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1 お迎え

last update Date de publication: 2025-07-03 22:16:58

「ふぅ……っ」

外は暗く肌寒い。駐車場に車を停めて歩くと、顔にあたる夜風に身震いした。

一時間以上運転してやって来たのは首都圏の国際空港。とても急だったが、間に合って良かった。

大学二年生の日永鈴鳴《ひながすずなり》はスマホで時間を確認して、ひとり目的の第一ターミナルへ向かった。

ここに来たのは実に六年ぶりである。六年前、海外へ飛び立つ従兄弟を見送りに行った、あの日以来。

あぁ……緊張する。

この感じ、あの時と似てるぞ。大学入試のときと同じ、あの胃液が上がってくる感覚に。

十九時四十五分。もうすぐだ。

電光掲示板を見て、彼が乗ってるであろう飛行機の到着時間を交互に見合わせる。

ここへ来たのは、帰国する従兄弟を出迎えるためだ。

到着ロビーでしばらく待っていると、大勢のフライト客がやって来た。ひとりひとり注視していたその時、ある青年に目が留まった。

うっすらと、しかし確かに感じる、懐かしい雰囲気の青年。

「か……和巳さん!」

「……鈴?」

鈴鳴は小走りで彼の元へ向かった。

「うあぁぁ……やっぱり和巳さんだ……! お久しぶりです!」

涙目で言うと、彼は掛けていた眼鏡を外して笑った。

「本当に……久しぶりだな、鈴。すっかり大人になってるから見違えたよ。最初誰だか分からなかった」

キャリーケースから手を離し、彼は強く鈴鳴を抱き締めた。

「迎えに来てくれてありがと。すごい嬉しい」

「……っ!」

少しだけ、周りの視線を感じた。降りてきたのも待っていたのも日本人だし、男同士でこの熱い抱擁はちょっと目立つ。

ドキドキしたし、気まずいから早くこの場から離れたい。

それでも、まだ彼に会えた喜びの方が勝っていて動けない。逸る鼓動を抑えて、彼の両手を握った。

「ずっと待ってました。……おかえりなさい、和巳さん。さぁ、俺の家に帰りましょう!」

「おぉ。でも、本当にお前の家に泊まっちゃっていいの? 彼女とかいたら困らない?」

「困りません。生まれてこの方彼女できたことないんで」

つい大声で言ってしまって、また視線を感じた気がした。やばい。一回落ち着こう、俺。

これからは頑張って、和巳さんの役に立つぞ……!

