LOGIN「若いのによく考えておる。確かに今後、その問題は避けて通れないだろう」
「喫緊の問題ですよ」
いつの間にか二人の話を聞いていたらしいジョーが話に入ってくる。
「うちのカーゲマンが三日後に誕生日を迎えて十五になります。彼はこの村に残る両親と別れてキャラバンに同行する予定になっているんですが、元服していない男を連れて行くわけにはいきませんからね」
「ジョーのところはどんな儀式だったんだね?」
「俺んとこは砂時計の砂が落ちるまでキャラバンの男たちと戦い続けるだけですがね」
と、懐から大きな砂時計を取り出した。
待て待て、そんなでかい砂時計で測るのかよ。 たっぷり一時間は戦わされることになるぞ。 おっと、この世界の一日は二十時間だ。 この世界の時間感覚に慣れちゃっていて、地球の二十四時間換算できないけど、前世の一時間より確実に長いと思う。 そんな長時間戦い続ける「とにかく『元服の儀式はやめます』じゃ大人た
三人の行方不明から三日、僕らは捜索隊を編成して主の森に入ることになった。 昨日、捜索隊を投入する旨を発表して、今日朝早くに町を出た。 捜索隊長は当然僕。 お館派からは村の主戦力五人とカシオペアの五人を。 反お館派からはドブルたち行方不明者の親族ら七人と、反お館派の中心人物とみられるギラン、エギュー、ジャミルトの十人を選抜した。 急先鋒の彼らを御していれば、僕の町長の地位はとりあえず安泰だ。 反お館派の十人には全員に帯剣させている。 剣はジャリの打った数打ちの短剣だ。 防具は残念ながら用意できていない。 対男爵を想定した大事な防具をこんなところで消費するわけにいかないんだ。 そもそもまだ五領も作られていないから全員に支給ってわけにいかないし、誰かに与えると不公平だしね。 お館派は全員自分の装備を持っている。 まぁ、彼らはそもそも荒事専門だし。 ちなみに僕はその貴重な革の胴鎧を着て、ドブルとの稽古で改良した僕専用の木刀型の剣を持っている。 胴鎧は贅沢にも胸部装甲を鉄板で補強している。 剣の剣先は刺突できるように尖らせているけど、斬れる刃のないモデルだ。 どうもまだ刃のある剣を振ると軌道がぶれるんだよね。 前世では何度か真剣で試し斬りさせてもらったことがあるんだけど、あれは剣道をかじった程度の人間がやっちゃダメなやつだ。 午前中いっぱい雑木林の中を捜索。 当たり前だけど手かがりはなかった。 そりゃそうだ。 三人が森に入ったことはサビーが確認しているし、主が咆哮したのを聞いている。 念のために腹ごしらえをして、三人が侵入した場所から主の領域に踏み入る。 主の森は雑木林と違って鬱蒼とした原始林だ。 当たり前ながら手付かずで、腰の高さほどもある下草も生え放題。 だからどこから入ったのか見当がついたわけだ。
こう言っちゃうのは傲慢と取られるだろうけど、所詮小規模な農民の反乱だ。 反乱自体はおそらく苦もなく鎮圧できると思う。 問題は、そのあと村をまとめて秋を迎えられるかと言うことだ。 一致団結できなきゃとてもじゃないけど男爵の正規軍とは戦えない。 参ったな……キャラバンが残っていれば頼もしいんだけど、ギラン派もそこまでアンポンタンじゃないだろう。 まず間違いなく、いないときを見計らってことを起こすはずだ。 僕ならそうする。 それにしたって、ジョーはギランをどう言う意図でもって村にスカウトしたんだろう?「どうするつもりですか?」「ん?」「反乱です。速やかに粛清しますか?」 ……怖いこと言うね。「粛清はよくないな。恐怖政治は町人が萎縮するし、進んで協力してくれなくなる。なにより不満が募って反乱が連鎖しかねない」 とはいえ、反乱するに任せるなんて無策も統治能力を疑われるし、今後の僕の計画に町人を巻き込む際の障害になる。「……さて、どうしたものかなぁ……」「いっそのことその主とやらを倒してしまうと言うのはどうですか?」 …………はっ!?「いやいや、相手は主だよ?」「しかし、帰ってきたものがいないわけでもないのですよね?」「五体満足で帰ってきた人はいないんだよ?」「でも、村人ですよね?」 …………確かに。「仮に倒せなかったとしても、主の正体が判れば今後の対応も適切にできるのではありませんか?」 一理ある。「でも、町の主戦力に死なれちゃ今後の計画が……いや、反乱が起きてもダメージはでかいわけで……。んーん…………」「新しく町に来た五人は請負で怪物退治などもしていたそうじゃありませんか」 そういえば、そんなこと言ってた言ってた。 ある種の傭兵ってところだな。 オルグの襲撃から村を守った話を数日前にカイジョーに聞いたわ。 そんな実力者たちなら、いくらでも金儲けでき
