登入結局一晩布団の上でウンウン唸って考えましたよ。
翌日、午前の仕事が一段落する昼に集会を開く。 話したのは、主がダークナルフの魔法使いだったと言うこと。 残念ながら三人は亡くなっていたこと。 謝罪のかわりに(と嘘をついて)村の防衛に協力してくれること。 引き続き森は主の領域なので立ち入り禁止であること。 だ。 もちろん、町人それぞれ思うところがあるだろう。 当然、遺族は納得いってない。 しかし、そもそも森は過去五百年もの長きにわたり主の領域であり、村の生き残りとして何度も何度も、それこそ最近は毎日のように「侵すべからず」と通達し、口を酸っぱくしていってきたのに守らなかったことは棚にあげるべきじゃない。 人数が多くなれば、ルールを守らない……いや、積極的に破るやつも出てくるのは覚悟していた。 けれど、大目に見られることと絶対に許されないことは明確に存在してるんだ。 それをわきまえてくれと言うことをこの際強く強く、はっきりと言わせてもらった。そうか。 てことは五年くらい前に盗賊に襲われて以降も頻繁にモンスターに襲われてたりするわけだ。 そりゃあ逃げ出したくもなるか。 それにしたって、いくら文明水準的に未熟で人の命が軽いからと言っても、この世界の田舎村は防衛意識低すぎないか? これじゃまるで日本の中世だべや。 モンスターも存在する世界なんだからもうちょっと改善の余地というか対策があってもいいと思うんだけど。 そんなことを思っているうちにホルス車は村長の家に到着し、村長に迎えられ招かれた家でとどこおりなく手続きが終了してささやかな晩餐へと続く。 ここら辺りは特段語ることもないよな。 コロニーの中心である町がこちらに帰順するのに衛星の一つでしかない村ひとつが抵抗するなんて選択肢はないさ。 翌日午前中に村の様子を視察して町へ戻り、一晩代官館に泊まって第二中の村へ。 こちらも第一中の村ほど荒れてはいなかったけれど、人口流出で寂れた感が拭えなかった。 そして改めてチカマックとの会談が行われた。 五日ぶりの会談は互いに事前折衝をしたルビレルとオギン、少し硬さのあるサイと飄々としたノサウスが同席している。 もちろん、サラも一緒だ。「──双方に異論のないこれらの案件はこのままでよろしいですか?」 街道整備をメインに懸案事項の大半が問題なく合意となった。 まぁ、それほど多岐に渡る議題があったわけじゃない。 そこはそれ、しょせん地方の農村運営だ。「いいでしょう」 僕からの提案が大半だったのもあるし、合意しているんだから異論はない。「では、合意に至っていない議題と懸案事項の話し合いに移りましょう」「難色をしめしているのは再開発の件となんでしたっけ?」 と、すっとぼけて見せるがもちろん事前にルビレルから話は聞いている。 身分と財産保証だ。 この国は封建国家なので当然身分制度があり、国王を頂点にした貴族階級と同等の立場にある聖職者階級、その下に農民階級、自由の民がいる。 自由の民というのはキャラバンを
朝、僕らを乗せたホルス車が一台、町を出発する。 御者にチロー、車の中には僕とサラ、そしてサラの世話係カルホ。 護衛としてルビンスとサビーがホルスに騎乗してついている。 前日、先触れとして第一中の村にキャラとホタルが、第二中の村にコチョウとキキョウがそれぞれ出立している。 僕らは前日、町の様子をノサウスに案内されて視察していた。 残してきたルビレルを中心に今日から事前交渉が開始される予定だ。 その間に二つの村を正式に傘下に組み入れるため、僕らは移動中というわけだ。 予定では先に第一中の村へ。 町から村までは半日の距離だ。 第一中の村と第二中の村を直接つなぐ道はないので、明日いったん町に戻ってきて改めて第二中の村へ移動する。 村同士というのはそれほど交流がなく、村の中でほとんどが完結してるということだろう。 最奥の村と言われていた僕の故郷もキャラバンが時折来るくらいで生活用品のほとんどは自給自足だった。 道は決してよくはなくても半日の旅程で着く距離の道中は特になにも起こることはなく、村に到着した。 村はぱっと見でも荒れた感じがする。 規模としては五、六十人規模の村だと思うんだけど空き家も多く、集落人口で四十人くらいじゃないだろうか。 ここでもキャラが出迎えてくれる。 村長の家までの間にキャラに村の現状を尋ねると、「ここは第三中の村同様モンスターに襲われやすいこともあって逃げ出す村人も多かったようです」 との返答。「じゃあ、うちの町にもこの村から移住してきた人、結構いるのか?」 その質問に答えたのはカルホだ。「たしか、アニーちゃんたちがこの村の出身だよ」
