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第2話

Auteur: 風待
彼女の突拍子もない言葉に、誠士は目に見えて焦りだした。

「どうしたんだよ、ゆい。なんでいきなりそんなこと言うんだ?」

混乱したまま彼はしばらく黙っていたが、ふと思い至ったように顔をしかめた。

「……誰か、何か変なこと吹き込んだのか?」

そう言うなり、彼は返事も待たずに立ち上がり、電話を取り出してそのまま通話を始めた。

「オレが最近接触した女性を全員、今すぐここに呼び出せ」

電話を切ってから間もなく、屋敷にいたメイドや会社の女性スタッフたちが一堂に集められた。

ズラリと整列した女性たちを前に、誠士は重たい声で命じた。

「この中に、最近オレと関わったことがある人がいるなら、何でもいい、全て包み隠さず彼女に話してくれ」

お互いに顔を見合わせるスタッフたち。

すると、列の真ん中にいたメイドが一歩前に出た。

「最近お会いしたのは一度だけです。奥様が生理の時、旦那様が私に頼んで、温かい飲み物を作る方法を教えてくれって……女性の体調のことも、すごく丁寧に聞いてこられました。奥様の痛みを少しでも和らげたくて」

彼女の証言を皮切りに、次々と他の女性たちも口を開いた。

「私は入社したばかりですが、最初にお会いしたのは、旦那様が『妻の最近の気分が晴れない』って話して、どんなプレゼントが喜ばれるか、私たちに聞いてきた時でした」

「私のところには、奥様の食欲がないって聞いて、何度も『美味しくて元気が出るおやつ』を作ってほしいと頼まれました」

――

皆の証言は、すべて同じ方向を示していた。

朝倉誠士が女性スタッフたちと話したのは、すべて「ゆい」のためだったということ。

その時、不意に――

コン、コン。

部屋の奥から、控えめなノック音が響いた。

全員がその声のする方を見た。

現れたのは――タイトな制服に短めのスカートを穿いた、誠士の秘書、藤崎すみれだった。

「すみません、ちょっと私用で遅れてしまいました」

場の空気を察してか、すみれは人々の視線をすり抜けるように歩きながら、にこやかにゆいの前に立った。

「ご心配なく、奥様。社長と私のやりとりは基本的に仕事の話ばかりですから。誰だって知ってますよね、社長がどれだけ奥様一筋なのか。普段、公私混同なんて絶対にしませんし、私たちと深く関わることなんてありませんよ」

その言葉に、ゆいはようやく目を上げた。

すみれの笑顔は完璧で、態度も礼儀正しい――だが。

もしあのマイバッハの中を見ていなかったら、彼女のその態度に、何一つ疑いを持たなかったかもしれない。

だが、あの夜、彼女は確かに見てしまった。

すみれの笑顔の奥に潜む「挑発」の光。

ずっと彼女を見つめていたゆいに気づき、隣にいた誠士の額にはぴくりと青筋が浮かんだ。

「ここで働く以上、オレのルールはちゃんと覚えておけ」

誠士は重い声で口を開いた。

「オレの妻は、オレの唯一の弱点だ。仕事でのミスはまだ許せる。だが、もし誰かが彼女の前でくだらない噂を吹き込んだら……その時は、容赦しない」

その一言で、全員が一斉に「申し訳ありませんでした」と頭を下げ、空気が一気に引き締まった。

スタッフたちは順に退室し、最後にすみれもその場を離れていった。

人の気配が消えたその瞬間――

誠士はもう一度、ゆいをその腕に抱き寄せた。

「これで、信じてくれた……よな?」

その声は、どこか震えていた。まるで、彼女にすがるように。

「お願いだから、もう『消える』なんて言わないでくれよ。そんなこと言われたら……オレ、本当に死ぬかもしれない」

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