発展したとはいえ戸数は五十に満たない。 お隣さんとは二、三十シャルは離れている。 僕は慎重を期して、お隣さんの一軒に隠れるようにギランの家の様子を見張ることにする。(じゃあ、頼むよ)(任せて!) リリムがギランの家に飛んでいく。 見える範囲にいればリリムが聴いた音を聞けるって言ってたけど、暗闇でリリムが見えない状況だとどうなるんだろう? 多少の心配をしながら暗闇の中、リリムを凝視する。 ただでさえ小さいんだからよっぽど集中しなきゃ見失う……かと思いきや、あ〜らびっくり、光って見えるじゃあーりませんか。 これが関係性ってやつかと感心していると、リリムが家にだどりついたようで、中の様子が聞こえきた。 どうやら扇動演説してるようだ。「……領地を追われたり、才能を買われてこの村に移民させられた」 誰々がいるんだろう?「そのことは別に構わない。それ自体は自分たちで決断したことなのだから。だが、この村でも一握りの人間が横暴にも権力を振るっている!」 それって、僕のこと?「今年になってから来たものは日も浅いので判らないだろうが、この村だってよその村と変わりない。我々の要求など踏みにじられて顧みられることもない」 それは言い過ぎだろう。「それが証拠にここにいるドブルの弟ガルムたち三人が、主の森とやらに迷い込んだと言うのに奴らは捜索さえしようとしない。見殺しだ。何故だ!」 それは君たちが短慮だからさ。 …………。 いけね、ついな。 ダメだね、ファースト世代は(前世だけど)。「本来なら奴らは誠実にこの局面を打開しなければいけないと言うのに『主』怖さに村人を見捨てるなどと言う言語道断の決断をした。我々はこの悲しみを怒りに変え、村を悪逆非道な村長一味から奪わなければいけない!」 ──っと、声が聞き取りにくくなってきたぞ。(リリム)(なに?)(聞き取りにくくなってきた。僕
(リリム)「なに?」 僕はルダーとクレタを見る。 二人ともリリムにちらりと視線を向ける。 声が聞こえたんだろうな。(この念話っての? リリムも声に出さないでできるの?)(できるわよ) うおっ! なんか変な感覚だ。 心地良いとは絶対言えないけど、嫌な感覚とも言えない。 それにしたって随分クリアに聞こえるもんだ。(そりゃ、雑音なしの思考の塊だものクリアに決まってるじゃない) ……個人的感想にまで返事しなくてもいいよ。(で、なに?)(きっと一部の人たちが、集まって話し合いをすると思うんだ。ちょっと探りたい)(おっけー) …………。(なに?)(リリムって魔法使えたよね?) 僕の知っている限り、明かりを灯す魔法と眠りの魔法が使えるはずだ。 ってことは、他にも使えるんじゃないかと考えたっていいだろ?(例えばだけど、リリムが見聞きしたものを直接僕が見聞きできるとか、そんな素晴らしい魔法が使えたりしない?)(スマホのビデオ通話みたいな?) 地球世界のこと詳しいな……。(そんな感じ)(さすがにそんな都合のいい魔法は使えないなぁ)(だよねぇ)(音声だけだったら魔法じゃなくて私とジャンの関係性でなんとかなるけどね) まじで!?(ただし、私が見える範囲にいないと繋がらないし、長時間は無理よ)(充分だ)「オギン」 僕が呼ぶと、僕の背後から声がする。 !? 心臓に悪い。「たぶん納得いかない奴らが密会すると思う。集まり出したら僕を呼びにきてくれ」「かしこまりました」 …………。「そのあとは、僕が館にいるていを装ってほしいんだ」「留守番ですか?」「そうとも言う」「かしこまりまし
事件は起きた。 そう、バカが三人テリトリーに侵入したんだ。 テリトリーを侵した奴が三人いると報告を受けた僕は、雑木林の巡回をしていたメンバーだけでなく、ルンカー職人と炭焼き職人も村へ引き揚げさせた。 直後に「主の咆哮」が森から響く。 鬱蒼と繁る森から聞こえてくるいつもの低く長いものじゃない。 村の中まで振動する激烈な音だ。 なぜ、僕が主の咆哮と判るかって? そりゃ、聞いたことがあるからだよ。 町人が何事かと中央広場に集まってくる。「お館様」 誰かが僕を見つけたことで町人の視線が僕に集まる。「なにがあったんですか?」「誰かが主のテリトリーを侵したらしい」 サビーからの報告を受けている僕はその誰かを知っているわけだけど、町人たちは知らない。 すぐさま安否確認が始まった。 増えたといっても百人足らずの小さな町だ。 あっという間に誰がいないか判明する。 バンブル、ビービー、ガルムの三人だ。 三人とも反お館派で、町の不良グループでもある。 三人とも一応成人してるけどね。 