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合縁奇縁、そんなふたりの話(BL)
合縁奇縁、そんなふたりの話(BL)
ผู้แต่ง: 麻木香豆

第一話

ผู้เขียน: 麻木香豆
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2025-10-21 07:34:30

 とあるオフィスで、何やら言い争うような声が響いていた。

 声の主は三十代半ばの男と、その上司である。上司に対しても一切遠慮のない強い口調で、男は眉間に皺を寄せ、言葉を放つたびに目がキッと吊り上がる。その鋭い眼光は、どこか闘犬のような気迫を帯びていた。

「課長、いくらなんでも営業、プレゼン未経験のやつを同伴だなんて、冗談ですよね?」

「まぁ、落ち着け。言いたいことは分かるが……」

 上司がなだめようとするも、男の声はさらに大きくなる。

 広々としたオフィスフロア。だが、デスクの間隔は広く、人の姿もまばらだ。社員たちは皆、黙々とパソコンに向かい、キーボードを叩き続けている。騒ぎに気づいていながらも、誰も視線を向けようとはしない。

 今の時代、職場での小さな衝突は、チャットツールの中で済ませるのが主流になっている。直接声を荒げるのは、珍しい光景だった。

 この会社――ベクトルユー株式会社は、システム構築やネットワーク運営を主な事業とする中堅企業である。全国に支店を持ち、社員数も増え続けていた。

 しかし、いまの本社はどこか閑散としている。リモートワーク制度が導入されてからというもの、オフィスに姿を見せる社員は半数以下に減った。

 会議も打ち合わせもオンライン。チャットやクラウドで仕事が完結する環境は、一部の社員からは「働きやすい」と好評だったが、同時に人間関係の希薄さを生んでいた。

 その静かな空間の中で、声を張り上げていたのは営業担当の古田。

 社内でも一、二を争う売上成績を持つ敏腕営業マンで、鋭い観察眼と巧みな話術を武器に顧客を落としてきた。だが、その反面で気性が荒く、思ったことはすぐに口に出してしまうタイプでもある。

「いや、私も不安なんだよ。ただな、先方からの要望で、なぜか鳩森にも来てほしいって言われたんだ。彼の提案を詳しく聞きたい、と」

「なぜ鳩森の意見が……? まぁ、SEとしては腕は悪くないですけど、あいつ根暗で、人前だとまともに話せないですよ。ビデオ会議でも終始挙動不審ですし……」

「しょうがないだろ。相手がそう言ってるんだ。君がメインで喋ればいい。鳩森はただの同伴だ、ああ……」

 課長が言いかけたそのとき、ふと二人の視線が一点に向かう。

 そこに立っていたのは、鳩森寧人(はともりよしと)――件の人物である。

 ヨレヨレのスーツに、くしゃくしゃの髪。シャツのボタンは一つ開き、靴もややくたびれている。

 眼鏡の奥の目はどこを見ているのか分からず、焦点が定まらない。動作もぎこちなく、まるで初めてこの場所に足を踏み入れたような落ち着きのなさだ。

 久しぶりの出勤というのも無理はない。寧人は普段、在宅勤務が基本で、ほとんどオフィスには顔を出さない。

 今日は数か月ぶりの電車通勤だったが、駅を出た途端に道に迷い、結果的に約束の時間にも遅れてしまったのだ。

「おい鳩森っ。もう少しマシなスーツなかったのか? まぁいい、時間がない」

 古田が近づき、ぐしゃぐしゃのネクタイを直しながら溜息をつく。寧人は何も言わず、棒のように立ち尽くしている。

 覇気がない。心ここにあらず。まるで壊れかけたロボットのようだ。

 古田は呆れながらも、つい世話を焼いてしまう。

 トイレに連れて行って髪をブラシで整え、ワックスを少しだけ付けてやる。見た目は多少マシになったが、癖毛のせいで時間が経つとすぐにうねり出す。それを見て古田は再び肩を落とした。

(ほんと、手のかかるやつだな……)

 寧人がオフィスの場所すら分からず、うろうろしていたことを思えば、ここまで辿り着けただけでも奇跡かもしれない。下手をすれば、ビルの警備員に声をかけられていたかもしれないのだ。

「よし、行くぞ。営業車のある駐車場まで行く。分かるよな、場所は」

「あ、はい……行きましょう」

 相変わらず抑揚のない声。目線も上がらない。

 古田は思わず顔をしかめた。

「おい、お前……本当に大丈夫かよ?」

「たぶん……だ、大丈夫です」

「“たぶん”じゃ困る。粗相のないようにな!」

「は、はいっ!」

 裏返った返事が返ってきた。

 その声を聞き、古田はため息をひとつ。

 だがもう時間がない。顧客との商談は午前十一時。遅れれば、会社全体の信用問題にも関わる。

 古田は急ぎ足でフロアを抜け、後ろを振り返る。

 寧人は少し遅れて、ぎこちない歩幅でついてくる。その姿はまるで不安そうな子犬のようだった。

「……まったく、こっちの神経が持たねぇよ」

 ぼやきながらも、古田は心のどこかで――この頼りない男の中に、何か特別な“光”があるのかもしれないと、うっすら感じていた。

 それが、今日の商談で証明されることになるとは、このとき誰も思っていなかった。

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