Masuk寧人は財布から名刺を取り出した。とりあえず名刺は“ある”――けれど、それは大学の授業で作った簡易なもので、今の会社のロゴも入っていない。紙の質感も安っぽく、渡すのが少し恥ずかしかった。
「鳩森寧人……はともり、よしと、か。なんて呼ばれてるの?」 一護が名刺を指でひらひらさせながら尋ねる。 寧人は少し困ったように笑い、指先をいじった。 「あまり人と話さないし、友達もそんなにいないから……あだ名とかないよ。ふつーに“鳩森さん”とか……」 「じゃあ、寧人って呼ぶから。僕のことは一護でいいよ」 「よ、呼び捨てでいいのか……イチゴ……」 寧人の口から名前を呼ばれた瞬間、一護はくすりと笑った。 下の名前で呼ばれるなんて、せいぜい家族くらいだ。寧人にとってそれはとても距離の近い行為だった。 彼は小さい頃から「寧人」という名前の読みでからかわれたことが多く、それが人付き合いを避ける原因の一つにもなっていた。 一護はそんな事情を知らないまま、先ほどよりもずっと馴れ馴れしく話しかけてくる。寧人は悪い気はしないが、少し戸惑っていた。 「てか、一護……くん……いや、一護。君は仕事いいのか?」 「気にしないで。フードジャンゴはフリーの配達員が自分の裁量で動けるし、この辺りは子どもが休みで外に出られない主婦層が多くてね。注文も多いから、配達員も増員されてる。僕も狙い目だと思ってこの地域に来てるの」 「でも……その中で、俺みたいな独身一人暮らしの家に、しかも麻婆丼一つだけ……なんか変な確率だなって」 寧人がぼそりと呟くと、一護は声を上げて笑った。 「もー、またそんなこと言って! 二回も当たるなんて、むしろ奇跡だよ。これはもう運命的なご縁でしょ、寧人!」 「……なんか、呼び捨てやっぱり慣れないな」 「いい名前だってば。落ち着く感じで好きだよ!」 そう言いながら、一護はガシッと寧人の手を握った。 思わぬスキンシップに寧人は顔を赤くし、あたふたする。そんな反応すら面白いというように、一護は部屋をぐるりと見回した。 「まずは部屋をきれいにしましょう。あ、よかったら僕、片付け手伝うよ。仕事はそのままで大丈夫。……てかその髪もヒゲも伸びっぱなしだね。ま、ロン毛の僕が言うのも変だけどさ」 「べ、別に誰と会うこともないし……もうすぐ理髪店に行く予定だし」 「理髪店? 僕、美容師だよ。それも美容院のオーナー」 「……は?」 寧人は思わず聞き返す。 一護は得意げに親指を立てた。 「ちょっと運動したくてさ。空き時間に自転車こぎながら配達の副業。体力づくりにもなるし、一石二鳥! しかも始めてから5キロ痩せたんだよ!」 にかっと笑うその顔は、どこか少年のように明るかった。 改めて見れば、一護はすらりとした長身に、無駄のない筋肉のライン。引き締まった腕と脚、姿勢の良さ――まるでモデルのようなバランスのとれた体つきだ。美容師らしく、指先から髪の整い方までどこか整然としている。5キロ太っていた頃なんて、まるで想像できなかった。 「てかさ、お願いっていうか……提案があるんだけど」 「な、なに?」 一護は両手を胸の前で合わせ、にへっと笑った。 「ここでしばらく、家政夫として雇ってくれない?」 「は……?」 寧人が固まる。 一護は悪戯っぽく片目をつむり、両手を合わせてぺこりと頭を下げた。 「ね、テヘッ♡」 その調子の抜けた仕草に、寧人は思わず口を半開きにしたまま、何も言えなかった。驚いた四人はキャンピングカーを停め、慌てて外へ飛び出した。 「ちょ……みなさん……こんな夜に!」 「いやいや、社長を送り出すのに一部社員だけなんてありえないでしょう。あ、強制じゃないですよ。上層部が『送り出す』って言ったら、全社員の九割が集まって……家族連れもいますしね」 その言葉どおり、そこにいるのは社員だけではない。子どももいれば、明らかに高齢の人の姿もある。 想像以上の人数と好意に、寧人は思わず目頭を熱くした。 「……今回、キャンパーの皆さんには随分とわがままを言ってしまいました。修理も、改良も、提供品まで……」 一度、言葉を切る。 「だからこそ、全力で製品の良さを伝えます。必ず」 寧人の言葉に、一護と古田が力強く頷いた。 ただ一人――ドラゴンだけが、わずかに間を置いてからの頷きだった。 