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18話

Author: 籘裏美馬
last update Last Updated: 2025-12-11 17:20:36

四ノ宮 香月。

俺の幼馴染で、大切な人。

同い年だけど、どこか抜けてて危なかっかしい香月の事を、俺は妹のように思っていた。

同じ時期に今の場所に引っ越してきて、家は隣同士。

そうなれば、必然的に仲良くなる。

小学校も、中学も、高校も。

俺は毎日香月と一緒に居た。

中には俺と香月の仲の良さを揶揄ってくるやつもいたけど、くだらない。

俺は香月を大事に思っているし、香月も俺の事を大事に思ってくれている。

香月から告白めいた事をされるようになったのも、俺が女の子達からモテ始めて来た頃。

そんな事をしなくても、俺は恋人なんて作らないし、香月の側を離れるつもりもなかった。

俺が彼女でも作って離れて行くのが、香月はきっと怖かったんだろう。

俺は、そう思っていた。

だけど。

ある日、いつも通り香月の告白を受け流した時。

香月の顔が傷付いたように歪んだ。

何だか無性に胸騒ぎを感じて──。

そして、ある日香月は大学の同級生に誘われて、合コンに参加した──。

その日、俺はスポンサーに誘われて居酒屋に来ていた。

話も終わり、そろそろ場がお開きになる頃合いに俺は手洗いに立った。

用を済ませて席に戻ろうとしたら、まさか香月が目の前から歩いて来るなんて。

香月も、大学の友人と飲みに来たのだろうか。

最近は、香月からの連絡が減っていたから会えたのが嬉しい。

どうせなら、香月を待って一緒に帰ろうか、そう考えた俺は、香月に声をかけようとしたけど。

「香月ちゃん」

──は?

何で、俺以外の男に、馴れ馴れしく名前を呼ばれてる?

何で俺以外の男に可愛く笑ってる?

何で、俺を拒絶する──。

それから、俺はどこをどうやって店を後にして、帰ったのか分からない。

帰ってすぐ、俺は香月の家に向かっておばさんに挨拶をする。

約束なんてしていないけど、嘘をついて家に上がり、香月を待った。

おばさんはおじさんと食事をする約束をしていたらしく、夜遅くの帰宅になるらしい。

これは好都合だ、と思った。

香月とじっくり話をできるチャンスだし、最近、香月の部屋のベランダの鍵が開いていない事も問い詰められる。

今までだったら、いつでも俺が入れるように、と窓の鍵を開けていてくれたのに。

香月の部屋のカーテンがぴったりと閉まっている光景は、絶望にも似た感覚だった。
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