「俺等興奮したね。魔法より科学の方があふれているなんてこんないい世界ないじゃない。ま、そのせいで魔法を軽視した発言が疎まれて左遷喰らっちゃったんだけどね」 はは……笑うしかない。「なら、僕の傘下に入るのは君の幸運だよチカマック」「なぜ?」「なにせ僕の前世は魔法のない科学技術だけの世界だったんだから」 ちょろい。 子供みたいに目をキラッキラさせて神を見るようなチカマックちょろすぎる。 さて、あまり長く二人で密談するのもよろしくないので、ここら辺りで話を切り上げてホルス車待機組を安心させなくちゃ。「その件はまた次の機会に話すとして、そろそろ心配しているだろう部下たちを安心させようじゃないか」「ああ、そうか……そうだね」 と、席を立って僕を案内する。 応接室を出ると食堂に案内して人を呼び、僕らは一団勢揃いで饗応を受ける。 食事の席にチカマックの家臣はサイとノサウスの他はメイドだけ。 いいのか? 結構な人数だぞこっち。 食事の席で互いの情報を交換していた際に話題に出たのがグリフ族の件だ。 やっぱり悩みの種なんだねぇ。「どうも最近族長が代替わりしたらしく、好戦的でテリトリーも拡張傾向にあるという報告が上がっています」 と、サイがいう。 通行が脅かされるのは戦略的にも困るよね。 それで死者なんか出るようになったら為政者としての責任問題にもなるし……。「交易はどうなっているのですか?」 ここら辺りはさすが元キャラバン組だね、サビー。 僕ら田舎もんはどうもそこら辺りがとんと疎い。「グリフ族のテリトリーは貴重な資源の産地で今も交易を行っていますが、どうも代替わりをしてからかんばしくありません」 そう答えたのはノサウス。 どうやら軍事面はサイが経済面はノサウスがチカマックノ右腕のようだ。 ん? どっちかは左腕?「グリフ族なんて追い払っちまうのはダメなんですか?」
どちらも話したいことがあるけれど言い難いので互いに切り出しかねているという状況が続く応接室。 なんの我慢比べだよ。 ええい、主導権を握ったれ。「先ほどのあなたが代官と見破った件ですけどね」 うん、日和った。 本当はそんなことはどうでもいいっちゃどうでもよかったんだ、いまさら。 けど、核心に触れるのはなかなか度胸がいるんだよ。 ということで搦手で攻めつつ主導権をとるべく話し始める僕、なかなかやると思わない?「ほぅ、種明かしをしてくれるんですね?」 食いついてきた。 そりゃ、あの沈黙は居心地悪いよな。「最初に交渉主体として出てきた男が交渉の場だというのに自己紹介から始めなかったので、『おや?』っと思ったわけですよ」「そんなところから疑っていたんですか?」「ええ、まあ」 ヤバイ、ちょっとドヤ顔してる自覚がある。「そのあと前任の代官を様付けで呼んだでしょう?」「え? そんなことに引っ掛かったの?」 話し方が突然くだけたな。 まぁ、身バレしたときの言い方がこっちの方だったわけだし、これが地なんだろうけど。 そんじゃこっちも少しくだけてみせるか。「ま、他にも細かいところがいくつかあったんだけど、決定的なのは部屋に入ってきたときに僕の方を見て目を見張ったことかな?」「…………」 はい、黙っちゃいましたね。 マウントとれたかも。「いや、これはまた別件でしたかね?」「いや、たぶんその見立てがあった上での推理なんだろ? やれやれ……妖精連れなんて卑怯だよ。婚約者連れてくるより卑怯だ。しかも、そいつ転生者にしか見えないんだろ」 ビンゴ!「じゃあやっぱり」「ああ、あんたの推理通りだよ」 その後、互いの身の上話をした。 それによると、どうやらチカマックは地球人じゃないようだ。 誰もが魔法を使えた代わりに科学技術はほとんど
オグマリー区制圧の手筋にはこの町をできるだけ犠牲なく手に入れることが重要だった。 つまり乗っとく方がいいと踏んでくれたってことだ。 心の中のガッツポーズは出来る限り表に出さない努力をしつつクロージングに向かう。 けど、ここでがっついちゃうと足元を見られる。 慎重に、主導権を握って渡さない。 それも重要なことだ。 なにせ僕は単なる田舎もんで、相手はまがりなりにも行政官を務める身分の男なんだから。「勝ち筋と言いますか勝算はあると見て行動しています。当然ですけどね」 それを聞いてチカマックは目を閉じ鼻で笑う。 あ・なんか馬鹿にされた気分。「まぁ、いいでしょう。いくつかこちらの条件を飲んでもらいますよ」「出来る範囲で善処しましょう」 そりゃあそうだ。 ここからは実務交渉と見ていいかな? その前にちゃんと確認しとかないと。「では、私の傘下に入っていただくということでよろしいですね」 と、笑顔を作る。 若干あくどい笑顔になっている自覚がある営業スマイルだ。「そうですね。それで結構です」 最初に代官役をやっていたサイは不服そうだけど、この交渉はかなり対等に近い形になってる。 「名を取ると矢面に立たなければいけないからそこは譲る」くらいのスタンスだ。 実権を奪われないように気をつけなきゃと思うくらいだよ。 まったく、神様も転生ボーナスに高い交渉力とか、しょーもないことでも称賛される謎カリスマ性とかくれてもいいのにさ。「細かい実務は明日改めて詰めるとして、少々あなたとサシで話したいことがあるのですが、いかがでしょう?」 うん、僕も確認したいことがある。「いいでしょう」「チカマック様」 サイが抗議の声を上げるがチカマックは無視を決め込み、ノサウスがサイを連れて早々に応接室を出ていく。 よくできた側近だ。「オギン、サラを頼む」 と、僕が言えばこちらもな