四つ歳上の従兄弟、日永和巳《ひながかずみ》に再会した鈴鳴は喜びの気持ちで一杯だった。

「はあー、何かすごい安心する!」

和巳は凝り固まった体をほぐすように、ぐっと背伸びをした。

「親父からは仕送りできるようになるまで帰って来るなって言われてたからさ」

「大変でしたね。俺も和巳さんに会いに行きたかったけど……叔父さんから止められてて」

「そんなん気にしないで、来てくれて良かったのに。仕送りはしないけど、鈴の旅費は全部出すよ」

したり顔で話す和巳に、思わず笑った。

彼のキャリーケースを運びながら、鈴鳴は空港の中で適当な飲食店を探した。長時間飛行機に乗って疲れただろうから、帰る前に少し休んでもらおうと考えた。

比較的空いている和食処に入り、ようやく落ち着いて対面する。

「でも仕事辞めて帰ってこいなんて、どうしたのかな? ちょうどコントラクトの更新だったからタイミング良かったけど」

「そうなんですね。仕事辞めるの、嫌じゃありませんでした?」

「基本働きたくないから、全然。でも同僚や上司は良い人達ばかりだったから、それだけが心残りかな。仕方ないけど……」

二人の家系は少し特殊だった。いくつもの会社を経営してる祖父を筆頭に、親戚の殆どがその系列の社員として属している。

和巳は親の意向で単身アメリカへ留学した。それから大学を卒業し、向こうで就職までしていた。その彼が今回呼び戻された理由は、祖父の体調が芳しくないことと関係ある。

だのに、彼はどうやらそれを知らされてないらしい。

「和巳さん。実はお祖父ちゃんがこの前発作で倒れて、救急車に運ばれたんです。幸いその時はすぐに帰れたんですけど、心臓に結構負担いってるらしくて」

「本当に? 祖父さん、今もタバコ吸ってる?」

「ほぼ毎日吸ってます。皆の目を盗んで」

「それだよ絶対。やめないと治らないね」

和巳さんは大して驚きもせず、むしろリラックスした様子でコーヒーを飲んだ。

ま、まぁ反応が薄いのは当然か……。

俺も和巳さんも、祖父が重度のヘビースモーカーである事を物心ついた時から知っていたから……正直そうなるよな、というのが素直な感想だった。

だが祖父から煙草を取り上げたらショックの方で衰弱してしまいそうな気もするし、かといって禁煙させないわけにもいかないし、悩みどころだ。

和巳さんはというと話の流れを察したようで、眠そうに窓の外を眺めた。

「……そうか。それでウチに入社しろと。どうしよ、家族経営に巻き込まれるの今からすっごい嫌」

「皆、和巳さんに期待してますからね。銀行で働いてたんですよね? 俺なんて専門用語を英語で覚えるところから無理です。やっぱり和巳さんはすごいです」

「確かに勉強はしまくったけど、下っ端だったから大したことはしてないよ。それより、鈴ももう大学二年生だもんなー。就きたい仕事はもう決まってるの?」

「俺は……ウチ以外なら、どこでもいいと思ってます。和巳さんはやっぱり、叔父さん達の会社に入るんですか?」

「帰ってきた以上他に選択肢ないって。ま、鈴は好きなようにやりな?」

彼はコーヒーカップを高く上げて、優しく微笑んだ。

正直、和巳さんの気持ちを考えると否が応でも暗くなる。

それでも彼が明るく振舞っているのだから、俺が沈んでいたら駄目だと思った。

色々不安はあるけど、それよりとにかく喋りたい。久しぶりの従兄弟との再会にテンションが上がらないはずはないし、……ただの従兄弟とも思ってないから。

鈴鳴は夢に浸るように、目の前に座る和巳を眺めた。

和巳さん、本当にかっこよくなったなぁ……。

いや、子どもの頃からかっこよかった。今は立派な好青年だ。

仕事ができそうな雰囲気を醸し出し、溢れ出るイケメンオーラを隠せてない。ただ座ってコーヒーを飲んでるだけで様になってる。惚れる。

そのせいもあって、未だちょっと緊張していた。大好きな人とはいえ、六年という間隔を空けて会ってみると。

……自分が知っていた彼ではなく、まるで未来にタイムスリップしてしまった様な錯覚に陥っている。

「鈴? どうした、じっと見つめて。俺の顔に何かついてる?」

「あ、いえ、何もついていらっしゃいません!」

突然のことに動揺しておかしな日本語で返してしまった。

変だな。喉が乾いてしょうがない。

ウーロン茶を一気に飲み干し、深呼吸する。

「そっか。ならいいけど……ちなみに、何でずっと敬語なの?」

「え?」

思わぬ所を突かれて返答に困る。しかし隠してもしょうがないので、窓の外に視線を移して答えた。

「久しぶりに会った和巳さんが、すごい大人の人になってるから……緊張しちゃって」

上手く目を合わせられない。自分は昔のまま、彼に対する気持ちは変わってないけど……彼はどうだろう。不安に思って目を泳がせていると、自分の手の上に彼の手が重なった。

「大丈夫だよ。俺は何にも変わってないから。昔みたいに、何でも相談して?」

「……!」

不覚にもドキドキした。

何の取り柄もない俺に、昔と変わらず微笑んでくれる。何かもうそれだけで充分だ。この笑顔を一日中見ていたい。絶対飽きませんことを誓います。

ずっと待ち焦がれてた人が帰って来た。俺を支えてくれて、誰よりも世話を焼いてくれた人が。

この人の役に立ちたかったけど、昔の自分は本当にダメダメダメ野郎で何もできなかった。でも今は違う。今なら俺も、和巳さんの役に立てる……かもしれない!