「ドラちゃん、どうしたんだい?」 一護が声をかけると、ドラゴンは大きな身体をさらにかがめ、フードを深く被った。 誰かの視線を避けるように顔を伏せ、いつもより明らかに覇気がない。 古田がさりげなく間に入り、寧人と一護を集まった人々の方へ促す。 そこにいる人々の表情は、ドラゴンとは対照的に明るかった。 一人の男が前に出る。 「寧人社長。私、先代の社長――父の時代のチャレンジを見て育った世代なんです。まさか、あの一視聴者だった自分が、今こうして新しい挑戦を支える側になるとは」 さくらキャンパー現社長、菅野宙。 その隣には、先代社長であり現在はグループ会社の理事となった父親が立っている。 「こちらこそ光栄です。キャンプ誌で拝見した宙社長の記事、とても刺激を受けました。同じ地元企業として、誇らしい限りです」 自然に口をついて出たその言葉に、一護は思わず目を細める。 ここまで来るのに、どれだけ手間と時間をかけたか――容姿を整える以上に、言葉と立ち居振る舞いを叩き込んできた日々を思い返す。 「ええ、こちらこそ」 宙はそう言って、寧人に手を差し出した。 若く、大きく、力強い手。 まめだらけの硬さに、寧人の柔らかな手が重なる。 その瞬間を、一護がスマホで逃さず撮る。 「あ、寧人社長、宙社長。もう配信、始まってますよ」 「えっ、もう? 早く言ってくれよ」 握手する二人は、満面の笑み。 寧人の意
早速スタートなのだが…… 「ねぇ、お見送りとかないのかい?」 ドラゴンが言う。 「あ、ドラちゃんには話してなかったか。さくらキャンパーに今から向かってスタートだよ」 ドラゴンは数日前にスケジュール調整をして参加のためあまり多くを知らなかった。 「でもこんな夜に……」 「まぁね、でも配信を見るのは仕事や家事や育児を終えた大人たちがメインだからね。今回は。それに周辺住人の寝る時間帯も考慮するとさくらキャンパーの従業員たちの見送り……いやあそこの社長とか一部社員のみかな。働き方改革ってやつだよ」 「静かにスタート……てやつだね。まぁたくさん来ても恥ずかしいからね」 と盛り上がってる最中、一護はドラゴンの表情を見ていた。何かを隠している顔。考えている顔。 流石に付き合っていた同士……雑誌やすい一護はすぐわかった。 「一護さん……どうしましたか」 古田が顔を覗き込む。 「いや、なんでもないよ……それよりもはやくさくらキャンパーに行かないと。どうやら旅に最中に宣伝してほしい商品も届いたとか言うし」 と切り返してその場を切り抜けた。寧人は反対に鈍感なので何事かわからず頷く。口にはプロテイン入りのナッツバー。 ドラゴンに薦められて何も疑いなしにボリボリと。その間抜けな顔に一護はやれやれと思いつつもキャンピングカーで出発するのであった。 今回は四人で移動もあってかキャンピングカーも大きめだがリムジンも運転けけんがある古田を始め寧人以外は全員練習を重ねた。 夜は基本専用の各場所のパーキングで停車して眠る。 ベッドは天井上のルームに二人、ソファーの部分で二人。 寧人は今からどこで誰と一緒に寝ることになるんだろうとよからぬことを考えている。 「まぁもちろん一護だけど……明日以降は自転車もやるからマッサージを受けると考えた気づいた時にはドラちゃんと寝てそうだし、どっかでリンをかまってあげたいし。狭いところ……どこか探して二人きりになったら……」 他のメンバーたちのいる中でニヤケがおを見られないようにタオルで顔を隠す寧人、だが……実のところ他の三人も……。 寧人の横でハンドルを握る古田は 「屋根部分よりもシャワー室の狭さが程よくよかったから……そこで寧人と……ああっ……でもマッサージしてもらいたいっ、ドラちゃ
