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第165話

Author: かけるに
その頃、梨沙は望と一緒に漫画を読んでいた。

電話がかかってくると、無意識に望の頭をなで、立ち上がってバルコニーへ向かった。

千鶴も黙ってあとをついていく。

梨沙はバルコニーへ出てから電話に出た。

「真希子さん、ニュースは見ました。海渡が事業を落札したんですね」

真希子は短く返事をした。

得意げな気持ちと興奮を隠しきれない声で、梨沙に言い聞かせる。

「明日、飛田コーポレーションで株主総会を開くわ。今いる場所を教えなさい。その時間になったら、迎えの者を向かわせるから」

梨沙は唇を引き結んだ。

眼差しは揺るぎなく、力強い声で告げる。

「今夜中に入金が確認できなければ、明日は行きません」

真希子は冷笑を漏らした。

それでも、約束は守る人間だった。

「分かった。すぐに振り込むわ」

梨沙は短く返事をして、電話を切った。

振り返ると、そこには千鶴が立っていた。

梨沙は驚いて身を震わせる。

「おばあちゃん、どうしてここに?」

「......」

千鶴は複雑な目で梨沙を見つめた。

「梨沙、追い詰められた相手を、それ以上追い詰めちゃいけないんだよ?離婚できて、いくらか
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    部屋のカーテンは、一度も開けられていなかった。梨沙には、外が昼なのか夜なのかも分からない。自分がここに閉じ込められてから、どれほど時間がたったのかさえ分からなかった。海渡が恐れていることは分かっていた。彼女がここを出れば、自分を告発し、入札事業に悪影響を及ぼすのではないかと恐れているのだ。そして、彼女がどれほど約束したところで、海渡が信じないことも分かっていた。実のところ、ここに閉じ込められていること自体はどうでもよかった。言い換えれば、彼女と海渡の望みは同じだった。どちらも、海渡にこの事業を落札してほしいと願っている。彼女がここにいても、外にいても、大した違いはない。だが今は、望が手術を終えたばかりだ。梨沙は、望が2歳の頃から自分の手で育ててきた。彼女にとって、望はとうの昔に実の子どもと変わらない存在になっている。手術を終えたばかりの子どもを、心配せずにいられる母親などいるだろうか。海渡が梨沙のほうへ歩いてきた。二歩ほどふらつき、そのままベッドの端に崩れるように腰を下ろす。手を伸ばして梨沙の足首をつかむと、幼い頃から何度もそうしてきたように、彼女のふくらはぎへ顔を埋め、甘えるように頬をすり寄せた。「梨沙、胃が気持ち悪いんだ。酔い覚ましに、何か飲み物を作ってくれ。一杯だけでいいから......」梨沙は、彼を見下ろした。酒のせいで赤く染まった顔と、首筋に残された噛み跡をじっと見つめる。「あなたの事業を邪魔するようなことは、絶対にしない」海渡の動きがわずかに止まった。梨沙は一語一語、はっきりと言い聞かせるように続けた。「ただ、望に会いに行きたいだけ。望は手術を終えたばかり......あの子には私が必要なの。母親が必要なの。海渡、お願い」海渡の手が、梨沙の足首から滑り落ちた。まるで酔いがさめたかのようだった。海渡はかすかに笑った。「梨沙、俺たちは幼い頃から一緒に育った。君は今年22歳で、俺たちが出会ってからもう22年だ」梨沙には、彼がなぜそんな話をするのか分からなかった。海渡は首を横に振った。何かを思い出しているかのように、乾いてかすれた、苦しげな笑い声を喉の奥から漏らす。「俺は君のことを知り尽くしている。自分自身よりも、君のことをよく知っているんだ

  • 再婚、そしてまた再婚......気づけば御曹司に溺愛された   第4話

    オークション会場の入口。きっちりと制服を着込んだ受付係が手を差し出した。「招待状とVIPカードをご提示ください」梨沙は淡々と言う。「梨沙です。飛田海渡の妻です」受付係は眉をひそめ、値踏みするような視線を梨沙の顔から裾へと滑らせた。「飛田様とその奥様でしたら、三分ほど前にすでに入場登録を済ませていますが」梨沙は眉を寄せる。「彼に電話してください」受付係は口元をわずかに歪めた。斜めから見下ろす目には、露骨な揶揄が滲んでいる。「飛田様は今、奥様とご一緒ですので。わざわざ気分を害するような真似はしたくありません」この業界では、こういう話など珍しくない。

  • 再婚、そしてまた再婚......気づけば御曹司に溺愛された   第3話

    スマホをしまい、梨沙が振り返った瞬間だった。ふいに足元から力が抜け、その場に倒れ込みそうになる。身体の奥深くから、じわじわと熱が込み上げてきた。骨の隙間から這い出してくるような熱。それに伴う、どうしようもない渇望と空虚感。梨沙の脳裏に、天音が渡してきたスパークリングワインがよぎる。――酒に薬を入れられていた。おそらく、指示したのは天音の祖母だ。梨沙は深く息を吸った。個室へ戻る気は、一瞬で失せた。もし戻れば、海渡と――そう思っただけで吐き気がした。汚い。梨沙は迷わず踵を返し、ふらつきながらレストランの外へ向かって走る。その時、派手なアロハシ

  • 再婚、そしてまた再婚......気づけば御曹司に溺愛された   第2話

    雪は音もなく降り積もる。まるで、この世のすべてを埋め尽くしてしまうかのように。車内では、森下の声だけが静かに響いていた。「結婚後、夫婦の財産管理はずっと飛田さんが握っていましたよね?一度、彼の資産状況をきちんと調べた方がいいと思います」梨沙は不思議そうに首を傾げる。「以前、IT企業のトップが『年収1円』だった件を思い出したんです......いえ、飛田さんがそこまでしているとは思いませんが。結婚当初からあなたを騙すつもりだったとは、さすがに考えにくい」梨沙は黙って頷いた。「調べてみます。その前に、銀行へ寄ってもらえますか」銀行を出て帰宅した梨沙は、玄関を開けた瞬間

  • 再婚、そしてまた再婚......気づけば御曹司に溺愛された   第1話

    「海渡さんと梨沙さんが結婚して2年の間に、私たち、500回もしたんだよ?ねえ、海渡さん、梨沙さんってこれを知ってるのかな?」甘ったるい声が、ドアの隙間から漏れ聞こえてきた。秋谷梨沙(あきや りさ)はその場に立ち尽くした。全身の血が、一瞬で冷え切っていく。耳が聞こえるようになったことを飛田海渡(ひだ かいと)に伝えたくて、浮き立つ気持ちのまま彼のオフィスへ来たのに。そこで聞かされたのは、海渡の裏切りだった。相手は他の誰でもない。海渡の義妹――そして、弟を植物状態に追い込んだ元凶でもある、露木明里(つゆき あかり)。梨沙は目を伏せた。――聞こえるって、こんなにも

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