テーブルの下で拳を握り締め、希望に溢れた未来図を描いた。

「あ、ごめん鈴。俺ちょっとトイレ行ってくる」

「はい。確か、右側にありましたよ」

「サンキュー」

手を振る彼に微笑み返す。

その十数秒後に、店員の上擦った声が聞こえた。

「お、お客様!? そちらは女性トイレです!」

中腰になって確認すると、和巳さんは女子トイレに入ろうとしていて、女性店員に止められていた。

「あ、本当だ。すいません、何も見ないで入ろうとしちゃった」

和巳さん……帰国早々トイレを間違えるとは。

とりあえず警察沙汰にならなかっただけいいか。鈴鳴は正面に向き直り、烏龍茶を飲んだ。

和巳さんには何から何までお世話になった。だから今度は、俺がその恩を返す番だ。頑張らないと。

そう自身の胸に言い聞かせてると、彼は小走りで戻ってきた。

「おーい鈴。聴いてくれよ、今間違えて女子トイレに……あっ!」

驚くことに彼は何もないところで躓き、俺の座るテーブルに顔面から激突した。やっばい痛そうだ。

「だ、大丈夫ですか!! お怪我は!?」

「いたた……いや、大丈夫」

幸い怪我はなさそうだ。

さすが和巳さん。大胆にずっこけても一切動じない。むしろ風格すら感じる。

「ん……?」

ところが、ここである大問題に気付いた。ぶつかった拍子に倒れた俺の烏龍茶が、彼のズボンをぬらしている。しかも最悪なことに股間にピンポイント。

「和巳さん! 股間が大変なことになってます!(※小声)」

「ほんとだ、何か冷たいと思ったら……!」

「大変だ……すぐにトイレに……」

だが、やはり彼は落ち着いていた。変色した自身の股間を鞄で隠し、トイレの方に向き直る。

「慌てんぼうだな、鈴は。これぐらいで大騒ぎしてたら生きてくのが大変だよ」

そう言って彼は颯爽と、しかし堂々と通路のど真ん中を歩いていった。

さすがだ。俺なら冷静になるのに時間がかかりそう。

「お客様! そっちは女子トイレです!」

「うあっすいません」

でも、天然だとそれも相殺されてしまうんだろうな……と密かに考えた。

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  • 余計なお世話係   1

    ねぇ和巳さん。和巳さんがいなくなった日のこと、思い出したくないけどよく覚えてるよ。冬の終わり。吸い込んだら喉がカラカラになりそうな風が吹く中、一緒に空港の周りを歩いた。フライトの時間まで残りわずか、何度も時計を確認した。いつ戻って来るのか。向こうで何を学ぶのか。……俺と、これからも連絡を取り合ってくれるのか。本当は訊きたいことが山ほどあった。けど和巳さんは俺が話す隙を与えず、心配そうに色々話してたっけ。勉強のこと、進路のこと、両親のこと。「無理しちゃだめだよ」って繰り返していた。何度も肩を落としては持ち直し、そして俺を見つめていた。彼だって、一人で異国の地に飛び立つ。今も不安で仕方ないはずなのに、口から出るのはやっぱり俺のこと。俺は中学二年生で、和巳さんは高校三年生。もうそこまで心配されるような歳じゃないけど、彼は最後まで俺の心配をしていた。見てきた景色も、立っている場所も全然違う。それでも心は繋がっている。地球を覆うこの青い空のように、全ては同じところに存在している。距離なんて大した問題じゃない。俺にそう教えてくれたのは他でもない、彼だった。触れたい時に触れられない。聞きたい時に声を聞けない。辛いことだ。でも、それはさほど珍しいことじゃない。例え同じ家に住んでいたとしても、心がすれ違えば触れられない。声を聞けない。遠い国にいるのと同じなんだ。心がすれ違ってしまったら。だから誰かを想う心に勝るものはない。絶対、会える。どれだけ遠い地にいても、海に遮られても、山が隔たっていても。この想いは、時間も空間も飛び越えられる。『大丈夫だよ。必ず戻って来るから』彼が旅立つ日にそう言ってくれたから、俺は諦めずに待ち続けることができた。惨めでも滑稽でも、愚直だと蔑まれても……カレンダーの前に立ち、日付を捲ることできた。そう、「大丈夫」。必ず戻って来る。だから和巳さんは俺の心配より自分の心配をして、元気でいて。貴方がこの地球のどこかにいるって思うだけで、怖いぐらい俺は強くなれるから。六年。流されそうな時間の中で大人になっていく。傍にはいないけど、一緒に生きていた。昼と夜が正反対の場所にいるけど……やっぱり俺達は今、確かに。……一緒に生きてるんだよな。◇「あぁ~! やっぱりビールはいつどこで飲んでも美味いっ!!」宿泊先の旅館の客室で、

