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第4話

Auteur: 拾安
深津は恩師の愛弟子として、最後まで残った。

葬儀場の入り口に立っていた私の前に、彼の黒のベンツGクラスが停まった。助手席のドアに手をかけた瞬間、下りていた窓から涙に濡れた珠里の顔が見えた。

後部座席には申し訳なさそうな表情の浅井夫人が座っていた。

何も言わずにドアを開けようとした私を、珠里が遮った。

「蒼介さん、お墓にもう一度お父様に会いに行きたいの。私と蒼介さんと母さんだけで」

「珠里!」浅井夫人が眉をひそめた。

その声が消えないうちに、珠里は突然大泣きを始めた。「お父様がいなくなって、私には身近な人と一緒にお父様とお話ししたいだけなのに、それもダメなの!」

「後で迎えに来る」

深津は私の目の前で後部座席のドアを閉め、振り返ることもなく黒のベンツを走らせた。

慣れているはずだった。深津にとって、何事も珠里が最優先なのだから。

葬儀場の入り口で二時間待った。日が沈みかける頃、警備員のおじさんが心配そうに誰かを待っているのかと声をかけてくれて、やっと今日は深津が来ないのだと気づいた。

葬儀場は市郊外にあり、タクシーを呼びにくい場所だった。

配車アプリの画面には誰も注文を受けない。ため息をつきながら、覚悟を決めて葬儀場を後にした。

晴れていたはずの空から、途中で大雨が降り出した。引き返すこともできず、山麓まで歩くしかなかった。

やっとタクシーを拾えた。

マンションに戻った時には、頭が重く、足元もおぼつかない状態だった。

急いで温かいシャワーを浴び、髪を半乾きまで乾かし、テレビ台の横で解熱剤を探した。

そしてベッドに倒れ込み、布団にくるまった。

眠りは浅く、夜中に何度も目が覚めた。夢の中では不思議な光景が次々と現れた。たくさんの出来事を夢に見た気がしたが、目が覚めると何も覚えていなかった。

力なく風邪薬を飲み込んだ後、深津が部屋に入ってきた。私には目もくれず寝室に向かい、しばらくしてスーツケースを引いて出てきた。

「珠里の様子があまりよくないから、数日付き添ってくる。何かあったら電話してくれ」

私の返事を待たずにドアを開けて出て行った。

彼の目には私が映っていなかった。そうでなければ、熱で真っ青な私の顔に気づいたはずだ。

二日間家で療養し、退職届を書いて金曜日の午前中に会社へ行った。

部長が遠回しに給料が足りないのかと尋ねたが、私は首を振って、実家に帰ると答えた。

「じゃあ、彼とは遠距離恋愛になるんですね?」

人事部からもらった離職証明書を手に、私は首を振った。「いいえ、私たち、もうすぐ別れます。実家に帰って結婚するんです」

人事の驚いた表情を後にして、四年間働いたこの場所を後にした。

……

リビングで珠里を見かけたのは、予想外だった。

「これは......?」

箱を抱えている私を見て、深津は明らかに驚いた様子で思わず口にした。

私は平静を装い、適当な理由を口にした。動揺した様子は少しも見せなかった。「ああ、会社が引っ越すので、荷物を先に持ち帰ってきただけよ」

「どこに引っ越すんだ?」

深津が眉をひそめた時、私が答えようとしたところで珠里が割り込んできた。

「瑠璃さん、最近父が亡くなって、ずっと落ち込んでいて、いろいろ間違ったことをしてしまったの。蒼介さんと子供を作ろうって提案したりして......今考えると本当に馬鹿げていたわ」

「でも、私と蒼介さんの間には何もないの。今は父もいないし、子供が欲しいなんて気持ちももうないわ。ごめんなさい、気にしないでいただけたら」

彼女は可哀想そうな表情を浮かべた。以前、挑発的な内容が写っているLINEのスクリーンショットを見ていなければ、騙されていたかもしれない。

でも今は、彼女のこんな小細工を暴く気も起きなかった。軽く頷いただけで、箱を持って部屋に戻った。

荷物を片付け終えたところで、不意に携帯の着信音が鳴った。その音はリビングから聞こえてきた。

そうだ、スマホをリビングに置いてきたんだ。

取りに行こうとした時、ドアが突然開いた。深津が険しい表情で立っていて、私のスマホを手に持ち、じっと私を見つめていた。

「スマホに登録してある『旦那様』って誰だ?」

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