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ヒミツ①

Author: 緋村燐
last update Last Updated: 2025-06-25 17:29:33

 水飲み場でハンカチを濡らして、近くのベンチに座らせた日高くんのところに行く。

 メガネを外していた彼はあたしを見上げてこう言った。

「倉木って、思ったより積極的だったんだな」

「ん? 何が?」

 本当に何のことを言われているのか分からなくてキョトンとする。

「ここに連れて来る時の事だよ。結構強引に俺を引っ張って来ただろ?」

「ああ、それの事……」

 確かに思い返せば強引だったと思う。

「そうだけど……でも仕方ないじゃない。口止めは必要だったし、それに手当てしたいのも本当だったから」

 そう言って、あたしは日高くんの口元の傷にハンカチを当てる。

 日高くんは軽く眉を寄せたけど、そのまま手当を受けてくれた。

「それにしても、やっぱりそっちが素の口調だったんだね」

 普段の口調もそこまで丁寧ってわけではなかったけれど、明らかに違う。

 だいたいあたしの呼び方倉木さんから倉木になってるし。

「ん? ああ、まあな。お前にはバレたし、無理する必要もねぇだろ」

「まあ、そうなんだけど」

 話しながらハンカチをバッグに戻し、いつも持ち歩いているポーチを取り出した。

 その中から小さな容器に入れているハーブチンキの軟膏(なんこう)を取り出す。

 ハーブチンキはドライハーブをアルコールにつけたもので、化粧水や傷薬にもなる。

 お母さんが庭に植えたペパーミントが凄いことになって、何か消費する方法を探していたらネットで見つけた方法だ。

 お酒を使うからその辺りはお母さんに作ってもらって、それを軟膏や化粧水にするのをあたしがやっている。

 色々使えるから、ポーチに入れていつも持ち歩いてるんだ。

 これは保湿クリームみたいな感じで作ったけれど、殺菌効果もあるペパーミントのハーブチンキだから丁度良いよね。

「はい、薬塗るから動かないでね」

「別にこの程度のケガにそこまでしなく

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