  • 余計なお世話係   誓いの言葉

    季節は次々に移り変わる。夏から秋、秋から冬へと。「ただいま、和巳さん」「おかえり、鈴!」肌寒い朝と夜を行き来する冬が訪れていた。大学から帰って、笑顔の恋人がいる暖かいリビングに入る。 俺達の生活は何も変わらない。忙しいのも変わらないけど、それは言い換えれば充実しているということ。大学、会社、家、その他のコミュニティを通して時間を費やす。最近は俺も和巳さんも、実家に顔を出すことが多くなった。以前はあえて避けてた親戚の集まりにも参加するようになった。会いたい人が増えたからだ。可愛い親戚の子も優しい祖父母も、気になって仕方ない。……会いたい衝動に駆られてる。そして会う度に、独りじゃないと気付かされる。たくさんの人に支えられて生きてるんだ、と改めて感じていた。「和巳さん、もうすぐ一年終わっちゃうね」「お、そうだね。俺と鈴が再会してから、もう半年も経ったんだ」リビングで寛ぐ和巳さんを尻目に、カレンダーを捲った。今でこそ何も考えずに捲れるけど、半年前は全然違ったな。和巳さんがいつ帰って来るのか。そればっかり考えて次のページを捲って、ゴミ箱に捨てていったカレンダー。あの苦い記憶すら今は懐かしい。恥ずかしいから和巳さんには絶対言わないけど。「そうだ、鈴! 俺達の輝かしい軌跡をお祝いしよう! 終わってしまうことを寂しく思うより、新しく始まる一年に乾杯するんだ!」「おぉ……さすが和巳さん、冬でも脳内は年中お花畑だね!」「鈴、その言い方だと皮肉になるから。それはさておき、冬と言えばスキー! 嘘! 俺は雪が嫌いなんだ! だから体も心も暖まる温泉に行こう! 雪見風呂なんて最高じゃない? 寒いのに暖かい所にいられる至福の時間、朝まで飲みたい!」色々と情報過多だけど、とりあえず温泉に行きたいことだけは伝わった。「温泉もいいね。せっかくだし、冬休みに入ったら行こう。和巳さんが乗りたがってた新幹線で」「おっ、分かってるねぇ鈴。じゃあさっそく計画立てていこうか」和巳さんがノリノリなので、新幹線で行く小旅行を計画した。スキーやスノボも良いと思うけど、和巳さんは「リフトが嫌なんだ」と真剣な顔で言ってきた。高い所が嫌いなんだろうか。でもすごい楽しみだ。和巳さんと初めての遠出……!その旅行は、わりとあっという間にやってきた。嬉しいことに、旅行当日は晴天。和巳さん

