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3話

مؤلف: 佐伯れもん
last update تاريخ النشر: 2026-04-11 23:03:01

そんなことに気づく由もない孫を尻目に、八重子はソファから立ち上がると、「じゃあ、あたしはそろそろお暇しようと思うのだけれど、その前に。かすみちゃん、荷物はもう部屋に運んだのかしら?」

かすみはゆったり微笑むと、「はい、荷物は全て午前の内に業者さんに手伝っていただいて運び終わりました。」

その返答に八重子は安心したように微笑むと、

「それなら良かった。弥一にはこの後すぐ荷物をまとめさせるけれど、それでもなんだかんだこの別荘に来るのには二、三日かかると思うわ。その間大丈夫?いつでも早苗はいてくれるとしても、何か心配事はない?」

かすみは首を横に降ると、「早苗さんが居てくださるのでしたら、何の心配もありません。むしろ心強いです。お気遣いいただきありがとうございます。」

早苗は"もちろんです"というように頷いてみせた。それを見た八重子は安心したように頷き返すと、

「見送りはいらないわ。かすみちゃん、うちの孫のこと、どうぞよろしくね。」

と、まるでモノでも預けるかのような軽い調子でそう言い残すと、弥一には声をかけることも一瞥することもなく早々にその場を後にしたのだった。

残された三人にしばしの沈黙が訪れる。

と、ふいに早苗がそれを壊した。

「では、私は夕飯の買い出しに行って参りますね。」

瞬間、弥一の顔には"うげっ"とでも言いたげな表情が浮かんだ。当たり前だ。今さっきあったばかりの、しかも急に結婚させられる羽目になってしまった女と二人きりの状況だなんて耐えられない。

急いで弥一も立ち上がると、「早苗さん、ついでに俺のこと家まで送ってってよ。ほら俺、荷物まとめないといけないらしいからさ、ね?」

早苗は無言で弥一を見つめる。弥一は懇願するようにその目を見つめ返した。頼むから良いよと言ってくれ、と。

「いけません、坊ちゃん。」

「なんでだよっ!」

「坊ちゃんを送っていってからでは、ヤマムラのタイムサービスが終了してしまいます。」

「ヤマムラ?タイムサービス?何だ、それ。」

"これだからボンボンは…"

呆れたように首を振る早苗に替わり、かすみが説明する。

「ヤマムラはこの近くのスーパーの名前です。タイムサービスというのは、ある一定時間、商品が通常より安く買えることを意味します。」

答えたのはかすみなのに、弥一は彼女を見ようともせず視線は早苗に向けたまま、

「そんなに安くなるの?」

「場合によっては一品につき数百円ほどですかね。」

またしても答えたのはかすみだったが、今度も弥一は彼女を見ようとしない。

弥一は、ハッと言って馬鹿にしたように笑うと、

「数百円!?たかだかそれっぽっちのお金のために俺のことを送っていけないって言ってるの?」

そう言って非難の目を早苗に向ける。

早苗が何か答える前に、またしてもかすみが口を開いた。

「たくさん買えば買うほど、その分、トータルで見た時の金額がうんと安くなります。」

「へえ、そうですかそうですか。」と、彼は彼女を軽くあしらうと、急にパンと手を叩いて、

「じゃあこうしよう!そのタイムサービスとやらで浮く分のお金を俺が出すよ!その代わり、俺のこと今から家まで送って行って。それなら良いでしょ?」

そう言って早苗に目をやる。

呆れているのか怒っているのか分からない目でただただ見つめ返してくるだけの早苗に、弥一は怯むことなく着ているジャケットの内側から財布を取り出すと、

「トータルでなら一体いくら浮くんだろ?一万…いや二万か?」言いながら探るように早苗を見てみたが、相変わらずその目から何か情報を得ることはできなかったので、

「よーし、決めた!今日は結婚記念日ってことで俺から二人に大判振る舞いしちゃおうかな。はい、どうぞ!」

と、札束を取り出し早苗の前に差し出した。軽く十万円はありそうなその厚みを前にしても、早苗は眉一つ動かさずにただじっと弥一を見つめている。

その早苗の様に、弥一の顔から取り繕った笑顔が消えた。代わりに苛立ったような表情を浮かべたその時だった。

「早苗さん、御子柴さんのことを家まで送っていってあげてくれませんか?ヤマムラには私が代わりに行きますので。」

弥一は、"ああ、その手があったか。"と、少し感心すると、やっと視線をかすみに向けた。

その後、彼女の提案はいかにも素晴らしいとでも言うように、口角をこれでもかと上げて早苗を見つめる。

早苗はため息を吐くと、「私ではなくかすみさんが坊ちゃんを送っていって差し上げるのはいかがですか?この機会に、お互いに会話をされてはいかがです?話をするのにちょうど良い距離だと思いますけど。」

