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半年後、俺はマンションの改装をすべてやり直した。デザイナーが俺に尋ねた。「以前の新婚向けのコンセプトのままで進めますか?」「いや、結構です」と俺は答えた。主寝室のベッドマットは、自分で試しに寝転がって決めた。カーテンの色も、自分で選んだ。玄関に女性用のシューズボックスのスペースは必要ない。ダイニングテーブルも、わざわざ6人掛けのものを買う必要はない。一人暮らしに、いつでも誰かが帰ってくるような演出は必要ないのだ。陽向はその後、この街を離れた。出発する前、彼からとても長いメッセージが送られてきた。書き出しはこうだった。【湊、俺はずっと、俺たちは子供の頃あんなに仲が良かったから、お前のものを少し借りるくらい、お前は気にしないだろうと思ってた】俺は最後まで読まなかった。彼は結局、最後まで理解することはなかったのだ。貸していいものもあるが、譲ってはいけない場所もあるということを。姉からは、たまに「実家にご飯を食べに来ない?」とメッセージが来る。ある時、こんなメッセージが来た。【今回のキノコの味噌汁、塩は少なめにしておいたわよ】俺は返信した。【また今度ね】彼女はそれ以上追及してこなかった。ただ「わかったわ」とだけ返してきた。健も、毎日のように俺に連絡してくることはなくなった。イベントの時に、祝いのメッセージを一つ送ってくるくらいだ。俺もたまにそれに返信する。俺たちのトーク履歴はどんどん短くなっていった。だが、昔の「一生のダチだろ」とか「俺たちの絆は誰にも壊せない」といった薄っぺらい言葉が並んでいた頃より、ずっと心地よかった。凛花も、ドアの前で待ち伏せするようなことはしなくなった。気温が下がった時に、気遣いのメッセージが来るだけだ。【厚着してね】俺が胃痛を起こした時、彼女はマンションの管理人に薬を預け、部屋には上がってこなかった。ある夜、彼女から突然、チョコレートプリンの写真が送られてきた。【昔は、これさえあればあなたの機嫌を取れると思ってた】しばらく経ってから、もう一通追加された。【チョコレートプリンが効いてたんじゃないって、後になってわかった。あなたが私に『機嫌を取らせてくれていた』だけだったのよね】俺はそれを見つめ、スマホの画面を
本来なら結婚式を挙げるはずだった日、俺は同僚を数人家に招いてパーティーをした。姉は来ていない。健も来ていない。俺が呼ばなかったからだ。ウエディング写真を飾るはずだった壁には、旅行で撮った海の風景写真を掛けた。同僚がグラスを掲げて囃し立てる。「湊、引っ越しおめでとう!」俺も笑ってグラスを合わせた。「ありがとう」ちょうどその時、インターホンが鳴った。デリバリーの配達かと思ったが、ドアを開けると、そこにいたのは凛花だった。彼女はあの白いマーメイドラインのドレスを着ていた。半年前、俺が彼女の試着に付き合って選んだものだ。あの時、彼女は「腰回りが少しきつい」と文句を言い、俺が「たかが結婚式で少し我慢するくらい、いいだろ?」と笑うと、彼女は背伸びして俺にキスをした。「あなたと結婚できるなら、きっつい息が止まっても本望よ」今、彼女は本当にそのドレスを着てドアの外に立っている。手にはブーケを持っていなく、あるのは、一本の鍵だけだった。彼女は部屋の中をちらりと見た。鍋の湯気が立ち上っていて、みんなが大きな声で笑っている。壁にはウエディング写真がなく、ドアには祝いの飾りもない。今日は本来なら、誰かが俺たちに「新婚おめでとう」と祝福の言葉をかけるはずの日だった。しかし今、誰もが俺に「引っ越しおめでとう」と言っている。凛花は長い間立ち尽くした後、ようやくその鍵を差し出した。「新居の合い鍵。ずっと私が持ってたから」俺はそれを受け取った。彼女の瞳が、無意識に一瞬だけ輝いた。だが、俺はただ淡々とこう言った。「ありがとう」その一言に、彼女の顔からさっと血の気が引いた。「湊」彼女の声はひどく掠れていた。「今日、ずっと考えてたの。昔の私は、あんたのことを細かいことで根に持つとか、すぐ意地を張るとか、何でも陽向と張り合おうとするって文句ばっかり言ってたけど、本当はわかってたの。あなたが毎回どうして怒ってたのか、全部わかってた」俺は目を上げた。彼女は苦笑した。「ただ、あなたは怒っても、最後には私のところに戻ってくるって甘えてたのよ。あなたの誕生日、あなたが傷つくってわかってたのに、私は陽向のところに行った。来年またやり直せばいいって思ってたから。入籍の日、あなたが一人