  • 余計なお世話係   5

    明るい照明。嗅ぎ慣れないシーツの香り。壁。……吐息。向き合って密着している友人に、小声で囁いた。「秋……俺もう、二度とこっち関係は協力しない。次何かあっても、ひとりで何とかして……。いいね?」「あぁ……。俺も、もうやめる……もう、何もしない……」秋は投げやりというか、もう疲れて何も考えられない、というように肩を揺らした。安易に乗っかった俺も悪いけど、本当に困った友人だ。でもある意味、問題児は秋より……矢代さんの方が。「ごめん、鈴鳴。俺のせいで、こんな……」息も絶え絶えに、秋は手を握ってきた。くっ、本当はもっとこてんぱんに怒ってやりたいんだけど。こんな風に泣きつかれたらどつけないじゃないか。「いいよ。秋が意外と世話焼けるのは前から知ってたから」「んんっ……」彼の腹を汚す白い体液を指ですくといる。すると彼も腰を擦り付けて、俺のぬれた頬を舌で舐めとった。「ん、鈴鳴……やっぱ、お前可愛いすぎ」「ちょ、秋、くすぐったいってば」俺も同じようにやり返して、濡れた部分を舐め合う。そうしてじゃれあってたんだけど……途端に、背筋に寒気を感じて我に返った。「あははは。……矢代さん、どうします? ほんとの恋人の前で堂々とイチャイチャしてる、この子達」「うーん、そうだねぇ。可愛いけど、また時間をかけて教えてあげないといけないかもね」しまった……!!後悔しても、もう遅い。振り返って謝ろうとしたけど、また前を握られてドキッとする。「鈴は俺を嫉妬させんのが上手になったね。でも、もう本当に怒った。今度は潮吹くまで許さないよ」「えっ! そ、そんなの無理だって!」青ざめて訴える鈴鳴の隣で、矢代は無邪気に笑った。「ふふふ、人の潮吹きなんて久しく見てないな。ちょっと楽しみだよ。……秋、お前も負けてらんないな。俺の前で彼と戯れたこと、イッて後悔するんだな」「待っ、やだやだ、もう無理! もうイケないって!」「俺はまだイッてないんだよ。最低でも後三回、これから付き合ってもらう。足りない頭で反省しながら、身体で俺を覚えろ。いいな?」「ち、ちょっと待っ……あぁ、俺が悪かった! もう二度と余計な心配はしない! 俺は本当に先生に愛されてるよ……!」軋むベッド、染みだらけのシーツ。そして絶え間なく響く二人の青年の悲鳴に、その夜は色濃く染まった。地獄が終わったのは朝

  • 余計なお世話係   4

    突然上半身を抱き起こされたと思ったら、今度は座位で貫かれた。嫌だと身を捩っても大きく脚を開かされ、挿入部分を確かめるように触られる。「ほら、中擦られるの気持ちいいでしょ?」「うっ、あっ、やっ……!」絶対、ハイとは言えない。だって目の前には矢代さんと、彼に抱かれてる秋がいる。だけど和巳さんはさらに激しく奥を突いて、俺の中を掻き回した。逃げようとすればするほど押さえ込まれる。「あっ、やだ、そんな激しいのっ……おかしくなっちゃうぅ……っ!」腰をホールドされる。彼の動きと連動して身体が震え、触ってもいない性器が跳ねてしまう。本当は触りたいけど、それはやっぱり許してもらえなかった。「……そうそう、忘れてるみたいだからおさらいしようか。鈴を世界で一番愛してるのは、誰だっけ?」「あっあぁ……か、和巳さん……っ」熱い。肉が蠢く穴の中も、剥き出しの下腹部も。どくどくと脈を打って、全身へと伝わっていく。 「じゃあ鈴が一番感じて。喘いで気持ちよくなっちゃう相手は、誰だっけ?」「ん、和巳、さんっ……和巳さん、だけ。あっ、中すごい事になってる……今も……っ!」胸の突起をぎゅっとつままれる度、口端から唾液か零れる。そしてその度に、彼の性器が高まる気がした。向きはそのまま、矢代さんと秋を盗み見みながら。恥ずかしいのに溺れた身体は快楽に逆らえなくて、むしろもっと彼を求めた。「和巳さん、もっと……もっと、強いの欲しい。おかしくして……っ!」「ふっ……もう、最高……!」後ろに押し倒され、正常位のまま激しく抜き差しされる。見上げる先の彼の顔は、快感に酔いしれてる。俺も多分、彼と同じか、……それ以上にだらしない顔をしてるんだろう。降ってくる汗が伝って、シーツに染みをつくる。肌と肌が触れ合う部分が滑って、なのに張り付いて、やらしい水音が響き渡る。和巳さんの熱で火傷しそうだ。感じ過ぎて制御できず、脚は限界まで大きく開いてしまった。「和巳さん、キスしたい……っ」「うん……いいよ」舌を出して求めると、舌ごと激しく吸い付かれる。ただでさえ熱い身体が、さらに熱く感じた。俺、今……上も下も、和巳さんと繋がってる……。もっと口を塞いで欲しい。離れたらきっと、また情けない声を出してしまうから。今は羞恥心も忘れたい。思考を溶かすほどの快感に包まれたかった。「ふふっ……和巳君と鈴鳴