それは、本編からだいぶ時が経った、ある日のことだった。 「よし、寧人。久しぶりのチャレンジだな」 「……ああ」 二人はキャンピングカーに荷物を積み込み、自転車の最終点検を終えると、それも慎重に載せた。 「まさか、また挑戦するとはね。寧人もずいぶんチャレンジャーになったもんだ。出会った頃を思うとさ」 「一護、過去は振り返るなって言ってるだろ……特にネガティブなのは」 「はいはい」 一護は楽しそうに笑った。 笑うなよ、と言いたげに寧人は困った顔をする。 あれから会社の業績は右肩上がりだった。 もっとも、社会情勢の変化、多様性社会への対応、同業他社との競争激化――順風満帆とは言えない時期も確かにあった。それでも乗り越えられたのは、一護や古田の支えがあったからだ。 だが、近年は伸び悩みも見え始めていた。 そこで寧人が思い出したのが、社長就任前に行った自転車旅だった。 もう一度、あの挑戦を――今度は今の時代のやり方で。 金のかかることをなぜやるのか、という声は当然あった。 それでも、当時を知る者たちは違った。 「また見たい」 「次のチャレンジを楽しみにしてる」 そう言ってくれた。 以前のように放送局を通すことはできない。 だが今は、スマホ一台で世界と繋がれる時代だ。配信、投げ銭、すべて自前でできる。 「キャンピングカー、買っといて正解だったな。忙しくてほとんど乗れてなかったけど、やっと日の目を見る」 「スポンサーにさくらキャンパーが付いたからな。メンテナンスも万全だ。先々で追加スポンサーも狙いたい」 「野心家だね。……ほんと、この数年で寧人は変わったよ」 一護は目を細める。 寧人は少し得意げに笑った。 もう、ただの四十過ぎの男じゃない。 増え続ける社員たちを率いる社長だ。 ――だからこそ、今回の旅は失敗できない。 そう思うと、胃の奥がきりりと痛む。 年齢はごまかせない。身体は正直だ。 「そんな顔しないで。今回の旅には、心強い味方がいるだろ?」 「……まあ、ね」 寧人の視線の先に立っていたのは、一人の男。 「ご安心ください。社長の身体の外も中も、すべて僕が管理します。そのためにいるんですから」 「ドラちゃん、助かるよ」 かつてマッサージ店で働いていたドラゴンだ。
今日も麻婆丼を寧人に食べさせる一護。ホクホク顔でぺろっと食べてしまう。 二人休日が合えばサイクリングをしにいく。それには筋トレも必要。 ジムも行くが自宅で行う時に二人で組んでストレッチや筋トレもする。だが寧人が168センチに対して一護は182センチ。体格差がかなりあるものの、工夫している。 ミーチューブで配信されているカップルで行う筋トレ動画を見ながら二人は実践。チビな寧人を一護が抱っこしてスクワット。 「これ駅弁じゃねぇか」 「やだぁっ……」 「一護はしたことないだろ? 受け身しか」 「わたしより背が高くてガタイのいい人じゃないと無理っ……て、寧人も体重増えて結構きつい」 「ほれほれー頑張れー」 「んーっ!」 「いい顔してるなぁ……」 「もぉ、ちゃかさないでぇええ」 「よし、終わりー」 「重かったぁ」 とゆっくり寧人を床に置いて一護は汗だらだら。 「僕もやりたいけど腰やられるな」 「セックスなら気合で抱えられるんじゃない?」 「あー無理無理っ。立ちバックよりも無理」 「わたしあれ好きなのにぃ」 「悪かったな、短足で」 「必死になって爪先立ちして足つっちゃうもんね」 「るっせー」 次の動画は股関節のストレッチ。 「あら、お股広げるやつ」 「一護、お前がいうと卑猥」 「じゃあこれは寧人やろっかー」 「僕は硬いからな」 「あそこもね」 「バカ」 寧人は仰向けになり一護が彼の脚をゆっくりじわじわ広げていく。 「でも前よりも柔らかいよっ」 「風呂上がりにやるともっといいかな」 「うんうん、スッポンポンでやってあげるぅ」 「卑猥だな」 「なに? もうアレ勃ってる時点で卑猥っ」 寧人のアレはズボンの下で大きくなっている。 「じゃあ次は一護」 「うん、わたしは柔らかいんだから」 もうすでにガバッと股を開いてる。じわじわっと広げる。 「お前もでかくなってるぞ」 「へへっ、あー次は腹筋」 二人はストレッチを続ける。そして一時間かけて行い二人は汗まみれ。 シャワーもそれぞれ浴びる。そして全裸で二人はベッドに飛び込む。 「一護、1番のカロリー消費はセックスだって知ってたか?」 「一つの射精で50m走やったくらいだとか?」 「ならなおさらセックスがいちばんじゃん」 「もうあんな