それから2日後、健がやって来た。彼はフルーツワインの瓶を2本ぶら下げて、ドアの前に立っていた。「10分。10分だけでいい、話し終わったら帰るから」彼は中に入れ、酒を差し出した。「お前が昔一番好きだったやつ」俺は一口飲んだ。甘ったるすぎる。「今はもう、こういうのは飲んでないんだ」彼は強張った。「いつから?」「大学を卒業してから」健の顔から少しずつ笑みが消えた。ここ数年、彼は陽向が失恋した後に聴けなくなる曲や、寝る前に必ずホットミルクを飲むこと、カーテンは薄いピンクが好きだということまで知っていた。だが、俺がとうの昔にフルーツワインを飲まなくなっていたことは知らなかったのだ。健はうつむき、グラスを握りしめた。「最近ずっと考えてたんだ。なんで俺はあんなふうに、陽向を新居に住まわせて幸せのおすそ分けをもらえなんて、平気で言えたんだろうって」俺は黙っていた。「俺は本当に、お前が本気で怒るなんて思ってなかったんだ。俺たち、知り合って20年だろ。俺たちの仲なら、何を言っても、何を借りても絶対に大丈夫だって、ずっと信じ込んでた」彼は苦笑いをした。「俺は、お前の優しさに甘えきって、お前の気持ちを無視してもいいんだって勘違いしてたんだ」「ごめん」という言葉よりも、よほど意味のある言葉だった。少なくとも、ようやく人の誠意を込めた言葉らしく聞こえた。俺は尋ねた。「今はもう、わかったのか?」「ああ」彼は泣かなかった。ただ、俺が新しく替えたカーテンを見つめて言った。「これ、前のやつよりずっといいな」「俺もそう思う」彼が帰った翌日の夜、凛花がやって来た。手には靴の箱を抱えていた。中に入っていたのは、婚姻届を出す日に俺が履いていた革靴だった。かかとの部分は、新しく柔らかい素材で覆い直されている。「これなら、もう靴擦れしないわ」俺はそれを一瞥した。「もう履かない」彼女は全身をこわばらせた。「どうして?」「見るだけで、あの日の役所を思い出すから」凛花は下を向いたまま長い間それを見つめ、ゆっくりと靴箱の蓋を閉めた。「あなた、わざとやってるの?」俺は眉をひそめた。彼女が顔を上げると、その目には怒りが抑え込まれていた。「陽向のことはもう突き放
姉はあの壁を元通りに直していた。俺の子供の頃の写真をすべて引っ張り出し、一枚一枚位置を合わせながら、白いペンキで塗りつぶされた身長の線を新しく描き直したのだ。週末、彼女から一枚の写真が送られてきた。【お父さんの字までは、恐れ多くて真似できなかったけど】俺はそれを長い間見つめ、ただ「わかった」とだけ返信した。夜になって、彼女からまたメッセージが届いた。【お父さんが昔使ってたホーローの器、見つけたわよ】俺は結局、一度実家に戻ることにした。部屋は以前とほとんど同じ状態に戻っていた。陽向の荷物はすべてなくなり、ベッドシーツも元のものに替えられ、アルバムも机の上に戻されていた。壁には、新しく引かれた背丈を示す鉛筆の線が、整然と並んでいる。だが、それがかえって以前よりも作り物めいて見えた。姉は俺の後ろに立ち、おずおずと尋ねた。「昔と同じように見える?」俺は答えなかった。彼女は自分からうつむいた。「わかってる、同じじゃないわよね」食卓には、キノコの味噌汁が置かれていた。子供の頃に俺が熱を出すと、親父がいつも作ってくれたものだ。姉は俺に一杯よそってくれた。「飲んでみて」俺は一口飲んだ。「しょっぱい」彼女はハッとした。「そんなに?」「ああ」彼女も下を向いて一口飲み、突然笑い出した。目を赤くしながら笑う。「お父さんに、昔よく『お前は塩の加減もわからないのか』って怒られたっけ」俺は相槌を打たなかった。その時、スマホが鳴った。陽向からの着信だった。姉は画面の名前を見ると、無意識に俺をちらりと見た。そして、そのまま通話を切った。10秒後、またかかってくる。3度目、姉はついにスマホをマナーモードにした。彼女は俺を見つめ、何かを待っているようだった。俺はうつむいたまま、スープを飲み続けた。彼女はついに耐えきれなくなった。「聞かないの?」「何を?」「陽向がどうして電話してきたのか」「それは姉さんの問題だろ」姉の顔からさっと血の気が引いた。昔の俺なら怒り出し、問い詰め、嫌味の一つも言っていただろう。だが今は、彼女が俺の目の前で陽向を拒絶しても、その理由を聞く気すら起きないのだ。食後、彼女は実家の鍵を俺の手のひらに押し付けた。