  • 余計なお世話係   3

    瞼に当たる和巳さんの手が、段々汗ばむ。どうなってんだ。そんなにやらしい光景なのか? すごく見たい。「でも、それなら何で……最近、俺とシてくれないんだよ。前は毎日シてくれたのに」秋の悲痛な声が聞こえる。でも、……あれ、毎日? 前に俺と話した時は週二って言ってなかったっけ?「あぁ。この前は本当に、疲れてやる気が出なかっただけだよ」「じゃあ、今回は何で……」「はは、そんなの決まってるだろ? 欲求不満に悶えるお前を観察するのが楽しくてしょうがないからさ」矢代さんの、十二分に喜色を含んだ声が鼓膜に届いた。……つまり今までわざとお預けにして、秋を焦らしていたのか。軽く鳥肌が立つ。姿が見えないからこそ、ベッドの軋み具合と彼らの声を全身で感じてしまう。やばい……。矢代さんからキチクの匂いがする。こんな人を敵に回したことが間違いだ。絶対倍返しに合う。後悔しても後の祭りだけど、案の定もう秋の喘ぎ声しか聞こえなかった。「く、そっ……サイテーだよ、アンタ……っ!」「ははは、否定はしないよ。でもお前も人のことは言えないだろ。さっきは本当に鈴鳴君と危ない空気になってたじゃないか。純直な和巳君に感謝するんだな」状況がよく分からないけど、何かガンガン音が鳴ってる。秋が暴れてるんかな。「いつまで経ってもお前は本当にどうしようもない……それでいて最高だよ。俺の為にこんな楽しい趣向を凝らしてくれるなんて」「ち、違っ……あぁ!」何かがビリッと破れる音がした。ちょっと、音声のみは怖くなってきた。「和巳さん、手を離して……! さっきから何も見えないよ!」「う~ん……どうしよっかな。今の光景は、ちょっと鈴には刺激が強いかも……」「ずっとこのままでいる方が気まずくない!?」尋常じゃなく情事の気配を察知している。和巳さんは二人をバッチリ見てるわけだし、俺も彼らと同じベッドに座っているし、この状況はやばい。彼らが本番に入る前に早くここから退散しないと!そう思っていたら、矢代さんの弾んだ笑い声が聞こえてきた。「せっかくだから和巳君と鈴鳴君もここですればいい。このベッドは大きいから、四人乗っても余裕があるよ?」い、今何て……。耳を疑った。矢代さんは秋と抱き合ってるベッドで、俺と和巳さんにもエッチをすすめている。正気じゃない。そんなの和巳さんだって断るに決まってる!「え

  • 余計なお世話係   2

    「絶対やめた方がいい……嫉妬させるだけならともかく、このやり方は彼を傷つけることになるよ。恋人を傷つけるのは本望じゃないでしょ?」「ははは、心配ないって。先生は恋人が浮気してるぐらいで傷つくタマじゃないから」何言ってんだ、この子は。「恋人が浮気して傷つかないって、それはもう恋人じゃないよ! 矢代さんは絶対傷つくって!」「でもあの人はぬるいやり方じゃ絶対動じないし、本当の気持ちを確かめるにはこれしかないんだよ。あの人が俺のことをまだ想ってくれてんのか確かめるには、これしか」そう答える秋の目は、ガチだ。本気で切羽詰まってる。「こんな事に巻き込んでごめん……でも俺、あの人が好きなんだ」「秋……」彼も相当もがき、苦しんでいる。まぁ、それとこれとはちょっと話が違う気がするけど……。でも困った。彼の辛そうな顔を見てたら、全力で突き放せない。「矢代さんが、ショック受けて倒れないといいけど」計画に沿うことにするか。もちろん演技だから、変な所は絶対に触らない。俺は秋のシャツのボタンを外しにかかった。ところが。「うわっ、何してんだよ。攻めるのはお前じゃなくて、俺。お前はそういうの向いてないだろ」力任せにベッドに押し倒される。そしてあろうことか、彼は俺のベルトに手をかけた。瞬時に嫌な汗が溢れて、慌てて抵抗する。「ちょいちょいちょい! そんなの計画の時は決めてなかったじゃんか!」「決めてないけど、間違ってもお前はタチじゃない。つうか本来は俺がタチなんだよ。あの人にめちゃくちゃに抱かれなきゃ、そもそもこんな人生になってなかった!」よく分からない不満をぶちまけて、秋は俺のベルトを引き抜いてズボンを下ろした。以前、外の公衆トイレで彼にアナル開発を手伝ってもらったことはあるけど……今はちょっと状況が違う。ていうか、俺だけ恥ずかしい格好になるのは嫌だ!「こら! 秋も少しは脱いでよ」「はぁ? ……わ、やめろって!」ベッドが軋むほど、激しい取っ組み合いが始まった。尋常じゃなく息が上がる。互いに互いのズボンを奪い取ったとき、この争いはさらにヒートアップした。「おい、お前いつも和巳さんとする時は自分で後ろ弄るの? それとも弄ってもらうの?」「それは……あ、秋はどうなんだよ?」一瞬の不意をつかれ、ベッドに押し倒された。秋は真上に覆い被さり、俺を見下ろした。顔