「なるほど。では、こちらからいくつか質問させてもらいましょうか」「なんでしょう?」「今の王国の現状をどう思っておられますか?」 質問への返答は冷静かつ的確な情報分析の開陳だった。 公式のルートから得られる情報はやっぱり羨ましいほど鮮度が高い。 とは言え、おおむね僕の考えと変わらない。「では、単刀直入にお聞きしますが、オルバックいや、ズラカルト男爵でそのような情勢を乗り切れるとお思いですか?」「……なるほど、危機意識も領土的野心もない男爵では早晩いずれかの勢力に飲み込まれるでしょうな。しかし、田舎の農村にそのような政治的情勢など無関係ではありませんかな?」 ……判ってないのは所詮支配階級ってことなのか? ちょっとムカつく。 僕は感情的になるのを抑えるためにゆっくりと二度呼吸し、意識的に話すスピードを抑えて説明をする。 徴税のこと、徴兵のこと。 いずれ戦果が無辜の民に及ぶことを。「──という分析のもと、自己決定権の確立を目指してまずはオグマリー区を支配下に収め、独立を宣言する所存です」「はぁ、まあすでに独立宣言はなされているも同様ですが、あなたの考え方は理解できました。オルバック家現当主はまだ有能な方ですが、次期当主のご子息は臣下の身でいうのもはばかりながら大変残念なお方です。キンショー殿はそれを憂慮し先々をかんがみてあなたの提案を受け入れたのでしょう。いえ、私もこの件は悪くないご提案だと思っていました。ただ……」 と、長い間を取って僕を正面から見据える。「あなたの野心がどれほどなのか? どれほど先を考えての行動なのか。反旗を翻す以上、それなりの勝算を担保したくてね」「で? どちらを勝ち馬と見ましたか?」「そうですね、男爵までは届くんじゃありませんか? 少なくともオグマリー区制圧の勝ち筋は見えているのでしょう?」 よし!
村に戻った僕は村人の埋葬をする。 人の死には慣れている。 現世の僕が、だけど。 この世界は前世の世界と違って文明水準が高くない。 当然医療水準も高くない。 田舎だからってのはあるかもしれない。 大きな街はもしかしたらすごく発展しているのかもしれない。 魔法のある世界だから、当然治癒魔法もあるはずだ。 でもそれがどれくらいの効果があるかもわからない。 だからこの村はよく人が死んだ。 子供は特によく死んだ。 僕にも姉と妹がいたらしい。 妹の方はかす
僕は十五歳の朝を木の枝の上で迎えた。 この世界の元服、つまり成人の儀式が行われる日だ。 確かに一生忘れられない日にはなったけど……切ない。 あまりにも切ない。 秋とはいえ、昼頃になればそれなりに暖かくなる。 今日は天気もいいので昼頃にはむしろ汗ばむほどの陽気になった。 慎重にあたりの気配を確認しつつ、木から降り集落に戻ると、まだプスプスとくすぶっている焼け跡の中を歩く。 あたり一面、嫌な臭いが立ち込めているのは、村人の焼けた臭いだろう。 昨日から何も食べてないのに込み上げてくる胃液を吐き出し
「逃げたのはガキ一匹か」 と、僕の真下で傷だらけのごつい男が言っている。 こいつが盗賊団の頭目と見た。「へい、多分」「多分だと!?」「へ、へ……」 あたふたした下っ端が頭目にぶん殴られ、仰向けにぶっ倒れる。 気絶してろ! 盛大に気絶してろよ、でなきゃここにいることがバレる。 僕の祈りは天に通じたのか、そいつは白目をむいて動かない。「このさらに奥に行ったかもしれませんぜ」「ならいい」 頭目は、一言吐き捨てて踵
さて、ここからは前世の記憶をフル活用だ。 襲ってきたのは、十数人の盗賊団。村には女子供を含めて三十人ちょっと。ここは本当に農村の一集落だった。 ん? この世界は前世知識的にどれくらいの文明水準なんだ? くそっ、ど田舎の未成年じゃ参照知識がなさすぎる。 異世界転生ものならそれなりの環境に生まれ直させろっての。 ──って言っても仕方ないわけで、そもそもテンプレの神様にあった記憶がない。 現世の記憶を手繰り寄せてもなろう系のお作法である知ってるゲーム世界的な場所でもなさそうだ。 あ、もっとも僕、