二人で動画編集をしている。流石にこないだのモーニングルーティーンはお蔵入りであるがまた撮り直してアップしたら好評だったので、ナイトルーテイーンも無事に撮り終えて編集段階に至った。 「多分見てる人たちはナイトルーティーンの方が気になるよね」 「どんなエロいことしてるんだろってね。ってそうやって興味持たせて視聴者増やすって卑怯なことしちゃったね」 「全然卑怯じゃないって。そんなに毎日セックスしてたら私の穴もガバガバになるしね」 「十分ガバガバだろ」 「やだーっ、変態っ」 二人でひっつき合いながら、あーしてこーしての作業。 「そういえばさ、引きこもりだったときの寧人のルーティーンってどんなのだった?」 「聞かなくてもわかるでしょ」 「……腐ってそう」 「ふははっ」 パソコン操作はほぼ寧人。だいぶ編集効果も慣れてきたようだ。流石ずっとパソコンを触っていただけもある。 「僕は一護のルーティーン気になる」 「ほぼ家事だけど」 「だよな……いつもありがとうございます」 「いえいえ、昔から変わらずです。家事しないと死んでしまう」 実は一護は編集作業をしながらも洗濯機では乾燥、台所では明日の料理の仕込みをしているのだ。 「副社長なのにお忙しいこと……お手伝いさんつけてもいいんだよ」 「いやだ。僕がやらないと意味がないし、その人まで寧人のこと好きになったらどうするの……」 「おいおい、もう僕が誰でも構わず関係を持つってことか」 「……」 一護は無言である。 「まぁ病気持ち込んだりお金をつぎ込むほど入れ込まなければ構わないけど。少しは僕のお尻の負担減るし」 「そっちかいっ!」 「うん。だって言ったじゃない……毎日寧人のお世話したらガバガバになっちゃうって」 「あああああ……」 そんな思惑があって古田との関係をスルーされていたかと思うと心が痛い寧人。 「一護、僕は君一筋だから……ねっ」 寧人は一護の頭を撫でる。 「そう、それならいいけどね。全世界の人たちが僕らのことを見てるからオイタは程々にしてね」 寧人はヒヤリとした。実は過去のオイタはもう告白をしている。そして動画上に顔も名前も上がっていることでもう派手にはできない。古田は秘書であるため口は硬いし、お金をある程度積んで
寧人はそろそろ髪の毛を切ろうと思い、古田に空いている時間があるかと尋ねる。 「次の会議終わったら3時間空いていますが」 「髪を切りたい……」 「かしこまりました、予約しておきますね」 古田は寧人の秘書になってから単発にしてピシッと固めている。 形から入るタイプらしい。心機一転すっきりさせたというが、寧人にとってはもともとイケメンの顔立ちだった古田のその姿に尚更どきっとする。そのイケメン面でセックスのときは完全にメスになるというギャップがたまらないようだ。 「僕もリンみたいにすっきりしようかなぁ」 「寧人はその天パを生かした髪型が一番だと思いますけどね」 「そうか? 昔からこのフワッフワが嫌でさ」 「欲を言うとツーブロックがそそりますね……」 「え?」 「ソフトモヒカンの時も実は好みでしたから」 と、寧人は一護に初めて切ってもらったときのソフトモヒカン姿の自分を思い出す。 「あれはやりすぎだったよな……それに若い奴の髪型だろ」 すると古田がジトッと寧人が見つめる。 「あれにしてくれたら僕嬉しいな……」 「いらっしゃいませ、寧人ーっ」 「急にごめん、すっきりしたくて」 「ううん、大丈夫っ。さぁ座って座って」 寧人は個室に通されて椅子に座る。頼知がいつも髪の毛を切って、一護が家で軽くメンテナンスすると言うスタイル。 「お兄ちゃんに頼めばいいのにー、なんてね。寧人と絡めるのこういう時だけだからー」 「一護も頼知の、腕を頼ってるんだよ。それに売り上げにもつながるし。弟想いだね、相変わらず一護は」 一護の話になると頼知は機嫌が悪くなる。彼は一護に過保護に世話されて嫌になってしまったというパターンであり、仲が悪い。でも一護は献身的に接している。 「今は僕のことだけ考えてて。仕事のこともリンのことも一護のこともぜーんぶ忘れて」 「相変わらずやきもちだねぇ、頼知は」 「そんなことないんだからっ、じゃあシャンプーしますねっ」 頼知のシャンプーはとても気持ちがいい。一護が前言ってたように女性のお客様は彼のヘッドスパの指遣いでオーガニズムに達するほど……男性である寧人もその気持ちがわかるくらい終わった後は自分のあれが勃起していて恥ずかしくなるのだ。 「あらやだぁ、寧人さんのアレが元気