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新しい自分

last update Dernière mise à jour: 2025-06-18 08:00:00

29話 新しい自分

あれからどれぐらいの時間が経ったのだろう。食事と飲み物の時は両手の鎖を外してくれるようになった。最初は逃げようとタイミングを見ていたけど、どうしてだろう。こんな日々を送っているせいか、外の世界がとてつもなく恐ろしいものに思えて、自分から逃げ出せなくなってしまった。

タミキの命令は絶対だ。少しでも反発すると複数の媚薬を混ぜて作った速攻に効き目が高まるものを飲まされる。あれを飲まされる時は、現実の境目が分からなくなってしまう。自分の知っている自分が消滅していく感覚が、恐怖として記憶の一部として上書きされていく。力で支配されるよりも、精神的に支配されている感じだった。

「いい子だね。俺の恋人は」

タミキの愛は歪んでいる。愛してるから苦しめる、愛しているから泣かす、愛しているから支配する、理解出来なかった僕も、彼の当たり前の考えを受け止めるしか出来なかった。そうじゃないと、生きていけないと思ってしまったんだ。

「まだ、怖いかな。だいぶ俺の事、理解してきたんじゃない? ずっと見ていたんだ。君が俺の前から消えた、あの時から」

どうやって声を出していいのか分からない。かなりの間、話す事を放棄していた僕は、いつしか自分の持つ言葉の意味も、使い方も、全てが異次元のもののように思えるようになってしまった。

「ゆっくりでいいよ、君の声を聞きたいんだ」

話すなと言ったり、喋ろと言ったり、タミキは何を求めているのだろう。今まで見てきた、彼の優しさは僕を陥れる為の、嘘だったのだろうか。

今になっては、どうでもいい事なのかもしれない。僕は自分から彼の用意した鳥籠に、足を踏み入れたのだから——

「あ……ああ」

「そうそう、上手じゃないか。上手く出来たね、ご褒美をあげようか」

首輪は僕の全てを縛る。久しぶりに出した自分の声は、今まで聞いた事のない音をしている。真っ暗な視線の先に、光のは憎しみの混じった
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