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第589話

Author: 歓乃
凛は首を横に振った。

海斗は一歩を踏み出し、人が多い方へと歩き出すと、振り返った。「ついて来い」

「今行くわ」凛はすぐに後を追った。混雑してはいたものの、人の流れ自体は比較的整っていた。少しずつ前へ進み、上の展望スペースまで行けば、ここまで窮屈ではなくなるはずだ。

途中、引き返してくる人がいた。人の流れに逆らいながら、何度も「すみません」と謝って人が下りてくると、周囲の人々も責めることなく、自然と身体を横へずらした。そのたびに密集度が増し、押し合ううちに、凛と海斗は離れ離れになりそうになる。

凛の胸に、小さな不安が生まれた。自分でもなぜそうしたのか分からないまま、反射的に海斗を振り返る。

視線が重なった瞬間、手を握られた。

大きく温かな手が、少し冷えた凛の手をしっかりと包み込む。

海斗は身体を横に滑り込ませるようにして凛の隣へ戻り、その手を引いたまま、人の流れに合わせてゆっくりと進んだ。

凛は海斗を見上げた。見えるのは、すっきりとした後頭部と、横顔の半分だけ。高く通った鼻筋、無駄のない輪郭。薄い唇はわずかに引き結ばれ、首筋で上下する喉仏までも、はっきりとした鋭い線を描い
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恵子川村
凛と海斗のドキドキ もっと見たい
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    凛は首を横に振った。海斗は一歩を踏み出し、人が多い方へと歩き出すと、振り返った。「ついて来い」「今行くわ」凛はすぐに後を追った。混雑してはいたものの、人の流れ自体は比較的整っていた。少しずつ前へ進み、上の展望スペースまで行けば、ここまで窮屈ではなくなるはずだ。途中、引き返してくる人がいた。人の流れに逆らいながら、何度も「すみません」と謝って人が下りてくると、周囲の人々も責めることなく、自然と身体を横へずらした。そのたびに密集度が増し、押し合ううちに、凛と海斗は離れ離れになりそうになる。凛の胸に、小さな不安が生まれた。自分でもなぜそうしたのか分からないまま、反射的に海斗を振り返る。視線が重なった瞬間、手を握られた。大きく温かな手が、少し冷えた凛の手をしっかりと包み込む。海斗は身体を横に滑り込ませるようにして凛の隣へ戻り、その手を引いたまま、人の流れに合わせてゆっくりと進んだ。凛は海斗を見上げた。見えるのは、すっきりとした後頭部と、横顔の半分だけ。高く通った鼻筋、無駄のない輪郭。薄い唇はわずかに引き結ばれ、首筋で上下する喉仏までも、はっきりとした鋭い線を描いている。海斗が振り返った。深い瞳に、夜に沈む海のようでただ視線を向けられただけなのに、凛はその瞳の中へ丸ごと引き込まれたような感覚に陥る。トクンッ。周囲には人々の声があふれているのに、それでも凛には、急に速くなった自分の鼓動がはっきりと聞こえた。広い展望スペースへ出ると、人々はそれぞれの方向へ散っていった。周囲には一気に余裕ができたはずなのに、凛の身体は混雑していた時と同じように強張ったままだった。なんだか、息もしづらい。海斗は、まだ手を離していなかった。凛は口を開き、離してほしいと言おうとした。だが喉が渇き、出てきたのは名前だけ。「海斗……」海斗は、凛に名前を呼ばれるたび、全身の細胞が沸き立つような衝動を覚えた。海斗は凛に名前を呼ばれるのが好きだった。凛にまっすぐに見つめられることも好きだった。そのあと何も言わなくても構わない。「ん?」海斗は分かっていながら尋ねた。そして凛の視線を追うように、二人の重なった手へゆっくりと目を落とす。海斗は繋いでいる凛の手を持ち上げると、しっかり握り合っていた形から、今度は彼の手のひらが凛の指先だけを

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