新居のあのベッドマットは、陽向が住み始めた後「硬すぎる」と文句を言い、凛花が彼に付き添って選び直したものだった。お金も彼女が払っていた。俺はそのベッドマットを返品することにした。店側は元の支払いルートへ返金処理を行うため、凛花はすぐにそのことを知った。家具屋へ新しいベッドマットを選びに行くと、案の定、彼女はやって来た。二つ目のマットを試していた時、背後から彼女の声がした。「その人に柔らかすぎるものは勧めないで」販売員が振り返る。凛花は近づいてきて、手のひらでマットを押し込んだ。「彼は腰が悪いから、柔らかすぎると翌日起き上がれなくなるの」販売員が笑った。「旦那様のこと、よくご存知なんですね」彼女は無意識に口角を上げた。「8年の付き合いだから」そう言い終わると同時に、彼女自身の表情が凍り付いた。俺は立ち上がった。「これをもらいま――」「私が払うわ」俺はすでにスマホ決済のコードを読み取っていた。「もう払った」彼女の顔色が沈んだ。「そこまで私と線引きしたいわけ?」「家は俺のなんだから、ベッドマットも俺が買うのが当然だろ」「昔は私も――」彼女は言いかけて、口をつぐんだ。昔、彼女はいつも言っていた。将来はここが私たちの家になるんだからと。今、その言葉は喉の奥につかえ、二度とスムーズに出てくることはない。新しいベッドマットがマンションの下に届いた時、凛花のスマホが鳴った。管理会社からで、彼女が以前住んでいた古いマンションから陽向の荷物を今日中にすべて運び出すのかという確認だった。彼女はただ、「はい」とだけ答えた。10分後、陽向がスーツケースを引きずりながらエントランスに駆け込んできた。明らかに管理会社からの電話を受けて、直接ここへ飛んできたのだろう。「凛花、本当に俺の荷物運び出させたのか?」凛花は眉をひそめた。「前にも言ったでしょ?あの部屋はもう、あなたには貸せないの」「なんでダメなんだよ?ずっと空き部屋にしてたじゃないか。それに俺は、二人の新居には住んでないんだぞ」「アシスタントにホテルの予約を取らせたわ」陽向はすぐに目を赤くした。「ホテルなんか住みたくない」「だったら自分でアパートを借りなさい」彼は呆然としていた。知り合っ
凛花は一晩中ドアの外にいた。午前2時になっても、まだドアを叩いていた。「開けてよ。中には入らないから、一言だけ言わせて……胃が弱いんだから、空きっ腹で寝ちゃダメよ。チョコレートプリン、ドアの前に置いておくから。今日はもう遅いから、明日にしようね」4時になって、ついにノックの音は止んだ。だが、メッセージが送られてきた。【わかったわ。気が済むまで怒ればいいじゃない。結婚式は一旦キャンセルしてもいい。あんたの機嫌が直ったら、またやり直しましょ】俺はそのメッセージを長い間見つめていた。彼女は今でも、俺がただ拗ねてワガママを言っているだけだと思っているのだ。翌日の午前中、俺はウェディングプランナー、式場、カメラマンをすべてキャンセルした。昼、凛花が俺のオフィスの下まで押しかけてきた。目の奥は真っ赤に充血していたが、口を開いて最初に出た言葉はこれだった。「朝ごはんはちゃんと食べた?」俺は彼女を避けて歩き出した。彼女はついてくる。「なんで本当に式場キャンセルしたのよ?」「結婚しないって言っただろ」「湊、昨日の夜は私もキャンセルしていいって言ったけど、今になってまだ私と意地張り合ってどうするつもりよ?」俺は立ち止まった。「俺がただ意地を張ってるように見えるのか?」「そうじゃなかったら何なのよ?」彼女はイライラしたように襟元を引っ張り、それでも必死に怒りを抑え込むように言った。「昨日の言い方がひどかったのはわかってる。それは謝るわ。でも私があっちに行ったのは、陽向が本当に早まったことをするんじゃないかって心配だったからよ。ちゃんと戻ってきて、あんたのところに行ったじゃない」俺は彼女を静かに見つめた。「誕生日はどうだ?」彼女は言葉に詰まった。「新居の改装は?」「……」「あの部屋の件は?」凛花の眉間のシワはますます深く刻まれた。「その話はもう終わったじゃない。彼が婚約破棄されたばかりだから、少し多めに気を使ってあげて何が悪いの?そうやって過去のこと一つ一つ引っ張り出して、私を罪人に仕立て上げなきゃ気が済まないの?」言いながら、彼女はまた手を伸ばして俺に触れようとした。「湊、私たち8年の付き合いなのよ。結婚式をキャンセルしたいなら好きにすればいい。あんたの気が