする双子の弟がいるだけだ。

「それならお分かりになられるはずだけど、お兄様があの世で苦しんでいるとしたら、どう思われますか?」

「それは嫌ですね、なんとかしたいです」

「そうでしょう? 私たち永和聖会でなら、なんとかできるんですのよ」

 久我は内心で深くうなずいた。やはりボランティア団体とこの宗教団体はつながっている。依頼人の父親は去年、妻を亡くしたばかりだ。

「具体的には、いったい何をするんですか?」

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