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泣ぬれるは枝の上

Author: 結城慎二
last update publish date: 2026-06-01 18:00:34

「逃げたのはガキ一匹か」

 と、僕の真下で傷だらけのごつい男が言っている。

 こいつが盗賊団の頭目と見た。

「へい、多分」

「多分だと!?」

「へ、へ……」

 あたふたした下っ端が頭目にぶん殴られ、仰向けにぶっ倒れる。

 気絶してろ!

 盛大に気絶してろよ、でなきゃここにいることがバレる。

 僕の祈りは天に通じたのか、そいつは白目をむいて動かない。

「このさらに奥に行ったかもしれませんぜ」

「ならいい」

 頭目は、一言吐き捨てて踵を返す。

「いいんすか?」

 一緒に来ていた三人も意識のない男を抱えて後を追う。

「奥に逃げたのなら探すまでもねぇ」

 そう、この雑木林の奥は「主」のテリトリーだ。

 五体満足で戻ってきた者はいない。

 どんな怪物なのかもはっきりしない、生き物かどうかさえ定かじゃない、そんな存在がいるのだ。

 ……しかし、そんなことどうして盗賊団の頭目が知ってるんだ?

 まぁ、いい。

 僕は念の為、ベルトで枝に体を縛り付け、寒さに震えながら一晩を過ごした。

 その夜は村の方角が赤かった。

 ああ、きっと火がつけられたんだろう。

 前世の記憶が混ざって混乱していた現世の記憶が整理されたことで父ちゃんと母ちゃんのことが、村の人たちのことが思い出されて悲しくなった。

 でも、僕は歯を食いしばって泣き声を噛み殺す。

 まだこの辺りに盗賊団が残っていないとも限らないからだ。

 でも、とめどなくあふれる涙は止めようがなく、ただでさえ寒い秋の夜にシャツを濡らし続けることになった。

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