第391話

震える声で口を開く。

「冬、冬真……どうして、そんなこと……」

冬真が全ての責任を自分に押し付けたことは、即ち死刑宣告に等しかった。

だから父が自分を殺そうとしたのか。

楓は震えが止まらず、心臓が引き裂かれるような痛みを覚えた。

盛樹は楓の顔を指差し、低く唸るように言った。「お前の足を折ったら、橘家まで連れて行って冬真に謝罪させる」

「お父様！やめて！冬真は嘘を！事実は違うんです！」

楓は直感的に分かっていた。父は本当に自分の足を折るつもりなのだと。

まさに、地獄が待ち受けているのだ。

北斗は冷静に言った。「今考えるべきは、なぜ冬真がそんな発言をしたかだ。真相がどうであれ、冬真がお前に全ての責任を押し付けたということは、もうお前に価値を見出していないということだ。

今のお前は、ただの身代わりでしかない」

楓は泣き出しそうになる。冬真は汐の遺言を忘れてしまったのか。

どうして冬真は、こんな仕打ちができるのか。

「お父様、私は冤罪なんです……」楓は絶望的な声で呟いた。

だが盛樹は耳を貸す様子もない。「冤罪だろうがなんだろうが関係ない。お前は橘家を敵に回した。連れて行って謝罪させるしかない！」

盛樹の目には、もはや楓は利用価値を失った存在でしかなく、彼女を切り捨てることで家の名誉が回復できるかもしれないと考えていた。

涙を浮かべた楓の目が次第に冷たさを帯びていく。「お父様、私を殴ることはできません。私、冬真と関係を持ちました。もしかしたら、子供ができているかもしれない」

北斗は一瞬固まり、楓を見つめた。

盛樹も足を止め、表情が目まぐるしく変化する。

震えた声で問う。「何、今なんと言った！？」

*

桜井幼稚園の大ホール――

夕月は瑛優の手を握りながら、舞台裏で待機していた。瑛優はふわふわのピンク色の獅子舞衣装に身を包んでいる。

「瑛優ちゃーん！」

クラスメートたちが次々と駆け寄って、声をかけてきた。

「かわいい衣装だね！」

「わぁ！その足！超かわいい！」

瑛優の足元には、ピンクと白のグラデーションの靴。銀色の雲模様が散りばめられ、つま先には金糸で縫い取られた獅子の爪が輝いている。

何人かの子供たちが屈んで、その「獅子の爪靴」に触れようとする。愛らしい人型の子獅子に、誰が魅了されないだろうか。

瑛優は得意気に説明する。