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第四十話

Author: 麻木香豆
last update Last Updated: 2025-12-12 06:55:03

 そして次の営業先へ車を走らせた。

 今日は、フードジャンゴの注文サービスをすでに導入している店を一軒ずつ回り、利用状況や改善点をヒアリングする日だ。

 カラオケや漫画喫茶の利用客が、好きな飲食店から気軽に食事を注文できる──

 その注文をフードジャンゴの配達員が届ける仕組みは、数年前から急速に拡大している。

 その提携先をさらに増やしていくのが、古田たちベクトルユー営業チームの仕事であり、いわば今日の訪問は“地固め”のようなものだった。

「カラオケ店や漫喫で多種多様なメニューを自前で提供しようとすると、どうしてもレトルト中心になるんですよ。スタッフをキッチンに割く必要も出てくるし、光熱費も跳ね上がる。

 フードジャンゴならその負担を丸々省ける。利用者は出来立てを食べられるし、店側はコストが削れる。どっちも得ですよ」

 さっきまで甘えていた男と同一人物とは思えないほど、古田は仕事モードに入ると表情も声も変わる。

 語尾までシャキッと締まり、歩幅まで営業マンの歩き方になる。

 隣で話を聞く寧人は、そのギャップにどうしようもなく頬が緩む。

(さっきまで俺の首筋に噛みついてきてたのに……切り替わりすぎでしょ)

 導入を迷っていた店主に、古田は言葉を重ねながら、段階的に不安を潰していく。

 資料を見せ、数字を見せ、成功事例を出し、最後に笑顔で背中を押す。

 営業としての流れが完成されすぎていて、寧人はただ感心してしまう。

「のちのち……お前もこういうことやるんだぞ、鳩森」

「え、えぇ……? いや、これは古田さんのお仕事じゃ……僕ができたら皆さんの仕事取っちゃうことになりません?」

 仕事になると“鳩森”と苗字で呼ばれる。それだけで胸の奥がじくりと痛む。

 寧人はまだ、なぜ自分がSEなのに営業先へ同行しているのか、本当の理由を知らなかった。

 現状の寧人の仕事は、ノートパソコンで提案画面を出したり、店主の反応をメモしたりすること。

 どう見ても補助として連れ回されているだけで、主役はどう考えても古田だ。

「ただついてこさせてるわけじゃねぇよ。いずれお前も営業ができるように育てろって、上から俺に命令が来てる」

「…………へっ? 僕が……営業……?」

 寧人は目を丸くしたまま固まった。

 ずっと、自分の未来を“生涯SE”の一本道だと思って疑わなかったのに。

「SE一本でいくのも
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