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第4話

Penulis: 大落
博人は唇をきつく結び、内心とても馬鹿げていると思っていた。

未央が目線を上にあげると彼の視線とぶつかり、彼女は眉をすこし上にあげて驚いた様子だった。「何か用?」

彼女はそう聞くと、博人は何とも言えない苛立ちをおぼえ、不快になった。

彼女は妻だ。彼が自分の寝室に戻ってきたのに、彼女はこんな反応を見せるのか?

この怒りと、心の中に溜まったこの形容し難い感覚が一体何なのか、彼を焦らせた。博人は大股で未央に近寄ると、彼女をベッドに押し倒した。

彼がその唇を近づけたが、未央は顔をそむけた。

少し冷たい唇が彼女の口角に少しだけ触れた。

未央は感情のない目で見た。「一体どういうつもり?」

彼女のこのような態度が博人をさらに怒らせてしまった。

彼は皮肉たっぷりに口の端をつり上げて笑った。「俺はてっきりお前がこんな長い間意地張ってるから、これを期待しているのかと思ってたがな」

博人と結婚してから、彼女と博人が夫婦としての営みをするのは数えるほどしかなかった。

酒に酔った時と、西嶋家のおじいさんが二人の仲を取り持ってくれたのを除いてだ。

二人は多くの時間、同じベッドに寝ていても、それぞれの生活をしていた。

それから理玖が少しずつ成長していき、彼ら二人の距離はだんだんと離れていった。

未央は彼と目を合わせたが、怒りや悲しみなどは見えなかった。

彼女は実際もう慣れてしまっているのだ。

「今アレだから」

彼女は彼との接触を避け、淡々と言った。「もしあなたがしたいんだったら、綿井さんのところに行けばいいんじゃない?」

どのみちもうすぐここを去るのだから、もう何も執着するものもない。

それに、男は歯ブラシと同じで、他の誰かと共有するものではない。

彼女のこの他人事のような態度に博人は冷たく笑った。

「未央、俺と雪乃はお前が思っているような関係じゃない。お前は彼女がお前と同じように腹黒い女だとでも思ってんのか?」

彼は皮肉交じりの言葉を残してバタンッと強くドアを閉めた。「そっちがその気なら、今後は俺の両親の前で泣いて訴えるんじゃねぇぞ。もし当時お前があんなふうに罠を仕掛けてこなきゃ、俺だってお前なんかに触れようとも思わないね」

未央はきつく閉められたドアを見つめ、突然心が乱れ博人と勢い任せの関係を持ったあの一夜のことを思い出した。

彼女はその時、意識がはっきりしていなくて、全く何が起こったのか分からなかった。

目が覚めた後、博人だということが分かり、彼女の心は確かにホッと落ち着いたのだった。

彼女はあまりに驚いていたので、慌ててその場を去っていった。

それから、彼女が妊娠したことを知った博人のその冷たい瞳の底には皮肉と嫌悪が混じっていた。

「白鳥未央、お前の望み通りにお前と結婚してやるよ」

彼女は当時不安と恐れしかなかった。白鳥家、両親の死、それから子供のことで彼女は男の冷たさに気づいていなかった。彼女は博人のことを心から愛していて、これは神様が与えてくれた幸運だと期待に胸を膨らませて彼と結婚したのだった。

もし、もう一度選べるとするなら……

未央は目をつむり、思った。

もしできることなら、彼女は博人と出会う前に戻りたかった。

博人はその夜帰ってこなかった。

未央は次の日、理玖を幼稚園に送っていった。

彼女が博人に電話してどこにいるのか聞くまでもなく、雪乃のほうからメッセージが送られてきた。

その写真はシンプルだった。

青のネクタイの写真。

それは博人がいつもつけているネクタイだ。

「未央さん、愛しているか愛していないかはもう歴然としているわ。このネクタイはね、私が彼にプレゼントしたものなんです。昨夜、彼ったらまたこのネクタイで私の手を拘束して……」

雪乃と博人の変態プレイなど、未央は全く興味はなかった。

もし以前の彼女であれば、恐らく傷つき苦しんでいたところだろう。

しかし、この時の彼女の心は穏やかだった。

彼女はもうここを離れる決心をしたのだ。だから当然、博人の行いを批判したりなどしない。

この日、未央は河本教授の家を訪れた。

彼に挨拶する目的だけでなく、あの藤崎という男について知るためでもあった。

彼女に会えて、河本教授はとても喜んでいた。

彼は突然彼女と博人のことを思い出し、からかって言った。「君が立花に行く件を博人君には話したのかい?当時の君は、一日中彼の後ろをついて回って、学部中が私の一番の学生は男に心酔してしまい方角を見失ってしまったと言っていたんだぞ。春日部教授も数日前に君はまた聴講に来ないかって尋ねてきたんだよ」

