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82:鉄壁のノロケ

last update Dernière mise à jour: 2026-01-01 18:41:32

 ホテル『サンクチュアリ』の最上階、VIP用スイートルーム。革張りのローテーブルの中央で、ICレコーダーの赤いランプが点滅を始めた。チカ、チカ、と規則正しく刻まれるリズムは、まるで時限爆弾のカウントダウンのようだ。

「では、始めましょうか」

 ジャーナリスト・高橋マキが足を組み、手元のメモ帳を開く。

 向かいのソファに座る隼人は、石像のように硬直していた。顔色は蒼白で、膝の上で組んだ指は血の気が引いて白くなっている。過去のトラウマであるマスコミへの恐怖と小夜子が何を口走るか分からない不安で、呼吸さえ浅くなっているようだ。

 小夜子は、あえてゆったりとした動作でティーカップを傾けた。立ち上るダージリンの香りを肺一杯に吸い込み、戦闘態勢を整える。

(旦那様、そんなに怯えなくてもよろしいのに。……まさか私が「昨夜、洗面所で無理やり唇を奪われました」なんて事実を、そのまま口にするとでも思っているのかしら?)

 小夜子はカップをソーサーに戻し、優雅に微笑んだ。高橋には小娘の無邪気な笑みに見えたことだろう。

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