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第 910 話

Author: 一笠
こうして、慶吾の視線を感じたまま、凛は雪にプレゼントを手渡す。

雪は目を細めて笑った。「こんな改って。この出資を紹介してくれたのはあなたなのよ。感謝すべきなのは私の方」

「凛」

志穂は凛に声をかけ、感謝の眼差しを向ける。「ありがとう」

凛よそよそしい雰囲気で、ただ社交辞令の笑みを浮かべただけだった。

志穂は胸が締め付けられ、言葉が出てこなかった。

雪は二人を交互に見ながら、何か言おうとしたが、杖をつきながらゆっくりと歩いてくる慶吾の姿が目に入り、一気に興醒めする。

雪は舌打ちした。「よく来れたわね?」

慶吾は気まずそうに、後ろに控えるボディガードにプレゼントを手渡すよう合図した。「純金で細工し
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