とんでもない!と言うように、弥一はその目を見開いて早苗を見る。次いでかすみが口を開く。「早苗さん、お気遣いいただきありがとうございます。ただ、正直私は昔から地理に弱くて…ここの土地勘すら危うい私では、安全に御子柴さんをご実家までお送りできる気がいたしません。そんな私の運転で、もし御子柴さんに何かあっては、私は一生八重子さんに顔向けできません。なので、どうかこんな私ではなく、早苗さんにこそ送っていってもらいたいのですが、ダメでしょうか?」

弥一は"そうだ、そうだ"と頷いて加勢する。

早苗は弥一のことは視界に入らないようにしながら、かすみのハの字になった眉を見つめ苦笑した。

かすみは東北出身である。そんな彼女は今日、誰に送られるでもなく自身の運転でこの海老原市まで来たのだ。本当に地理に弱く土地勘もないような人間ならそんなことできるわけもない。

彼女もこの短時間で弥一のことを苦手な人に分類したのだろう。かすみと弥一の違いは、その気持ちをあからさまに態度に出すか出さないかというだけだった。

そんなかすみの本音に気づきながらも、心底困っているよう見せるのが上手い彼女を前に、早苗はやれやれと言うように、

「わかりました。では、私が坊ちゃんを送って行きますので、かすみさんにはお手数ですが買い物をお願いいたします。」

「ありがとうございます、早苗さん。買い物も今日の夕飯も私に任せてください。早苗さんのお口に合うよう、心を込めて作りますので。」

そう言って微笑んだ。

どうやら彼女の笑顔は人の心を解きほぐす力があるらしい。釣られて早苗も微笑んだ。

玄関先にて。

見送りにと出てきたかすみに早苗は、「出かける際だけでなく、買い物が済んで家に帰ってきてからも戸締りはなさってくださいね。なるだけ早く帰ってきますので。」

「はい、お待ちしております。ただ、私のことを気に掛けるあまり、スピードの出し過ぎなどには気をつけてくださいね。」

そう言って、笑い合った。

言葉だけで見たら、まるでかすみと早苗こそが夫婦のようである。

そんな早苗はかすみに向けては、「では、行って参ります。」と微笑んだのに、横にいる弥一に目を向けた時にはもうその笑顔を引っ込めると、「坊ちゃん早く行きますよ。」と言って、一分一秒を惜しむかのよう、小走りに車へと向かって行ったのだった。

そんな早苗に弥一は苦笑すると、彼女に続こうと一歩踏み出したが、ふと思い出したように足を止めた。そして自身の右手を見つめる。そこには早苗に受け取ってもらえなかったお金が未だ握らていた。彼は、「ん。」と言って、それをかすみの前に差し出す。

そのあまりに多すぎる額を前に、かすみは見つめるだけで受け取らずにいると、弥一はちらりと彼女を一瞥して、

「さっさと受け取ってくれ。」と言って、その手をさらに押し出した。

しかし、かすみのほうをよく見もしていなかったために距離感を誤ったのか、その手が意図せずかすみの身体に触れてしまう。

瞬間、弥一は驚いたようにパッとその手を開いた。開かれた手からお札が舞い、床にはらはらと落ちていく。

かすみがその顔を上げた先で、気まずそうな表情を浮かべた弥一と目が合った。しかし、彼はすぐさまその目を逸らすと、次にこれでもかと顔をしかめて、落ちたお金を拾おうともせず、くるりと背を向けると後ろ手に扉を閉める形で立ち去った。

何の加減もなく閉められたドアはバタンと音を立てて、後にはただ、床に散らばったお札とかすみだけが取り残された。

かすみはゆっくりしゃがみ込んで膝をつくと、その手で散らばったお札を一枚一枚丁寧に拾い上げた。

そしてその足でリビングへ戻ると、リビングに置かれた木製の戸棚の一番上の引き出しに、拾い上げたお金をそっくりそのまま仕舞い込む。

そしてその戸棚の上に両手をつくと、頭を少し下げて、目を閉じ、はあ、と深いため息を一つ吐いた。

「目的のために手段を選ばなかったのは、私。こんな扱いなのは自業自得でしょ。」

そう呟き、笑った。

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