  • 余計なお世話係   4

    ただ親戚はともかく、俺達を一番比較していたのは……他でもない俺の父親だ。「さ、もうすぐ時間だ。和巳君は前の方で話を聴いてくれ」「はい。あ、鈴……」皆に引っ張られながら、和巳さんは思い出したように俺の方を見た。「大丈夫ですよ、俺は後ろで見てますから」「そっか……分かった、ごめんな。また後で」「はい、また後で」軽く手を振り返し、できるだけ目立たない端の席についた。既に俺の父も祖父も、和巳さんのお父さんも席についてる。俺も帰る前に挨拶しないと。そして始まった会議は、予想通りちんぷんかんぷんだった。だんだん眠くなってきて、ウトウトする。うーん。寝ちゃいけない。けど……。まぁバレな

  • 余計なお世話係   3

    翌日の夕方、鈴鳴の運転で祖父の実家へ向かった。「和巳さん、寒かったら暖房強くしてくださいね」「ありがと。鈴、ポッキー食べる?」「うっ!」まだ何も言ってないのに、和巳さんは俺の口めがけてポッキーを突き刺した。信号待ちしてたから良かったけど、地味な痛みにハンドルから手を離し、唇を覆った。「鈴の運転は静かで安心するよ。俺は人や物にぶつかんなきゃいいって考えだからさ」「そ、それはまた……確かアメリカって大抵十六歳で免許とれるんですよね」「うん、場所によっちゃ十四でとれる。車なきゃ生活できないからね。鈴のこの車は自分で買ったの?」和巳さんはコンビニで買ったカフェオレを開けて飲んだ。「

  • 余計なお世話係   2

    「災難でしたね、和巳さん」「あはは、これくらいどうってことないよ。よくあることじゃん?」よくあったらマズい気がする。あと一回女子トイレに入ろうとしたら、確実に裏に呼ばれていたと思う。和巳さんのズボンが無事に乾いた頃、店を出て駐車場へ向かった。彼には助手席に乗ってもらい、自宅へと車を走らせる。「鈴は本当に立派になったな。大人になっても揺るがない可愛さ、俺の自慢の弟だよ」「かわ……あ、ありがとうございます」運転中ということもあるし、隣はしっかり見られない。けど今の自分は変な顔をしてるだろうから、この位置で良かったと思った。弟か……。そう思われてるのなら、その方が都合がいい。“

  • 余計なお世話係   プロローグ

    「何で泣いてるの、鈴」差し出された青いハンカチは良い香りがした。それを優しく目元に当てられ、思わず瞼を伏せる。「真っ赤になってるよ。強く擦っちゃダメだって」小学生だった俺は毎日と言っていいほどよく泣いていた。そんな俺をいつも心配してくれたのは、四つ歳上の従兄弟。親が共働きのため、夜になるまで家ではひとり。そんな俺を心配して、彼はしょっちゅう家まで様子を見に来てくれた。泣き虫で臆病で、何もできなかったあの頃……彼は親戚の誰から見ても、俺のお世話係だった。「誰かに意地悪でもされた?」彼の質問に、途切れ途切れだけどようやく答えることができた。親に怒られたと。理由は朝寝坊したこと、

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