彼女と博人は同じ大学出身だ。

彼女の片思いは実際はとても卑屈なものだった。卒業時にずっとできなかった告白をした以外に、特に博人に迷惑をかけるようなことはしていなかったのだ。

若い頃の愛はいつもはっきりして分かりやすいものだった。

彼女は昔、博人をたくさん見たいと、金融学の授業を一学期中全て聴講しに行っていた。

その授業の担当教授は彼女の恩師と交流が深かったのだ。

それで、故意にか知らずにか彼女を何回もからかってきた。

「いえ」

未央は小声で言った。「先生、藤崎さんは秘密保持をしてほしいということですので、私が立花に行くことは、誰にも言わないでください」

河本教授は少し驚き、すぐにどういうことなのか理解し、ため息をついた。

彼は未央が愛のために仕事を諦めたが、今はようやく思い直して患者の診療をすることにしたと思っていたのだ。

今見てみると、彼の学生はもうぼろぼろの状態のようだ。

行き場を失って、ようやく急に悟ったのだ。

未央は河本教授の家にはそう長く留まらなかった。

彼女は雇い主に関する資料を受け取り、家に帰るところだった。

十字路で、とある車がスピードを出して彼女の目の前を通り過ぎた。

未央の反応は早く、その車を避けられたが、突然現れたバイクとぶつかってしまった。

突然のことでそれを避けることができなかったのだ。

体中に激痛が走り、未央は額に冷や汗を滲ませていた。

彼女は苦笑した。

彼女はおおかたこの町とは相性が悪いのだろう。

彼女の怪我はそこまでの大怪我ではなく、大事に至ることはなかった。

ただ少し深めの切り傷があり、たくさん血が流れていた。外から見るととても痛ましい光景だった。

急なことで彼女はとてもハラハラさせられた。

それに加え未央は血を見ると、めまいがしてしまい、意識が戻った時には真っ青な顔になっていた。

「お嬢さん、ご家族に電話をかけたほうがいいですよ」警察は見ていられなくなり、低い声でそう未央に注意した。

未央は自分一人で大丈夫だと言いたかったが、警察がそうしたほうがいいと勧めてくるので、博人に電話をかけることにした。

彼女は博人が来ることを期待していなかった。博人には秘書がいるので、誰かをよこして彼女を病院まで連れていってくれればそれで良かった。

すぐに携帯の向こうから男の声が聞こえてきた。

「どうした?」

「博人、私……」

未央は激痛に耐えながら、話そうとした瞬間、電話の向こうから雪乃の優しい声が響いてきた。

「博人、検査結果が出たわ。ちょっとよく分からなくて、見てもらえないかしら?」

彼は今雪乃に付き添っている。

未央が何かを話し始める前に、博人はすでに電話を切ってしまった。「何もないなら、家に帰ってからにしてくれ」

「分かったわ」

未央は小さな声でそう返事した。

彼女は警察の助けは断り、自分で事故の処理をした後、タクシーを使って病院へ行った。

ちょうど彼女が病院の受付を済ませた時、そう遠くないところから、息子の無邪気な声が聞こえてきた。

「雪乃さん、まだ痛む?理玖がふーふーしてあげるよ」

未央は無意識にそちらを向くと、近くに博人が息子と一緒に雪乃の再検査が終わるのに付き合っている姿が見えた。

博人のいつも冷たいその瞳には雪乃を心配する様子が見えた。

「大丈夫よ」

雪乃は優しく微笑み、穏やかに話していた。言い終わると隣にいる理玖を撫でた。「理玖君が私の傍にいてくれるから、あっという間に良くなっちゃうわ」

雪乃の言葉を聞いた後、彼はまだ幼く可愛らしい顔を上げて、キラキラと期待しているような顔を向けた。「雪乃さん、雪乃さんの病気が全部ママに移っちゃえばいいのに。そうしたら、雪乃さんが楽になるのにね」

彼がそう言うと、未央は呆然としてしまった。

「そんなこと言っちゃダメだろ」博人は眉をすこしひそめて彼を叱った。その声は低かったが口調はそこまで厳しくなかった。「彼女は一応お前の母親なんだからな」

「ママなんか死んでしまえばいいのに。僕はあの人の顔も見たくないよ。そうすれば雪乃さんが僕のママになってくれるでしょ」

理玖は唇をすぼめ、母親がこの二日間、食事すらも作らないのを思い出し、だんだん不機嫌になっていった。

そして、彼がそう言い終わって、博人が顔を上げると、近くに未央がいることに気づいた。

彼女は少し狼狽している様子だった。髪は乱れスカートは血に汚れていて、傷口は目を塞ぎたくなるほど悲惨な状態だった。

しかし、そんな彼女でも異様な美しさがあった。
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