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もうすぐ春ですね

Penulis: 結城慎二
last update Tanggal publikasi: 2026-07-08 06:00:08

 春になった。

 年始である。

 冬の間に村はずいぶんと発展した。

 まず僕以外の全員分の家が建った。

 何人かでシェアしている家があるので二十数人で十軒ではあるけれど。

 うち北東に建てられた一棟がジョーのキャラバンが使う倉庫兼邸宅だ。

 ジョーのこの村に滞在するときに使う家ってことになる。

 倉庫はあと二棟建てる予定でいる。

 倉庫の管理としてジョーの使用人というカーゲ・ストゥラー、ベル・ストゥラー夫妻が常駐する。

 また前世の記憶をくすぐる名前だ。

 余談だけど夫妻にはカーゲマンと言う今年十五歳になる息子がいて、彼はキャラバンに同行するとこになっているそうだ。

 サビー、イラード兄弟とガーブラは倉庫の側に建てた家で暮らすことになったし、オギンとザイーダが村長ぼくの家予定地の西隣に家を建てて暮らしている。

 ちなみに僕の家は中央広場から北へ続く道の突き当たり、村の範囲を北側五百シャル削ったのでそこはある意味村はずれだ。

 縄張りだけは済んでい
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  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    ふと、思ったんだ

     村は基本自給自足だ。  畑仕事以外のところでは、必要なものは個々の家庭で自力で用意する。  作る物によってやたら時間のかかるものや得手不得手とかあるから村人同士都合を合わせながら物々交換的に融通しあって暮らしている。  辺境の一農村で何事もなく暮らせるのであれば今のままでも十分幸せなんだけど、ホラ、そうも言ってられないでしょ?  町にランクアップするにあたって導入すべきものがある。  職業の専門化だ。  もちろん町になっても農業が基本で、これからも大多数の住民には農業に従事してもらわなきゃいけない。  けど、人口規模が大きくなると必要なものの絶対量が増えるから、効率的に生産する態勢を整える必要性があるんだ。  これは町にする理由と大いに関わる問題だから避けて通れない。  独立自治を勝ち取るための戦略だ。  村がまだ復興中だった一年目からジョーに協力してもらい職人を村人に迎え入れてきてたわけだけど、年が明ける三年目の春からは本格的な生産体制を確立させようと思う。  織機の試作はその第一歩なわけだ。  木工職人のおじさんを始め、牧畜のおじさん夫婦、革職人に弓師矢師。  村で養成した炭焼き、ルンカー職人(最近は土器職人も兼ねている)それに鍛治師のジャリ。  今の所専門職は彼らだけだ。  いや、四十人規模の村には多いくらいかな?  職工に興味を示している村人も何人かいるみたいだ。  今は農閑期ということもあって、それぞれの職人のところに通っている。  畜産農家にならしてあげてもいいけど、今はまだ畑作に手が必要だから今の所こちらから声をかける気はない。  そして職業を専門化するにあたって導入しなきゃいけないのが貨幣経済だ。  今までだってキャラバンが来ていたくらいだし、お金の存在は知っていた。  これはジョーに教わったんだけど、基本的にキャラバンとは物々交換で、キャラバンの欲しいものと村の欲しいものが釣り合わなかった場合に貨幣が支払われていたそうだ。  つまり、村の知識としての貨幣とは物々交換品の一種だったわけだ。

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    機織り革命

     雪の降るまでの間、僕は急ピッチで開墾するように指示を出した。  雪が降ってしまうと土を掘れなくなるからだ。  とはいえ「総動員令」発令から雪が降るまでは四十日もなく、機械にも魔法にも頼れない村の現状では伐根に農耕ホルスを使ったところで開墾できた範囲なんてたかが知れたもんだった。  雪が降ってからの作業はおおむね春の準備だ。  切り出してきた木材の加工。  保存食の仕込み、布を織るなどだ。  そうそう、ルダーと木工職人のおじさんに機織り機の試作品を作ってもらった。  アドバイザーはヘレン。  文化水準からくる話で、機織りは田舎の女の当然のたしなみらしい。  冬は当たり前ながら農閑期なので男は縄をなったり道具を作ったり、女も時間のかかる織物などに当てるのだそうだ。  思い返せば母ちゃんもやってたな。  父ちゃんは……  …………。 仲間と飲んで食って騒いでる印象しかないぞ!? この辺りでは「竪機」といって経糸をすだれのように垂らして緯糸を編んでいく織り方だったのを前世知識の「(鶴の恩返しでおなじみの)水平機」に置き換えようというものだ。  とはいえ構造に対する正確な知識があるわけもなく、前世の実家にあったというルダーの視覚情報知識だけを頼りにまずは一シャッケン幅の布が織れる小型のものを試作した。  完成した試作機にヘレンは大満足だった。「これなら一日中織ってられるよ」 という評は機械化された世界を知っている身としてはなんだか申し訳ない気持ちでいっぱいだ。  ジップが冬の間に身にまとう毛を春には刈る予定なので、それを糸にする糸車も必要だ。  これはこっちの世界の糸車も構造的になんら劣るところがないから木工職人のおじさんに作ってもらおう。