イゼルナが過呼吸で倒れる。 ガルムと付き合っているって噂だった。 ガルムといえば、ドブルの弟だったな。 「年をとってからの子だったこともあって、親父のデジンが猫っ可愛がりしている」と、よくドブルが愚痴ってた。 そういうドブルもたいがい甘やかしていたからこういう事態になったとも言える。「助けに行こう!」 ドブルがいうと、三人の親族を中心に賛同の声が上がる。「お館様」 町人の視線が改めて僕に注がれる。 そんな目で見てもダメだよ。「無茶だよ。これ以上被害を増やすわけにはいかない」「まだ死んだと決まったわけじゃない!」 確かに村の過去の記録には何人かの生還事例があるけれど、生還率は数%。 それも五体満足で戻ってきたものはいない。 僕の記憶にある三件
新参者が増えるとよく起こる習慣や物の考え方の違いによる軋轢もなかなか無視できない。 こう言っちゃなんだけど、「村人」は「村人」なのよね。 前世の都会人みたいに適度に隣人を無視するってのがなかなかできない。 ついついお節介を焼いたり、気に入らないことに口出しするとかでいらないいざこざが起きる。 そのたんびに僕が仲裁するんだけど、必ずしも双方納得ずくって裁可が下せるわけもなく、不満がたまって矛先が僕のところへ向くことが避けられない。 着の身着のままで逃げ込んでくる人たちもいるんで、物資不足も心配だ。 これから男爵相手に一丁事を構えるって言う準備に結構資源を割いてたりするんで、なおさらだ。 村の自給自足の根幹である畑仕事もしなきゃいけないし、外貨獲得のための特産品生産もやめるわけにいかない。 本格的な戦闘で男爵軍と渡り合うための訓練も生き残り戦略には欠かせない。 そして、最大の問題が「主」の存在だった。 新しくきた人たちには、雑木林の奥の森が「主」のテリトリーであるってことをいの一番に話して聞かせている。 僕自身で。 元々の村の唯一の生き残りである僕が、実体験も交えて口を酸っぱくして注意しているのに、不用意にテリトリーに入ろうとする奴が後をたたない。 主に十代の思慮の足りない奴らが度胸試しかなんかのつもりで「主」のテリトリーを侵そうとする。 サビーたちに雑木林の巡回警備をしてもらっているから事故は起きてないけど、困るんだよ。 本当に。 やばいんだよ。 とにかく。 見つけるたびに緊急集会を開いて「主」とテリトリーについて話してるのにさ。 いい加減頭にきたんで 「次にテリトリーを侵そうとする奴は無視してくれ」 とサビーに頼んだのが、キャラバンが来てカシオペア戦隊の五人が加わった翌日。 事件はその十日後に起きた。
「で、僕のステータスはどうやったら確認できるの?」「なにそれ、美味しいの?」 え?「うそうそ、そんな便利機能現実世界にあるわけないじゃない」 だよねー。「数値が知りたいなら体力測定とかIQ検査でもしてみる?」「それって実際あてになるの?」「参考程度には」 だめじゃん、そんなの。「まぁまぁ。ホラ、そろそろ準備始めなきゃまた木の上で寝ることになるよ」 リリムに言われて気がついた。 お日様がだいぶ西に傾いているらしく、僕の影
「逃げたのはガキ一匹か」 と、僕の真下で傷だらけのごつい男が言っている。 こいつが盗賊団の頭目と見た。「へい、多分」「多分だと!?」「へ、へ……」 あたふたした下っ端が頭目にぶん殴られ、仰向けにぶっ倒れる。 気絶してろ! 盛大に気絶してろよ、でなきゃここにいることがバレる。 僕の祈りは天に通じたのか、そいつは白目をむいて動かない。「このさらに奥に行ったかもしれませんぜ」「ならいい」 頭目は、一言吐き捨てて踵
さて、ここからは前世の記憶をフル活用だ。 襲ってきたのは、十数人の盗賊団。村には女子供を含めて三十人ちょっと。ここは本当に農村の一集落だった。 ん? この世界は前世知識的にどれくらいの文明水準なんだ? くそっ、ど田舎の未成年じゃ参照知識がなさすぎる。 異世界転生ものならそれなりの環境に生まれ直させろっての。 ──って言っても仕方ないわけで、そもそもテンプレの神様にあった記憶がない。 現世の記憶を手繰り寄せてもなろう系のお作法である知ってるゲーム世界的な場所でもなさそうだ。 あ、もっとも僕、
「人生やり直せたらなぁ……」 そう思っていたことが僕にもありました。 ありましたが……。 だからってこれはないんじゃないでしょうか? こんな状態で前世の記憶が蘇るとか、神様の仕業だとしたら「あんたバカぁ!?」って罵ってやりたい。 いいや、一発殴らせろ。 こんな切羽詰まった状態だが、現在の状況を冷静に確認分析だ。 まず、ここは村はずれの雑木林をちょっと入