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    かわいそうに

    「そうか……」 実際には後を追ったんじゃなくて(もちろん後を追うという体にしたのは僕の指示)僕の欲しい情報の収集と僕が広めたい情報の拡散のために行動しているんだけどさ。「で、いつ戻るとか言っていたかい?」「はぁ、特には」 手を抜きやがって……。  そこも指示を出していて、雪解けを待って戻っておいでと言ってある。  この村は辺境にあって冬の間は雪に閉ざされる。  村を守るという点ではありがたいことでもあるんだけど、情報も遮断されてしまうという不利益がある。  雪が解けたら突然目の前に軍隊が!  なんてなったら目も当てられない。  まぁ、そんな確率は千に一つもないだろうけど。  そこで、冬の間オギンに外界の目になってもらおうと考えたわけだ。  さて、ドブルには悪いけどこうなることは判ってた。  いや、こうなることがそもそもの計画だったわけだから、ドブルの処分は穏便どころか論功行賞ものなんだけど……。  僕は改めてドブルに事の経緯を話してもらい(やっぱりドブルの隙をついて逃げ出したようだ)処罰を決めることになった。「ドブル」「はい」「確かに君はヘマをやらかした。しかし人間誰しも間違いはある。そもそも村の人材不足とはいえ素人の君に護送を任せた僕にも責任の一端があるわけで、仕方がない部分もある。そうは言っても失敗になんの罰則もなしでは他のみんなに示しがつかない。そこで君には春まで僕の稽古相手になってもらう」「稽古相手?」「そうだ。剣の稽古の相手をしてもらう。ただし、受けるだけ。つまり一切攻撃しないこと」「それでいいのですか?」「いいよ」「ありがとうございます」 何度も頭を下げるドブルを解放し、自分の家に戻る後ろ姿を眺めていると、ジョーがにやけた顔で寄ってくる。「なにを考えている?」「いろいろ」「食えねぇやつだ」「お互い様でしょ?」「まあな。……やっぱ気になるぞ。なぜ罰がお前の剣戟

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    二年放置のツケ

     雑木林の管理ってものなかなかどうして大変だ。  もっとも収穫を減らしたのはキノコ類だ。  収穫量で去年の六割に届かないという報告が来ている。  冬の大事な食料なのにやばいな。  西の森にはキノコが多いんだけど、西は断崖になっていて迂回しなければ登れないのとスクリトゥリがいる。  戦闘演習以外ではあまり入りたくない森だよな。  サビー、イラード、ガーブラには北の森で狩猟を。  ザイーダには雑木林で肉食獣に襲われないように護衛を頼んである。  村の留守番にはチャールズと子供達、それから身重のヘレンを残してある。  クレタは収穫班についていきたいと言っていたけど、居残りで子供達に読み書きを教える役を押し付けた。  村が襲われる心配は今の所ほとんどないからできることだ。  ひと月(二十五日)ほど経った頃、ジョーのキャラバンが戻ってきた。  その中に消沈したドブルがいる。  他にふた家族計八人を連れてきていた。「お帰りなさい」 声をかけたジョーは挨拶もなしににやけた顔でこういった。「話はこいつらに聞いたぞ。野盗を殲滅したんだって?」 そこにオギンはいなかったけど、複数形にしたってことは話を聞いた時点ではオギンもいたってことだ。「一人生き残りましたけどね」「それも聞いてる。街の宿で逃げられたそうだ」 予定通りなんだけど、ポーズとして表情は作っとかなきゃな。「え? そうなのか?」 ちょっとわざとらしかったかな? と反省しながらドブルに訊ねると、大きな体を目一杯たたむように小さくなってうなだれた。「で? オギンは?」 と、これも僕の指示で戻ってきていないのを知っていながら訊ねると、「逃げられてすぐキャラバンと出会いまして、オレだけ報告のためにキャラバンに同行しました。オギンは後を追うといって別れました」「そうか……」

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    村人総動員令発令

     とにかく施設の必要性は村の規模拡大にあたって必要なものであるということで、村人を説き伏せていく。  ただの農村にいらないってのは確かだ。  だけど、百二十人規模の街にしようとなったときにどうしても必要になってくる。  必要だと判っていて準備しないなんて都市計画として最低だからなんとしても必要になる前に完成させておきたい。  前世のことわざで「泥棒を捕らえて縄をなう(略して「泥縄」)」というのがある。 「物事に出会ってから慌てて準備をすること(大辞林)」 平時ならともかく有事に際してそんなんじゃ世の中渡っていけない。  サラリーマン時代、よくそんな状況に追い込まれてた。  大抵は先輩や僕らの指摘を上司が無視して、危機が現実になってから理不尽に上司に対策を迫られた。  居酒屋で先輩たちと愚痴ったもんだ。「最初から判ってたべや、な?」 ってな具合だ。  不承不承なところもあったかもしれないけど、この件に関しては村長の権威で押し通し、計画を実行に移すことにした。  あんまり強権的に物事を進めると後々しっぺ返しが怖いんだけど仕方ない。  翌日から村は動き出した。  まず、今年も北の森から木材を切り出す。  ついでに北側を開墾して農地にする計画だ。  去年から随分木を切り出しているので割と拓けた感じになっているけど、その時の切り株が残ってる。  ルダー曰く「根を抜くと地盤が緩む」っていうんでそのままにしていたんだけど、これを抜いてしまわないと畑にならない。  この作業は伐根というらしい。  なかなかに重労働だ。  抜いた根は炭焼きに回す。  こっちの作業は男手の大半を割いて行われた。 女手は雑木林での収穫に当てる。  今年もピサーメ、マルルン、ダリプと豊作だ。  ただ、この二年手入れが行き届かなかったんで味が落ちている。  雑木林が荒れたことで野生動物も近づかなくなって土枯れしたせいもあるだろう。

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    村長、町長を目指す

     まず、村の人口のこと。  村としては五、六十人ってとこが適正範囲だと思うけれど、将来を見込んで百二十人規模にする予定だと語る。  百二十人といえばこの国ではちょっとした町の規模だ。  当然村人の一部がざわつくので、理由を説明する。  王国の政情不安のこと、そのせいで内乱が起きる可能性があること(実際にはすでに内乱の兆しがあるのだけど、あえてそこは伏せておく)、ここだっていつ巻き込まれないとも限らないので自衛のため規模を大きくしたいのだと。  そして、そのためにいくつか作っておかなきゃいけないものがあって、みんなにはそれに協力してもらいたいと話す。「具体的になにを作る気なんだ?」 と、ここまで話しちょっと間を置いたところでジャリが質問をしてきた。  いいタイミングだよ。  相変わらず懐疑的なところがモヤっとするけど、質問内容もタイミングもバッチリだ。「いい質問ですね」 と、前世の有名人の決まり文句を枕詞のように使い指折り数えていく。「まずは村に来る人が家を建てるまでの仮住まいとして宿泊所。新規開墾。各種食料加工所。そして学問所だ」「宿泊所はともかく、他はいるのか?」 そう聞き返してきたのは反対派の中心人物だったギラン。「必要だね。人数が多くなると色々なものの消費量が増える。ルンカーと炭を専用の施設で大量生産している恩恵について考えたことはないかい? それと加工食品にはそれぞれに最適な環境ってのがあって……」 いや、発酵がどうとか温度湿度の問題でとか、これは説明されてもチンプンカンプンだろうな。  オタク気質からくる説明したがりは戒めないとな。

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    五日ぶりの温かい飯

    「で、僕のステータスはどうやったら確認できるの?」「なにそれ、美味しいの?」 え?「うそうそ、そんな便利機能現実世界にあるわけないじゃない」 だよねー。「数値が知りたいなら体力測定とかIQ検査でもしてみる?」「それって実際あてになるの?」「参考程度には」 だめじゃん、そんなの。「まぁまぁ。ホラ、そろそろ準備始めなきゃまた木の上で寝ることになるよ」 リリムに言われて気がついた。  お日様がだいぶ西に傾いているらしく、僕の影

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    泣ぬれるは枝の上

    「逃げたのはガキ一匹か」 と、僕の真下で傷だらけのごつい男が言っている。  こいつが盗賊団の頭目と見た。「へい、多分」「多分だと!?」「へ、へ……」 あたふたした下っ端が頭目にぶん殴られ、仰向けにぶっ倒れる。  気絶してろ!  盛大に気絶してろよ、でなきゃここにいることがバレる。  僕の祈りは天に通じたのか、そいつは白目をむいて動かない。「このさらに奥に行ったかもしれませんぜ」「ならいい」 頭目は、一言吐き捨てて踵

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    晩秋の枝の上で八方塞がり

     さて、ここからは前世の記憶をフル活用だ。  襲ってきたのは、十数人の盗賊団。村には女子供を含めて三十人ちょっと。ここは本当に農村の一集落だった。  ん? この世界は前世知識的にどれくらいの文明水準なんだ?  くそっ、ど田舎の未成年じゃ参照知識がなさすぎる。  異世界転生ものならそれなりの環境に生まれ直させろっての。  ──って言っても仕方ないわけで、そもそもテンプレの神様にあった記憶がない。  現世の記憶を手繰り寄せてもなろう系のお作法である知ってるゲーム世界的な場所でもなさそうだ。  あ、もっとも僕、

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    朱夏-ある中年のつぶやき-

    「人生やり直せたらなぁ……」 そう思っていたことが僕にもありました。 ありましたが……。 だからってこれはないんじゃないでしょうか? こんな状態で前世の記憶が蘇るとか、神様の仕業だとしたら「あんたバカぁ!?」って罵ってやりたい。 いいや、一発殴らせろ。 こんな切羽詰まった状態だが、現在の状況を冷静に確認分析だ。 まず、ここは村はずれの雑木林をちょっと入

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